勇者失格

墨汁らぼ

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23… 名前の無い者

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その化け物に名前など無い。

なぜならまだ誰も見たことがなかったからだ。

「なにこいつ!」
アンナは素早く近くにあった薄い布を掴み、裸の体に巻きつけてナイフを手に取った。

レオンは意識が戻ったばかりで状況がよくか分かっていなかったが、目の前の怪物がとても危険だということはハッキリと分かった。

その怪物は、例えるなら昆虫の巨大化したもので、カマキリに近い。

大きさは馬車二台を重ねたほどもあり、黒く光る細長い胴体から鎌のような手が何本も伸びている。

目が四つついた人間のような頭は二つあり、全ての方向を見回せることができるようだ。

レオンが人魚の村で倒した化け物よりは小さいが、何かとてつもなく異様なものを感じた。

レオンはハッと気付く。
「剣!オレの煉獄の剣は!」 

後ろを振り向くと、さっき叫んだ男がレオンの剣を構えて立っていた。

「ちょうどいい。こいつを試し斬りしてみたかったんだ。」

「ロンド!」
アンナはが叫ぶ。

剣を手にし、長い銀髪を片方だけ三つ編みにしている美しい男が、レオンの横を走り抜け化け物に突進していく。

「ロンド、やめて!危ないわ!」

化け物は鋭い鎌のついた手を大きく振り回してロンドを狙う。
勢いのついた鎌は木々を、茂みを切り倒し、最後には滑らかなケーキにナイフを差し込むように地面に深く食い込む。

ロンドは巧みにそれを避けながら化け物の胴体に近づく。

ロンドは化け物の首を狙い、煉獄の剣を振り下ろした。

カッ

乾いた音がして、ロンドの手首に強烈な振動が響く。

剣は化け物の皮すら切ることができなかった。

「ちっ、ナマクラかよ!」

一旦引こうとしたロンドは、化け物と目を合わせてしまった。

四つの目のうち一つか赤く光ったかと思うと、何か液体のようなものが一直線に噴出される。

ロンドは素早く避けらことが出来たが、その液体は煙を出しながら地面を焼いた。


「くそっ!!」

二つの頭の八つの目が一斉に赤く光る。

焼け焦げた地面の煙が辺り一面広がった。

「煉獄の剣をなげろ!」

いつのまにかロンドのすぐ後方にレオンが走ってきている。

煙の中赤い髪が美しく光る。

「くそっ!取れ!」

ロンドがレオンに剣を投げた。剣は吸い込まれるようにレオンの手に収まる。

「あの剣は主人を選ぶのね…」
アンナが呟いた。


レオンは煉獄の剣を握り直し、鎌のついた手を切り刻む。
何本かはバキバキと折れて崩れた。

ロンドはアンナの側に立つ。
「あれが世界を変える煉獄の剣だ。お手並み拝見といこうか…」

レオンは不思議な感覚の中で戦っていた。
煉獄の剣を持つと、五感以上の全ての感覚が無限に増幅されていく気がする。

目に見えないもの…、空気の中に存在する何か、音の揺らぎ、大地の鼓動、天から降り注いでいるもの、未来と過去の時間の交差まで見える気がした。

この感覚はもしかして



というものを感じているのかもしれないと思う。


意識が持っていかれそうとする次元の中で、ただ一つレオンにはアンカーのように引き止めてくれる存在があった。

アスカだ。

あの、少し遠慮がちな可愛らしく美しい笑顔だけが一筋の光のように“そこ”にある。

アスカのために、
アスカのために

それだけがレオンの正義になっていた。

アスカを助けるために化け物を倒さなければならない。


化け物は煉獄の剣によって切り刻まれ、地面に血と肉を落としながらもがく。

「まるで恐怖ね…」
アンナはレオンの戦い方をそう例えた。


レオンが化け物の首の下に立った時、化け物は自ら胴体を二つに割り、レオン挟み込もうとする。

煉獄の剣は化け物を飲み込むように炎を上げ、焼き尽くした。



そして残ったのは黒い塊のみ…。


「すごいわ!やるわねレオン!」
アンナは煙の中立ち尽くすレオンに抱きついた。
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