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助手マジク
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「ほう、ケセラ先生が殺害された……ですか……」
その瞬間、私は大きな違和感に苛まれた。何かおかしい。
一番の異変が「抵抗した跡がある」ことだ。あの狂ったような人ならば殺される直前でも、あらゆる面から推理を広げ、自分が被害者となる事件の全容をつかもうとするはず。
抵抗などする暇もないだろう。
また、あの人は事件解決の手がかりになりそうなものを、何も残さず死ぬような人では無い。ヒントがないことは探偵にとって、かなりマイナスな状況である。
あの人は急死でない限り、そのような事はしないはずだ。
ありえないと思うかもしれないが、あの人はそういう人なのだ。
「マジクさんはこの話、どう思いますか?」と、町長のウォントに尋ねられる。
彼の顔には、顔全体に濃いペンで恐怖の2文字を書かれたような、この世の終わりかのような、そんな表情が浮かんでいた。
だが仕方の無い話だ。それほどまでに、先生の死は世間を震わせていたのだから。
「そうですね……少なくとも私はこの事件、おかしい点が多すぎると感じています」と、私の考えていること全てを伝える。
ウォントは明らかに顔を歪めながら私に対して質問を続けた。
「で、では、マジクさんはどのようにしてケセラさんが亡くなったと思っているのですか?」
「そうですね。私は自殺だと思っています。しかし……少しおかしいんですよね……」
そこが問題なのだ。動機が全く分からない。
先生は、自分が思いついてしまった面白いことは命をかけても成し遂げる人だ。
しかし、このような無駄な自死は絶対にしない人だ。長年助手をしてきた私ならわかる。
この事件はやはり何かおかしい……
ふと浮かんだ、ひとつの仮説。それは考えれば考えるほど、輪郭を帯びていき、現実的になっていく。
あの人なら、やりかねない。
段々と疑問が消えていく感覚が抜けず、気づけば興奮で身震いをしていた。
この感覚が好きで、私は推理を行っているのだ!
「先生の遺体を見せていただくことは可能でしょうか?」
私の興奮に少し唖然としていたウォントが、小さく頷いた。
安置所で横たわる先生は、やはり先生らしからぬ、情けなく、呆気ない死に様を迎えたようだった。
「やっぱり、先生は知識を持った狂人ですよ」
死体を見て笑うということはとても失礼なことだろう。しかし、私の脳に溢れ出す興奮の熱を抑えることが出来なかったのだ。
「犯人が分かりました」
そして、一呼吸置き、先生がいつも言っていた「演出」を始めるように。周囲の人々の気持ちを高めるかのように……
「先生を殺したのは、ヘルノです」
もともと、先生が日記を付けていたことを私は知っていた。もちろん、先生には気づかれぬよう。
あの人は頭がおかしい。いつか殺人を犯す。自分の楽しみのためだけに。
そして、あの人は自分の殺人をいつか誰かに知って欲しいと願う人物だ。10年後にでも見つかるよう、日記に殺人の全容を書くと思っていたのだ。
実際、あの人は書いた。本当に唐突に、殺人の、そして先生の犯した全ての罪と計画を。
それを読んだのは、先生が死んだ後だった。遅かったと後悔しながらも、この日記の内容を世間に公表することにした。
「あのケセラが殺された」という言葉のみが出回り、私は先生の思惑通りにことがいっていることに純粋に尊敬を覚えたのだ。
しかし、どうやら違うようだと知ったのはすぐのことだった。
「物見台へ向かう途中を刃物で殺された」
「ふいに倒れた拍子で、頭部を岩にぶつけ骨折」
日記に書いてある内容と異なるものがそこに書かれていた。
自殺の方法を変えたのか疑問に思ったが、突如私に浮かんだ完璧な仮説。
いるじゃないか!この世の誰よりも先生を恨み、そして先生を殺してもおかしくない人物が。
ヘルノ。彼は先生に過去の罪を暴かれ、濡れ衣を着せられた。十分殺意を抱くに値する。そして、彼は殺人鬼。そして、その町から逃亡し、この町で数年を過ごしたのだ。
脱獄後、先生を殺してもおかしくない。
しかし、これはあくまでも仮説。根拠は何一つない。
そこで私は死体を見に行ったのだ。
先生は必ず何かを残しているはずだ。そして、実際に死体を見てわかった。
先生は自分の体全体をダイイングメッセージにしていたのだ。
先生の腕や腹には抵抗の跡が見られた。しかし、腹部には刃物で刺された跡も残っていた。
もし、先生が刺されて殺されていた場合、どれだけ先生のように身のこなしが良い人物であろうとも大きく動き、まして殺人犯から攻撃を食らうほどの動きが出来るはずがないだろう。
そして、倒れた拍子に頭部を強くうちつけていた。しかし、これは犯人の思惑なのではないか?
つまり、先生は「私は頭部を殴られて殺された」と伝えているのだ。
しかし、それは珍しい。あえて動いている相手、まして先生のような抵抗する可能性がある人物を殴り殺すなどめんどくさい。
刃物でいけば、それこそ抵抗されることもめったにないだろう。すんなりと攻撃することも可能だ。
そこで、ヘルノのこの町で起こした殺人を考える。
もともとヘルノとして存在していた人物の遺体は、凄惨と語ることすら不可能な程に酷いものだった。
それは、身元を特定できないようにするためだと彼は語った。
それもあるだろう。しかし、もうひとつ理由があるはずだ。
「ヘルノは刺殺が苦手」
一撃で相手を仕留めることが出来ないのだ。だから、鈍器で殴り殺すことしかできない。
結果、あのような凄惨な事件現場が完成したのだ。
隣町での殺人は変死を装ったものが多かったが、金欠かなにかで直接攻撃するしか無くなったのだろう。
先生を殺す時は、1度で致命傷を与えなければ確実に逃亡されると分かっていたのだろう。背後から頭部を石などで力強く殴った。
しかし、先生は犯人の正体を理解すると同時に、自分の体を使ったダイイングメッセージを残したのだ。
私なら解けると思って残したのだろう。
頭部の一撃はやはり致命傷だ。結局先生は死んでしまった。その後、ヘルノは刺殺を装うため、先生の腹に刃物を突きつけ、転んで頭部を打ち付けたように見える工作を行った。
先生の残したメッセージに気づくことも無く……
後日、ヘルノが脱獄と殺人の容疑で再逮捕された。
「マジクさん!ありがとうがざいました!流石、ケセラさんの弟子は違いますね!
そういうウォントに私はこう言って見せた。
「当たり前です。だって私は名探偵マジクなのですから」
その瞬間、私は大きな違和感に苛まれた。何かおかしい。
一番の異変が「抵抗した跡がある」ことだ。あの狂ったような人ならば殺される直前でも、あらゆる面から推理を広げ、自分が被害者となる事件の全容をつかもうとするはず。
抵抗などする暇もないだろう。
また、あの人は事件解決の手がかりになりそうなものを、何も残さず死ぬような人では無い。ヒントがないことは探偵にとって、かなりマイナスな状況である。
あの人は急死でない限り、そのような事はしないはずだ。
ありえないと思うかもしれないが、あの人はそういう人なのだ。
「マジクさんはこの話、どう思いますか?」と、町長のウォントに尋ねられる。
彼の顔には、顔全体に濃いペンで恐怖の2文字を書かれたような、この世の終わりかのような、そんな表情が浮かんでいた。
だが仕方の無い話だ。それほどまでに、先生の死は世間を震わせていたのだから。
「そうですね……少なくとも私はこの事件、おかしい点が多すぎると感じています」と、私の考えていること全てを伝える。
ウォントは明らかに顔を歪めながら私に対して質問を続けた。
「で、では、マジクさんはどのようにしてケセラさんが亡くなったと思っているのですか?」
「そうですね。私は自殺だと思っています。しかし……少しおかしいんですよね……」
そこが問題なのだ。動機が全く分からない。
先生は、自分が思いついてしまった面白いことは命をかけても成し遂げる人だ。
しかし、このような無駄な自死は絶対にしない人だ。長年助手をしてきた私ならわかる。
この事件はやはり何かおかしい……
ふと浮かんだ、ひとつの仮説。それは考えれば考えるほど、輪郭を帯びていき、現実的になっていく。
あの人なら、やりかねない。
段々と疑問が消えていく感覚が抜けず、気づけば興奮で身震いをしていた。
この感覚が好きで、私は推理を行っているのだ!
「先生の遺体を見せていただくことは可能でしょうか?」
私の興奮に少し唖然としていたウォントが、小さく頷いた。
安置所で横たわる先生は、やはり先生らしからぬ、情けなく、呆気ない死に様を迎えたようだった。
「やっぱり、先生は知識を持った狂人ですよ」
死体を見て笑うということはとても失礼なことだろう。しかし、私の脳に溢れ出す興奮の熱を抑えることが出来なかったのだ。
「犯人が分かりました」
そして、一呼吸置き、先生がいつも言っていた「演出」を始めるように。周囲の人々の気持ちを高めるかのように……
「先生を殺したのは、ヘルノです」
もともと、先生が日記を付けていたことを私は知っていた。もちろん、先生には気づかれぬよう。
あの人は頭がおかしい。いつか殺人を犯す。自分の楽しみのためだけに。
そして、あの人は自分の殺人をいつか誰かに知って欲しいと願う人物だ。10年後にでも見つかるよう、日記に殺人の全容を書くと思っていたのだ。
実際、あの人は書いた。本当に唐突に、殺人の、そして先生の犯した全ての罪と計画を。
それを読んだのは、先生が死んだ後だった。遅かったと後悔しながらも、この日記の内容を世間に公表することにした。
「あのケセラが殺された」という言葉のみが出回り、私は先生の思惑通りにことがいっていることに純粋に尊敬を覚えたのだ。
しかし、どうやら違うようだと知ったのはすぐのことだった。
「物見台へ向かう途中を刃物で殺された」
「ふいに倒れた拍子で、頭部を岩にぶつけ骨折」
日記に書いてある内容と異なるものがそこに書かれていた。
自殺の方法を変えたのか疑問に思ったが、突如私に浮かんだ完璧な仮説。
いるじゃないか!この世の誰よりも先生を恨み、そして先生を殺してもおかしくない人物が。
ヘルノ。彼は先生に過去の罪を暴かれ、濡れ衣を着せられた。十分殺意を抱くに値する。そして、彼は殺人鬼。そして、その町から逃亡し、この町で数年を過ごしたのだ。
脱獄後、先生を殺してもおかしくない。
しかし、これはあくまでも仮説。根拠は何一つない。
そこで私は死体を見に行ったのだ。
先生は必ず何かを残しているはずだ。そして、実際に死体を見てわかった。
先生は自分の体全体をダイイングメッセージにしていたのだ。
先生の腕や腹には抵抗の跡が見られた。しかし、腹部には刃物で刺された跡も残っていた。
もし、先生が刺されて殺されていた場合、どれだけ先生のように身のこなしが良い人物であろうとも大きく動き、まして殺人犯から攻撃を食らうほどの動きが出来るはずがないだろう。
そして、倒れた拍子に頭部を強くうちつけていた。しかし、これは犯人の思惑なのではないか?
つまり、先生は「私は頭部を殴られて殺された」と伝えているのだ。
しかし、それは珍しい。あえて動いている相手、まして先生のような抵抗する可能性がある人物を殴り殺すなどめんどくさい。
刃物でいけば、それこそ抵抗されることもめったにないだろう。すんなりと攻撃することも可能だ。
そこで、ヘルノのこの町で起こした殺人を考える。
もともとヘルノとして存在していた人物の遺体は、凄惨と語ることすら不可能な程に酷いものだった。
それは、身元を特定できないようにするためだと彼は語った。
それもあるだろう。しかし、もうひとつ理由があるはずだ。
「ヘルノは刺殺が苦手」
一撃で相手を仕留めることが出来ないのだ。だから、鈍器で殴り殺すことしかできない。
結果、あのような凄惨な事件現場が完成したのだ。
隣町での殺人は変死を装ったものが多かったが、金欠かなにかで直接攻撃するしか無くなったのだろう。
先生を殺す時は、1度で致命傷を与えなければ確実に逃亡されると分かっていたのだろう。背後から頭部を石などで力強く殴った。
しかし、先生は犯人の正体を理解すると同時に、自分の体を使ったダイイングメッセージを残したのだ。
私なら解けると思って残したのだろう。
頭部の一撃はやはり致命傷だ。結局先生は死んでしまった。その後、ヘルノは刺殺を装うため、先生の腹に刃物を突きつけ、転んで頭部を打ち付けたように見える工作を行った。
先生の残したメッセージに気づくことも無く……
後日、ヘルノが脱獄と殺人の容疑で再逮捕された。
「マジクさん!ありがとうがざいました!流石、ケセラさんの弟子は違いますね!
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