勇者辞めます

緑川

文字の大きさ
7 / 27

七転八倒 それでもあゆみはとめられない

しおりを挟む
「俺は運命の出会いを果たすのかもしれん」

「そんなお伽話、叶うとは到底」

「思えなくても、信じてるんだ」

「過信は盲目に変化へんげするよ」

「やっぱ、これからの子供の教育方針的にも動物の気持ちを知るってのは、大事だろ?」

「……。どんな場所でも、安心安全だしね」

「そうそう」

「将来設計には少し気が」

「王道な犬か猫。いやいや敢えての遺伝子改良した魔物も」

「莫大な使い魔の服従契約費を賄える完璧な職選びと屑が過去に犯した商人警護のトラブルを解決しないと、始まらないと思うけど」

 住所も職歴も無く、引越し先の連帯保証人はおろか周囲の勇者としての絶対的な視線と意識に耐えかね、王都の繁華街から即離脱。

 運良く追っ手から免れてはいるが、いつ何時誰に襲われてもおかしくないよなー正直。

 まだ――此奴の立ち位置もわからないし。

「へーこんな種類があるんだね」

 愛らしい子供らしからぬうっすいリアクションで到着の程を改め、俺らは内部へ侵入する。

「おぉ~これはこれは勇者様!」

 入店一歩目でダル絡みの店員に捕まった。

「今回はどのようなご用件で?」

「子供の教育にも繋がる使い魔を数体ほど」

「では、此方などはどうでしょう?」

 一軒家に見劣りしない純白な長毛体躯にツノ付き持ち主が腕枕で安らかに眠っていた。

「零の白騎士」

 檻に閉ざされた敗者に対し、相変わらずの険しい面持ちを浮かべる精一杯な姿を横目に、

「ほぉーお坊ちゃん、物知りですね」

「零下? って」

「絶対零度を誇る地域に生息し、様々な分野で活用する為に変異した能力、火を操るから零火って言うんだ」

「あ、そっちか」

「何が?」

「いや別に」

「もしかして、れい」

「別に、知ってたし」

「ホント?」

「ほんと」

「立ち話はその辺にして、どうでしょう?」

「成獣なんだろ? 懐くのか」

「それはご心配なく。服従契約を致しますので一切の抵抗は不可能。出来てじゃれる程度かと」

「それが赤子からしたら命取りになるだろ」

「ならば、更に強化された呪印を結んでくだされば、問題ないかと」

「幾らだ」

「合計でしたら金貨数千枚!」

 野郎の厚顔無恥の笑みに自然と眉根が寄る。

「ですが、今なら何と二百枚‼︎」

 足元見やがって。

 ふと後輩に目を配るも、一線を置いて学のない馬鹿は良いように搾取されるよ、と言わんばかりに軽蔑の眼差しを周りに振り撒き、同時に舐められた態度、この交渉の第一段階から技術面の疎さを認めざるを得なかった。

「チッ、えーと」

 昔の癖で両の掌の指を折り曲げる。

 その仕草に、笑われてしまった。可愛い連れ以外。だがあちゃーと心の声が聞こえた。

 気がしてならない。

「幾らま」

 後ろを通り過ぎる、何かが俺の影を踏む。

 瞬間、瞬く間に鞘を払い、首筋目掛けて。

 ……。

 相手の死を寸前に構えた眼が俺を我に返し、こんな所在含め、無意識に視線に肌が強張った。

 まだ、過去が抜けない。

「おぉ!」

 そんな表舞台より白熱する裏舞台へ移動する中で適当な退場を終えれば、奴の相棒か。

 色んな意味で初めて肩から登場した、サラマンダーを目にする。

 中心はグッとお目覚め早々、臨戦体制に入った檻に行き、背景も籠った全体にまで引いた。

「ん? なんで、お前見えている?」

「今更? その眼鏡でしょ? どうせ」

「いやはや何でも見通されますな」

 片眼鏡がキラリと輝き、錚々たる金歯がニヤリと微笑んだ。

「サラマンダーはかなりの希少価値でしてね」

「それ以上喋ったらサラマンダーより先に、俺がお前を消し炭にするぞ?」

 齢五つにしては上々の殺気を放ち、「ハハハ、軽い冗談ですよ」刃を抜かずとも退かせた。

 次から参考にしよう。

 そして、此奴の本来の任務なのか。

「それって正真正銘の神具だよね?」

「えぇ、要りますか?」

「幾ら?」

「金貨、五千枚です」

「はい」

 あっさり。

 値切りなく一括払いで叩きつけやがった。

 金の山を。

 こうも潔いと後に残るのは圧倒されることだけで、よくわからん袋に回収するのに何の疑念も湧かなかった。

「……。じゃあ十五枚で頼むよ」

「えぇ! えぇ! お得意様のお父様ともなれば、喜んで値引き致します」

 誰が父親だ。と突っ込んでまた面倒事になるのも避ける為に此処はグッと言葉を呑み、俺たちの従順に背に付いていく騎士と進む。

 も、不規則且つ妙に重みのある足音に、

 あっ。
 
 契約諸々、省いたのを思い返してしまった。

「どうすっかな」

「一応、補足するけど、一番高いのは契約時だよ。奴隷商専用の魔道具の期間延長だから」

「……どれくらい違う?」

「うーん、太陽が五十回昇るくらい。と、思う」

「ま、いっか」

「……」

 誰一人、俺の意見に賛同せず、また歩み出す。

 前へ。

 また一つ、大きな命の灯火を照らして。

「なんか、いやーな雰囲気だな」

「そりゃ、あんな魔物が居ればね」

 視界の半数を埋める主張の激しい毒大蛇。

 沈んだ濁りの広がる紫色を帯び、シャーと見慣れた舌を出し入れし、あの種ならではの牙と血液を垂らして生い茂る草花を枯らし、早速、新たなる標的三つを無事にロックオン。

「んじゃ、まぁ」

「僕、観戦」

「お手並み拝見と行こうか」

 零火の白騎士VSグレイモアの色違い‼︎

「どんな戦いになるかね」

「それはまだ」

「お楽しみか」

 呑気な他愛もない会話を交わす真横では白熱したぶつかり合いが繰り広げられていた。

「随分と苦戦してるようだね」

「まぁ、S級難易度の魔物の一体だからな」

 無理もない。

「何しろ――戦闘慣れしてないだろうしな」

「いや、そうでもないよ」

「え?」

「零火の白騎士ってのはバランス良く、精鋭部隊を発足してね、幾つかの役割もあるの」

 流石は自然に生きる者たち、だな。

「司令塔や索敵、回復に斥候。そして、中でも群を抜いているのは攻撃型。他にはない、たった一つにして最強の技がある」

「それは」

「フォルムチェンジ」

「進化……するのか?」

「此処らへんの荒れた場所じゃ一時的にだけどね」

 あの能力だけで押し切るには無理がある。

 氷塊も厚く覆われた皮膚の前では、無力。

 況してや、近接戦では負けなしのあの相手にまるで玩具のような生温い爪や牙の抵抗じゃ、自らが嬉々として弱点を晒すようなもの。

「そろそろ、やる筈だよ。獰猛且つ残忍な性格であらゆる生命を見境なく、口から吐く炎で焼き尽くし、通常より二回りも大きく筋骨隆々な肉体は鋼並みの強度を誇るとされる」

 さらっと此方に迫った飛び火の波を共に飛び上がり、軽々と避けつつ見下ろしていた。

 それでもまだ尚、肉の剥き出しは垣間見えるものの決定的な一手には繋がらずにいた。

 そして、

「最強の形態と呼び声高い防御力と攻撃力を兼ね備えたダークモードにホワイトタイプの鎧兜と脇腹に添えられた数々の刃はまるで」

 零火の白騎士。

 そう名付けられた由来を今目の前で肉眼で目にした感動は得も言えぬ快楽を噛み締めていた。勿論、瞼で。
 
「一部の間では森の守り神と恐れられているほどだよ」

「でも、まだこれは完全な姿じゃない」

「まだ、あるのか?」

「残念ながら、今回は拝めそうにないね」

「みたいだな」

 最後の流れ弾の炎を奇しくも着地と同時にぶつけられ、クリーンショットを間一髪で免れはしたが、「あっち」軽い火傷を受けた。

 それに対し、ヒスロアの小僧はマントを払うようにしてただ弾き返すだけで無傷で済む。

 何たる差だ。

 今度こそ安全に地面に着地すると同時、

 あんな色々とくすぐられる見た目も、まるで愛くるしいマスコットのような小さな体に元通りを遂げ、叛旗を翻さず、事なきを得る。

「ん? どうしたんだ?」

 なんだか不満そうだ。

 まぁ、気持ちはわからなくもないが。

「何故、本来、モグラみたいに地下生活を群れで行っているのに」

「孤立していたのか」

「確かめて見る価値はありそうだけど、一旦戻る?」

「俺の道に下がるという言葉はない!」

「極端だなぁ」

「次の村にはムーピープルもいるぞ」

「ホント⁉︎」

「あぁ」

 円な瞳輝かせやがって、まだまだ子供だな。

「そんなに好きなんだな」

「うん! 兄ちゃんと一緒に最後の一匹が展示された動物園、何度も行ったんだ‼︎」

「そっかそっか、ん? 今、なんだか」

「いつの世も弱者は淘汰される運命にあるよ、当たり前じゃん」

「こいつ」

「ほら、早く行こうよ」

「あぁ、そうだな……」

 こんな子供なのに勇者とは将来が末恐ろしいな。

 そんな一抹の不安を胸に秘め、前へと進む。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...