勇者辞めます

緑川

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十中八九 勇者とゆうしゃ

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「村だ、牧場だ、ムーピープルだー!」

 珍しく子供らしい大興奮を隠せぬご様子で一目散に我先にと走り出し、柵を飛び越える。

「ははは、一線越え過ぎ」

「ようこそ旅人のお方、今回は一体どのような用件で?」

「ん? あー俺はちょっとね、」

 どうやら勇者とは気付いてないみたいだ。

「そうですか、ゆっくりしてください」

「ありがとう」

 そういや地球ってのには、ヤギとヒツジがいるらしいが、あれってぇヤギ……だよな?

「ムッゥメェェーーー」

「フッ」

 ふと牧場長は広大な緑の広がる柵の奥に目を泳がせ、唐突に屈託のない笑みを向けた。

「いつになくはしゃいで」

 それは親が我が子を可愛がるように感慨深く、感化されんが如く微笑みの後を追えば、ちっちゃな子と仔が仲睦まじく戯れていた。

「そんなにお好きなんです?」

「えぇ、いつも輪に馴染めずにいましたからね」

「へぇ」

 他人事と受け流しつつも突然変異に見られる折れ掛かったツノと正常体質の他一同は、に――いや、サラマンダーへの絶対的な服従の姿勢にはこの世界の神に君臨する龍として今一度、俺にも誇りを再認識させた。

「……にしても、ヤギだろ。あれ」

「ハァ?」

「ムーピープル似た種族って他にいないよな?」

「家畜としては、そうですね」

「そうだよね!」

 無駄に意地を張り、自身の疑問に食い下がる。

「絶対、ヤギだって」

 突然、背後から身に響く小突きが走る。

「ぁ?」

 一挙動で踵を巡らし、刃を払った先には、「ミェェェェェー!」好戦的な野郎が居た。

 ムーピープルとは何かが違うと脳が告げる。

 正に情報通りの、「ヤギじゃん」

「……ぁぁ」

 なんだ、此奴は。

「おや、どうやら迷い込んだようですね」

 周知の事実であろう存在を今一度、恥ずかしげもなく問うなどというのは俺には出来ず、
会話に巧く溶け込んだ問いを忍び込ませる。

「近くの森からか? 子どものようだが」

「えぇ、ムーピープルの天敵ですから気を付けないと」

 ふむふむ。
 近付いた気はするが、まだまだ先は遠い。

「駆除の対象なら今直ぐにでも」

「とんでもありません!」

 それはどっちだ。

 肝心な場面で主語が欠けてるぞ、おい。

「あぁ、そう」

 こんな時、魔物に詳しいヒスロア博士が居れば困らなかったのだろうが生憎、久々の遊びに夢中でそれどころではなかったらしい。

 仕方ない、探るか。

「一応、偵察も兼ねて散歩でもしてくるよ」

「これから夜ですので迷ってしまいますよ」

「構わないよ、慣れてるから」

「ハァ……そう仰るのでしたら、どうかお気をつけて」

「あぁ」

 結局、野郎の正体は掴めず終いか。

「よーし!」
身体を伸び伸びと広げて自然の癒しを浴び、同時に山々に谺する解放感でヒロを誘った。

 滞りなく策は功を奏し、共に山へと進む。

「どうだ?」

「うーん、居ないねぇ」

「そっか」

「わかんないの?」

「あぁ、俺体内に魔力貯めるタイプでさ、初級魔法も使えんのよ」

「放出ってすっごく辛いんでしょ? 大変だね」

「それはお互い様だろ」

「うん、生まれた頃から魔物に狙われっぱなし」

「魔力量の多い奴の方が美味いのかね」

「さぁ」

 それとも、魔力を吸収でもしてるのかね。

「あっ」

 ヒット。かな。

「おぉ」

 祭りかな、皆が皆、揃いも揃って同じ顔。

「まだこっちに気付いてないね」

「みたいだな」

「気性の荒い子ばっかりだろうから、やっぱりこれが手っ取り早いかな」

「ん?」

 なんか、すげー嫌な予感がする。

「サラマンダー、お願い」

「ギャウ」

 任せてと言わんばかりに襟から現れると、真っ赤な紅焔を勢いよくぶっ放しやがった。

「えー」

「うん、いい匂い」

 まじか、コイツ。

「このままじゃ、山火事になるぞ」

「だね」

「『だね』って、お前の使い魔が火付けたからこんな風になってるんっでしょうが!」

「使い魔じゃないよ、家族」

「あっ、あぁ、だから、いやっ、それは一旦置いといて!」

 激しめの手振りで感情を振り撒きつつ、

「村の人間に迷惑掛かるんだろうが!」

「でもそれって自業自得じゃない」

「なんでっ?」

「だって、自分たちの村の山なのに余所者相手に甘えた考えで突っ込ませたんだからさ」

「それは俺らを信用してるから」

「優しさと甘え、信用と過信はまるで違うよ、ちゃんと考えるのが嫌だからそう決めたんだ。大切なものは誰であろうと近付けない。これは常識でしょ?」

「そもそも焼く必要なんて」

「あの魔物は地中に子を生むんだ。それも魔力で隠した上に入り組んだ迷路みたいになっててね、専門でも一苦労するんだって」

「他人伝てかよ」

「そうやって外見だけを見繕ってるから、周囲に理想の勇者像だと勘違いされるんだよ」

「……」

 なんも言い返せねぇ。

「どうすんだよ、これから」

「追っ手がそろそろ来る頃だろうし、このまま行こうよ」

「は?」

「神に愛された場所なら恵みの雨でも降るでしょ、精々祈ってればいい」

「なぁ、未来もお前みたいな人間が徘徊するような世の中なのか?」

「僕たちみたいなのが勇者になる限りね」

「ッッ――ハァァァ。そうだな、じゃあ行くか」

「うん」

「でも、過去を変えちゃって大丈夫なのか?」

「それは全く問題ないよ、運命は変わらないから」

 最後まで嫌な事しか言わないなぁ。

「最後に言っとくが、ムーピープルもみんな死んじまうからな」

「別に好きじゃないよ、僕弱いの嫌いだし。あの弱さを正当化してるところが特に無理」

 ……。

 だが、翌日振り返っても火の手も追っ手も見当らず、むしろ山々に散らばっていた魔物の群れの声はもう跡形もなく過ぎ去っていた。
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