最愛の敵

ルテラ

文字の大きさ
65 / 115
エウダイモニア

63話 虚言

しおりを挟む
「セリア」
 レオが立ち上がっているセリアの肩に両手を置く。席を外しましょう、っといいセリアを外に連れて行く。メイド長にまかせ席に戻る。
 セリアもまた貴族である伯爵家の娘としてい生まれ、自分の道ではなく親の引いたレールを歩まされようとしていた。だが兄が不便と思い、「権力不干渉」の軍事系学校に入学をさせてくれたのだ。
「すいません」 
 謝るものの、レオも納得していないようには見えない。
「いやいい」
 つまり、ラズリがようやく口を開く。
「できないんだな?」

 どれ程の時間が経っただろうか。自分は未だに閉じ込められていた。本当に後継ぎにするつもりがあるんだろうか?いやあの人が欲しいには後継ぎではなく“傀儡”が欲しいだけか。いっそう死ねば終わるだろうか。
 しかしそんなことを考えるながらも食事は全て完食した。
「何なんだよ・・・」
 笑う気力すらもない。その場に倒れる。

 その後『影』からの情報を集まった。公爵家には魔法遮断装置が公爵家の敷地を覆っており、さらに警備が厳重のため侵入が難しく、下手に公爵を刺激してトートに危害が及んでは危ないと打ち切られた。
 パイロンは制服に身を包み皇城の会議室へ訪れていた。アタナシアナはメイド長達が預かっている。
 しかし会議というには名目で実際はパイロンと公爵家の裁判に近い状態だ。そして公爵の提案による異例の全国に生中継をされることとなった。会議には勿論、多くの貴族、皇帝も参加している。
「生中継って・・・」
 フィールは呆れを隠せない。
「それだけ悪者にしたいんでしょう」
「悪者って・・・どうやってするつもりなんだか」
 アイシャがため息混じりに言う。
「何でもいいさ。行くぞ」
『了解』
 パイロン側からはラズリ、レオ、フィール、アイシャ。公爵家からはセト、妊娠中のネフティスが参加した。
「トートを出せ」
 いきなり切り出す。
「トートは現在、後継者になるためのプログラムを行っているため無理です」
「後継者?人形の間違いだろう」
「まさか!大事な“息子”をそんなふうに扱う訳ないでしょう」
 しかしその目には何の感情も無かった。
「今で手紙一つ寄越さなかったくせにトートがパイロンに入った瞬間に後継者扱い、しかも皇帝の娘と結婚させるつもりだとか」
 貴族達の間でドヨメキが走る。皇帝の子供と結婚する。それは一族の地位や繁栄が確固たるものとなったも同然、その座を狙わない者はいない。
「結婚させようとしているのは息子の幸せのためです。皇族と結婚できて不幸な人間はいませんから」
 仮面越しにパイロンの顔が歪む。しかしその怒りはセトだけに向けられたものではない。
 セトの発言に多くに者が納得していることには腹がたった。今にでもこの場にいる全員を殺してそうな勢いだ。しかし、そうはしない。感情に任せた暴力ほど愚かなことかを知っているから。
「先ほどの質問がまだです。何故トートに手紙を寄越さなかったんですか?」
「それが負担になりたくてなかったからですよ。手紙を送ることで余計なプレッシャーを与えたくなかった。私なりの優しさですよ」
 よくもそんなことが抜け抜けと
「それにこれは当たり前のことです」
「何?」
「貴族の結婚は全てが家のためです。誰一人自らの意思で結婚は出来ないんですよ。それが当たり前です。何も知らない者達が口を出さないで下さい」
 公爵は冷淡な目でことらを睨めつける。
 貴族達はそれを聞き、納得と言わんばかりに頷く。彼らには罪悪感などこれぽっちもない。そもそもそんなものを持っているのかどうかすら危うい。
「家がそんなに大事か?」
 フィールの質問に目つきを変える公爵。
「当たり前でしょう。家門は先祖が弛まぬ汗と涙と血の結晶。こんな贅沢な暮らしができているのも全部、先祖のおかげだ。それにこれは子孫のためでもあるんです。思ったことはありませんか?一度でいいから金に困らない生活をして見たいと。だが人生は一度きり。後なんてないんです。だから私達の所に生まれてきた子達だけはせめて不自由なく暮らさせてあげたい。そう思うのは罪でしょうか?」
「(こいつ)」
 それが常識であるかの様に一息で言う。公爵の発言にフィールは拳を握り何とか怒りを抑えつけることしか出来ない。
 これが当たり前、貴族の世間の。
 ラズリは仮面越しに皇帝を見る。皇帝の顔には何の表情もなかった。ただそこで座視をしていた。まるでタイミングを見計らう様に、そこにある光景を見ていただけだった。
 どうしたものか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...