最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

81話 新たな名前

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『サマエル、これでお前の顔見ろ』
 壁の一部に小さい穴が空きそこから鏡が出される。サマエルはそれを拾い、初めて顔を見る。髪は白くなっていたが目は本来の色だった。 
 サマエルは自身の顔を見ても何も思わなかった。いや、生まれた時から何も感じたことがないのだから仕方がないのかもしれない。
『サマエル』
 呼ばれソロモンのいる方向を見上げる。
『そいつらはお前の親だ』
 サマエルは親という存在を知っていた。知っていたと言っても授業で習った程度だ。サマエルにとって親とは子供を人質にすればなんでも言うことを聞く弱き存在。そして2人はその弱き存在であると理解した。

 気がつくと当たりは真っ白ではなく色があった。いつもなら上を見上げてもそこは真っ白な世界。右を見ても前を見ても真っ白な世界。だが今はどこまでも続く空とどこまでも続く地面があった。
 サマエルは意識を戻すと同時に目、鼻、口から血を出す。サマエルも戸惑った。攻撃は受けていないはずなのに何故これほど全身が痙攣しているにか血を吐いているのか。
「誰だ?」
 声のした方に向く。目も充血している、為、視界が赤い。
「殺して下さい」
 初めての願いはとても聞き入れられないものだった。
「どう・・・」
「どうすれば殺してくれますか?」 
 周りから声が聞こえる。
「仲間ですか?彼らを殺せば殺してくれますか?」
 仲間、サマエルにとっては弱い者達が自身を強く見せる為の方法の一つ。
「殺し・・・」
 パチン
「黙れ!」
 眼帯をした男に頬を叩かれる。
「そんなこと言うな。何があったかは分からない。だがここにいると言うことは想像し難い何かがあったことは分かる。それを理解することは出来ない。でも、こんな子をほっとける程、僕は冷酷にはなれない。どうすればいい、教えてくれ」
 眼帯の男は必死に懇願する。
「殺した」

『サマエル、私の命令に忠実であれ、それ以外のことはするな、考えるな』

「なんの命令も出されていないのに殺した」
 小さな世界で暮らしていたサマエルでも理解した。唐突に現れた広い空間。さっきまでいた、研究者と死体。それがなくなったこと、サマエルが生きていると言うこと。

『私の命令に背くことを許さず』
『お前はその為に生まれてきた』
『それがお前の存在理由だ』

「命令に背いた。価値はない」
「ふむ、なら僕が君の主人になろう。自分自身が生きたいと思うその時まで、僕が生きる理由になろう」
 男はしゃがみ、サマエルに手を差し出す。
「(・・・生きる・・・理由・・・)」
 その手を振り払い殺すことができる。しかし何故か出来なかった。それどころか勝手に手が動きその手を握る。
「よろしく、僕は『ホルス』。君名前は?」
「・・・サマエル」
「サマ・・・ふむ」
 ホルスは考える。空とサマエルの顔交互に見合う。
「綺麗な青い月と綺麗な青い左目だ。『ラズリ』はどうだろう」
「(・・・ラズリ)」
「ラピスラズリと言う石があるんだ。君の目よりも濃いがその石には『健康』といった言葉の他に『幸運』といった意味がある。君のこれからの幸運を祈ろう。どうかその未来が君に価値があるものと願って。どうかな?」
 サマエルは頷く。
「ラズリ、よろしく!」
 そこからの意識が途絶える。

 意識を戻すと全員が痛く熱い、前にも感じたことのある症状だった。ただ違うには定期的に優しい声と全身に通っている熱とは違う熱が来る。後でそれが“温もり”だと知る。
「大丈夫だよ」
「辛いなら我慢しなくていい」
「今はゆっくりお眠り」

 はっきり意識が戻ると見たこともない天井。辺りを見渡すとカーテンが辺りを覆っていた。
「あら?」
 声のした方向を向くと白衣を着た女性がカーテンの間から顔を覗かせる。
「(聞いたことのある声だ)」
 その声は優しい声の1人だと思い出す。起き上がろうとするが起き上がれない。しゃべろとするが声が出ない。
「ああ、起き上がらなくていいし、声出さなくていいよ」
 ラズリの考えを読み取るように言う。
「痛みは?」
 優しい声で話しかける。ラズリは首を振るう。
「お腹空いた?」
 首を振るう。
「そう、まだ回復してないからもう少し寝なさい」
 もう十分寝たと思ったが眠気が押し寄せ再び眠る。
「あれっきり目覚めないね」
「大丈夫よ。ただ眠っているだけよ」
 話し声が聞こえる。あの日から一番聞いている声。
「・・・うう“」
「ラズリ?ラズリ!」
 ぼんやりとしている意識がはっきりとしてくる。
「ホルス様?」
「レア!目覚めたよ」
「静かに病人よ」
「そうだね。ごめん。大丈夫かい、何処か痛い・・・」
 バチン
「イッテ、スー痛ってー」
「びょ・う・に・ん!」
 ホルスがレアに怒られる。
「ご、ごめん」

 
 


 
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