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七天聖と受付嬢
第2話
しおりを挟む魔義眼を新調したシルヴィアは、次の日も黙々と受付嬢の仕事をこなしていた。
受付嬢の仕事は、単に冒険者の持ってきた依頼書にハンコを押すだけではない。壁のボードに貼られている依頼書の作成などは受付嬢の仕事であり、シルヴィアは自分の受付の前に『作業中 隣の受付にどうぞ』というボードを置き、自分の机で依頼書を作成していた。
ギルド連盟から回されてきた依頼を、依頼書の用紙に左上から記入していく。依頼の場所や内容、適正ランクなどを記していき、出来上がったら壁に貼り出すのだ。
だが10枚ほど書き終えたところで、シルヴィアの前に2人の若い男女が現れた。受付は一時的に閉めたはずだが、隣の受付に視線を向ければ他の冒険者が依頼受付をしており、全て埋まってしまっていた。
「今いいっすか?冒険者登録をしたいんすけど」
「大丈夫ですよ」
シルヴィアはそう言ってボードをどかし、机の引き出しから登録用紙を出して2人の前に並べた。
冒険者志願者の、ノイシュとクレアが登録用紙を書き終えたところで、シルヴィアは書面を確認し2人の格好を見た。まだ2人とも冒険者ではないので、これといった武器を所持していない。
「次は実技の試験がありますので、先に裏にある訓練所で待機していて下さい」
「あの…まだ武器とかないんですけど、借りる事って出来ますか?」
クレアが不安そうな表情で聞いてきたが、訓練所の入り口に貸し出しの武器がある事を教えると、喜んでノイシュと歩いていった。それを見送ってシルヴィアはギルド内を見回す。
冒険者になるには最低限の実力が必要なので、《ラウト・ハーヴ》で冒険者登録をする際には実技の試験が義務付けられている。そしてその相手をするのは、最低ランクより2階級以上の者と決められていた。ちなみに、ランクは上からS・A・B・C・D・E・Fの7段階だ。
なのでシルヴィアは、ギルド内にDランク冒険者以上の冒険者を探した。だがー
(いない…)
ギルドを開けて少し経ったこの時間帯は、ちょうど冒険者たちが依頼に出かけていく時間でもあり、シルヴィアの視界には運悪くDランク以上の冒険者はいなかった。いたとしても、朝から酒を飲んで顔を赤くしている者しかいない。
(仕方ないですね)
シルヴィアは小さくため息をつくと、受付にボードを立てて訓練所に向かった。
シルヴィアが訓練所に行くとノイシュは短剣、クレアは杖を持っていた。貸し出し用の武器はギルドと親交のある武具店のもので、店の棟梁が売れ残った物などを譲ってくれるのだ。
シルヴィアは武器の入れられている箱をじっと見て、手頃な剣を引き抜いた。その行動に、2人は驚きを隠せず小さな声を漏らす。
「あの、あなたが相手をするんですか?」
「はい。何か問題がありますか?」
「そういう訳ではないんですけど…」
困惑するクレアの隣で、ノイシュは剣を肩に乗せて好戦的な笑みを浮かべた。
「それなら受付嬢さん、1つ提案いいっすか?」
「なんでしょうか?」
「今から俺と戦って、俺が勝ったら後で一緒に飯でもどうっすか?俺、美味いステーキが食べられる店知ってるんすよ!」
「ちょっと、試験前に何言ってるのよ!そんなのー」
「問題ありません」
「えっ?!」「よっしゃ!」
シルヴィアの返事に、ノイシュは喜びクレアは目を見開いた。
「ですが、昼休憩は2時間後なので食事をするとしたらそれまで待って頂くことになります」
「いいっすよ!」
喜んで剣を構えるノイシュの向かいで、シルヴィアは特に構える事なく剣を右手に握った。クレアは納得いかないようだったが、ノイシュの後ろに立つ。強化魔法等でサポートをするのだろう。
「制限時間は30分、相手を殺す攻撃や魔法は禁止です。相手が気絶や降参をした場合は途中終了となります。途中でやめたからと言って、必ずしも不合格になる訳ではありません。準備はよろしいですか?」
「うっす!」「大丈夫です」
「それでは…始めましょう」
2人はぐっと身構えたが、試験が始まった途端、彼らの視界からシルヴィアの姿が消えた。
海を跨いで遥か西にある大陸の港で、サブギルドマスターの《アクア・ロゼマリン》は大型船の甲板に立ち、苛立った様子で空を眺めていた。気持ちの良い快晴で鳥たちが気ままに飛んでいるが、彼女の表情は晴れそうにない。
(全く…いつ出発するのよ!これじゃあ会議に間に合わないじゃない!)
アクアは船の外を見たが、錨が降ろされたままで出航する気配はない。かれこれ30分ほどこの状態だった。
「もう我慢できない!」
アクアがそう言って海に向かって手を向けると、海面に魔法陣が浮かび氷で出来たイルカが造形された。それを確認して鞄を背負うと、アクアは甲板からイルカの背に飛び乗った。
「遅刻なんてしたらグレイさんに呆れられちゃうわ。さっ、行きましょう」
アクアが指示を出せば、イルカは小さく頷いて大海原を駆け出す。その速さに彼女の頰が綻び、ようやく年相応の笑顔が浮かんだ。それだけ見たら元気な少女に見えるかもしれないが、彼女もまた七天聖の一角である。
水天聖改め、《海の聖》を担う彼女は王国へと全速力で海の上を進んでいった。
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