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七天聖と受付嬢
第3話
しおりを挟む「ぐっ…!つ、強ぇ…」
「これ全然離れない!」
「お疲れ様でした、試験はこれで終了です」
5分後、訓練所には足に蔦を絡められているクレアと、シルヴィアに寝技を決められているノイシュの姿があった。
開始直後、シルヴィアはまずサポート役のクレアを潰し…倒しにかかった。身体強化魔法なしの体術だけで一瞬で背後に移動してクレアを拘束し、次にノイシュの所へと走っていった。ノイシュはその速さに驚いて剣を突き出したが、シルヴィアは姿勢を低くして剣先を避け、彼の腹に軽く拳をいれる。ノイシュはそこからなんとか回転斬りをしようとしたが、シルヴィアはジャンプをして迫ってくる剣の刃に飛び乗り、刃を踏み台にして更に高く飛んだのだ。
次にノイシュが上を向いた時には、彼女のブーツの靴底しか見えておらず、気づいたら寝技を決められていたという訳だ。
シルヴィアは軽く砂を払って立ち上がり、2人の武器を回収して箱の中に戻した。
「あ、あの…!」
そこで背後から声がして振り向くと、クレアがノイシュに肩を貸していた。ノイシュは鳩尾の痛みが今になってやってきたらしく、少し気分が悪そうだ。
「どうかしましたか?」
「えっと、試験の方は…」
「合格ですよ。お2人は今日から、駆け出し冒険者です」
「ですよね、あれだけ簡単にやられちゃ……って、えっ?!ご、合格ですか?!」
「はい。不合格の方がよろしかったですか?」
「いやいやいや!そんな事ないですけど…」
驚く2人に、シルヴィアは綺麗な冒険者カードを差し出した。2人の名前やランク、住所などの個人情報が記されているもので、ギルドが発行するカードは身分証の代わりにもなる。
「こちらが、お2人の冒険者カードになります。紛失した場合は再発行の手続きと、手数料がかかりますので気をつけてください」
「あの、実技でボロボロだったのにいいんすか?」
「実技で重視されるのは、動きや魔力量などです。相手を倒す事は審査に関係ありません」
「そうなんすか…ありがとうございました!」
2人はカードを受け取ると、嬉しそうにカードを見比べたりした。初々しいその姿に、シルヴィアはそっと胸に手を触れた。なんだか暖かく感じたのは気のせいだろうか。
シルヴィアは意識を戻し、2人にペコリとお辞儀をした。
「今日からお2人は冒険者です。あなた方のご健闘を心より祈っています」
凛とした表情で述べるシルヴィアに、ノイシュだけでなく同性のクレアまで息を呑んで頰を赤らめた。
その頃、ギルドの二階でグレイはカレンダーを見て眉間に深いシワを刻んでいた。今週末の休日にだけ、大きな赤い丸がされている。
「グレイさん、そんなに予定を睨んでも決まっている事は変わりませんわよ?」
ユキノが母親のように助言しても、グレイはピクリとも動かなかった。だが少し表情が戻ったと思ったら、突然椅子から立ち上がり近くの戸棚の前で止まった。
ユキノが頭に?を浮かべていると、グレイは一番上の棚を開け、中から金貨が大量に入った袋を取り出した。そして何も言わず、ドサッと袋をユキノの前に置く。
「臨時ボーナスだ」
「はい?」
「何も言わずに受け取ってくれ」
「…受け取ったら、私は何をさせられるのでしょうか?」
「会議であいつらを束ねる役をやらせてー」
「お断りしますわ」
「なんでだ!」
死にそうな顔で机に這いつくばるグレイに、ユキノは珍しい笑顔で袋を押し返した。
「あなたはギルドマスターですよね?あの方達を束ねるのは、あなたの仕事ですわ」
「だってあいつら全然人の話聞かないし!そもそも1年に1回顔合わせる必要あるか?!どうせどこかでピンピンしてるよ!」
「普段会えない仲だからこそ、こうやって会う日を設けているのでしょう。さぁ、会議まであと4日ですよ」
「マスター辞めようかな…」
「冗談は性格だけにしてください」
「ねぇ、それ結構心にくるよ?」
グレイを軽くあしらいながら、ユキノは容赦なく書類の束を机の上に置いた。
グレイが普段以上にだらけているのにも、理由があった。
それは週末にある『天聖集会』なる物が原因である。天聖集会とは、ギルドに在籍するSランク冒険者から選ばれる集団、通称『七天聖』が全員集まる年に1度だけのイベントの事だ。
本来、王国にある一般的な中小ギルドにはSランク冒険者が1.2名しかいない。だが王国最大ギルド《ラウト・ハーヴ》にはそれが6名おり、彼らはその圧倒的な強さから『天聖』の異名で呼ばれている。彼らに憧れてこのギルドに入る冒険者も少なくはない。
七天聖には魔法の7属性と同じ、火・水・木・土・闇・光・無の7つがある。それぞれに1人が該当し、天聖または好きな聖を名乗ることが出来るのだ。だが彼らは実力があるものの、かなりの変人の集まりとも言われており、グレイは頭を抱えているというわけだった。
そんなグレイに、ユキノは封筒を1枚渡した。しっかりと封がされたそれは、裏面に王国聖騎士団の紋章が描かれている。
「なんだこれ?」
「今朝方、副団長の方から受け取りました」
「あいつか…。国家公認のエリート様がうちに何の用だ?」
知り合いの顔を思い出して余計に憂鬱な気分になりながら封を切れば、中には依頼書が1枚だけ入っていた。グレイはそれに目を通して、小さくため息をつく。
「なるほどな、このタイミングでこれかよ」
「どんな依頼ですか?」
「闇ギルドの掃討作戦だってさ」
グレイは重たいため息を漏らしながら、依頼書にサインをした。
王都の東門を出てすぐの所に、小さな森があった。その森の中心部には大きな切り株があり、周りには様々な種類の花が咲き誇っている。
そして切り株の上で、黄色い着物に身を包んだ女性が1人、木漏れ日を浴びて気持ちよさそうに寝ていた。女性が身じろぎをするたびに、着物がはだけその豊かな胸が零れ落ちそうになる。
「…………んん……」
だが女性が小さな声を漏らした瞬間、森に吹いていた風がピタリと止んだ。それと同時に花が次々と腐って枯れていく。樹々も枯れて朽ちていき、終いには森そのものが消えて元あった草原だけが残った。
「ふぁ~……行くずら」
光天聖改め、《夢の聖》である《ネムリ・ドリーミア》は眠たげな顔で呟くと、のそりと起き上がって下駄の音を響かせながら王都へと歩き始めた。
天聖集会まで、残り2日ー。
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