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七天聖と受付嬢
第4話
しおりを挟む「シルヴィア、七天聖って知ってる?」
普段通り依頼書を作成していたシルヴィアは、作業を中断して声のした方に視線を向けた。隣では、依頼受付がひと段落したルージュが眼を輝かせている。
「少しだけ聞いたことはあります。かなりお強い方達の集まりだと」
「そうなの!その人達が、明日ギルドに集まるんだって」
「そうですか」
そう返してシルヴィアは作業に戻ろうとしたが、ルージュはそうさせない。
「それだけ?!気になったりしないの?」
「はい、特に何も」
「え~…。カッコいい人とかいるかもしれないじゃん?」
「…玉の輿、というものですか?」
「はい?!」
とんでもない単語が聞こえた気がしてルージュは椅子から落ちそうになるが、言った当人は至って真面目な顔をしていた。
「な、なんでそうなるの?!」
「先日読んだ本にそんな話がありました。出会いに飢えた女性が、顔立ちが良い名の通った男性を狙うというものです」
「一緒にしないで!なんでそんな本読んでるのよ…」
「そうですか」
ルージュは顔を赤くしながら言ったが、実際ほんの少しだけ狙っていたので内心焦っていた。
「でも、本当にどんな人なのかしら」
「会った事がないのですか?」
「なんかSランクのクエストって、期間が1年とか長いやつばっかなのよ。だから殆どギルドにいないんだよね」
「なるほど」
シルヴィアは小さく頷き、今度こそ作業に戻ろうとした。
だが受付の正面にある玄関の外で突然、昼間なのに辺りが眩しい光に包まれた。それと同時に火柱が上がり、その場の気温が一瞬で跳ね上がる。
シルヴィアはルージュを庇うようにしたが、すぐに火柱は消えた。付近の者が言葉を失っている中、火柱の上がっていた場所には1人の男性の姿があった。
「よし、座標は完璧だったな!懐かしい雰囲気だ!」
太刀を持った男は嬉しそうに大きな声を出すと、赤いコートをなびかせシルヴィアのいる受付に真っ直ぐ向かってきた。そして受付に依頼書と魔石を勢いよく並べる。
「ただいま帰ったぞ!陽の聖、ヘリオス・ソーレだ!」
偶然居合わせた冒険者や受付嬢達はポカンとしていたが、その言葉に一転してギルド内は歓喜の声に包まれた。
そんな中、シルヴィアは『わかりました』といつも通りの返事をして依頼書の確認を始めた。
「ヒートアリゲーターの魔石を確認しました。達成報酬はこちらです」
「ありがとう!」
ヘリオスは大きな声で礼を言っただけで、その場から一歩も動かない。しばし沈黙が続き、シルヴィアは小さく首を傾げた、
「どうかなさいましたか?」
「忘れていたら申し訳ない!何処かで俺と会った事がないか?」
問われてシルヴィアは少し考え込むそぶりを見せたが、すぐにかぶりを振る。どうやらヘリオスのような暑苦しい男の記憶はないらしい。
「ないと思います」
「そうか!変なことを聞いてすまなかった!」
ヘリオスは相変わらずの大声で謝罪をすると、颯爽と何処かへ消えていった。嵐の様な男に、ルージュは言葉を失った。
「玉の輿はいかがですか?」
「…ちょっと、暑苦しすぎるかな」
「そうですか」
ヘリオスは振られた。
そんなことはつゆ知らず、久しぶりに王都の中心街を歩きながら、ヘリオスは太刀を片手に頰を緩ませていた。周りの商人や女性達が声をかけてくるが、軽く聞き流して気ままに歩く。
「あの受付嬢の子…新しい木天聖にぴったりだ!」
思いついたように呟くと、ヘリオスは火と共に姿を消した。
すっかり街も暗くなり、シルヴィアはギルドを閉めて自室に向かった。
寝る前の日記やストレッチをしていた所で、部屋がノックされる音と共にグレイが入ってきた。
「シルヴィア、今ちょっといいか?」
「問題ありません」
確認を取るとグレイはベットに腰掛け、タバコに火をつけようとした。だが、シルヴィアが一瞬で取り上げる。
「禁煙してください」
「…わかったよ。それより、明日はギルドに出なくていい。というか出ないでくれ」
「何故でしょうか?私はクビですか?」
「そうじゃなくてな、明日は大事な会議があって、アホ…変わった奴等が来るから、あまり君に会わせたくない」
「それは…七天聖の方々ですか?」
シルヴィアの口から出た言葉が信じられなかったのか、グレイは目を見開いた。
「知ってたのか?!」
「噂程度には。1人は既に会っています」
「はぁ?!だ、誰に?!」
「ヘリオス・ソーレという方です。かなり熱く騒がしい方でした」
グレイは『よりによってあいつか…』と言って頭を悩ませたが、気を取り直してシルヴィアに明日は休みと言い渡し部屋を出て行った。
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