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綺麗な土と水に美しい花
第1話
しおりを挟む私と彼女の関係は、多分この先も変わらない。でも前と違う点があるとすれば、それはきっとー
次の日、アクアはギルドの前で鞄を足元に置き、同伴者とやらを待っていた。まだ出航までかなり時間があるので、暇つぶしに今朝買った新聞に目を通していく。
見出しの記事には、これから向かうドワーフの国の事が大きく書かれていた。記事には、先日発生した地震により、ドワーフの国では数多くの被災者が出て、かなりの建物が倒壊したと記されている。そのため、現在は国が一丸となって復興にあたっているそうだ。
(それにしても遅いわね…)
アクアは顔も知らない同伴者が気になり、通りを隅々まで見渡した。街の住人や商人が行き交っているだけで、それらしき人物の姿は見当たらない。
だが後ろのギルドの扉が開き、少し気に入らない魔力を感じた。振り返れば、そこには受付嬢の制服を着た銀髪の女性が1人、アクアに左右で色の違う瞳を向けている。
「お待たせしました、アクア様」
「な、何であんたが…」
綺麗なお辞儀をするシルヴィアを見て、アクアは同伴者が誰なのかを察した。そんなはずは無いと思っても、彼女の顔が事実だと告げているように感じる。
「マスターから、アクア様に同伴してくれと命を受けています。これから1週間、よろしくお願いします」
「ふざけないでよ!なんで貴重な休みを、あんたと過ごさなきゃいけないわけ?!」
「ふざけてなどいません。それより、港に行く前に寄りたい場所があるので、お先に失礼します」
「あ、ちょっと…!」
シルヴィアはそう言って、ギルドの裏庭から巨大な荷物を積んだキャリーワゴンを引いてきた。ワゴンには箱がいくも積んであるが、それらを覆うように茶色い布が被せられているので、中身が何かはわからない。
ポカンとするアクアをよそに、シルヴィアは重たそうなワゴンを涼しい顔で引いて何処かへと歩いて行った。
後をついて行くと、シルヴィアは王国大聖堂の前で足を止めた。そしてワゴンを道の端に寄せ、大聖堂の中へと黙って歩いて行く。アクアは何を言っていいかわからず、とりあえず自分も続いた。
聖堂の中に入れば、祭壇の前でお祈りをしていた少女が、シルヴィアに気づいて嬉しそうな表情を浮かべて走ってきた。
この国の民なら誰でも知っている。白い修道服を着た彼女はー
「シルヴィアさん!こんにちは!」
「こんにちは、聖女様。お元気そうでなによりです」
聖女の《エステリア・スプレンドーレ》は首から下げたロザリオを揺らしながら、シルヴィアのもとに駆け寄った。
そしてアクアに気づくと、少し頰を赤く染めて照れ笑いを浮かべた。聖女という立場を忘れた、年相応の笑みにアクアの肩からふっと力が抜ける。
「ご、ごめんなさい。海の聖のアクアさんですよね?初めまして、聖女のエステリアです」
「…アクア・ロゼマリンです。こちらこそ初めまして」
「シルヴィアさん、今日はどうしたのですか?」
「今月分を、お渡しに来ました
エステリアは『そうでしたね!』と頷くと、ポケットから試験管の様なものを一本取り出した。同時に、シルヴィアは右腕の手袋を外す。
「あんた、それ…」
いきなり緑色の腕が現れ、アクアは目を見開いた。いつも右手にだけ手袋をしていると思っていたが、その下にこんな物が隠れているとは思ってもいなかった。
驚くアクアの前で、シルヴィアは人差し指を試験管の口に近づける。そしてすぐに、指先から光り輝く液体が一滴だけ零れ落ちた。
シルヴィアは手袋をして腕を隠し、エステリアは試験管に蓋をして大事そうに抱えた。
「ありがとうございました!本当に、毎月申し訳ないです」
「問題ありません。それでは」
「また会いに来てくださいねー!」
エステリアに見送られ、2人は港へと向かった。
港でワゴンを係員に預け、2人は大型船に乗り込んだ。ドワーフの国までは数時間かかるため、船内にある個室を取っているのだが、グレイの計らいなのか2人は同じ部屋へと案内された。
「はぁ…」
アクアは大きなため息をつき、荷物を降ろしてベッドに座った。同室の彼女に視線を向ければ、椅子に座って何もせずにじっとしている。
「…ねぇ」
「何でしょうか?」
感情のカケラもない無表情を向けられ言葉に詰まるが、咳払いをして誤魔化し、話を続ける。
「さっきのは何?」
「植物の栄養分と魔力を配合した、特製の薬です。月に一滴しか出せないので、続けて出すとー」
「そうじゃなくて!あんたの、その…腕よ」
アクアに視線を向けられ、シルヴィアは自分の右腕を見た。今は白い手袋で覆われているが、軽く動かせば絡み合った蔦が小さく音を立てる。
「これがどうかしましたか?」
「何があったらそんな事になるわけ?ハッキリ言って気……普通じゃないわ」
「申し訳ありません。私も知らないのです」
「は?何でよ」
「目覚めた時からこの状態で、詳細は不明だと知らされています」
「…あっそ」
正直最初見た時は不気味に感じたが、本人も特に気にしてないようだったので、アクアはベッドに横になって会話を終わらせた。
シルヴィアが窓を開ければ、静かな部屋に穏やかな風が流れ込んでくる。そして座って待っていると、体を揺さぶる大きな汽笛が鳴り響き、2人を乗せた船はドワーフの国へと出航した。
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