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逸れ者と受付嬢
第4話
しおりを挟む手の上に置かれた花の髪飾りを見て、シルヴィアは首を傾げた。今朝はグレイから森の詳細を聞いて、直接クロカのいる宿へと行く準備をしていたはずだ。だがどう見ても周りは薄汚れた戦場で、シルヴィアは記憶にない服を身に纏っていた。
ここはどこかと思考を巡らせていると、手に何か生暖かい感触がした。見れば、貰った花から蜜のような血が溢れて、シルヴィアの手を赤く染めていく。そして気付けば、彼女の周りには人や魔物の亡骸が沢山転がっていた。
(これは…前に見た…)
以前の夢とどこか似ているような気がして、シルヴィアは初めの一歩を踏み出した。
「……あ」
だがそこで意識が覚醒し、シルヴィアはそっと身体を起こした。どうやら座ったまま寝てしまったらしく、目の前の机には読みかけの本が広げられていた。机の端に置いてある髪飾りの花も、特に変わった様子はない。
シルヴィアはそっと本を閉じると、クロカのいる宿へと向かった。
それから少しして、シルヴィアはクロカの泊まっている宿に来ていた。案内された部屋の前に立ち、ドアを数回ノックする。数秒で中から慌ただしい音がして、扉が少しだけ開いた。隙間からは、少し髪に寝癖のついたクロカが顔を覗かせている。つい先程まで寝ていたのだろう。
「なんだ、あんたか」
「おはようございます。早速ですが、泉の場所がわかりました」
「あっそ…………ぇええ?!」
日常会話と同じ調子で話され、驚いたクロカは閉じかけた扉を開けて今までで1番大きな声を出した。
グレイによれば、生命の泉がある森は『夢幻の森』という別名があるそうだ。ただし問題なのは、地図に載っていないという事。森は常にあるわけではなく、何処かに自然と現れるそうだ。
その旨を伝えられたクロカは、シルヴィアの向かいで眉をひそめた。
「はぁ?じゃあどうやってその森に行くんだよ」
「空から探します」
「空?この壁の上を歩くって事ー」
そう言いかけた所で、壁の上に立つ2人の周りに大きな影がさした。クロカが視線を上げようとした途端、2人のそばに巨大な鳥が降り立った。風が吹き荒れ、クロカは吹き飛ばされそうになる。
やって来たのは、高速移動用の特急鳥だった。運び屋の男性は見知った顔を見つけると、嬉しそうな表情を浮かべてシルヴィアの近くに降り立った。
「嬢ちゃん!この前以来だな!」
「こんにちは。今回もよろしくお願いします」
呆然とするクロカをよそに、シルヴィアは特急鳥の飼い主にチケットを手渡した。
「それで、今日はどこに行けば良いんだい?」
「夢幻の森までお願いします」
「あ~あれか、わかったぜ!」
「行った事があるのですか?」
「まぁ何回かな!嬢ちゃんみたいにあの森に行きたがる人は少なからずいるぜ」
「そうですか」
シルヴィアはそう言ってカゴの中に飛び乗り、クロカも続いてカゴに収まった。
特急鳥のカゴから大陸を見渡して数十分、シルヴィア達は目的の森をあっさり見つけた。それもそのはず、視線の先には地図にないはずの森があるのだ。そして森の木々は、意志を持っているかのように少しずつ動いている。
運び屋は2人を森の近くに下ろし、別れる前に一言告げた。
「あの森に入ったやつは大抵、自分を見失っちまうから気を付けろよ!」
「問題ありません」
「いや問題しかないだろ。ってか自分を見失うってなんだ?」
「まぁ気を付けてな!」
何か言いたげなクロカをよそに、運び屋は手を振りながら大空へと帰っていった。
シルヴィアは鞄を手に持ち、森をじっと眺めた。森の中心の方から、何か強い魔力が肌に突き刺さるような感じがする。魔物ではないあたり、おそらく巫女の物だろう。
「…行きましょう」
「あ、おい!」
巫女の魔力に腰が引けているクロカを置いて、シルヴィアは森の入り口へと向かっていった。
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