Sランク冒険者の受付嬢

おすし

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鍵と記憶と受付嬢

第2話

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「坊やは今日は休みなんだったか?」

「はい。昨晩から北の大陸に出向いていると」

「入れ違いだったかぁ…」

 シュウはタバコの煙を吹かしながら、王都の中心街を練り歩いた。何かシルヴィアの記憶に引っかかる物を探したが、今のところ特に彼女が反応を示した物はない。
 どうしたものかとシルヴィアに視線を向けた所で、シュウの目にある物が映った。

「嬢ちゃん、そいつは何の鍵だ?」

 尋ねられたシルヴィアは、首からぶら下がる鍵を手に取って少しの間考え込んだ。つい先日、ロザリオがこの鍵に変わっていたのだ。

「…わかりません。気づいたらありました」

「家の鍵が何かかもな。そういや、前の家は覚えてるか?」

「前の家とは?」

「お嬢と…グレイが育った家だ。王都ここから南に行った村の外れにあるんだが、まだそこには行ってなさそうだな」

「マスターは、昔から私と一緒にいたのですか?」

「確か5歳くらいの時からって聞いてる。とりあえず家に行ってみるか」

「わかりました」

 シルヴィアは鍵を一瞥し、シュウの後をついて行った。




「嬢ちゃんの両親とは、若い頃にパーティーを組んでたんだ」

 家に向かう途中の馬車で、シュウは不意に思い出したかのように口を開いた。それに少し興味を示したシルヴィアに、シュウは小さく笑って話を続ける。

「随分やんちゃしたもんだ。でもまぁ2人が結婚して嬢ちゃんが産まれてからは、あまり冒険者としても活動してなかったらしい」

「そうだったのですか。私の両親は、今どちらに?」

「…2年前に消息を絶ったとグレイからは聞いてる。多分あの魔物の大氾濫が原因だろうな」

「そうですか」

 自分の両親の事など何も覚えていないシルヴィアは、それ以上何も言わずにそっと目を閉じた。



 小さな森の前で馬車は停まり、2人は森の中を進んでいく。鳥の鳴き声や水の流れる音を耳にして、シルヴィアは目に映る光景に何処か既視感があるような気がしていた。
 しばらく森の中を歩けば、木のない拓けた場所に辿り着いた。少し先には小さな家があるが、長年手入れがされていないのか草が生茂り、家も随分古びているようだった。

「懐かしいなぁ…よく嬢ちゃんの父さんに誘われて一緒にここで酒を飲んだもんだ。嬢ちゃんと坊やは庭でよく走り回ってたぜ」

 シュウの昔話を聴きながら、シルヴィアは家の周りをゆっくり歩いた。庭には小さなベンチや椅子が置かれ、裏手の倉庫には農具などがしまわれていた。どれも錆びているものばかりで、使えそうにはなかった。

「どうだい?何か思い出せそうか?」

「…すみません、特にピンとくるものはないようです」

「そうか。とりあえず、家の掃除ついでに入ってみるか」

 シルヴィアは試しに例の鍵を玄関扉に差してみたが、鍵が違うのか刺さらなかった。諦めて戸を引けば鍵はかかっておらず、シルヴィアはそっと中に足を踏み入れた。

(ここが…私の家)

 ギシリと音を立てながら床を進み、シルヴィアはその場の空気を肌で感じていた。初めて見るはずの景色なのに、自然と体に馴染んでいくような心安らぐ空気。
 リビングの造りや家具、並べられた小物が何か頭に訴えかけているような錯覚を感じた。それが何かわからず足を進めると、壁一面に本がビッシリ並べられた部屋に着いた。きっと誰かの書斎だろうと思い部屋を散策すると、部屋の奥にある机に目が留まった。

(位置が変ですね)

 変に斜めに置かれた机が気になり、直そうとした所で、机の引き出しに鍵穴がある事に気がついた。まさかと思い首にかけられた鍵を差し込むと、カチリという音がして引き出しが開いた。
 
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