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鍵と記憶と受付嬢
第3話
しおりを挟む慎重に引き出しを開けると、中にはペンや硬貨が適当に入られていた。奥の方まで漁っても特に高価なものなどはなく、ゴミ入れとあまり変わらない扱いをされていたようにしか見えない。
手に取って眺めても使えそうなものはなく、何か手掛かりになりそうなものはない。ただの引き出しのようだ。
「………はぁ」
少し期待したが予想を簡単な裏切られ、シルヴィアは小さくため息を漏らした。だがその時、引き出しの底の板だけ色が違う事に気がついた。
まさかと思い引き出しを机の上に置き、そつとひっくり返せば、小物が転がり落ちる音をかき消すように底の板が外れ落ちた。そして板と一緒に、隠されていた物が姿を現した。
「これは…」
手に取ったそれは一冊の魔導書で、長年引き出しに閉じ込められていたせいか少し黄ばんでいる。表紙のタイトルはペン先で削られたのか読めなくなっており、シルヴィアは本の表紙をそっとめくった。
『これは、シルヴィア・ルナセイアッドに向けての魔導書である』
1ページ目には殴り書きで堅苦しい文が書かれていた。次のページに行けば、そこからはある召喚魔法に関する記述が書かれていた。
そのまま読み進めていくと、終盤のページが数枚ほど破かれて読めなくなってしまった。どうやら召喚の際に使ったのか、本には対価として使ったであろう乾いた血の痕が付いている。
「………あ」
「嬢ちゃん、何か見つかったかい?」
一言漏らしたのと同時にシュウが迎えに来て、シルヴィアはサッと本を閉じて背中に隠した。
「?どうした?」
「いえ……なんでもありません」
鞄の中に魔導書をしまい、2人は家を後にした。
夕方、ヴィオラが雑貨屋の倉庫の整理をしていると入り口のベルが客の来店を知らせた。この客足の乏しい店に誰かと思い迎えば、入り口に銀髪の少女が黙って立っていた。
「あら、グレイの所の…シルヴィアちゃんだったかしら?」
「…はい。お尋ねしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうぞなんなりと」
カウンターの席に座って煙管の煙を吹かすヴィオラの前に、古びた魔導書が置かれた。それを見てヴィオラは一瞬目を見張ったが、ふぅと一息ついて書を手に取った。
「それで、聞きたい事は?」
「これは…何に使う物なのでしょうか。肝心のページが破られていてわからないのです」
シルヴィアの言う通り、パラパラと巡っていくと最後の数ページが破られている。だがどこか見覚えのあるその本に、ヴィオラは頭を悩ませた。
「そうね…召喚系の魔導書なのは間違い無いけど、詳しい事まではわからないわ」
「…そうですか」
シルヴィアは小さな声で呟くと、本を鞄にしまってペコリと頭を下げた。
「何かわかったら連絡するわね」
「ありがとうございます」
最後にもう一度礼をして、シルヴィアは店を去っていった。
それが、ヴィオラが最後に見た受付嬢の姿だった。
暗い自室で、シルヴィアは机の上の魔導書に目を通した。もう何周したか忘れるくらい読んだが、何も変わった事はない。
そうしているうちに再び読み終わり、本を閉じようとした時だった。裏表紙に付いている手の型の血痕を見て、試しに型の上に自分の手を重ねた。
「あ〝っ……!」
その瞬間、本から身が引き裂けるような魔力が流れ込んできた。酷い頭痛に肺が水で埋め尽くされたような息苦しさ、感覚のない蔦の義手さえもが悲鳴を上げる。
あまりの苦痛に悲鳴すら上げる事ができず、シルヴィアはそのまま意識を手放した。
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