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鍵と記憶と受付嬢
第4話
しおりを挟む誰かの笑い声がして目を覚ます。見ればシルヴィアの足元で、金髪の少女が森から来たであろう魔獣の赤子と戯れていた。後方には、先程訪れた木造の家まである。
「あの……」
シルヴィアはそっと声をかけたが、少女からの反応はない。無視しているというよりかは、完全に聞こえていないという方が近い様子だった。
仕方なく足元で遊ぶ少女を眺めていると、遠くから男性の声がした。少女と同じように揃って視線を向けると、見知らぬ男性が森の方から歩いて来た。
『パパ!』
『ただいま、シルヴィア』
男性の返事に、シルヴィアはハッとなって目を見張った。少女は頭を撫でられて嬉しそうに笑ったが、すぐに父親が子供を抱きかかえているのに気づいて首を傾げた。
『その子だれ?』
『…新しい家族になる子だよ』
2人の視線の先には、黒髪のー幼少期のグレイが男性の腕の中で静かに眠っていた。
『あなたのお名前は?』
『…………』
ニコニコ笑いながらシルヴィア(幼)に尋ねられたグレイは、ピクリとも反応せず俯いたままだった。
シルヴィアはその様子を側でぼーっと眺めた。自分の身に何が起きているのかは把握しきれていないが、少なくとも過去の記憶を見せられているのだろう。誰も自分の存在に気付かないのはそのせいかもしれない。
『名前はー?』
何度もしつこく聞かれて嫌になったのか、グレイはぷいとそっぽを向くと『……ない』と小さな声で答えた。反応があった事に少女は太陽のような笑みを浮かべたが、すぐに頭に?を浮かべたようだった。
『なんで?』
『ないものはない』
『ふーん…私はシルヴィアっていうんだよ』
『聞いてない』
『そうなんだ!』
会話が成立していないような気がしたが、それでも笑顔で話す幼い自分を見てシルヴィアは小さくため息を漏らした。
それからは、この不思議な空間から抜け出せるまで家の中を巡った。先程訪れた筈なのに、そこに人がいるだけで空気が大分違って感じられる。
家族であろう人達の顔を見ても何か記憶に引っかかる物はなかったが、胸の内が安らぐような気がしてシルヴィアはその温もりを忘れないようにした。得体の知れないものでも、コレはきっと悪いものではー
「っ……!」
不意に頭に鋭い音が響き、シルヴィアは片手を頭に添えて蹲った。
だがその音もすぐに消え、気づくと今度は何処かの部屋の隅に移動していた。部屋の中央には何人かの冒険者の姿も見え、先代のギルドマスターらしき人もいる。
『ひとまず揃ったな』
「…マスター」
どうやら会議をしていたらしく、その中には少し若いヘリオスやネムリもいる。もちろん、グレイの側にはシルヴィアもいるが、髪色はまだ金で腕と足も生身のものだ。
『知っていると思うが、先程王都周辺に魔物の大群が発生したとのことだ。そこで今揃っている天聖諸君に討伐をお願いしたい』
『うむ!して、敵の数はどれくらいだ?』
『騎士団の報告では、五千万以上と聞いている。それも現在進行形で増殖中らしい』
あまりの数に全員の顔色が変わり、すぐに戦闘の準備を始めた。各自早急に部屋を出て行き、残されたシルヴィアは窓の外を見て何か不吉なものを感じていた。
3度目の場所移動で来たのは、西門付近の草原だった。周りには息絶えた魔獣と冒険者の遺体が転がり、前方では若い自分が剣を奮って魔獣を切り裂いている。その隣では、ネムリも一緒に戦っていた。
するとそこへ、伝令係の聖騎士が何やら慌てた様子で走ってきた。その表情から察するにあまり良い内容ではないだろう。
『報告します!東門側の魔獣増加により、負傷者多数。応援を頼みます!』
報告内容に、剣を握っていたシルヴィアが『そんな…』と呟いた。東門に配置されていたのはグレイだったはずだ。
『私が行きます!ネムリさん、ここを頼めますか?』
『……わかった。でも気をつけて』
『はい!』
若いシルヴィアと伝令係は東門へと走って行き、そこで再び記憶は途切れてまたあの音が頭に響いた。
それが、悪夢の始まりだという事を若いシルヴィアと今の自分が知る由などなかった。
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