これは愛か、それともただの刷り込みか

栗鼠

文字の大きさ
2 / 7

虎side 抱き上げる

しおりを挟む

…チッ!痛ぇなぁ…
2か月前に左腕に刻んだ緊急呼び出しの紋が発動した…爺さんだ。

夜勤明けで帰る所で助かった。
事務所に戻り書いてあった忌引申請書に日付を入れて隊長の机の上に置く、前以て話はつけてある。明日から3日の休暇申請だ。

食堂で持ち帰り用の軽食をいくつか買い込み、ロッカーに用意しておいた荷物を持って転移紙で飛んだ。
爺さんの転移紙は優秀だ…目眩も違和感もない。

通い慣れた家のドアをノックもせずに入ると、リクライニングソファに深く身体を埋めた爺さんがいた。

黒猫は尻尾を腹に巻き込むようにして膝立ちで爺さんの手を握っている。

爺さんは眼を閉じたまま「後は頼む」と、やけに満足そうな顔をして逝った。魔法使いの最後は形が残らないと聞いてはいたが見るのは初めてだ。
…森の中に跡形も無く残された。
縋る事も出来ないのか…。
黒猫は眼を見開いて呆然としている。
まぁ追いつかないよな?

そっと左手で縦に抱き上げ背中を摩る。
手の甲で頬を撫で、髪を掻き上げるように手を後頭部にやり、頭が肩に行く様に少し力を入れると顔を埋め抱きついてきた。
優しく背中を撫でる。

誘引の匂いを出す…
安心するだろ?わかるか?
お前は今、強い雄の腕の中にいる。
安心しろ。守られていろ。

転移する。周りの風景は違うが見慣れたの家の前だ。

腕の中で細かく瞬きを繰り返し驚きを露わにして尻尾を巻きつけて縋りついている。

抱いたまま家の中に入る。再構築された家は様子は変わらないが、全てが真新しいくなった様に爺さんの匂い一つ残っていなかった。

酷な事をする…少しくらい縋れるものを残してやればいいものを…。
土間の小さな薪ストーブに薪を放り込み火をつけ足元に清浄魔法をかけて靴のまま中に入る。

正面はリビング
奥にダイニング
右回りに爺さんの作業場
その奥がキッチン
食糧庫を挟んで
左にバスルーム
手前にベッドルーム

落ち着いた趣味のいい上質な家具だ。

ザッと見て回った。中に入った事がないから何とも言えないが、前の家と同じところに同じ様な物が置いてあるはずだ。
黒猫は俺の腕から…降りようとしない。思い出した様に俺の首元に顔を埋めて匂いを嗅いでくる。

…たまんねぇなぁ。
今、発情期なだよ…そんなに嗅がれると勃ちそう。

黒猫の腹が、くぅーっと鳴った。

どんな時でも腹はへるよな?
…食器はここのを使わせてもらおう。
キッチンの食器棚から皿とカップとカトラリーを適当に出してテーブルに置く。

収納空間に入れてきたサンドイッチとお茶の入った携帯用の大きめのポットを出した。

収納空間には、この子を喜ばそうと思って先週の休みに買っておいた焼き菓子や飴玉、果実水なんかも入れてある。
3か月くらいは劣化せずに入れた時の状態を保ってくれる収納は本当に便利だ。

「俺も腹が減ってるんだ、一緒に食わないか?」
「…ん たべる。」

抱いたままダイニングの椅子に腰を下ろした。横座りじゃ食べづらい。足を広げ跨らせた。

スクランブルエッグとチーズ
マッシュポテトと塩漬けの薄い肉
鶏のソテーの薄切りとキャベツ

割と夢中に食ってな?少し前屈みになって、パン屑が皿の上に落ちる様に上手に食べている。…1切れづつ食べて腹一杯ってところか。

食い終わると腹が満たされて少し安心したのか舟を漕ぎ始め、もぞもぞと向きを変えて、俺の胸の辺りの匂いを嗅ぎながら意識を落とした。

だから、俺発情期なんだけど…。

左手で落ちないように抱え込む。
…どうしたものか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】王弟殿下の欲しいもの

325号室の住人
BL
王弟殿下には、欲しいものがある。 それは…… ☆全3話 完結しました

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

魔法使い候補生は夢を叶えられない

ユーリ
BL
魔法使いの採用試験に何度も落ちる凪は、幼馴染で魔法省に勤める理斗に頼み込んで二泊三日の合宿をしてもらうことに。これで合格すれば晴れて魔法使いになれるけれど…?? 「魔法使いじゃなくて俺の嫁になれ」幼馴染の鬼教官攻×夢を叶えるため必死に頑張る受「僕がなりたいのは魔法使いなの!」ーー果たして凪は魔法使いになれる??

処理中です...