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虎side 抱き上げる
しおりを挟む…チッ!痛ぇなぁ…
2か月前に左腕に刻んだ緊急呼び出しの紋が発動した…爺さんだ。
夜勤明けで帰る所で助かった。
事務所に戻り書いてあった忌引申請書に日付を入れて隊長の机の上に置く、前以て話はつけてある。明日から3日の休暇申請だ。
食堂で持ち帰り用の軽食をいくつか買い込み、ロッカーに用意しておいた荷物を持って転移紙で飛んだ。
爺さんの転移紙は優秀だ…目眩も違和感もない。
通い慣れた家のドアをノックもせずに入ると、リクライニングソファに深く身体を埋めた爺さんがいた。
黒猫は尻尾を腹に巻き込むようにして膝立ちで爺さんの手を握っている。
爺さんは眼を閉じたまま「後は頼む」と、やけに満足そうな顔をして逝った。魔法使いの最後は形が残らないと聞いてはいたが見るのは初めてだ。
…森の中に跡形も無く残された。
縋る事も出来ないのか…。
黒猫は眼を見開いて呆然としている。
まぁ追いつかないよな?
そっと左手で縦に抱き上げ背中を摩る。
手の甲で頬を撫で、髪を掻き上げるように手を後頭部にやり、頭が肩に行く様に少し力を入れると顔を埋め抱きついてきた。
優しく背中を撫でる。
誘引の匂いを出す…
安心するだろ?わかるか?
お前は今、強い雄の腕の中にいる。
安心しろ。守られていろ。
転移する。周りの風景は違うが見慣れたの家の前だ。
腕の中で細かく瞬きを繰り返し驚きを露わにして尻尾を巻きつけて縋りついている。
抱いたまま家の中に入る。再構築された家は様子は変わらないが、全てが真新しいくなった様に爺さんの匂い一つ残っていなかった。
酷な事をする…少しくらい縋れるものを残してやればいいものを…。
土間の小さな薪ストーブに薪を放り込み火をつけ足元に清浄魔法をかけて靴のまま中に入る。
正面はリビング
奥にダイニング
右回りに爺さんの作業場
その奥がキッチン
食糧庫を挟んで
左にバスルーム
手前にベッドルーム
落ち着いた趣味のいい上質な家具だ。
ザッと見て回った。中に入った事がないから何とも言えないが、前の家と同じところに同じ様な物が置いてあるはずだ。
黒猫は俺の腕から…降りようとしない。思い出した様に俺の首元に顔を埋めて匂いを嗅いでくる。
…たまんねぇなぁ。
今、発情期なだよ…そんなに嗅がれると勃ちそう。
黒猫の腹が、くぅーっと鳴った。
どんな時でも腹はへるよな?
…食器はここのを使わせてもらおう。
キッチンの食器棚から皿とカップとカトラリーを適当に出してテーブルに置く。
収納空間に入れてきたサンドイッチとお茶の入った携帯用の大きめのポットを出した。
収納空間には、この子を喜ばそうと思って先週の休みに買っておいた焼き菓子や飴玉、果実水なんかも入れてある。
3か月くらいは劣化せずに入れた時の状態を保ってくれる収納は本当に便利だ。
「俺も腹が減ってるんだ、一緒に食わないか?」
「…ん たべる。」
抱いたままダイニングの椅子に腰を下ろした。横座りじゃ食べづらい。足を広げ跨らせた。
スクランブルエッグとチーズ
マッシュポテトと塩漬けの薄い肉
鶏のソテーの薄切りとキャベツ
割と夢中に食ってな?少し前屈みになって、パン屑が皿の上に落ちる様に上手に食べている。…1切れづつ食べて腹一杯ってところか。
食い終わると腹が満たされて少し安心したのか舟を漕ぎ始め、もぞもぞと向きを変えて、俺の胸の辺りの匂いを嗅ぎながら意識を落とした。
だから、俺発情期なんだけど…。
左手で落ちないように抱え込む。
…どうしたものか。
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