覚えていられなくても

栗鼠

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ラヴィside




『…愚か者。』   




……オーナーさんが何か言って溜息をついた……?

「ラヴィ、そろそろご飯を食べなさい。」

僕はチラッと認識阻害をかけたお客様を見た。
僕の仕事終わりの時間ギリギリに来るお客様。

「…あれの事は放っておいて大丈夫だから。」

僕はカウンターの1番端の席に座る。
オーナーさんがカウンターの向こうから賄いを出してくれる。今日はミートボールがたくさん入ったトマトスープとパン。…食べ終わったらホットミルクを出してくれて…蜂蜜が入ってて甘くておいしい。
…頭の中が …ほわぁって…する。

オーナーさんが優しい顔で僕を見てる。

「 …口を挟むのは止めようと思っていたんだけどね?
ラヴィはどうしたいと思っているのか聞いてもいいかい?」

「僕…上手に話せない。」
「思っている事をそのまま言葉にしてごらん。」

僕は、ミルクの入ったカップを両手で持って…頭に浮かんだ言葉をそのまま出してみる。

「僕…旦那様の誕生日で…また…ひとつ歳が離れちゃうから…

お家の大人の人は皆肩くらいの長さだから…髪を短くしたら少し大人っぽくなるかな?って思って…

後…胡桃インクで、髪の毛が染まるって聞いたの。
茶色っぽい黒。旦那様は、黒い髪で…僕、同じ色が良くて…

思ったほど黒くならなかったけど…凄く大人っぽい!成功!って思って…

旦那様が…なかなか帰ってこなくて眠くて。でも頑張って起きて待ってて…

帰ってきた旦那様が、僕を見てファタルって…母様の名前を呼んで…」

「…んんん?ファタル?」

オーナーさんが少し驚いた顔になった…?

「うん。僕の母様。」
「……ラヴィのお父さんがお母さんの事をファタルって呼ぶんだね?」

「うん。そう。…そこからは…ちょっと旦那様の匂いが強くて…凄くドキドキして…そしたら出ていけって言われて…覚えてた所に飛んだの。
それからドワーフのお爺さんが、ここに連れてきてくれて…。

僕…たくさん考えて…。
旦那様が母様を好きでも…僕だけを見てなくてもいい…なんて言うのは駄目なのかな?…それは僕に都合が良過ぎるかな?

僕…旦那様が好きなの。
本当は帰りたいの。
僕…旦那様と一緒にいたいの…。」

僕の目から…ぼたぼた…涙が出て…オーナーさんがハンカチを渡してくれた。まだお客様がいるのに…

「…ごめんなさい…」

「……まだ聞きたいか?」

……え?僕は思わず顔を上げた。
オーナーさんが…お客様を見てる?

ガタって音がして…後ろから抱きしめられた。

……え?

「ラヴィ。ごめん。」

………旦那様。

ヒョイって椅子から降ろされて…エプロンをいつのまにか外されて…旦那様がオーナーさんにそれを渡して…「家に帰ろう」って旦那様が頭を撫でてくれて…。

嬉しい…家に帰れる。

ちゃんと返事をしたいのに…僕は…また頷くしか出来なくて。


……また?


わからない。…わからないけど、もう離れるのは嫌。僕は旦那様にぎゅっっっって抱きついた。

クスッとオーナーさんが僕の後ろで笑った。

「ラヴィ、最後にひとつだけ。ファタルは名前じゃないよ、東の大陸の言葉で「運命」と言う意味だ。」

………………!

僕は、ぐりんって振り向いてオーナーさんを見た。
凄くいい笑顔……嘘じゃない…。
…ぐりん!って旦那様を見る。

「私の運命。ラヴィ、愛してる。」
「…え?」


……本当に?


馬に相乗りして家に帰ってきたんだけど…山羊さんが凄く怒ってる。

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