うわさのRoll〜Remembering the days of Rape〜

冴木譲

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本編(前編)

146.まるで転校のように

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 2005年2月27日

 今日も寒いものの、とても天気が良い。17時からバイト以外に予定は無く、部屋でずっとエクセルをいじろうと思っていたが、気分転換に早めに家を出た。家から30分ほど歩いた先に堤防があり、1人座り込み海を見ていた。小学生の頃、みんなでよく来ていたのが懐かしい。あの頃は、これからもずっと同じ顔ぶれで集まって遊ぶものだと思っていた。事実、小学校卒業からしばらくはその通りだった。でもだんだんと、集まる人数と機会は減り、今となっては当時の顔ぶれの中で付き合いが続いているものはいない。あんなに楽しく遊んでいたのに、これからの人生この繰り返しなのだろうか。

 誰よりもそう、絵里とこんな風に一緒に海を見ていたんだ。あの頃は携帯なんて持っていなかったし、かと言って教室で絵里と2人で会う約束なんて恥ずかしくてできないし、海で落ち合うことをお互い確かめたことはなかった。それでも、放課後になんとなくここに来れば、いつも絵里がいた。例え友達と遊ぶ約束をしてたとしても、まずはここに来てから、友達の家に行ったりしたんだ。
 絵里がここに来なくなったのは、屋上でキスを交わした、あの日からだった。俺はといえば、ここに来ればきっと会えると思って、しばらくは通いつめていた。しかし、絵里は現れなかった。当たり前のように会って話していて、約束をせずとも落ち合える存在。それが急にいなくなったときの感覚は今でも覚えている。俺には情緒的な感覚が欠落している自覚があるが、それでも感じる。あれはきっと、心が欠けたんだ。とはいえ、あの頃は同じ中学に進むことはわかっていた。またきっと中学で今まで通りの関係に戻れるはず、と思っていた。しかし、中学では絵里と同じクラスになることはなく、自然と疎遠になり、欠けた心はいつしか元通りに直っていた。そのはずだった。
 だからこそ、絵里と再会した時は不思議な感覚だった。すでに直っていた心の、欠けていた部分がまた戻ってきたんだ。心を直すために必要だったはずの、絵里のカケラ。直った心にはもう収まる隙間は無かったはずなのに、新たに付け足されて、心はより大きくなり、そのカケラに覆われていくのが、きっと心地よかったんだ。

 バイト先に向かう前にもう一つ寄り道をする。いるかわからないし、いたとして会えるかわからないが、このまま終わりたくない。3連休の間だけだが、自宅のように居座っていた絵里の部屋。カーテンが閉まっており、外からでは様子がわからない。チャイムを鳴らしてみるも、反応が無い。物音も全く感じないため、おそらく誰もいないだろう。仕方ない、また来てみよう。ぼーっと、バイト先へと歩を進めようと振り返る。あら?と、無防備な中、声をかけられた気がした。


「・・・あなた・・・。」

「・・・あっ・・・絵里のお母さん?」

「冴木くんよね?ずいぶん大きくなったわね。」

「いえ・・・。」

「絵里に会いにきたの?」

「えっ・・・あの~、まぁそんなとこです。」

「ごめんなさいね、いないのよあの子。」

「何時くらいに帰ってくるかわかりますか?」

「・・・突然出て行っちゃってね、帰ってこないのよ。」

「えっ・・・なんで?」

「理由を聞いても話さないからわからないのだけど、知り合いと一緒に暮らすから、って一方的に出て行って・・・もう何が何だか。」

「え、じゃあ絵里がどういう状況かわからないってことですか?」

「毎日連絡を寄越すことを条件にしたから、今のところ律儀にそれを守ってるの。だから元気にしてそうなのはわかってるんだけど・・・学校も辞めるとか言い出してるし、よくわからないのよあの子。」

「は?学校も辞める?」

「そうみたい。働くって言ってたわ。」

「・・・親としてそれでいいんですか?」

「情けなくて耳が痛いわ・・・。自分の子のことなのに何もわからなくて、止められもしないなんて・・・。」

「・・・毎日絵里から連絡は来てるんですよね?それなら、俺にも連絡寄越せって伝えてもらえますか?」

「わかったわ、必ず伝える。・・・ありがとうね、あの子のこと心配してくれて。」


 その後、絵里の母親に連絡が来たのか、俺が連絡を取りたがっていることを伝えてくれたのかどうかはわからない。ただ、絵里から俺のもとに連絡が来ることは、この先ずっと、一度として無かった。

 あの頃と同じ感覚だった。いや、あの時よりも遥かに大きな感覚か。あの頃は中学で絵里に会えることがわかっていた。今はどうか。絵里の行く末はもうわからない。そして、あの頃は心が欠けた程度だった。今はどうか。大きくなった心を覆っていたカケラ、その先端が心に食い込んだまま、無理やり引き剥がされて、心は割れてしまった、そんな気がする。

 あんなに楽しく遊んでいたのに、これからの人生この繰り返しなのだろうか。きっとその通りなんだ。様々な原因があるにせよ、突然の別れはやってくる。それでも時間は経っていく。出会いもやってくる。大破した心は、また直っていく。きっと、これからも。

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