転生令嬢は冒険したい~ダンジョン目指してるのになぜか婚約破棄~

四葉

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第一章

11 仔犬 ト 魔法

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平民のエリナリーゼさんには申し訳ないけど、部屋までついてきてもらった。

因みに彼女、14歳らしい。
顔立ちが大人びてたから度々選ばれて紛れ込んでたんだって。
本人も立ってるだけでお給金貰える楽な仕事だからって、特に不満も疑問もなく参加してたみたい。
でもそれ、私に言っちゃダメじゃね?


さて、そんな事より仔犬をどうにかしなくては!
犬って何食べるの?ドッグフード?

自室に戻りクローゼットを開けるとそこにはびっしりとドレスが並び、引き出しには色とりどりの宝石で煌めく装飾品がしまわれ、未使用の帽子やストールがキレイに整列している。

私は適当な帽子が入った箱とストールを数枚取り出し、仔犬の元へ急ぐ。

箱から帽子を取り出してその辺に置いておく。
今回、使いたいのは箱の方。
箱の中にストールを無造作に詰めこんで仔犬用のベッドを作る。

「ぅわ、それ絹蜘蛛シルキースパイダーの糸で織ったストールじゃないですか!もったいない!!」

さすがリネンメイド洗濯係。素が出てるぞ。

「もったいないけど、いちばんやわらかいから...」

「確かに、お嬢様のお部屋の物はハンカチからシーツまて全て高級品ですね。
お嬢様、少々お待ちください。ちょっと行ってきてリネンと仔犬が食べられそうな物をくすねて参ります!!」

もう取り繕う気ゼロだな。
この子、心配だわ。

「だいじょーぶ?」

「お任せ下さい!見つからないように戻って参ります!!」

「わかった。
ねんのため、このハンカチもってって。だれかにみつかったら、わたしがおとしたハンカチをとどけるところっていいわけしてね。」

「かしこまりました。少々お借りします」

そう言って勢い良く部屋を飛び出して行った。

根が優しいんだろうな。
自分に出来ることを一切惜しまない上に、14歳らしい素直さもある。

確かに貴族を相手にするには危なっかしい素直さではあるが、お茶会の時みたいに短時間なら装える器用さも持ってる。

·····あの子、欲しいな。


仔犬の体をストールで拭いたりしてるうちにエリナリーゼさんが戻ってきた。

「お待たせしました!
すぐに用意いたします」

タオルを一抱えと、大きめのバスケットを腕から下げてる。
バスケットにはそれぞれ水とミルクが入ったビンと手桶、それにオートミールとお皿が入っている。

エリナリーゼさんは持ってきた手桶にビンの水を注いでそれを両手で包み目を閉じる

「『ヒート』!」

突然声を上げたかと思うと30秒くらいで桶の水からゆらゆらと湯気が上がってきた。

「なにこれ·····」

私が呆然と見ているとエリナリーゼさんはニコッと笑い

「魔法ですよ。見た事ないですか?」

「はじめてみた」

「便利ですよー。いい湯加減なので、その子を洗ってあげましょう」

なんでもない事のようにサラッと流して仔犬を手桶に入れ、丁寧に温めながら汚れを落としていく。

魔法!魔法!?
初めて見た!!
すごーい!ファンタジー!!

いや、落ち着け。
今は仔犬に集中しろ。

エリナリーゼさんは世間話のように「この魔法、オリジナルなんですよー。お料理温めるのにべんりなんですー」とか言ってる。

しれっとオリジナルとか言った?
この世界の魔法って一般市民が簡単に作れちゃうくらい形態化されてないの?

気になって仕方ない。
今度、ジーナ先生に魔法について教えてもらおう。

一通り汚れが落ちた仔犬は何と純白の毛並みをしていた。
拾った時は元の毛の色なんて解らないくらい汚れていたが、それでも金茶や薄いグレーの色味だと思ってた。
まさか混じりけのない眩しい程の白だとは想像してなかった。

「うわー、キレーな犬ですね!」

「ほんと。びっくりした」

エリナリーゼさんにタオルで仔犬の水気を取ってもらってる間に、私は浅い皿にミルクを注ぐ。
くっ、幼女のぷにぷにお手てにはミルク瓶がやけに重い!

それでも慎重に零さず注いで床に置くと、エリナリーゼさんが仔犬をそばに降ろしてくれる。

湯浴みをして温まった仔犬は少し呼吸が落ち着いようで目の前のミルクを恐る恐る、だけど確実に舐めてくれた。

「しばらくミルクを与えて様子を見ましょう。
体力が回復してきたらオートミールをミルクでふやかしてあげてみましょう」

「わかった。あの、きょうはありがと」

「そんな!お礼なんて仰らないでください」

「でも、エリナリーゼさんのおしごとじゃないでしょ?」

私だって本来お礼なんて言うべきじゃないって解ってる。
これでも4年も貴族やってんだ。

でも今日の出来事は貴族として逸脱している。
エリナリーゼさんの態度も下働きの平民としては逸脱している。
だったら貴族としてじゃない私が、使用人としてじゃない彼女に気持ちを伝えるくらい許されてもいいと思った。

「更に『さん』付け!?
·····お嬢様、どうぞリナとお呼びください。」

「リナ?」

「はい。
大丈夫ですよ。お茶会のすみっこで立ってるだけのお仕事よりずっと楽しかったです。」

ああああ、本音が漏れてるよ。
本当に楽しかったんだろうなぁ。

「それとお嬢様、お借りしていたハンカチです。お気遣い、ありがとうございました」

「ううん、もってて。
そのかわり、あしたもきてほしいの。·····だめ?」

差し出されたハンカチを首を振って押し返し、コテンと首を傾げてお願いしてみる。

「明日も仕事がございますので·····お昼にでもよろしければ·········」

「いーよ!じゃあ、あしたのおひるね!やくそく!!」

「かしこまりました。ではハンカチはその時にお返しいたしますね」

そう言ってリナは汚れたタオルと手桶を回収して、深く頭を下げながら部屋を後にした。


仔犬はミルクを平らげ、安らかな寝息を立てている。
心配したけど、案外丈夫そうだ。

私は帽子の箱にタオルを敷き詰め、その中にそっと仔犬を入れてやる。


この汚れたストールはどうしようかな。
リナったら、これも一緒に持ってってこくれれば良かったのに。

そして、途方に暮れた私は汚れきったストールをクローゼットの奥底に隠しこの場は忘れる事にした。
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