転生令嬢は冒険したい~ダンジョン目指してるのになぜか婚約破棄~

四葉

文字の大きさ
8 / 52
第一章

8 下女 ト 令嬢 ~或る下女の手記~

しおりを挟む
吾輩はエリナリーゼ。家名はまだない。

ああああああ、違う違う!!
なんか混乱しちゃってるわ!

なんなの、この変な自己紹介。
平民なんだから「まだ」も何も家名がないのは当たり前じゃない。
「吾輩」だなんて言った事ないし。
何だか異世界からの変な電波を受信したみたい。

でも、今日はそこまで混乱しちゃうくらいすごい事がおこったの!信じられる?
朝までは何も無い退屈な日常だったのに。



私は今日、いつも通り日の出前に出勤していた。

私の家は郊外にあり、まだ暗い時間に家を出ないと貴族街の公爵家にたどり着けない。

朝、日が昇る頃に公爵家の裏門にある使用人専用の通路からお邸に入っていく。
私より早く来てる人はちらほらいて、みんな下働き専用の建物の中で思い思いに欠伸をしたり朝ご飯を食べたりしてる。

私も朝ご飯にと、昨夜焼いておいて固くなったパンを歯で毟りとるように食べる。

丁度パンを食べ終わったタイミングで大量の洗濯物が届く。
さあ!お仕事の始まりだ!

山と積み重なった洗濯物を先輩方が種類や素材で分けてくれる。
私はシーツやタオルの担当だ。
これから経験を積んで行けばもしかしたらツヤツヤのシルクやふわふわのウールを担当させてもらえるかもしれない!今日も頑張ろう!

タオル類が積まれた山から抱えられるだけ抱えて、外の水場へ行き足踏み洗いで汚れを落とす。
頑固な汚れは摘んで揉んで手間がかかる。
それらを畳んで絞って干場へ持って行くと干場の下働きが干してくれる。
そうしてまた積まれたタオルを手に少しずつ洗濯物の山を崩していく。

そうして何往復しただろうか、突然おかみさんから声がかかる。
あ、おかみさんっていうのは私たち下働きのリーダーやってる人の事。恰幅のいい、下町の肝っ玉母さんみたいな人で、下働きなのに奴隷を使う権限を持ってるすごい人なんだ!
おかみさんって呼ぶと「ガラじゃない」って怒るけどなんかしっくりきて呼んじゃうのよね。

「リナ!
奥様のお茶会に何人か見繕ってんだが、あんたも行くかい?」

「いいんですか?行きます!」

「あんた変わってるねぇ。お茶会なんて退屈な上に、周りの使用人も貴族ばっかで鼻持ちならないだろうに」

ラッキー!!
確かに立ってるだけだけど、私は可愛い物が大好きなの。貴婦人のキラキラしたドレスや綺麗にデコレーションされたお菓子たちは見ているだけで楽しい。
何より侍女のお仕着せが可愛いの!
いつも着ている下働きメイドの薄汚れたブラウンの重たいワンピースじゃなく、黒にも見える濃紺のふんわりしたエプロンドレス。

しかもキラキラしたものを見ているだけでお給金をいただけるなんて理想的すぎて申し訳ないくらいよ。

「いえいえ、私で良ければ喜んで!」

ウキウキしながら貸してもらった侍女のお仕着せに着替える。
やっぱり可愛い!生地が柔らかくて着心地がいいわ。

鏡の前で簡単に髪をまとめて、先輩にお願いして貸してもらった化粧を施すとお茶会の会場へ行く。
いつも通り、会場の端の方で両の手足を揃えて背筋を伸ばし直立する。

洗濯しか能がない私にはお茶ひとつまともに淹れられない。
貴婦人の対応は本職のメイドさんにお任せして私はただ立ってるだけ。本当に飾り。

しばらく貴婦人たちのご歓談を眺めていたんだけど驚いた事に私が控えている隅の方のテーブルに公爵のお嬢様がいらっしゃった。
まだ幼くていらっしゃるのにちょっと前から奥様と一緒にお茶会に出席されるようになったんだって!

薄い生地をふんだんに使ってふわふわに広がった春の空の色を映したようなドレスをまとってよちよちと覚束無い足取りでこちらに歩いてくる。
かーわいー!!

ちゃんとした侍女のひとがお嬢様を椅子に引き━━━あ、すごい頑張ってる。抱っこしてあげたい━━━紅茶を入れて差し上げてる。
何歳だっけ?ちっちゃいのに綺麗に食べるなー。

顔には出さずにそれとなく見てたら、なんとお嬢様は散策のお供に私を指名された。
なんで?!なんで私なの??!!

一瞬、隣のメイドに視線を送るがクッと顎で「行け」と示される。
そりゃそうよね。お嬢様のお言葉を拒否出来るわけなんてない。

本職侍女も「飾りのコイツでいいのか?」感はあったみたいだけど、それでも代わりに自分がと挙手する勇気はなかったみたい。

こうなったら腹を括って付いていこう!
平民だとバレただけで減給か謹慎。その上、お嬢様の不興を買ったら最悪死ぬ。
ちょっと歩いて戻って来るだけよ。
その間くらいは取り繕ってみせるわ!


そう覚悟を決めてついて行ったけど、やっぱかーわいー。
てくてくと歩く歩調も、その度にふわふわと揺れ動く青銀の後れ毛も、心無しか大輪のバラをご覧になって目を細められる仕草も全てが愛らしい。

そう!なんとお嬢様の御髪は青銀色なの!
この世界の常識なんだけど魔力は髪に宿るものなの。
その色が薄ければ薄いほど質も量も優れてると言われているわ。
より白い方が魔法使いとして優れ、反対に髪が黒いと魔法の才能は乏しいらしい。

完全な白も黒もいないらしいけど、あんな煌めきを纏う銀色は初めて!
今まで見た中で突出した淡色の髪で驚いたわ 。

私は残念な、赤銅色。
比較的よくある色味だけど、かなりこっくりした濃色なのよね...。

それは置いといて、改めて宣言しましょう。
私は!可愛いものが!大好きです!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...