転生令嬢は冒険したい~ダンジョン目指してるのになぜか婚約破棄~

四葉

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第一章

18 事故 ト 死亡 ~或る神使の転生~

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「あなたは不慮の事故で命を落としました。」

「知ってます。」

ふわふわした色のない空間で神様っぽい人が告げる。

俺は死んだ。
言われた通りの事故死だ。

「あ、そういう意味じゃなくて、」

なんだよ。ちゃんと覚えてるぞ?
仕事帰りにコンビニで晩酌用の缶チューハイを買った直後だ。
コンビニの出入口で4、5人の若い男が騒いでたのを後目しりめに目の前の横断歩道でスマホを弄りながら行き交う車を見送ってたんだ。
なかなか車が途切れないな、なんて考えながら好きな歌手の新曲をダウンロードしてた時だ。

背中を押された。
スローモーションで道路に倒れ込んで行く。
大音量のブレーキ音が響き、最後にむりやり振り返って見えたのはコンビニで騒いでた男の驚き、焦った表情だった。

完全なる『不慮の事故』だろ?

「いえ、死因的な意味での事故じゃなくて、運命的な意味での事故です。
つまり、あなたはあの場面で死ぬはずではなかったんですよ、」

「え?それって『不慮の事故で俺は死んだ』って言うより『俺が死んだのは不慮の事故』ってこと?」

「ピンポーン」

おいコラ。
さすがにイラッとするぞ?

「あの時点で寿命が尽きるのは、あなたにぶつかった男性のようです。
あなた自身の寿命はまだだいぶ残ってますね。」

「え?じゃあ、俺は見知らぬ男の代わりに死んだってことか?」

見知らぬ男には悪いが、せめて家族や友人ならもう少し納得して逝けたかも知れないのに。

「いえ、それがそうとも言い切れないんですよ。こちらとしても、身代わりになってくれてたら良かったんですけど」

「は?何それ、どうゆう事だよ」

「結論から言うと、寿命が尽きる男性もあの場で一緒に亡くなってるんです。
2人まとめて事故死しちゃってますね。」

「え?俺、知らないヤツ·····しかも男と心中したの?」

「いや事故なんで心中とは違うと思いますけど、まあ一緒に亡くなったという意味では、そういう事ですね。」

「やってらんねーーー!!」

「ご愁傷さまです」

他人事かよ。
そりゃ、正しく他人事だけどさ!
腑に落ちねーよ!

「せめて、向こうの男性だけでも生きててくれたら、あなたもこんな所に来る必要なかったんですけどねぇ」

「いや、ここどこだよ」

「どこでもないですよ。意識と世界の隙間、ビルと心臓の狭間、落ちて行くウサギ穴のスクランブル交差点。ここは名前もないただの影です。」

「なんだそれ」

「そういう物です。
まあ場所の説明はいいでしょう?そんなに重要じゃないですよ。」

「いや、結構気になるけど·····」

「もし、あなたが無事だったら予定通り男性の寿命が終わり、男性の方が無事だったらあなたは男性に自分の寿命を分け与えたという徳を積んで、いい感じの特典をもらって輪廻を巡れたんですけどね·····」

話、ぶったぎりやがった。

「え?寿命を分け与える??って、できるの?」

「出来ますよ?割と頻繁にありますし」

世の中では案外、死ぬ運命にない人が死んだりしてるらしい。
逆に死ぬはずだった人が当たり前に日常を生きていることもあるのだとか。

「今回の場合は、向こうの男性は正しく亡くなって輪廻を巡ってますからねー。
あなたは完全なとばっちりでしたね」

「だったら戻してくれよ!」

「いいですけど、肉体の損傷が激しいのであと10時間持ちませんよ?
身体が温度を失うまでの数時間を体験しに戻ります?」

「やっぱいいです」

うーん、本当に戻るメリットがないらしい。
せいぜい報道の内容が「事故により即死」が「搬入先の病院で死亡」に変わるくらい。
·····メリットでも何でもねぇな。

「え、俺これからどうなるんです?」

「参考になりそうな前例もありませんしねぇ。
寿命は残っているのに肉体が存在しないので、ここで寿命が尽きるのを待ちます?」

「ここで!?」

こんな何も無いふわふわした場所で?
暇かよ!!

「死者に鞭打つようで恐縮ですが、この場所は時空の概念が希薄なんですよ。
多分、現世の感覚を脱却できないとツラいかもですね」

「何それ」

「ちゃんと時間は進んでるんですよ。
それがここでは3年に1秒くらいのペースなだけで!」

「3年に1秒?それで寿命が終わるまでひたすら待つの?!どんな修行だよ!!」

「いいですね、修行!
確かに精神と時のなんとか~としてはかなり優秀ですからね!」

「やめろよ!!」

これダメなやつだ。
どうにかならないのか!

「そこで1つ提案なんですが、よかったらバイトしません?」

「バイト?」

「お使いをお願いしたいんですよ。
あ、ただの思いつきなのでムリにとは言いませんよ」

「でも、そのバイトをしなかったらココにいなきゃいけないんだよな?」

「ここにいなきゃいけないっていうか、どこにも行けないってだけなんですけどね」

「バイトの話、詳しく。」

「さっきも言った通り、基本的にはお使いです。
我々が干渉できない世界に行って、僕らの代わりを務めて欲しいんですよ。」

「俺に神様の代わりをしろと?」

「神の代わりは求めませんよ。
その世界はちょっと今、人間の力が強くなっちゃっててバランサーが必要なんですよね」

それって、軽くデストロイして来てって言ってる?

「違う違う。
いやそれでも良いんでけすど、もっと効率的にね。
人間の力を吸収して世界に還元して欲しいんですよ」

話を聞く限り、その世界はゲームの様だった。
世界各地にダンジョンが点在し、そこに人間を誘い込み、人の命や感情を喰らい魔素へと変換して世界へ還元する。

ダンジョンは人を誘い込む為に経験値とアイテムをドロップする魔物や特殊な機能を持った装備品や貴重品などを宝箱に入れて配置する。
そして、入り込んだ人間を糧としてダンジョンは成長していく。

ところが近年、ダンジョンの数が激減しているらしい。

ダンジョンのない世界では人の感情を世界に還元できない。
人にとっても資源となるダンジョンがないと生活が困窮する。

その世界は今、緩やかに収束しつつあるとの事。

「因みに、ダンジョンが激減した理由は?」

「ダンジョンを運営してた子━━━キミの前任になるのかな━━━がめでたく輪廻を巡る事になりましてね」

「死んでんじゃん」

寿退社みたいに言ってんじゃねぇよ。

まあ、一通り話を聞いたけどダンジョンの奥でふんぞり返ってろってことらしい。
何それ魔王じゃん!勇者に殺されるヤツじゃん!!って思ったけど、どうせ死んでるんだから成仏するまでの暇潰しに魔王業も面白いかもな。

そうして俺は世界を渡る事を決めた。
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