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10話 家が欲しい
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「やっぱり、物価高すぎるだろ」
物価が高すぎて、このままでは武器すら揃えられない。
「まともな武器はルンの棒だけだしな」
「フライパンがあるじゃないですか(笑)」
「あれを武器とは認めたくない」
物価が高いのに低賃金なため貧困から抜け出せないスパイラルに入っている。
それに加えて最近良いクエストもない。ルンが食料を確保していなかったらきつかった。何とかしなければ......
「家を借りられないのでしょうか?(笑)」
エールの提案はもっともだが。
「冒険者に家を貸す人はいないですね。いつ死ぬかわからないですし」
ルンによると、いつ収入が無くなるかわからない冒険者に貸す人はいないらしい。
「冒険者が住む場所は日払いの宿か、自分で買うしかないです...... まあ物凄く高いですがね」
ため息交じりにルンがぼやいている。
「ちなみに家買うといくら位なんだ?」
「この国の土地はすべて王様、貴族のものですからね。買うというより金貨200枚ほどを担保に貸してもらうことになります」
あの領主に金貨渡して借りるしかないだと......
「気に入らないことがあると没収されます。お金も返ってきません。まあ、よっぽどのことをしない限り没収は無いですが......」
「良い御身分ですね(笑)」
駆け出し冒険者がこの街に家を持つのは現実的ではないようだ。
......街中?
「この街の外はどうなんだ? たまにモンスターはいるけど広い土地余ってたぞ?」
「たまに外で暮らそうとする人もいますけど、おススメできません。この辺は強いモンスターがいないとはいえ夜は危険が増しますし」
それもそうだよな。夜のクエストは報酬が高いが危険だという噂だし。
「そもそもヤスさん、家作れるんですか?」
確かに家など作ったことがない。雑に作ろうものならモンスターの餌食だろう。
「でも宿代が馬鹿にならないのも事実だし......」
俺とルンが頭を抱えていると
「街から少し離れた所に洞穴ありますよ(笑)」
エールが提案してきた。女の子なのに洞穴暮らしを提案するとかサバイバル能力が高いというか、色々と無頓着というか......本当に天使なのだろうか?
「洞穴?」
「はい! ヤスさんにぴったりだと思います(笑)」
洞穴がぴったりとはどういうことなのだろう。
「その洞穴ってどれくらいの大きさなのでしょうか?」
「入口がツリーマン3体くらいですかねー」
わかりやすい......のか?
「柵を作って布で覆って入口を隠せば少しは安全なんじゃないか?」
「まあ、野ざらしで寝るよりかは安全でしょうが......」
言ってはみたものの布で覆っただけの入口に不安しかない。
「とりあえず見に行きませんか?(笑)」
✳︎ ✳︎ ✳︎
町から洞窟に向かう道に見覚えがあった。
「エール、この道って......」
「はい。私たちがこの世界に来て初めて通った道です(笑)」
そういえば、転送された所は山の上だったことを思い出す。そこの山に洞穴があるのだろう。
町から徒歩で1時間、例の山にある洞窟に到着した。
「ここですよ。ヤスさんにぴったりの物件です(笑)」
「いや、物件じゃねーし」
「ぴったりの穴です(笑)」
「穴ですねー」
草原の先にある山肌にぽっかりと穴が開いていた。
松明を用意し、穴を照らしてみる。
「奥の方までは見えないなー」
「とりあえず入りましょう(笑)」
洞穴の入口は1mほどしかないので前かがみになって入るしかない。
ヤスを先頭にエール、ルンの順で穴に入る。5mほど進むと広い空間が表れた。
「まあまあ広いな」
普段使っている宿の部屋より少し広い気がする。
「ヤスさん。入口で立ち止まらないでくださいよ(笑)」
「ああ、ごめんごめん」
俺は横にずれてエールの入る場所を開けると四つん這いのエールが入口から顔を出した。
「どうかしました?(笑)」
「別になんでもないよ」
エールの胸元は緩いので前屈みになるとなかなか際どく、つい目線がいってしまう。
松明だと暗くてよく見えないのが惜しい。
「本当になんでもないんですかー?(笑)」
......ばれてるのか?
「ちょっと、早くどいてください」
エールの後ろからルンの声が聞こえた。
洞穴の奥は3人で入っても狭すぎないくらいの空間だった。
「割と広くていいですね(笑)」
3人で住むと少し狭いかもしれないが、そこまで問題はなさそうだ。
「ルンはどうだ?」
「うーん。洞穴に住んだことがないのでなんとも......」
まあ、そうだろうけども
「とりあえず、穴の状態もわかったことですし街に帰りませんか?」
「よし、じゃあ明日準備してからまた来るか」
思ったよりも良い洞穴だったので安心だ。明日からはここに住めるかもしれない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日
ランプや敷物など必要なものを揃えて例の洞穴へ向かった。
「基本寝るだけだし、荷物もそんなにないな」
「買えなかっただけですけどね(笑)」
ランプや敷物、鍋などの日用品は高くお金はほとんど無くなってしまった。
「この街はすべてにおいて高いよなー」
「値段の半分は税金で領主にとられますからね」
初耳だ。
「領主のおっさんはそんなに金集めて何に使うんだ?」
公共事業だろうか?
「分かりません。あの街の壁や道などは先代に作られたものですし、今の領主が何かを作ったとかいうのは聞きませんね」
「貯金が趣味なんですね(笑)」
「趣味というのかはわかりませんが......お金を取ることが仕事だと思っていると街の人はみんな言ってますね」
「そんなに重税かけられて暴動とか起きないのか?」
「暴動なんて起こしたら王国から軍が来て殲滅されますよ」
えぇ......
「とにかく、あの街で領主や貴族に歯向かうのはやめておいた方が身のためです」
「気を付けます(笑)」
こいつのせいで目をつけられたらたまったもんじゃないな......
✳︎ ✳︎ ✳︎
例の洞窟に到着した。
「見れば見るほどヤスさんにぴったりですね(笑)」
「君たちも住むんだからね」
とりあえず穴の中にランプをセットしてみた。
「おお。明るさも問題ないな。ちょっと土臭いけど......」
「そのうち入口付近を広くしましょう。そうすれば風が通ってマシになると思います」
崩れたりしないよな?
「ヤスさん、これ見てください」
エールが何か見つけたようだ。
コップを持っている。
「このコップかなり古そうだな」
「昔、誰かが住んでいたのでしょうか?」
「この穴を掘った人かもしれませんね(笑)」
エールの言うとおり、この穴は人工物だと思われる。自然にこんな穴ができるとは思えない。まあ、詳しくはないけど......
床に木材を敷き、その上に敷物を広げてみる。
いい感じだ。
奥の方ではルンが何かキラキラしたものをセットしている。
「それ何だ?」
「ミラーボールです」
ミラーボール? この世界にあるのか?
見ると、鏡が球状に張り付いているみたいだ。
「初めて見ますか? まあこれお高いですからね。ヤスさんじゃ買えないかもですしね」
ルンがどや顔で自慢してくる。
「ちなみにいくらするんだ?」
「銀貨7枚です」
高っ!
「え? 馬鹿なの?」
「なっ......馬鹿とは何ですか! 必需品ですよ!」
この世界はミラーボールが必需品なのか? 何か魔術でもこもっているとか?
「ちなみにそれってどうやって使うんだ?」
「明りの近くにぶら下げます」
「で?」
「それだけですよ?」
「何か効果があるんじゃないの?」
「楽しい気持ちになれますよね!」
ただの趣味だった。
「良いですね! 楽しいのは良いことです。さすがルンちゃん(笑)」
「ですよね! エールさんならわかってくれると思ってました!」
銀貨7枚って、もっと先に必要なものあるだろ......
「他には何を持ってきたんだ?」
ちょうどいい機会なので持ち物を確認する。
「私はミラーボール1個と、愛用の棒。あとは聖水を持ってきましたよ」
「聖水は何に使うんだ?」
「夜、アンデットが出たら使おうかと」
ルンによると、レベルの低い冒険者はアンデットに襲われたとき対処方法がないらしい。冒険者が一番気を付けるべき相手だそうだ。
「聖水無い時にアンデットに囲まれたら終わりです。齧られ殺され、仲良くアンデットになります」
怖えよ。そういうことは早く言ってほしかった......
「ルンちゃん。この聖水、物凄い粗悪品ですよ(笑)」
「なんだエール、見ただけでわかるのか?」
「ええ。私、聖なる者そのものですし(笑)」
「これ、結構奮発して良いもの買ったんですよ?」
ルンが驚いている。こいつの金の使いどころが謎すぎる。いやまあ、アンデット対策だから聖水は必須か。
「これが良い聖水として売られているのだとしたら、あの街の神父の質もお察しですね。そもそも、信仰する神様間違えてましたし(笑)」
そういえば街では謎のおじいさんが信仰されてたな......
「ところでルン。この聖水ってアンデットに掛けたらどうなるんだ?」
「さあ? 私も使ったことがないのでわかりません」
「今夜、アンデットにかけてみればわかりますよ(笑)」
そんな会話をしているうちに外はもう日が暮れそうだ。
夜になる前に急いで洞窟の入口に簡易扉をはめ込む。とりあえずこれで急に襲われることはないはずだ。
「お腹減りましたね(笑)」
いい時間なので夕食を食べることにした。
「店で食べるよりも安くて良いな」
メニューは街で買ってきたパンに適当な野菜を挟んで作ったサンドイッチ、ここに来る途中に生えていた果物だ。
「スープもあればもっと良かったな」
「まあ、明日はスープも作りましょう。さすがに今から外で作るのは危ないですし、かといってこの中で火をつけたら息苦しそうですし......」
洞穴で過ごすうち、定期的に換気しないと息苦しいことが分かった。
「やっぱり、長いこと住むのは厳しいかな......」
「大丈夫ですよ! 住みやすいように改造すればいいんですよ」
この天使の前向きさは見習わないといけないかもな。
「そうだな! これから3人でよくしてこう!」
「そうですね!」
「頑張ってください(笑)」
手伝う気がなさそうなので、この天使を見直したのは取り消しだな。
「スープもいいのですが......」
「どうしたんだ、ルン?」
「トイレとかどうします?」
あ、忘れてた。
「どうしよう」
街のインフラは意外としっかりしていて、上下水道完備でトイレも水洗だった。
「私は、実家が川にそのまま流すタイプなので、どこでも問題ないです」
「ヤスさん。ヤスさん」
エールが何か耳打ちしてくる。
「ヤスさんのイメージを壊してしまい申し訳ないのですが、私もトイレには行きますよ(笑)」
「いや、天使のトイレ事情とか知りたくないわ」
「まあ私も気にしないので、そこら辺でいいですよ(笑)」
なんだこのたくましい子たちは。
「ヤスさんは私たちにどこでトイレして欲しいですか?(笑)」
「な、なんで俺がそんなこと決めないといけないんだよ!」
「ほら、恥ずかしがらずに決めてください! どこでトイレしたら良いのかわからないじゃないですか(笑)」
追い打ちをかけるエールに泣きそうになりながらルンの方を見ると
「まあ、川でいいんじゃないですか? 少し歩きますが」
「じゃあ、それで......」
「それなら危ないのでトイレ行くときはみんな一緒ですね(笑)」
なんだろう。この先不安しかない......
✳︎ ✳︎ ✳︎
「夜中起こして行くくらいなら今のうちトイレ行っておきませんか?」
そろそろ寝るかという空気になりかけたころ、ルンの提案に賛成し外に出る。
外は星が出ていて意外と明るかった。異世界で夜の散歩は初めてだ。この世界の月は地球のに比べて、ずっと大きく見ていて飽きない。
「これなら明りも必要ないですね」
歩き出したルンがすぐ止まる。
「どうした?」
「たくさんいますねー(笑)」
40~50体ほどのアンデットがうようよしていた。
夜のモンスター怖えぇ
物価が高すぎて、このままでは武器すら揃えられない。
「まともな武器はルンの棒だけだしな」
「フライパンがあるじゃないですか(笑)」
「あれを武器とは認めたくない」
物価が高いのに低賃金なため貧困から抜け出せないスパイラルに入っている。
それに加えて最近良いクエストもない。ルンが食料を確保していなかったらきつかった。何とかしなければ......
「家を借りられないのでしょうか?(笑)」
エールの提案はもっともだが。
「冒険者に家を貸す人はいないですね。いつ死ぬかわからないですし」
ルンによると、いつ収入が無くなるかわからない冒険者に貸す人はいないらしい。
「冒険者が住む場所は日払いの宿か、自分で買うしかないです...... まあ物凄く高いですがね」
ため息交じりにルンがぼやいている。
「ちなみに家買うといくら位なんだ?」
「この国の土地はすべて王様、貴族のものですからね。買うというより金貨200枚ほどを担保に貸してもらうことになります」
あの領主に金貨渡して借りるしかないだと......
「気に入らないことがあると没収されます。お金も返ってきません。まあ、よっぽどのことをしない限り没収は無いですが......」
「良い御身分ですね(笑)」
駆け出し冒険者がこの街に家を持つのは現実的ではないようだ。
......街中?
「この街の外はどうなんだ? たまにモンスターはいるけど広い土地余ってたぞ?」
「たまに外で暮らそうとする人もいますけど、おススメできません。この辺は強いモンスターがいないとはいえ夜は危険が増しますし」
それもそうだよな。夜のクエストは報酬が高いが危険だという噂だし。
「そもそもヤスさん、家作れるんですか?」
確かに家など作ったことがない。雑に作ろうものならモンスターの餌食だろう。
「でも宿代が馬鹿にならないのも事実だし......」
俺とルンが頭を抱えていると
「街から少し離れた所に洞穴ありますよ(笑)」
エールが提案してきた。女の子なのに洞穴暮らしを提案するとかサバイバル能力が高いというか、色々と無頓着というか......本当に天使なのだろうか?
「洞穴?」
「はい! ヤスさんにぴったりだと思います(笑)」
洞穴がぴったりとはどういうことなのだろう。
「その洞穴ってどれくらいの大きさなのでしょうか?」
「入口がツリーマン3体くらいですかねー」
わかりやすい......のか?
「柵を作って布で覆って入口を隠せば少しは安全なんじゃないか?」
「まあ、野ざらしで寝るよりかは安全でしょうが......」
言ってはみたものの布で覆っただけの入口に不安しかない。
「とりあえず見に行きませんか?(笑)」
✳︎ ✳︎ ✳︎
町から洞窟に向かう道に見覚えがあった。
「エール、この道って......」
「はい。私たちがこの世界に来て初めて通った道です(笑)」
そういえば、転送された所は山の上だったことを思い出す。そこの山に洞穴があるのだろう。
町から徒歩で1時間、例の山にある洞窟に到着した。
「ここですよ。ヤスさんにぴったりの物件です(笑)」
「いや、物件じゃねーし」
「ぴったりの穴です(笑)」
「穴ですねー」
草原の先にある山肌にぽっかりと穴が開いていた。
松明を用意し、穴を照らしてみる。
「奥の方までは見えないなー」
「とりあえず入りましょう(笑)」
洞穴の入口は1mほどしかないので前かがみになって入るしかない。
ヤスを先頭にエール、ルンの順で穴に入る。5mほど進むと広い空間が表れた。
「まあまあ広いな」
普段使っている宿の部屋より少し広い気がする。
「ヤスさん。入口で立ち止まらないでくださいよ(笑)」
「ああ、ごめんごめん」
俺は横にずれてエールの入る場所を開けると四つん這いのエールが入口から顔を出した。
「どうかしました?(笑)」
「別になんでもないよ」
エールの胸元は緩いので前屈みになるとなかなか際どく、つい目線がいってしまう。
松明だと暗くてよく見えないのが惜しい。
「本当になんでもないんですかー?(笑)」
......ばれてるのか?
「ちょっと、早くどいてください」
エールの後ろからルンの声が聞こえた。
洞穴の奥は3人で入っても狭すぎないくらいの空間だった。
「割と広くていいですね(笑)」
3人で住むと少し狭いかもしれないが、そこまで問題はなさそうだ。
「ルンはどうだ?」
「うーん。洞穴に住んだことがないのでなんとも......」
まあ、そうだろうけども
「とりあえず、穴の状態もわかったことですし街に帰りませんか?」
「よし、じゃあ明日準備してからまた来るか」
思ったよりも良い洞穴だったので安心だ。明日からはここに住めるかもしれない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日
ランプや敷物など必要なものを揃えて例の洞穴へ向かった。
「基本寝るだけだし、荷物もそんなにないな」
「買えなかっただけですけどね(笑)」
ランプや敷物、鍋などの日用品は高くお金はほとんど無くなってしまった。
「この街はすべてにおいて高いよなー」
「値段の半分は税金で領主にとられますからね」
初耳だ。
「領主のおっさんはそんなに金集めて何に使うんだ?」
公共事業だろうか?
「分かりません。あの街の壁や道などは先代に作られたものですし、今の領主が何かを作ったとかいうのは聞きませんね」
「貯金が趣味なんですね(笑)」
「趣味というのかはわかりませんが......お金を取ることが仕事だと思っていると街の人はみんな言ってますね」
「そんなに重税かけられて暴動とか起きないのか?」
「暴動なんて起こしたら王国から軍が来て殲滅されますよ」
えぇ......
「とにかく、あの街で領主や貴族に歯向かうのはやめておいた方が身のためです」
「気を付けます(笑)」
こいつのせいで目をつけられたらたまったもんじゃないな......
✳︎ ✳︎ ✳︎
例の洞窟に到着した。
「見れば見るほどヤスさんにぴったりですね(笑)」
「君たちも住むんだからね」
とりあえず穴の中にランプをセットしてみた。
「おお。明るさも問題ないな。ちょっと土臭いけど......」
「そのうち入口付近を広くしましょう。そうすれば風が通ってマシになると思います」
崩れたりしないよな?
「ヤスさん、これ見てください」
エールが何か見つけたようだ。
コップを持っている。
「このコップかなり古そうだな」
「昔、誰かが住んでいたのでしょうか?」
「この穴を掘った人かもしれませんね(笑)」
エールの言うとおり、この穴は人工物だと思われる。自然にこんな穴ができるとは思えない。まあ、詳しくはないけど......
床に木材を敷き、その上に敷物を広げてみる。
いい感じだ。
奥の方ではルンが何かキラキラしたものをセットしている。
「それ何だ?」
「ミラーボールです」
ミラーボール? この世界にあるのか?
見ると、鏡が球状に張り付いているみたいだ。
「初めて見ますか? まあこれお高いですからね。ヤスさんじゃ買えないかもですしね」
ルンがどや顔で自慢してくる。
「ちなみにいくらするんだ?」
「銀貨7枚です」
高っ!
「え? 馬鹿なの?」
「なっ......馬鹿とは何ですか! 必需品ですよ!」
この世界はミラーボールが必需品なのか? 何か魔術でもこもっているとか?
「ちなみにそれってどうやって使うんだ?」
「明りの近くにぶら下げます」
「で?」
「それだけですよ?」
「何か効果があるんじゃないの?」
「楽しい気持ちになれますよね!」
ただの趣味だった。
「良いですね! 楽しいのは良いことです。さすがルンちゃん(笑)」
「ですよね! エールさんならわかってくれると思ってました!」
銀貨7枚って、もっと先に必要なものあるだろ......
「他には何を持ってきたんだ?」
ちょうどいい機会なので持ち物を確認する。
「私はミラーボール1個と、愛用の棒。あとは聖水を持ってきましたよ」
「聖水は何に使うんだ?」
「夜、アンデットが出たら使おうかと」
ルンによると、レベルの低い冒険者はアンデットに襲われたとき対処方法がないらしい。冒険者が一番気を付けるべき相手だそうだ。
「聖水無い時にアンデットに囲まれたら終わりです。齧られ殺され、仲良くアンデットになります」
怖えよ。そういうことは早く言ってほしかった......
「ルンちゃん。この聖水、物凄い粗悪品ですよ(笑)」
「なんだエール、見ただけでわかるのか?」
「ええ。私、聖なる者そのものですし(笑)」
「これ、結構奮発して良いもの買ったんですよ?」
ルンが驚いている。こいつの金の使いどころが謎すぎる。いやまあ、アンデット対策だから聖水は必須か。
「これが良い聖水として売られているのだとしたら、あの街の神父の質もお察しですね。そもそも、信仰する神様間違えてましたし(笑)」
そういえば街では謎のおじいさんが信仰されてたな......
「ところでルン。この聖水ってアンデットに掛けたらどうなるんだ?」
「さあ? 私も使ったことがないのでわかりません」
「今夜、アンデットにかけてみればわかりますよ(笑)」
そんな会話をしているうちに外はもう日が暮れそうだ。
夜になる前に急いで洞窟の入口に簡易扉をはめ込む。とりあえずこれで急に襲われることはないはずだ。
「お腹減りましたね(笑)」
いい時間なので夕食を食べることにした。
「店で食べるよりも安くて良いな」
メニューは街で買ってきたパンに適当な野菜を挟んで作ったサンドイッチ、ここに来る途中に生えていた果物だ。
「スープもあればもっと良かったな」
「まあ、明日はスープも作りましょう。さすがに今から外で作るのは危ないですし、かといってこの中で火をつけたら息苦しそうですし......」
洞穴で過ごすうち、定期的に換気しないと息苦しいことが分かった。
「やっぱり、長いこと住むのは厳しいかな......」
「大丈夫ですよ! 住みやすいように改造すればいいんですよ」
この天使の前向きさは見習わないといけないかもな。
「そうだな! これから3人でよくしてこう!」
「そうですね!」
「頑張ってください(笑)」
手伝う気がなさそうなので、この天使を見直したのは取り消しだな。
「スープもいいのですが......」
「どうしたんだ、ルン?」
「トイレとかどうします?」
あ、忘れてた。
「どうしよう」
街のインフラは意外としっかりしていて、上下水道完備でトイレも水洗だった。
「私は、実家が川にそのまま流すタイプなので、どこでも問題ないです」
「ヤスさん。ヤスさん」
エールが何か耳打ちしてくる。
「ヤスさんのイメージを壊してしまい申し訳ないのですが、私もトイレには行きますよ(笑)」
「いや、天使のトイレ事情とか知りたくないわ」
「まあ私も気にしないので、そこら辺でいいですよ(笑)」
なんだこのたくましい子たちは。
「ヤスさんは私たちにどこでトイレして欲しいですか?(笑)」
「な、なんで俺がそんなこと決めないといけないんだよ!」
「ほら、恥ずかしがらずに決めてください! どこでトイレしたら良いのかわからないじゃないですか(笑)」
追い打ちをかけるエールに泣きそうになりながらルンの方を見ると
「まあ、川でいいんじゃないですか? 少し歩きますが」
「じゃあ、それで......」
「それなら危ないのでトイレ行くときはみんな一緒ですね(笑)」
なんだろう。この先不安しかない......
✳︎ ✳︎ ✳︎
「夜中起こして行くくらいなら今のうちトイレ行っておきませんか?」
そろそろ寝るかという空気になりかけたころ、ルンの提案に賛成し外に出る。
外は星が出ていて意外と明るかった。異世界で夜の散歩は初めてだ。この世界の月は地球のに比べて、ずっと大きく見ていて飽きない。
「これなら明りも必要ないですね」
歩き出したルンがすぐ止まる。
「どうした?」
「たくさんいますねー(笑)」
40~50体ほどのアンデットがうようよしていた。
夜のモンスター怖えぇ
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