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第四章
感情-12
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「クアンタ、先ほどの男は、そして君は、何を一体話していたというのだ……? あの男は、君の知り合いなのか?」
「今日はもう夜も更けている。説明は明日の方が良いだろう」
「クアンタ」
「頼む。整理する時間が欲しい。それに――」
変身を解除したクアンタが、真っ先に皇居へと向かう。
彼女の素早い足についていくようにしたシドニアとサーニスを気にすることなく、クアンタは皇居に上がってすぐに先ほどまでいた寝室へと向かい――そして、扉を開ける。
「、クアンタ、だいじょ」
寝室の扉を開けると、扉の向こう側にいたリンナがクアンタの姿を見据え、立ち上がり、今まさに大丈夫かと問おうとする前に。
クアンタは、彼女の身体をまずは抱き寄せ、二秒ほど、その体温を確かめるようにして、ギュッと、力強く抱きしめた。
「お師匠、無事だな。虚力は、大丈夫。体に怪我もないな。良かった」
「あ、え、と……あ、アンタの方こそ、大丈夫なの? その、災いって奴と、戦ってきたんでしょ?」
「問題ない。――本当に良かった」
無事を確認しても、クアンタはなおも彼女の身体を、離そうとしなかった。
クアンタには、抱き合う行為の意味も、体温を感じる事の重要性も、本来は分かっていない筈なのに。
そう考えながら、リンナは笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でながら、安心させるように、耳元で声を囁く。
「大丈夫、安心しなさいってば。アタシはアンタを置いてどっか行ったりもしないし、災いなんてバケモノにもやられない。
……でも、心配してくれて、ありがと」
彼女の身体を抱き返し、恰好が格好だから互いの体温も伝わる中で、二人はただ抱き合い、無事を慈しみ合う。
部屋の隅で、ただクアンタの帰還を待ち続けていたアメリアだったが、そんな二者を見せつけられてはと、笑いながらため息をつき、部屋を出て黒子の一人に「朝まで見張っておれ」と命じ、別に用意した寝室へと向かう。
「姉上」
そんな彼女に、焦った様子のシドニアが声をかける。隣にはサーニスもいたが気にすることなく振り返り、笑顔で応対するも、彼はクアンタとリンナがいる部屋に視線をやった。
「シドニアか。敵は?」
「逃がしました――が、クアンタが何か知っている様子です。すぐに聞き出さねば」
ドアノブに手をかけようとするシドニアの手を叩き、指を鳴らすアメリア。
彼女の周りに三人の黒子が姿を現し、手に短刀を持って、威嚇するように立ち塞がった。
それを破ることは、シドニアにとっても、サーニスにとっても容易い。
だが――。
「今、部屋に踏み入るなよ愚弟。それ以上二人の間に踏み込むのならば、主らシドニア領土政府との友好は水泡に帰すと思え。クアンタもリンナも、我がアメリア領へ無理矢理にでも招き入れるとしよう」
普段の姉らしからぬ、威圧感のある声と表情を見せつけられては、それ以上何も言う事が出来ず、シドニアはフッと息をつき、しかし引き下がれぬと言わんばかりに反論を述べる。
「貴女は、このアメリア領土における災いの被害を放置すると?」
「そうは言っておらんが? 愚弟よ、吾輩もお前に言いたいことがある」
「何です」
「機を焦り過ぎるでないぞ阿呆。じゃからお前は、何時まで経っても二流なのじゃ」
「……貴女はいつもそうだ。私の事を子供扱いし、何時まで経っても認めない」
「認めてはおる。思想はともかく、その野心も次期皇帝に相応しいと思っとる。が、立ち居振る舞いがそうでないと言っとるのじゃ。
ドンと構えて、民に不安な所を見せるな。それが出来ぬなら、主は何時までも餓鬼のままじゃ」
決して部屋の前から退く事無く、アメリアはシドニアを睨みつける。そうした彼女の態度に腹を立てたか、シドニアは静かに、これまで募らせていた憤怒を漏らすかのように言葉とする。
「貴女はただの愚か者だ。災いの被害を放置すれば、アメリア領土だけではなく、レアルタ皇国全土に甚大な影響を及ぼしかねない。それが分からぬ貴女ではないでしょう?
であるのに、一人二人の民へ下らぬ感傷を抱き、放置するのか? 被害の拡大を抑えようともしないのか?」
「愚か者はお前じゃと言っとろうが。吾輩がただ感傷に流された結果、そうしてお前の阿呆な考え方に否を突きつけているとでも思うたか?」
何、と目を細めるシドニアに、アメリアは深くため息をついて、首を振る。
「やはりお前は頭に血が昇ると大局を見定める事が出来んくなるようじゃな。――そもそもクアンタの力量をどうコントロールする気だったのじゃ、お前」
「何を」
「クアンタはお前の野望についてなど興味を抱いておらん。お前に対して忠誠心も抱いておらん。
にも拘らず、クアンタやリンナの機嫌を損ねて、お前から離反する危険性すらある中、今すぐ確認せねばならぬ事か、それは。
ああ、確かに重要な事ではあるじゃろうな。災いを使役する者について知っている可能性があれば、確かに吾輩らも知っているべきじゃろうて。
じゃが、本当にクアンタは全てを知り得ているのか? それを吾輩らが今知らなければ、すぐに大変な事になり得るのか? それを知れば今すぐに敵を捕らえ、問題解決をする事が出来るというのか?」
淡々と言葉を連ねていくアメリアの言い分に、シドニアは顎を引き、歯軋りを鳴らす。機嫌が悪そうだと思いつつも、彼の胸部を軽く殴り「頭を冷やせ愚弟」と警告する。
「お前の言う通り、災いの問題というのは長期化すればするほど厄介じゃ。しかしな、故にクアンタの協力は必要不可欠じゃと自覚せい。
お前が勝手に自爆してクアンタから離反されようが吾輩の知ったことではないが、しかしお前の行い一つで、クアンタが我々レアルタ皇国全土を敵に回す可能性すら、少ないがあるのじゃ。――それが一番恐ろしい事態なのじゃぞ?」
疲れた、寝る。
アメリアは最後まで、愚弟と呼んだシドニアの事を、冷たい目で睨みつけるだけだった。
それが弟に向けるべき目付きかと考えるシドニアではあったが――しかし、そうした彼がアメリアに向ける目付きは、それこそ姉に向ける目付きではないと、彼自身、気付いているかどうか。
――おそらくは、気付いていない。
「今日はもう夜も更けている。説明は明日の方が良いだろう」
「クアンタ」
「頼む。整理する時間が欲しい。それに――」
変身を解除したクアンタが、真っ先に皇居へと向かう。
彼女の素早い足についていくようにしたシドニアとサーニスを気にすることなく、クアンタは皇居に上がってすぐに先ほどまでいた寝室へと向かい――そして、扉を開ける。
「、クアンタ、だいじょ」
寝室の扉を開けると、扉の向こう側にいたリンナがクアンタの姿を見据え、立ち上がり、今まさに大丈夫かと問おうとする前に。
クアンタは、彼女の身体をまずは抱き寄せ、二秒ほど、その体温を確かめるようにして、ギュッと、力強く抱きしめた。
「お師匠、無事だな。虚力は、大丈夫。体に怪我もないな。良かった」
「あ、え、と……あ、アンタの方こそ、大丈夫なの? その、災いって奴と、戦ってきたんでしょ?」
「問題ない。――本当に良かった」
無事を確認しても、クアンタはなおも彼女の身体を、離そうとしなかった。
クアンタには、抱き合う行為の意味も、体温を感じる事の重要性も、本来は分かっていない筈なのに。
そう考えながら、リンナは笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でながら、安心させるように、耳元で声を囁く。
「大丈夫、安心しなさいってば。アタシはアンタを置いてどっか行ったりもしないし、災いなんてバケモノにもやられない。
……でも、心配してくれて、ありがと」
彼女の身体を抱き返し、恰好が格好だから互いの体温も伝わる中で、二人はただ抱き合い、無事を慈しみ合う。
部屋の隅で、ただクアンタの帰還を待ち続けていたアメリアだったが、そんな二者を見せつけられてはと、笑いながらため息をつき、部屋を出て黒子の一人に「朝まで見張っておれ」と命じ、別に用意した寝室へと向かう。
「姉上」
そんな彼女に、焦った様子のシドニアが声をかける。隣にはサーニスもいたが気にすることなく振り返り、笑顔で応対するも、彼はクアンタとリンナがいる部屋に視線をやった。
「シドニアか。敵は?」
「逃がしました――が、クアンタが何か知っている様子です。すぐに聞き出さねば」
ドアノブに手をかけようとするシドニアの手を叩き、指を鳴らすアメリア。
彼女の周りに三人の黒子が姿を現し、手に短刀を持って、威嚇するように立ち塞がった。
それを破ることは、シドニアにとっても、サーニスにとっても容易い。
だが――。
「今、部屋に踏み入るなよ愚弟。それ以上二人の間に踏み込むのならば、主らシドニア領土政府との友好は水泡に帰すと思え。クアンタもリンナも、我がアメリア領へ無理矢理にでも招き入れるとしよう」
普段の姉らしからぬ、威圧感のある声と表情を見せつけられては、それ以上何も言う事が出来ず、シドニアはフッと息をつき、しかし引き下がれぬと言わんばかりに反論を述べる。
「貴女は、このアメリア領土における災いの被害を放置すると?」
「そうは言っておらんが? 愚弟よ、吾輩もお前に言いたいことがある」
「何です」
「機を焦り過ぎるでないぞ阿呆。じゃからお前は、何時まで経っても二流なのじゃ」
「……貴女はいつもそうだ。私の事を子供扱いし、何時まで経っても認めない」
「認めてはおる。思想はともかく、その野心も次期皇帝に相応しいと思っとる。が、立ち居振る舞いがそうでないと言っとるのじゃ。
ドンと構えて、民に不安な所を見せるな。それが出来ぬなら、主は何時までも餓鬼のままじゃ」
決して部屋の前から退く事無く、アメリアはシドニアを睨みつける。そうした彼女の態度に腹を立てたか、シドニアは静かに、これまで募らせていた憤怒を漏らすかのように言葉とする。
「貴女はただの愚か者だ。災いの被害を放置すれば、アメリア領土だけではなく、レアルタ皇国全土に甚大な影響を及ぼしかねない。それが分からぬ貴女ではないでしょう?
であるのに、一人二人の民へ下らぬ感傷を抱き、放置するのか? 被害の拡大を抑えようともしないのか?」
「愚か者はお前じゃと言っとろうが。吾輩がただ感傷に流された結果、そうしてお前の阿呆な考え方に否を突きつけているとでも思うたか?」
何、と目を細めるシドニアに、アメリアは深くため息をついて、首を振る。
「やはりお前は頭に血が昇ると大局を見定める事が出来んくなるようじゃな。――そもそもクアンタの力量をどうコントロールする気だったのじゃ、お前」
「何を」
「クアンタはお前の野望についてなど興味を抱いておらん。お前に対して忠誠心も抱いておらん。
にも拘らず、クアンタやリンナの機嫌を損ねて、お前から離反する危険性すらある中、今すぐ確認せねばならぬ事か、それは。
ああ、確かに重要な事ではあるじゃろうな。災いを使役する者について知っている可能性があれば、確かに吾輩らも知っているべきじゃろうて。
じゃが、本当にクアンタは全てを知り得ているのか? それを吾輩らが今知らなければ、すぐに大変な事になり得るのか? それを知れば今すぐに敵を捕らえ、問題解決をする事が出来るというのか?」
淡々と言葉を連ねていくアメリアの言い分に、シドニアは顎を引き、歯軋りを鳴らす。機嫌が悪そうだと思いつつも、彼の胸部を軽く殴り「頭を冷やせ愚弟」と警告する。
「お前の言う通り、災いの問題というのは長期化すればするほど厄介じゃ。しかしな、故にクアンタの協力は必要不可欠じゃと自覚せい。
お前が勝手に自爆してクアンタから離反されようが吾輩の知ったことではないが、しかしお前の行い一つで、クアンタが我々レアルタ皇国全土を敵に回す可能性すら、少ないがあるのじゃ。――それが一番恐ろしい事態なのじゃぞ?」
疲れた、寝る。
アメリアは最後まで、愚弟と呼んだシドニアの事を、冷たい目で睨みつけるだけだった。
それが弟に向けるべき目付きかと考えるシドニアではあったが――しかし、そうした彼がアメリアに向ける目付きは、それこそ姉に向ける目付きではないと、彼自身、気付いているかどうか。
――おそらくは、気付いていない。
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