魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
上 下
47 / 285
第五章

皇族、集結-03

しおりを挟む
 クアンタは、自分の意識を失う感覚というのを初めて味わったかもしれない。

  彼女は流体金属生命体フォーリナーであり、その能力としては人間と異なる。

  現在の外観は人間と同じとは言え、その生活までもが人間と同じなわけではないのだが――


「眠り、夢を、見たのか」


 先日、災いとの戦いを終えて、リンナの無事を確認してからの記憶がほとんどない。そのままベッドに寝そべり、アメリアはどうしたのかという会話をした事までは覚えているが、そこからは記憶が飛んでいる。

 勿論リンナが睡眠を取っていることは良い事だが、クアンタまでが睡眠を取っていたとは、最初こそ怪訝だったが、しかし夢まで見ているとなると、それを認めざるを得ない。

  しかし夢というのはレム睡眠時における脳の運動とクアンタは認識しているが、実際の所どういった働きによって夢を見るのか、人間の睡眠時における脳の活動というをフォーリナー本体としても記録していなければ、ドルイドと呼ばれていた男の用意した辞書データ以上の事も知り得ていない。

  だが何とも、妙な感覚だった。目を閉じて脳を休めていただけの筈なのに、体の調子は僅かに良くなっていると思う。それに加え、夢に見た光景は確かにクアンタが地球へ来た時の事だったが、細部の再現性がイマイチだった事に加え、既に起きてから数十秒経過で、夢の細部を思い出そうとしても思い出せなくなってきた。

  過去の反芻だからこそ完全に忘れてはいないが、短期の記憶障害と、人間はコレを恐れないのかと考える程である。


「ん……」


 ゴロンと、隣に眠るリンナが寝返りをうつ。

  昨日までの、ほとんど胸と秘部しか隠さぬ下着だけをまとったままであるリンナとクアンタは、若干それがズレ、ポロリと胸がこぼれている事に気づく。


「……お師匠、噛んだな、胸」


 睡眠時における無意識の行動なのか、それとも狙ってやったことなのかは分からぬが、しかし乳房に僅かだが噛み跡があり、それを拭って、傷を癒す。


「……フォーリナーとしての治癒機能、というより身体構成機能はそのままだな」


 試しに、髪の毛を一本むしり取り、それを軽く振るってみる。

  すると髪の毛は鋭い針となり、投げ放つと皇居の壁に刺さって、数秒すると水分へと変化、消えていった。


「最近は、あまりこうした機能を使用していないが、問題ない。むしろ、先日のマリルリンデが、何故身体構成を変化させた戦闘方式を取り入れないかが疑問なのだが」


 ふっと息を吐きながらリンナを起こさぬようにベッドから降りる。すると小さくノックの音が聞こえ、続けて叩かれるより前に、クアンタがドアを開けた。


「おはようクアンタ」

「サーニスか。おはよう」


 ノックした人物はサーニスであった。彼は続けて何か言おうとした所でクアンタの胸元に視線をやり、顔をグルンとそっぽ向かせて、耳まで赤いと分かるほどに赤面した。


「……その、だな、クアンタ」

「何だ」

「胸がはだけてる」

「気にするな」

「気にするしお前も気にしろ! 婦女子が軽々に乳房を晒すなっ!」

「分かったから声を押さえてくれ。お師匠が起きる」


 下着をしっかりとまとい直し「良いぞ」と合図をすると、未だに赤い顔のまま、サーニスが続ける。


「リンナさんには申し訳ないが、起こしてもらえないか。彼女にも現状の説明と、今後の話し合いに参加して頂く必要がある」

「お師匠を巻き込むのはあまり好ましくは無いのだが」

「先日、あの男とお前との会話で、リンナさんの話題が出ただろう。それより前にシドニア様が奴と対峙し、その際にもリンナさんを狙っていた旨があったとの事だ。故に必要という判断なのだが」

「……了承。そうだな、狙われる可能性があるのならば、状況を理解してもらった方が良いか。好ましいかどうかはともかくな」

「意外だな」

「何がだ」

「お前は、こう言った状況下においては好む好まないを考えない女だと思っていたのだが」

「――私もそうだと思っていた。準備をするから、待っていてくれ」


 扉を閉め、ベッドでまだ眠っているリンナの肩を揺する。すると僅かにまぶたを開き、クアンタの事を見据えると「後五分……」と言ったので、クアンタも頷いてサーニスの元へ。


「後五分だそうだ」

「起こしてくれ。ちなみにそれは五分で起きん者の言葉だ」

「了解」


 サーニスに従う理由は無いが、しかし皇族関係者である彼へ悪い心証を与えるのもどうかと考え、クアンタは再度、リンナの肩を揺する。


「お師匠、朝だ。起きてくれ」

「ん……後五分っつったじゃん……」

「困った。それは五分で起きない者の言葉らしいのだが」

「起きる、絶対……起きる……アタシは、五分で……起きる」

「そうだ。起きてくれれば、お師匠が好きな、私の胸部を揉む権利をやろう」

「ん……え……え!?」


 ガバッと起き上がったリンナが、顔を赤くしながら手を若干ワキワキとさせたので、首を傾げて「おはようお師匠」と先に挨拶する。


「お、おはようクアンタ! それよりクアンタの胸揉む権利ってマジ!?」

「よくわからんが、揉みたければ揉めばいい。何が良いかはわからんが」

「ま、マジか……じゃ、じゃあちょっと失礼して……」


 重力に逆らい天へと向く乳房を下方から持ち上げる様に持ったリンナが「ほあああああ……」と感嘆の声をあげ、指に少し力を籠める。


「んっ」


 思わず声を漏し、僅かに体を震わしたクアンタに、リンナが「え」と驚き、しかし手と指に入れる力は決して緩めない。


「アンタ、今ちょっと喘いだ?」

「喘ぐというのはよくわからないが、私にも言いようの無い感覚が全身に――ん、今も、走った。何だコレは」

「えっと、気持ちよかった、みたいな?」

「よくわからないが、そうなのかもしれない――あっ」


 少し、顔の体感温度も高く感じてきた。先日ガラス細工の剣を粉々に砕いてしまった時もそうだが、こうした状況の変化によって体温や体感が変わる事が、そもそもクアンタにとっては新鮮だった。


「そ、それより、アメリア様達が呼んでいる。この位で、構わないだろうか」

「え、あー……うん。じゃあ、この位で」


 少し、名残惜しそうにしながらも胸から手を離したリンナに、クアンタは再び下着の位置を整えながら、一瞬だけ考えて呟く。


「また揉みたければ揉めばいい」

「良いの!?」

「構わない。揉んでいる側は何が楽しいかはわからないが」
しおりを挟む

処理中です...