魔法少女の異世界刀匠生活

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第五章

皇族、集結-06

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「私はまだ人類という存在に疎い。故に虚力量の多さは収集しなければ分からないんだ」

「だが先日、君は虚力を失った老婆に触れただけで、虚力量とやらを計測していたのではないのか?」

「アレは全く無かったから、触れただけで量を把握できた。もし量の詳細を計測するならば、こうした肉体接触――というより経口補給が一番好ましい。

 シドニアの虚力を頂いた時も、採取量を最小にする必要があったから、手と手を繋ぐだけで済ませた。もしお師匠やアメリア様と同じようにして虚力を収集していれば、今頃老婆たちと同じシーツで横になっていた所だぞ」

「……つまり、君は今、リンナと姉上にセクハラを働いたわけではなく」

「虚力を頂いた。それぞれ持っている量の数パーセント程だがな。これ以上は生命活動に影響を及ぼす可能性がある為、収集はしない」


 ご馳走様でした、といったクアンタに、リンナはプルプルと震えながら「アレはクアンタの食事アレはクアンタの食事だから情事じゃない情事じゃない……っ」と自分に言い聞かせ、アメリアは「この燃え滾るような情欲をどう発散せよと言うのじゃ……っ」と涙目になっていた。


「それで、どうだったんだい?」

「驚いた。アメリア様の虚力量を平均値と仮定しても、おおよそ四十倍以上の虚力を有している」

「数だけ聞けば多いようにも聞こえるが、君の基準から見てどうなんだい?」

「例えばアメリア様の虚力を全て私が収集したとしたら、五十年ほど身体機能の劣化を招かず生存可能だ」

「それの四十倍という事は」

「ああ、もしお師匠の虚力を全て私が収集すれば、単純計算で二千年生きる事が可能となる。事実、今お師匠から収集した虚力だけでも、数年は活動可能だ」


 確かにマリルリンデが『上玉』と言い、リンナを狙う理由にもなるだろうとしたクアンタが、しかしそれ以上を考える事無く、シドニアへ視線を向けた。


「マリルリンデの目的はお師匠の虚力と考えても特に問題は無いだろう。今後、お師匠の護衛は必要だな」

「……つってもアタシなんかは普通の小童じゃん? 他にもそういう虚力ってエネルギーが多い奴、いっぱいいるかもしんないよ?」

「否、皇族と皇族補佐がいて、その状況で迷わずリンナを狙ったという事ならば、よほどリンナが特殊なのだろう。勿論奴が我々のような皇族を全く敵視していないという事ならば別だがな」


 しかし災いの対処を行う大本は主に皇族が率いる各領土の皇国軍や警兵隊だ。そうしたトップを打ち倒すことによって、今後の活動が容易になるだろう事は想像も容易い筈なのに、シドニアやアメリアという存在を放置してリンナの虚力を奪おうとするならば、クアンタとシドニアの考え通りなのだろう。


「何にせよ各領主……姉妹共にも警戒を促さねばならんな。既に昨日の夜から特使を派遣し、シドニア領へ緊急招集をかけておる故、明日の朝には全員到着するであろう。我々も準備を始めるぞ」


 とんとん拍子に話が進んでいく事に驚きを見せるクアンタを除く全員。シドニアが手を挙げて、彼女の行った招集とやらの内容を確認する。


「手が早いですね。しかし各領主が一斉に空席となっては、運営に支障をきたす可能性があるのでは?」

「なに、元より考えておった事じゃ。アルハットはともかく、イルメールとカルファスはすぐ動けるじゃろう」

「招集先は私の皇居に?」

「否、リンナの家にした」

「なんでです!?」


 皇族の招集先が自分の家に指定されていることに驚くリンナだったが、それにはシドニアも納得している様子だった。


「なるほど、確かに刀匠鍛冶場ならば刀の見本もある程度用意は可能ですからね、それが好ましいでしょう」


 災いの伝承には、何かしら刀が関わっている。そして現在レアルタ皇国内で刀の製造を行っているのは、リンナが経営するリンナ刀匠鍛冶場のみだ。もし災いに関する情報が集まり、刀が必要となった場合、リンナへ仕事に取り掛かってもらう時間を短縮できる、と考えたわけだ。


「いやそれにしたって、アタシん家に皇族の方五人も集結するんすか!? お茶請けとか買ってないですよ!?」

「そこは気にしないでくれて結構だぞリンナ」

「ともかく準備じゃ! クアンタとリンナは使用人の任を解く。今からは先日通り、吾輩の友人に戻るのじゃぞ!」


 善は急げと言わんばかりに立ち上がり、黒子たちを連れて部屋を出たアメリアに続き、シドニアとサーニスも続く。

  クアンタとリンナがポツンと取り残された中、リンナは頭を抱えて「アタシホント色んな事に巻き込まれたなぁ……っ」と悩みを口にした。


「護衛の関係上、お師匠と皇族の面々は全員固まっていた方が好ましいだろう。お師匠は私が守るが、それでも国家ぐるみで対処出来る事は好ましい」

「そりゃそうだけどさぁ……なんでアタシなんかにそんな力が? 今まで生きてきて、そんな事実感した事ないんだけど」

「虚力というのは感情を司るエネルギーだ。感情の起伏が激しい者ほど、その量は自然と多くなる。お師匠はそれだけ、感情を豊かに表現できる人というだけだ。むしろ好ましいことだ」

「その虚力ってのがあった所で、アタシには何の益もないのに?」

「人という存在には一人ひとり、何かしらの才能があるのだろう。時にそうした才能や素質というのが、当人の益にならない場合もあるというだけの事だ」


 淡々と言うクアンタの言葉に、リンナは胸元にそっと手を置き、悩むようにジッ……と静かにしている。

  クアンタはそんな彼女の空いた手を握り、目と目を合わせた。


「分からない事は多い。マリルリンデがお師匠の虚力を手にして何を企むのか、そもそも災いという存在がどのような意図を以て存在するのか、どこにどう刀が関わるのか等な。

 だが、奴にどんな目的があろうと、この先お師匠がどんな輩に狙われようと、心配することは無い。私がお師匠を守る」

「……でも、クアンタとそのマリルリンデって奴は、同族なんでしょ? なのに、戦うの?」

「奴も私も、今やフォーリナーから外れた存在だ。故にこの地で取る行動は単純明快、個々の意思に従うだけ。

 奴は奴なりに何かを企み、私は私なりに、奴の企み等知った事ではないと、ただお師匠を守るという目標の為に戦うだけだ」


 私が守ると言ったクアンタの言葉に、意思に、偽りは無いのだろうと、リンナには一目見ただけで分かる。

  けれど、そうしてリンナは、ただ守られるだけしか出来ないのだろうかと、そう考えるだけで、胸が張り裂けそうになる程、苦しい。


「クアンタ、一つだけ約束して」

「何だ、お師匠」

「アタシを守ってくれるのは嬉しい。でもアタシは、アンタのお師匠なんだ。

 ――だから、アタシに出来る事は、何でも言って。アンタを守る為なら、アタシはこの命だって投げ出してやる」

「命を投げ出す必要はないが、ならば一つだけお願いがある」


 何かと問う前に。


  クアンタが、リンナの体を抱き寄せ、その首筋にもう一度、軽く唇を当てた。


  体温が上昇していく感覚と、赤くなっていくリンナの事を見据えながら、クアンタは唇を離す。


「時々、お師匠の虚力が欲しい。私たちフォーリナーにとっての食事だからな」

「え、あ、その……は、激しくは、しないでね……?」

「よくわからないが……善処する」


 フフ、と。

  クアンタが僅かに口から息を漏らした。


「……今、クアンタが……笑った」


 リンナがそう言葉にした時、クアンタは既にシドニア領へと戻る為の準備をする為、部屋から退室していたから、彼女の言葉を聞いていなかった。
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