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第七章
秩序を司る神霊-07
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クアンタはカルファスに指示され、畳の上に正座をした状態で目を閉じ、体内に意識を集中させる。
人間であれば、ただ黙り、漠然とした力の流れにも似た感覚を集中させるだけであろうが、彼女の場合は元々の身体が流体金属で出来ている事もあり、体内に出来た魔術回路、マナ貯蔵庫、そして錬成を行う為に必要な物質変換触媒回路の存在にも気付くことが出来る。
「――血管の様に全身に張り巡らせてあるな」
「それは触媒回路が?」
シドニアの声が聞こえた。恐らくだが、彼も一応錬金術が使役できるが故、クアンタが錬金術を使役できるとなった場合の有用性を確認しておきたいという思惑もあるだろう。
「恐らくそうだ。ただ全身を巡るだけの管、どこの臓器とも繋がる事無く、時に回路同士も繋がっていない場所まである」
「魔術回路とマナ貯蔵庫も分かる~?」
「マナ貯蔵庫は、恐らくココだな。肋骨辺り、しかし形は非常に流動としていて、内臓なり血管なりに影響を及ぼさないようになっている」
「フォーリナーにもそうした臓器はあるのかなぁ?」
「基本は元とした人間の臓器を模している。だからこそ人間と同様の生活を歩めるのだが、機能を停止させても特に支障がない故、現在はそのほとんどを停止してある」
「まぁそうだよねぇ、人間の構造なんか真似ても意味ない事いっぱいあるもん」
「しかし問題はそうした、人間と異なる肉体状態であることにより、オドが正常に放出されるのかという事だな」
錬金術は、人間の肉体から放出されるエネルギーであるオドを用いて使役される技術だ。故に人間と異なる活動を行うクアンタにオドが出せるのか、という疑念がシドニアにはあったが、カルファスは「多分問題無いと思う」と断言した。
「そもそもシドちゃんが相対したマリルリンデだって錬金術も魔術も使役出来ていたんでしょう? ならクアンタちゃんに出来ない理由はないよね」
「――そうか、それもそうだな」
忘れていた、というより『思い出せなかった』という感覚。
シドニアは頭を押さえながら「疲れているのかもしれない」とし、ちゃぶ台近くに座り込む。
「待っててねぇシドちゃん。ちょっと基本だけ教えたら、今日は帰るから。
――クアンタちゃん、触媒回路をイメージしたまま、左手に力を込めて」
カルファスはクアンタの左手に、一つの球体を手渡す。綺麗に形作られた鉄球で、それに触れている左手の触媒回路を認識しつつ、力を込めた。
瞬間、クアンタの中に入り込む、接触からの構成物情報。フォーリナーとして元々持ち得る情報解析能力ではなく、回路を通じて脳に直接情報を叩き込まれたような感覚が、クアンタを襲う。
「コレは」
「錬金術の基本・その一、解析術学。調べたい物質がどういった構造になっているか、どういった分子・量子・霊子情報を持ち得ているか、そうした事を解析する為の力ね」
今脳内に運ばれてきた情報は、そうした解析術の一つであると言う。初心者は触れただけで、それが何かを判断する事に使えればよいとするカルファスだが、質問を一つ。
「例えばアルハットレベルになれば」
「あの子の場合は目で見ただけで、物質の構造までを把握できる。さっきヤエさんが大気中の二酸化炭素をゲレス細工に変換してた時、驚いてたみたいにね」
「空気中に漂う気体までもを視認できるのか?」
クアンタも自身に触れる酸素濃度計測等、出来る事は多いが、しかしアルハットの場合は人間だ。元々、解析能力を持ち得るクアンタと、本来人間が持ち得る筈のない技能というのは違う。
「出来るよ、あの子は出来る。それだけ錬金術に心身を注いできたんだもんね」
「耳が痛い話です」
シドニアが口を挟むが、しかし彼の声色からして、それを後悔している節はなさそうである。
「じゃあ、その解析した物が何か言ってみて」
「鉄材を球体に変化させたモノ、空気や不純物を一切含まない、鉄の塊」
「そうだね。例えばその鉄の塊を使って、何を作りたい?」
「――刃、か」
「ちょっと難しいかもしれないけど、刃をイメージしながら、球体に力を込めて」
言われた通り、何時も見ている刃をイメージした上で、鉄の球体に触れる手へ力を込める。
バチ、と蒼白い火花が発し、鉄球の形を段々と崩していくものの、そのスピードは遅々としたものだ。
五分ほど、力を注ぎ込み続け、ようやくイメージした通りの形になったとクアンタが息を吐く。
用意されていた鉄球の質量分、引き延ばされた鉄の刃。刃は鋭利だが、しかし鉄しか用いていないため、堅牢さは刀に遠く及ばない。
「うん、でも上出来上出来~。今日初めて錬成して、構造解析と物質変換を行えたんだからね」
「しかし、アルハットも神さまも、この程度ならば一秒もかけず」
「比較対象がおかしいって言ってるのー」
クアンタの頬をムニムニと弄りながら、カルファスが不機嫌そうな顔をする。
「クアンタちゃんさ、刀匠を目指してるんでしょ? クアンタちゃんが刀の作り方を覚えただけで、リンナちゃん以上の刀を作れると思う?」
「無理だ」
「何で無理なのかな?」
「お師匠にはそれだけ、経験が培われているからだ。私には経験がない」
「錬金術も魔術も一緒だよ。アルちゃんは数多くいる錬金術師の中でも一番の実力者で、ヤエさんはそんなアルちゃんが認めるレベルの錬金術師だったんだよ?
そんな人たちに、今日錬金術を学んだばかりのクアンタちゃんが並び立てるわけないじゃん」
クアンタが持つ刃の、面に手を付けて、目を閉じたカルファス。
彼女の手から発せられる蒼白い火花が、刃を先ほどまでの球体へと戻していくが、しかし時間は十秒ほど必要だった。
「……ね? 私も一応、数年使って基礎は学んでるの。でも十秒は時間をかけなきゃいけない。アルちゃんやヤエさんがどんだけバケモノなのかって事だよね」
シドニアが僅かに表情を曇らせたが、カルファスはそんな彼へ見向きもせずに「努力に費やした時間と質が成長に繋がるの」と、クアンタの手を取って言い放つ。
「リンナちゃんの刀工技術が一朝一夕に会得できるものじゃないように、錬金術や魔術だって、それまで培ってきた経験や練習によって技量が変わってくる。
――クアンタちゃん、もし貴女がそうした成長を望むのであれば、努力なさい。努力に勝る才能は無いわ」
そう叱ったカルファスの言葉は、真っすぐだった。
クアンタも思わず目を開き、コクリと頷くと、彼女はそこでようやくニッコリと笑い、クアンタの事を抱きしめた。
「でもクアンタちゃんには才能あるよーっ! その調子で錬金術だけじゃなくて魔術も覚えていこうねっ!
私のカルファス領だとそういう教育にも力入れてるし、クアンタちゃんの事ももっともっともーっと知りたいから、今度遊びに来て!? むしろ私が毎日来ようか!?」
「姉さま、霊子移動を安易に使用しないでください」
先ほどまで庭の方に出ていたアルハットが戻り、僅かに変形した鉄球を見据えて「使えたようね」と事態を把握する。
「一日数回、その練習をなさい。そうすれば解析術と物質変換術をスムーズに行えるようになるわ」
「了解」
「ええ、カルファス姉さまの言う通り、貴女には才能がある。だからカルファス領だけでなく、アルハット領にも近々いらっしゃい。そうしたらまた色々と教えてあげる」
庭へと出た五人が、皆皇居へと転移していく姿を見届けながら、クアンタは手を振る。
その手を振り返してくれた皆の姿を見据えて、静かな夜空を見据えた。
……そんな時、誰かが庭へとやってきて、ぜぇぜぇと息継ぎをした後、クアンタへ問う。
「……クアンタ、もしや皆さまはたった今、皇居にお戻りか……?」
「ああ。無駄骨だったなサーニス」
人間であれば、ただ黙り、漠然とした力の流れにも似た感覚を集中させるだけであろうが、彼女の場合は元々の身体が流体金属で出来ている事もあり、体内に出来た魔術回路、マナ貯蔵庫、そして錬成を行う為に必要な物質変換触媒回路の存在にも気付くことが出来る。
「――血管の様に全身に張り巡らせてあるな」
「それは触媒回路が?」
シドニアの声が聞こえた。恐らくだが、彼も一応錬金術が使役できるが故、クアンタが錬金術を使役できるとなった場合の有用性を確認しておきたいという思惑もあるだろう。
「恐らくそうだ。ただ全身を巡るだけの管、どこの臓器とも繋がる事無く、時に回路同士も繋がっていない場所まである」
「魔術回路とマナ貯蔵庫も分かる~?」
「マナ貯蔵庫は、恐らくココだな。肋骨辺り、しかし形は非常に流動としていて、内臓なり血管なりに影響を及ぼさないようになっている」
「フォーリナーにもそうした臓器はあるのかなぁ?」
「基本は元とした人間の臓器を模している。だからこそ人間と同様の生活を歩めるのだが、機能を停止させても特に支障がない故、現在はそのほとんどを停止してある」
「まぁそうだよねぇ、人間の構造なんか真似ても意味ない事いっぱいあるもん」
「しかし問題はそうした、人間と異なる肉体状態であることにより、オドが正常に放出されるのかという事だな」
錬金術は、人間の肉体から放出されるエネルギーであるオドを用いて使役される技術だ。故に人間と異なる活動を行うクアンタにオドが出せるのか、という疑念がシドニアにはあったが、カルファスは「多分問題無いと思う」と断言した。
「そもそもシドちゃんが相対したマリルリンデだって錬金術も魔術も使役出来ていたんでしょう? ならクアンタちゃんに出来ない理由はないよね」
「――そうか、それもそうだな」
忘れていた、というより『思い出せなかった』という感覚。
シドニアは頭を押さえながら「疲れているのかもしれない」とし、ちゃぶ台近くに座り込む。
「待っててねぇシドちゃん。ちょっと基本だけ教えたら、今日は帰るから。
――クアンタちゃん、触媒回路をイメージしたまま、左手に力を込めて」
カルファスはクアンタの左手に、一つの球体を手渡す。綺麗に形作られた鉄球で、それに触れている左手の触媒回路を認識しつつ、力を込めた。
瞬間、クアンタの中に入り込む、接触からの構成物情報。フォーリナーとして元々持ち得る情報解析能力ではなく、回路を通じて脳に直接情報を叩き込まれたような感覚が、クアンタを襲う。
「コレは」
「錬金術の基本・その一、解析術学。調べたい物質がどういった構造になっているか、どういった分子・量子・霊子情報を持ち得ているか、そうした事を解析する為の力ね」
今脳内に運ばれてきた情報は、そうした解析術の一つであると言う。初心者は触れただけで、それが何かを判断する事に使えればよいとするカルファスだが、質問を一つ。
「例えばアルハットレベルになれば」
「あの子の場合は目で見ただけで、物質の構造までを把握できる。さっきヤエさんが大気中の二酸化炭素をゲレス細工に変換してた時、驚いてたみたいにね」
「空気中に漂う気体までもを視認できるのか?」
クアンタも自身に触れる酸素濃度計測等、出来る事は多いが、しかしアルハットの場合は人間だ。元々、解析能力を持ち得るクアンタと、本来人間が持ち得る筈のない技能というのは違う。
「出来るよ、あの子は出来る。それだけ錬金術に心身を注いできたんだもんね」
「耳が痛い話です」
シドニアが口を挟むが、しかし彼の声色からして、それを後悔している節はなさそうである。
「じゃあ、その解析した物が何か言ってみて」
「鉄材を球体に変化させたモノ、空気や不純物を一切含まない、鉄の塊」
「そうだね。例えばその鉄の塊を使って、何を作りたい?」
「――刃、か」
「ちょっと難しいかもしれないけど、刃をイメージしながら、球体に力を込めて」
言われた通り、何時も見ている刃をイメージした上で、鉄の球体に触れる手へ力を込める。
バチ、と蒼白い火花が発し、鉄球の形を段々と崩していくものの、そのスピードは遅々としたものだ。
五分ほど、力を注ぎ込み続け、ようやくイメージした通りの形になったとクアンタが息を吐く。
用意されていた鉄球の質量分、引き延ばされた鉄の刃。刃は鋭利だが、しかし鉄しか用いていないため、堅牢さは刀に遠く及ばない。
「うん、でも上出来上出来~。今日初めて錬成して、構造解析と物質変換を行えたんだからね」
「しかし、アルハットも神さまも、この程度ならば一秒もかけず」
「比較対象がおかしいって言ってるのー」
クアンタの頬をムニムニと弄りながら、カルファスが不機嫌そうな顔をする。
「クアンタちゃんさ、刀匠を目指してるんでしょ? クアンタちゃんが刀の作り方を覚えただけで、リンナちゃん以上の刀を作れると思う?」
「無理だ」
「何で無理なのかな?」
「お師匠にはそれだけ、経験が培われているからだ。私には経験がない」
「錬金術も魔術も一緒だよ。アルちゃんは数多くいる錬金術師の中でも一番の実力者で、ヤエさんはそんなアルちゃんが認めるレベルの錬金術師だったんだよ?
そんな人たちに、今日錬金術を学んだばかりのクアンタちゃんが並び立てるわけないじゃん」
クアンタが持つ刃の、面に手を付けて、目を閉じたカルファス。
彼女の手から発せられる蒼白い火花が、刃を先ほどまでの球体へと戻していくが、しかし時間は十秒ほど必要だった。
「……ね? 私も一応、数年使って基礎は学んでるの。でも十秒は時間をかけなきゃいけない。アルちゃんやヤエさんがどんだけバケモノなのかって事だよね」
シドニアが僅かに表情を曇らせたが、カルファスはそんな彼へ見向きもせずに「努力に費やした時間と質が成長に繋がるの」と、クアンタの手を取って言い放つ。
「リンナちゃんの刀工技術が一朝一夕に会得できるものじゃないように、錬金術や魔術だって、それまで培ってきた経験や練習によって技量が変わってくる。
――クアンタちゃん、もし貴女がそうした成長を望むのであれば、努力なさい。努力に勝る才能は無いわ」
そう叱ったカルファスの言葉は、真っすぐだった。
クアンタも思わず目を開き、コクリと頷くと、彼女はそこでようやくニッコリと笑い、クアンタの事を抱きしめた。
「でもクアンタちゃんには才能あるよーっ! その調子で錬金術だけじゃなくて魔術も覚えていこうねっ!
私のカルファス領だとそういう教育にも力入れてるし、クアンタちゃんの事ももっともっともーっと知りたいから、今度遊びに来て!? むしろ私が毎日来ようか!?」
「姉さま、霊子移動を安易に使用しないでください」
先ほどまで庭の方に出ていたアルハットが戻り、僅かに変形した鉄球を見据えて「使えたようね」と事態を把握する。
「一日数回、その練習をなさい。そうすれば解析術と物質変換術をスムーズに行えるようになるわ」
「了解」
「ええ、カルファス姉さまの言う通り、貴女には才能がある。だからカルファス領だけでなく、アルハット領にも近々いらっしゃい。そうしたらまた色々と教えてあげる」
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その手を振り返してくれた皆の姿を見据えて、静かな夜空を見据えた。
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