魔法少女の異世界刀匠生活

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第十二章

進化-07

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 カルファス領の離れに存在する禁錮室は、特殊合金製の扉によって閉ざされている他、魔術的な保護が成された特殊な空間である。

  簡単に言えば、登録がされた物体・液体・気体の入退室は可能だが、入退室のどちらかしか登録されていない、もしくはどちらも登録されていない場合は、それらの侵入や脱出が許されない。

 現在登録されているのは、入退室含め各皇族五人と、クアンタの生態データ。入室だけが許可されているのは、中に収容されている餓鬼。退室だけの許可は、一酸化炭素や二酸化炭素などの有毒な性質を持つ気体だけであるが、しかしそうした細やかな登録故に、通常は脱出の方法等存在しない。


  ――しかも現在は、餓鬼の持つ能力が及ばない、水によって身体を覆われてしまっている。床から天井に伸びる水柱の中で、水圧によって動く事が出来ない状態では何もできない、と唇を噛んだ彼女を嘲り笑う音が、水中の反響にも負けずに聞こえて来た。


「やぁ餓鬼。君、随分と手ひどくやられたようだね」


 餓鬼の全身に奔る水膨れの痕は、カルファスに流された電流によって作られたものだ。こうした表面上の傷などに大した意味は無いが、感覚を持ち得る彼女達には、傷を癒す治癒能力がある。

  だが今は、そうした能力を発揮する事も出来ずにいるし、声も水内故に発する事が出来ない。

  目の前にいる、餓鬼にも少年なのか少女なのかが分からぬ子供であり、同じく災いである暗鬼が微笑みながら手を振っている。


「ああ、侵入方法? ボク達災いってさ、結局身体を構成する影は同じだろう? だからボクが入るだけなら、君の登録がされているだけで十分なんだよ」


 そんな事は聞いていないと思いつつ、しかし反応を見せれば暗鬼を喜ばせるだけだ。


「しかし……本当に君は分かりやすいよね。なんたってここまでボクの想定通り動いてくれるんだもん」


 ――今、なんて言った?


  餓鬼は目を見開きながら、そう言葉を発した暗鬼へと目線で訴えかける。暗鬼にどう思われようが知った事ではないが、今の言葉は無視できない。


「名有りの災いについて、どうしてか皇族の連中は知り得ていた。その対処法が、リンナの打つ刀である事もね。

 そうなった時の人間は非常に脅威であり、面倒だ。数ばかりは多いし、中には優秀な奴もいる。

  ――しかしだからこそ使える戦術というのがあってね、ボクは君をその為に利用したんだ」


 ――利用した? バカな、アタシは何も、お前に言われて行動した事などない。嘘をつくな。


  声にならない叫びを水中で放つも、暗鬼はクククと笑みを浮かべ続けるだけだ。


「だから、君は分かりやすいと言ったんだよ。そりゃあ準備に時間がかかった事は勿論だけれど、時間をかければかける程、あのシドニアやアメリアが防備を厚くする手筈を整えない筈がない。本来なら早々に動くのが吉だったはずだろう?

 でもそれ以上に、君をそれだけ焦らしていけば、何時かは暴走して勝手に動くと見込み、そして君が動いてこうして捕まれば、カルファス達は捕らえた君に尋問を施す為、警備の薄い場所で動かざるを得ない。

  ――そこを一網打尽にする計画を企てた。君はその為に捕まってもらっただけなんだよ」


 餓鬼は、確かに自分自身、頭が良いと考えたことは無い。直情的だとも思うし、直感で行動するタイプであると自覚している。

  だが、だからと言って利用されるだけというのは気分が悪い。

  殺す、暗鬼の奴を殺す、と呪詛の言葉を、聞こえない筈なのに、ゴボゴボと水泡を浮かばせながらも放ち続ける。


  ――そうした瞬間に、気付いた。


  餓鬼の持つ能力は『あらゆる物体を炎へと置き換える能力』である。

  故に液体である水を炎へと置き換える事は出来ないが――しかし、この水中には、炎へと置き換える事が出来る物があるじゃないか。


  そう……自分の身体だ。


  自身の胸に手を置いて、抉る様に肌を爪で切り裂く。

  災いである彼女には血などない。だが、そうして自分の身体に傷をつける事で「ここに物質がある」と認識出来れば、自身だって燃やす事は出来るのだ。


  ――水の中で炎を燃やす、何とも可笑しな感じがしたが、しかし彼女の判断は誤りでは無かった。


  急激な熱へと成り代わった餓鬼の身体による熱が、数千度を超えた瞬間、炎に触れていた水が瞬間的に蒸発し、はじけ飛ぶ。

  それは水蒸気爆発と言っても差し支えない、禁錮室を焦げさせる程の衝撃。

  グラグラと揺れる皇居の振動を感じながら、物陰に隠れながら影化していた暗鬼は笑いかけ「死んだ?」と何もない空間に問いかける。


『冗談じゃねぇ――お前を殺すまで、アタシ死なない事にしたわ』


 未だに禁錮室の中で燃える炎が、揺らめいた。

  炎の影から分離するように現れた、一人の少女。

  それは今、自身の身体を炎へと変換させて消滅した筈の餓鬼であり――彼女は復活と同時に身体の水膨れ等も再生した状態で、暗鬼の胸倉を掴んだ。


「良かったね。ボクのおかげで自分の身体を燃やせるっていう事を覚えたんだよ。言うならば君は進化出来たんだ、感謝してほしい位だ」

「ああ、感謝してやるよ。だからお前はこの場では殺さない。カルファスをぶっ殺して、愚母ママに良い報告が出来るようになってから皆の前でぶっ殺してやる……ッ!」


 精いっぱいの力で暗鬼の身体を突き飛ばした餓鬼。

  彼女は、怒りをそのまま心中に残した状態で――禁錮室の壁に触れた、その瞬間の事だ。


  カルファス領皇居の、広く高い洋館の風貌が、瞬時に、一瞬の内に姿を消し、代わりに数千度の熱を持つ炎へと置き換えられた。

 轟々と燃え盛る炎の中、平然と立ち尽くす二者の災い。


  ――否、二者だけではない。


  今、炎をかき分けながら歩み寄ってくる二者の災いもまた、彼女達の横に並び立った。


 長い黒髪を降ろし、その微睡んでいるような目付きをした災い・豪鬼。

 そのスキンヘッドと右目にある傷痕、そして蓄えられた口ひげが印象強い災い・斬鬼。


「……おい、暗鬼……作戦、失敗じゃないか?」


 ボソボソとした小声で……否、豪鬼にとっての全身全霊を以て放たれた声が暗鬼に届く。


「カルファス、寸での所で霊子移動して、逃げていったぞ……?」

「あーらら。まぁ今ので死ぬとは思ってなかったけどさぁ、ちょっとは手傷を加えられると思ったんだけどねぇ」

「カカ、しかしそうした相手であればこそ好敵手たり得る、という物よ」


 そうした事実を喜ぶようにして高笑う斬鬼の声が、より鬱陶しく聞こえた餓鬼はチッと聞こえる舌打ちをして――今、目の前を見据えた。


「それより……この状況は、暗鬼の想定通りって奴なのか……?」

「そうじゃのぉ。それは吾輩らも聞きたい所じゃて――久しいではないか、豪鬼とやら」


 二撃の衝撃波が、餓鬼たち四体の身体を横切り、炎をかき消すように放たれた。

  まだ辺りに点在する炎、しかし延焼を決して気にする事無く、炎の向こう側にいた五人の男女を、見据える。


 イルメール・ド・ラ・レアルタ。

  アメリア・ヴ・ル・レアルタ。

  シドニア・ヴ・レ・レアルタ。

  アルハット・ヴ・ロ・レアルタ。

  サーニス。


  四人の皇族と、皇族たちの認める一人の剣豪が、今災い達……五災刃の前に立ちはだかり、アメリア以外がそれぞれの獲物を構えた。


「……誰か、サーニスの相手頼む……オレは、サーニスとやりたくないぞ」

「オイ、サーニス。オメェ随分アイツに嫌われてるみてェじゃねェか」

「ええ、イルメール様のお手を汚すに相応しくない輩です。奴には悪いと思いますが、自分が相手を致します」

「やぁアルハット、また会ったね」

「暗鬼、貴方にはそれなりに借りがあるの。その借りを返させて頂戴な」

「何とも良き状況ではないか。名だたる剣豪、名立たる強者がこの場に集うておる。……くあんた殿がおらぬのが不満ではあるがな」

「シドニア、気を付けぃ。こ奴らはクアンタどころかサーニスとも対等に渡り合っておるでのぉ」

「ご心配なく姉上――私も剣士の一人として、人に仇成す物の怪を倒す事に執着があるのでね」

「……もうカルファスがどうとかメンドクセェ! 全員ブチ燃やすッ!!」


 既にゴルタナを起動し、その外装を展開していたシドニアが、一振りの剣と、一刀の刃を構えた事が、開戦の合図となった。

  
  アメリアが一歩下がり、他の面々が一斉に地を蹴って駆け出して、それぞれが敵と認識する者たちへ襲い掛かる事により、そこは一瞬で火災現場から、戦場に切り替わったのだ。
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