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第十二章
進化-11
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リンナの手を引いて走りながら、カルファスは戦闘中と思われるカルファス領皇居跡へ一つの魔導機を投げた。
遠見、とまではいかないが離れた場所の状況を判断できる【認識鳥】と呼ばれる魔導機で、数や姿は捕らえる事は出来ずとも、そこに何があるかを情報だけ捉え、捉えた情報をカルファスの脳に直接叩き込んでくる。
(人の形をした数は八……シドちゃん達やサーニスさんが五人と仮定して、残る敵の数が三。
五災刃の内、母体という巣から出てこない一体を除いた全員で来ていると言う事。
数の利としてはこっちの方が有利、クアンタちゃんの言うように、リンナちゃんをこっちに連れて来たのは正解だったかもしれない)
もう識別鳥を使う必要も無い距離にまで来れた。
「シドニアさん達だ!」
声を挙げるリンナの言葉に頷きながら、状況を判断する。
現在イルメールと長身の男性が戦っているが、イルメールの動きは少々遅い。恐らく事前に情報が回っていた重力を操作できる豪鬼であり、現在イルメールは豪鬼による重力操作の影響を受けていると考えられる。
そしてサーニスの振るうレイピアと刀の二刀流を防ぎ、攻撃へ転じる、またも大柄で口髭を蓄えた男性は風貌からして斬鬼であろう。サーニスと一騎打ちで、対等に渡り合えているその技量は素晴らしい。
最後に、アルハットが攻撃をやり過ごしている相手が餓鬼である。
現在周囲には木々しかなく、また距離を置く事に専念しているアルハットは、攻め切る事はできていないが、しかしそれで良いと言わんばかりに彼女の投げる炎を避け、水銀錬成による攻撃で彼女の集中力を乱している。
(シドちゃんとアメちゃんの二人が手空きなら、リンナちゃんの護衛はシドちゃんに任せられるし、私がクアンタちゃんの回収に行ける!)
状況はこちらの方が有利。僅かに笑みを浮かべたカルファスだが――そこで、思わず足を止めてしまう。
「……アレ……?」
何か、何かがおかしい。
何か思い違いを、何か忘れているような気がしてならない。
「カルファス様?」
不意に足を止めたカルファスの背にぶつかったリンナが、鼻を押さえながら首を傾げた瞬間の事だった。
「――シドニアッ!! リンナだけでも守るのじゃッ!!」
「分かっている――ッ!!」
装備しているゴルタナの機動性を最大限に活かし、疾くこちらへと駆け出してくるシドニアの姿と、今アメリアが血相を変えて叫ぶ声を聞き、そこでカルファスは思い出す。
――そうだ。敵は母体を除く三体ではない。
――もう一体いる。
そう認識した瞬間、カルファスは思わず手に握るリンナを乱雑に投げ飛ばし、自身から遠ざけると共に、その懐に入れていた4.5世代型デバイスを、彼女へと放り投げた。
――グホッ、と。
自身の口から噴き出される溢すような声と血。
背中から突き付けられ、胸元に貫通する、小さな手がカルファスの血をベットリと纏わせ、今引き抜かれた。
「ハハ、作戦成功」
声が聞こえる。
声は、男なのか女なのかを判断できぬ程のハスキーボイス。
力の入らぬ膝を地面へ付け、尚も視線を背後に向けたカルファスは、その事前に聞いていた暗鬼と呼ばれる災いの風貌と、自身の背後にいる子供の風貌が一致する事に、納得した。
「……暗、鬼……ちゃん……? くん……? どっち、かな……?」
「どっちでもないよ。ボクはボク、どうしても性別を呼びたいなら、ボクにイチモツついてるかどうかだけ想像すればいいんじゃない? 不毛な事だけれど」
シドニアが、カルファスに投げ飛ばされて地面へとうつ伏せるリンナの眼前に立ち、剣と刀を一本ずつ構える。
暗鬼に斬りかかり、すぐにカルファスを救うよりも、リンナの安全を確保する方が優先だと分かってはいるが、しかし納得が出来ないと言わんばかりに、表情を歪めながら。
「カルファス姉さま――ッ!」
声を荒げ、カルファスへと視線を向けようとしたアルハット。
だが、その彼女の隙を見逃すほど、餓鬼も子供ではない。
伸ばされた餓鬼の腕、しかしアルハットは寸での所でそれを避けたものの、彼女の腕にまとわりつく炎が王服と、僅かに腹部を焼いて、表情を苦痛で歪ませると、餓鬼はようやく狂気の笑みを浮かべた。
「ようやく考え事止めるようになった!?」
「ク――ゥッ!!」
焼かれた腹部を押さえながらも水銀を操作し、今まさにアルハットへと触れようとした餓鬼の手を遮る。
水銀は餓鬼がどう判断するかは分からなかったが、分類としては液体にカテゴライズされたようで、触れても炎へと置き換えられる事は無かったが、しかしだからと言って安心できる筈はない。
距離を開く為に地を蹴って、しかしカルファスの安否が不明で安心できぬアルハットは、歯軋りしながら懐に備えていた脇差【ゲッカ】を抜き、その切先を餓鬼へと向け、牽制する。
そして、カルファスにとっては唯一の姉であるイルメールと対峙する豪鬼が、二十倍の重力が圧し掛かっても尚素早いイルメールの振り込んだ拳を避けつつ、彼女の身体を抑え込みながら問う。
「……おい、カルファスが大変だぞ。イルメールは、気にしなくていいのか?」
「黙れ」
「妹、なんだろう……? オレ達、災いにはあんまり、よくわかんない概念だけどさ」
「黙れッつってンだよ。今はオレとオメェの殺し合いだ。アイツにかまけてる余裕があるたァ、オレも甘く見られたモンだ……ッ!」
普段の彼女よりは遅い、しかし常人にとっては素早く、腰の入った二撃の拳を、何とか掌底で受け流しつつ、イルメールの顔面へ向けて肘で打ち込む。
僅かによろめくイルメールだが、彼女は尚も視線を、カルファスへと向けない。
「……なるほどな、人間は、そこまで肉親にも興味を持てないって事か」
「ハッ、違ェよ」
「なに?」
「アイツがただ死ぬ事はねェって、姉ちゃん信じてるからな。オレが下手に手ェ出すよりも、姉ちゃんとして妹のジシュセーって奴を尊重してるだけのこった。
……まぁ、マジで死んでたら、オメェ等は全員オレがブチ殺す。
死ねねェ事を後悔する程に痛めつけて、人間なら何百回と死んでるレベルの目に合わせて、懺悔と後悔を垂れ流させてヤるさ……ッ!」
そうして豪鬼と殺し合いを継続するイルメールの期待へ応えるように、遠退いていく意識の中で、カルファスは血を可能な限り口から吐き出した後、ゆっくりと立ち上がり、ふらつく頭を何とか制御しつつ、暗鬼へと問う。
「……暗鬼、ちゃん……貴方の、能力……分かった」
「ほう?」
「貴方は……記憶、というより……脳の、制御に障害を、引き起こす能力……でも、それは貴方の、能力に……キャパシティがあって……記憶障害、程度なら……五人まで可能、ってだけ……っ」
「ふふ、こんな時まで自分の関心・興味かぁ。尊敬するよカルファス。
ああ、そんな君に敬意を払って、お答えするとしたら『その通り』だよ。
ボクの力は基本的に脳の制御に障害を引き起こす能力で、記憶の短期障害はその一例でしかない。
君に行ったのは、君の中から『ボクという存在を認識出来ないようにする』という制御障害でね。短期の記憶障害よりはキャパシティを使うけれど、ボクの存在を綺麗さっぱり記憶から無くすだけじゃなく、ボクを見ても認識できない。思い出す為のトリガーが、他人にボクの名前や能力を聞いたりしないと取り戻しようがない、という事だ。便利だろう?」
暗鬼は、事前にカルファスへ「暗鬼という存在の認識を出来ないようにする」能力を付与した。これに使用する能力キャパシティは六割ほど。
そしてシドニアやアメリアには一瞬、短期の記憶障害を起こせれば、暗鬼がカルファスに近づき、背後を取るまでに必要な時間を稼ぐことが出来る。これに使用する能力キャパシティは一人二割ずつの計四割ほど。
合計で十割、キャパシティを全部使いきった形である。
かくして彼が持つ脳制御障害能力は、キャパシティ的に広範囲の人数に適用は難しい。だが、少人数であれば、そうした認識能力にも障害を与える事も出来る。
まさに、戦闘ではなく暗殺向きの能力。
――何時から消されていたか。
それは恐らく、災い達が潜めていた期間、それも時間経過と共に皇族同士の連携が薄まってしまう最近だっただろう。
謎に思っていたのだ。
状況は彼らの方が特異性を持ち得ている故に有利。その状況で人間たちの防備を強化させる時間を、与える必要があるのか、と。
――しかし、彼らにとっては人間の防備など取るに足らない事である。
それよりも、カルファスという災いにとっても大きな脅威となり得る駒を確実に殺す事の方が優先だっただけ。
遠見、とまではいかないが離れた場所の状況を判断できる【認識鳥】と呼ばれる魔導機で、数や姿は捕らえる事は出来ずとも、そこに何があるかを情報だけ捉え、捉えた情報をカルファスの脳に直接叩き込んでくる。
(人の形をした数は八……シドちゃん達やサーニスさんが五人と仮定して、残る敵の数が三。
五災刃の内、母体という巣から出てこない一体を除いた全員で来ていると言う事。
数の利としてはこっちの方が有利、クアンタちゃんの言うように、リンナちゃんをこっちに連れて来たのは正解だったかもしれない)
もう識別鳥を使う必要も無い距離にまで来れた。
「シドニアさん達だ!」
声を挙げるリンナの言葉に頷きながら、状況を判断する。
現在イルメールと長身の男性が戦っているが、イルメールの動きは少々遅い。恐らく事前に情報が回っていた重力を操作できる豪鬼であり、現在イルメールは豪鬼による重力操作の影響を受けていると考えられる。
そしてサーニスの振るうレイピアと刀の二刀流を防ぎ、攻撃へ転じる、またも大柄で口髭を蓄えた男性は風貌からして斬鬼であろう。サーニスと一騎打ちで、対等に渡り合えているその技量は素晴らしい。
最後に、アルハットが攻撃をやり過ごしている相手が餓鬼である。
現在周囲には木々しかなく、また距離を置く事に専念しているアルハットは、攻め切る事はできていないが、しかしそれで良いと言わんばかりに彼女の投げる炎を避け、水銀錬成による攻撃で彼女の集中力を乱している。
(シドちゃんとアメちゃんの二人が手空きなら、リンナちゃんの護衛はシドちゃんに任せられるし、私がクアンタちゃんの回収に行ける!)
状況はこちらの方が有利。僅かに笑みを浮かべたカルファスだが――そこで、思わず足を止めてしまう。
「……アレ……?」
何か、何かがおかしい。
何か思い違いを、何か忘れているような気がしてならない。
「カルファス様?」
不意に足を止めたカルファスの背にぶつかったリンナが、鼻を押さえながら首を傾げた瞬間の事だった。
「――シドニアッ!! リンナだけでも守るのじゃッ!!」
「分かっている――ッ!!」
装備しているゴルタナの機動性を最大限に活かし、疾くこちらへと駆け出してくるシドニアの姿と、今アメリアが血相を変えて叫ぶ声を聞き、そこでカルファスは思い出す。
――そうだ。敵は母体を除く三体ではない。
――もう一体いる。
そう認識した瞬間、カルファスは思わず手に握るリンナを乱雑に投げ飛ばし、自身から遠ざけると共に、その懐に入れていた4.5世代型デバイスを、彼女へと放り投げた。
――グホッ、と。
自身の口から噴き出される溢すような声と血。
背中から突き付けられ、胸元に貫通する、小さな手がカルファスの血をベットリと纏わせ、今引き抜かれた。
「ハハ、作戦成功」
声が聞こえる。
声は、男なのか女なのかを判断できぬ程のハスキーボイス。
力の入らぬ膝を地面へ付け、尚も視線を背後に向けたカルファスは、その事前に聞いていた暗鬼と呼ばれる災いの風貌と、自身の背後にいる子供の風貌が一致する事に、納得した。
「……暗、鬼……ちゃん……? くん……? どっち、かな……?」
「どっちでもないよ。ボクはボク、どうしても性別を呼びたいなら、ボクにイチモツついてるかどうかだけ想像すればいいんじゃない? 不毛な事だけれど」
シドニアが、カルファスに投げ飛ばされて地面へとうつ伏せるリンナの眼前に立ち、剣と刀を一本ずつ構える。
暗鬼に斬りかかり、すぐにカルファスを救うよりも、リンナの安全を確保する方が優先だと分かってはいるが、しかし納得が出来ないと言わんばかりに、表情を歪めながら。
「カルファス姉さま――ッ!」
声を荒げ、カルファスへと視線を向けようとしたアルハット。
だが、その彼女の隙を見逃すほど、餓鬼も子供ではない。
伸ばされた餓鬼の腕、しかしアルハットは寸での所でそれを避けたものの、彼女の腕にまとわりつく炎が王服と、僅かに腹部を焼いて、表情を苦痛で歪ませると、餓鬼はようやく狂気の笑みを浮かべた。
「ようやく考え事止めるようになった!?」
「ク――ゥッ!!」
焼かれた腹部を押さえながらも水銀を操作し、今まさにアルハットへと触れようとした餓鬼の手を遮る。
水銀は餓鬼がどう判断するかは分からなかったが、分類としては液体にカテゴライズされたようで、触れても炎へと置き換えられる事は無かったが、しかしだからと言って安心できる筈はない。
距離を開く為に地を蹴って、しかしカルファスの安否が不明で安心できぬアルハットは、歯軋りしながら懐に備えていた脇差【ゲッカ】を抜き、その切先を餓鬼へと向け、牽制する。
そして、カルファスにとっては唯一の姉であるイルメールと対峙する豪鬼が、二十倍の重力が圧し掛かっても尚素早いイルメールの振り込んだ拳を避けつつ、彼女の身体を抑え込みながら問う。
「……おい、カルファスが大変だぞ。イルメールは、気にしなくていいのか?」
「黙れ」
「妹、なんだろう……? オレ達、災いにはあんまり、よくわかんない概念だけどさ」
「黙れッつってンだよ。今はオレとオメェの殺し合いだ。アイツにかまけてる余裕があるたァ、オレも甘く見られたモンだ……ッ!」
普段の彼女よりは遅い、しかし常人にとっては素早く、腰の入った二撃の拳を、何とか掌底で受け流しつつ、イルメールの顔面へ向けて肘で打ち込む。
僅かによろめくイルメールだが、彼女は尚も視線を、カルファスへと向けない。
「……なるほどな、人間は、そこまで肉親にも興味を持てないって事か」
「ハッ、違ェよ」
「なに?」
「アイツがただ死ぬ事はねェって、姉ちゃん信じてるからな。オレが下手に手ェ出すよりも、姉ちゃんとして妹のジシュセーって奴を尊重してるだけのこった。
……まぁ、マジで死んでたら、オメェ等は全員オレがブチ殺す。
死ねねェ事を後悔する程に痛めつけて、人間なら何百回と死んでるレベルの目に合わせて、懺悔と後悔を垂れ流させてヤるさ……ッ!」
そうして豪鬼と殺し合いを継続するイルメールの期待へ応えるように、遠退いていく意識の中で、カルファスは血を可能な限り口から吐き出した後、ゆっくりと立ち上がり、ふらつく頭を何とか制御しつつ、暗鬼へと問う。
「……暗鬼、ちゃん……貴方の、能力……分かった」
「ほう?」
「貴方は……記憶、というより……脳の、制御に障害を、引き起こす能力……でも、それは貴方の、能力に……キャパシティがあって……記憶障害、程度なら……五人まで可能、ってだけ……っ」
「ふふ、こんな時まで自分の関心・興味かぁ。尊敬するよカルファス。
ああ、そんな君に敬意を払って、お答えするとしたら『その通り』だよ。
ボクの力は基本的に脳の制御に障害を引き起こす能力で、記憶の短期障害はその一例でしかない。
君に行ったのは、君の中から『ボクという存在を認識出来ないようにする』という制御障害でね。短期の記憶障害よりはキャパシティを使うけれど、ボクの存在を綺麗さっぱり記憶から無くすだけじゃなく、ボクを見ても認識できない。思い出す為のトリガーが、他人にボクの名前や能力を聞いたりしないと取り戻しようがない、という事だ。便利だろう?」
暗鬼は、事前にカルファスへ「暗鬼という存在の認識を出来ないようにする」能力を付与した。これに使用する能力キャパシティは六割ほど。
そしてシドニアやアメリアには一瞬、短期の記憶障害を起こせれば、暗鬼がカルファスに近づき、背後を取るまでに必要な時間を稼ぐことが出来る。これに使用する能力キャパシティは一人二割ずつの計四割ほど。
合計で十割、キャパシティを全部使いきった形である。
かくして彼が持つ脳制御障害能力は、キャパシティ的に広範囲の人数に適用は難しい。だが、少人数であれば、そうした認識能力にも障害を与える事も出来る。
まさに、戦闘ではなく暗殺向きの能力。
――何時から消されていたか。
それは恐らく、災い達が潜めていた期間、それも時間経過と共に皇族同士の連携が薄まってしまう最近だっただろう。
謎に思っていたのだ。
状況は彼らの方が特異性を持ち得ている故に有利。その状況で人間たちの防備を強化させる時間を、与える必要があるのか、と。
――しかし、彼らにとっては人間の防備など取るに足らない事である。
それよりも、カルファスという災いにとっても大きな脅威となり得る駒を確実に殺す事の方が優先だっただけ。
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