魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート

文字の大きさ
155 / 285
第十五章

母親-07

しおりを挟む
 自分の子供が幸せに暮らしていける世界。

  それは、確かに単純で、母親である彼女が願う世界なのかもしれない。


「……ルワンよ。それがどれだけ、シドニアやリンナに対し、身勝手すぎる願いか、理解しておるのか?」


 だが、だからこそ――アメリアは問わずにいられなかった。


「そうじゃ。確かに主が願った夢は、過ちではないやもしれんな。美しい夢やもしれなんだ。

 じゃが、主の願いは、あくまで願いで終わってしまうのじゃ。行動せぬ者に、結果など伴わぬ。

 シドニアは今までも皇族としてあらゆる戦いに身を投じて来た。そしてこれからは次期皇帝の座を争う立場になるわけじゃ。

  リンナは、今まで刀匠として暮らしてきたにも関わらず、災いによる争いが起こってしまった今、主の血を継ぐ姫巫女の一人として、どういう形であれ、戦わなければならぬのじゃ。

  主がせねばならんかったのは、そうした自分の願いを押し付ける事や、願いの正しさに己惚れる事ではなく、母として二人と語らい、導いていく事であったと――それを理解しておるのか?」

「今はね。……でも、気付いた時には、もう遅かった」


 その事に気付いた時、彼女はもうこの檻の中であった。

  故にこの夢は、二度と誰にもいう事なく、ただ願いとして記憶に封印し、何時の日か消え去る事である。


 ――そう、消え去る筈であった。


「ナァ、ルワン。オメェにもう一つ、聞きてェ事がある」

「何かしら、マリルリンデ」

「もし、オメェの願い……つまり『自分のコドモが幸せに暮らせる世界』ッつー夢物語を、オレが一緒に叶えてやるッて言ッたら、どうする?」


 アメリアも、サーニスも、ただマリルリンデの言葉に驚き、というよりは困惑していたが――しかしマリルリンデへと視線を向けたルワンは、彼がポケットから取り出した、一つの指輪を見据え、何かを察したように目を伏せる。


「……そう、貴方が災いを使役していると聞いて、驚いていたけれど……貴方は『怒り狂っている』のね」

「アァ。この世界は、オメェやオレが戦って、守ってきた世界から、何も進化してねェ。むしろ退化してる気がしてならねェヨ。


 オレ達は世界を守ッた……救ッたンだゼッ!?

  なのにヨォ、ヴィンセントの野郎はオレらのやった事は当たり前のコトで、後世に残すワケにャいかねェとかホザき、オメェやガルラの存在を、記録から消したッ!!


  オレは、ただそれが許せねェ……ッ!!」


 マリルリンデは、その親指の爪に指輪を乗せ、ピンと弾くことで、ルワンへと投げた。

  それを空中で受け取ったルワンは、右手の中指にそれを付けると、右手を左手で包むように――彼から与えられた指輪の力を感じ、目を閉じた。


 ――その指輪には、マリルリンデの込めた怒りが、込められていたのだろう。

 ――彼女はその指輪から虚力を感じ取り、一筋の涙を流す。


「もし、貴方についていったら、この世界をどうするつもり?」

「どうしてやろうかねェ。オレは全部ブッ壊すつもりだッたが、オメェの望む世界にするなら、人間を全員滅ぼす必要はねェ。


 ――ッつーのも、悪くねェ気がするな」

「……そうね。ええ……それをシドニアが望んでいるのなら……それも良いのかも、しれないわね」


 二人が何を言っているのか、シドニアにもサーニスにも理解は出来ていなかったが、アメリアは何かを察するかのように声を上げた。


「もしや、ルワン……主は、マリルリンデの野望に加担するつもりかッ!?」

「シドニアが望むのならば、それも良いかもしれないって言ったでしょう? アメリアちゃん」


 立ち上がったルワンが椅子を乱雑に倒し、牢から一歩身を引いて――その右手の中指に装着した指輪へ力を込めた。

  透明な輝きを放つ宝石を埋め込まれた指輪が、僅かに発光している。

  その光は――リンナが魔法少女に変身する時と、同じ力を有しているように、サーニスは感じた。


「――【】」


 その場にいる誰もが理解できていなかったが、彼女の放った言葉は、クアンタやリンナが変身する時と同じく、放たれた言葉だった。

 左掌に、指輪を強く押し付けたルワンと、彼女の言葉に合わせて、光がさらに強まった。

  彼女の全身を包み込む程の光が凝縮すると、爆発するように風を辺りにまき散らせ、シドニアやサーニス、アメリアの視界を遮った。

  風が収まり、恐る恐る目を開いた瞬間。

  そこには、白衣と緋袴を着込み、本来は銀髪のロングヘアである髪の毛を黒に染め、更には長丈で一つ結びにまとめらている、麗しい女性の姿があった。


  女性はその腰に備えていた長太刀を一瞬で抜き放つと、刃を二振り、目にも留まらぬ速さで振り抜き、その鉄格子を切り裂き、悠々と身体を檻から外界へと出したのだ。


「母さん……その、力は……マホーショージョ……?」


 災滅の魔法少女・リンナのように、彼女の姿は麗しい巫女の姿をしていた。

  だが、彼女は首を横に振り、その胸に手を当てながら、シドニアに返事をした。


「私は、姫巫女・ルワン。

 かつてこの力で、マリルリンデと共にこの世界を救った、英雄よ」


  人ひとり分程の長さを有した長太刀の柄を、強く握り締めたルワンの身体が、疾く動いた。

  防衛反応として動いていたサーニスの刀と、ルワンの長太刀が刃を合わせると、鋼同士の衝突音が遅れて響き、互いに刃を引いて下がると、そのまま二撃目へと移る。

  刀と刀の衝突音が、何度も何度も響く中。

  シドニアは決して刀を、剣を抜けなかった。

  部下であるサーニスと、母であるルワンが戦う理由が、分からなかった。理解できなかった。

  しかしそこで、二者の間を抜けるようにしてシドニアへと近づくマリルリンデが、手を伸ばす。


「シドニア。オメェの母親、ルワンはオレと一緒に来るらしいゼ」

「そんな……そんなバカな……!」

「オレの目的は、オメェやリンナを含めたこの世界を、ただブッ壊す事だッたけどヨォ、オメェやリンナが幸せに暮らせる世界ッてヤツをアイツが欲しがッてンなら、オレはソレを叶えてやりてェ。


 シドニア。ナァ、一緒に来い。


  オメェが求めてた願い、母親からの愛情や、選民思想ッて奴は――オレの手を取ッたら叶うンだゼ?」

    
  **
  
  
  のらりくらりだ、と。ワネットは目の前で刀を構えるマリルリンデをそう評価した。

  互いに汗一つかかずに、互いの攻撃をやり過ごすだけの攻防。

  ワネットはマリルリンデを仕留めたいが、しかしマリルリンデは違い、彼女をただかく乱し、時間稼ぎをしたいだけにしか思えなかった。


「……貴方、ルワン様への謁見はよろしかったので?」

「アァ、今してるゼ? オレの分離体がな」


 平然とそう言い返した彼の言葉に、ワネットは思わず動きを止めてしまった。

  しかし彼はその隙を見計らってか、ワネットの振るった神殺短剣を持つ手に刀の棟を叩きつけ、叩き落とし、ワネットの腹部に蹴りつける事で、彼女は蹴り飛ばされてしまう。

  その結果、彼女達の周囲に展開されていた結界が解除され、ただ見ている事しかできなかった警兵隊の面々がようやくそこで突入出来る事を確認。先ほどまで見せられていた力量に慄きながらも、しかしバスタードソードを抜き、マリルリンデを囲むようにした。


「う、動くな!」


 その中の一人が代表して叫ぶと、マリルリンデは乱雑に刀を放り投げた。

  刀は青白い光と共に消えていき、彼は手ぶらの状態で両手を上げ、無抵抗を表明したのだ。

  警兵隊の面々は抵抗しない事に驚いたような表情をしつつも、少しずつ彼へと近付いていくが。


「アー……警兵隊諸君、逃げた方がいいゼ」


 突然彼はそう言って、上空を見据えた。


「な、何を言っている?」

「何って――殺されるゼ? オレも含めて全員、まとめてなァ」


 瞬間。

  マリルリンデや彼を囲む警兵隊を押しつぶすように、何かが空から降ってきた。

  それは、光一つ刺し込まない、球体だった。

  人を二人ほど呑み込めるサイズの球体がマリルリンデの真上から落下し、地面へとめり込むと、その球体が人型へと変形していく。


「っ、……な……何……!?」


 長く黒い髪の毛を下ろした女性の姿に、ワネットが思わず声を上げた。

  その顔立ちや身体は整い、神秘なる美貌を有していると表現してもよいが、その中で一番目を引いたのは、未だにグニョグニョと蠢く、彼女の腹部だ。

  妊婦のように膨らんだ腹は、まるで中の赤子が暴れまわっているかのように腹の形を変えていったが――しかし時間経過と共にそれは収まって、綺麗なぽっこりとした丸みを帯びると、ようやく女性がその腹を撫でる。


「よしよし。いい子ですわね」


 妊娠中の子供を愛でる様に腹を擦る女性の姿が、ワネットには不気味にしか思えなかった。

  すぐに立ち上がり、神殺短剣を一本握り締めて構えると、そこで黒髪の女性が、ワネットへと向き直った。


「ワネット・ブリティッシュちゃん……で良いかしら?」

「……ええ、その通り。ですがわたくしは、貴女の事を知りませんよ、妊婦様」

「うふふ、そうね。そうだったわ。貴女のお仲間にも会った事は無いもの。知るはずないですわよね。


 ――わたくしは【愚母】。五災刃の一刃にして、この世界に終焉と再生をもたらす、全の母となる者ですわ」


  彼女――愚母がそう名乗りを上げた瞬間。

  彼女の背後に、ヒラヒラと布の様な形状をした影が無数に顕現され、一瞬の内にその一つが、ワネットの胸部へと目掛けて突き出されたのだ。

  ワネットは驚きつつも、その反射神経故に身体を避けさせつつ、神殺短剣の刃で、伸ばされた影を切り裂こうとした。

  だが、切り裂くどころか、神殺短剣と影が接触した部分は【消え去った】のだ。

  一瞬の内に、柄から伸びる刃の間が消え去った事により、短剣の先端は折れたわけでも無いのに落ち、カラカラと静かな音を奏でた。

  何が起こっているのか、理解している暇もない。

  ワネットへと目掛けて幾多もの影が飛来する中、ワネットはその間をすり抜ける様に駆け出すと、愚母の膨らんだ腹を目掛けて、袖から取り出した残る一本の神殺短剣を、突き刺した。


「あらあら――酷く野蛮な女性ですこと。我が子の眠る子宮へ向けて、刃を深々と突き刺すなんて」


 だが愚母は、一切気にしていないと言わんばかりに、ワネットの神殺短剣を抜き、口元に近づけると――その刃ごと、口に放り込んだ。

  バリ、バリと音を奏でながら、彼女の体内に取り込まれていく神殺短剣。

  その言葉にしがたい不気味な状況に――ワネットは思わずその場から飛び退いて、荒い息を吐き出した。


「ォ――オオオッ!!」


 そんな彼女を助けるかの如く。

  上空から突然降る様に落ちてきた皇族――イルメール・ヴ・ラ・レアルタが、その背負っていた巨大な豪剣を抜き放ち、愚母に向けて、ただ真っすぐに投げた。


  グチュ、とイヤな音を鳴らしながら潰れていった愚母の姿を見つつ、豪剣の柄底に一度着地したイルメールが豪剣を抜いて構えながら、潰された愚母であったモノを警戒する。


「イルメール様……!!」

「ワネット! 他のヤツ等はどうした!?」

「か、カルファス様とアルハット様は現在シドニア皇居です。そしてアメリア様とシドニア様、リンナ様とクアンタ様、サーニスは施設内に」

「チッ……アイツらバカか! 兵法っつーのを全く理解してねェッ!! そりゃ神さまも全滅を神託するわなァ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ
ファンタジー
 偉大なる魔女の守護者、それが騎士。  大勢の若者たちがその英雄譚に魅了され、その道へと歩み始めていた。  だけど俺、志季春護は騎士を目指しながらも他とは少し違かった。  大勢を護るために戦うのではなく、残された二人の家族を護るために剣を振るう。  妹の夏実と姉の冬華。二人を護るために春護は努力を続けていた。  だけど……二人とも失ってしまった。  死の淵を彷徨った俺は一人の少女と出会い、怪しげな彼女と契約を交わしたんだ。  契約によって得た新たな力を使い俺は進む。騎士の相棒である水花と共に。  好意的だけど底の知れないナニカの助力を受け、少年は強さを求める。  家族の仇を取るために、魔族を討滅するために。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

黒木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...