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第十六章
菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)-03
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「ねぇクアンタ、一つ仮説があるのだけれど、良いかしら?」
「ああ」
「例えばイルメール姉さまも、紛いなりにも父のヴィンセントが持っていた魔術回路がある。研鑽は積んでいないから回路自体は縮小傾向にあるだろうけれど、マナ貯蔵庫に問題は無いし、回路自体も大魔術の使役さえしなければ焼き切れることは無い筈」
「でさぁ、そのエクステンデッド・ブーストってデバイスの機能をもし再現する事が出来れば――イル姉さまの体内にある虚力機能を増幅させて、免疫力と細胞活性を高める事が出来るんじゃないかなぁ、なんて事を考えたんだけど」
イルメールは恐らく、自身の持つ虚力が体内で働き、精神的な高揚をもたらす事により体細胞を活性化させ、愚母の固有能力によっての浸蝕を防いでいると仮説が立てられる。
そしてこの仮説が正しい場合、イルメールの虚力量を増やすのではなく、今の彼女が持つ虚力の機能を増幅させる、エクステンデッド・ブーストの機能をイルメールに付与出来れば解決する糸口が掴めるかもしれない、というのが二人の出した解決方法である。
クアンタも思考を回すように顎へ手をやり、数秒黙るが、そこで僅かに目線を下ろす。懸案事項があるという事だろう。
「一理あるが、やはり二つの問題があるな」
「一つは、そもそもイルメール姉さまのポジティブさが精神高揚と細胞活性をさせているか否か、仮説が正しいかどうかが分からない点ね」
「ああ。そもそも愚母の固有能力に関しても、その進行が遅い事に関しても、あくまで仮説を積み重ねただけに過ぎない。故にこの仮説が誤りである事も考えておかなければならない」
本来仮説の積み重ねによる行動は避ける事が重要だが、一応人命が関わる事態であるので仮説しか建てられない状況でも行動はせざるを得ない。
それに加え、紛いなりにもイルメールは皇族だ。もし彼女が死んでしまえば、それだけで民衆に与える影響は大きく、また皇族の死を説明する責任も発生してしまい、災いの事を公表する必要も出てくる可能性も否定できない。対処は早い方が好ましい。
「もう一つは、エクステンデッド・ブーストの機能を再現する事が出来るかどうか、だ」
「私たちがマジカリング・デバイスの機能を再現しようとして、クアンタちゃんが一度大変な事になってるしね」
そう、(正確に言えば異なるらしいが)菊谷ヤエが開発したマジカリング・デバイスの再現をしようとして、アルハットとカルファスが製造した4.5世代型デバイス――リンナのマジカリング・デバイスには重大な欠陥があった。
ヤエの渡してきた技術を基に製作したデバイスに重大な欠陥があったのだから、そうした資料も無く実物しかない状態で、しかもまだ解析を済ます事が出来ていない虚力の機能を拡張するデバイスを開発できるかと言われれば、カルファスとアルハットからしても『否』であろう。
「確かにイル姉さまが死んでも困るケドさぁ、イル姉さまに手間暇かける時間も勿体ないし、早いとこ解決して、次の懸案事項移りたいんだよねぇ」
「同感だ」
「なァリンナ、オレが死ぬかもしれねェってのにも関わらずコイツ等面倒くさがってねェか?」
「さっきからそれなりにツッコんでんだけどさ……」
だがカルファスの発言自体に誤りはない。
そもそも、リンナとシドニアの母であるルワンと、彼女と以前共に戦っていたというマリルリンデから得られた情報が大きい。
イルメールが死ぬか死なないかという問題さえなければ、早々にそちらの問題に着手して事態の進展を図りたいのだろう。
うーん、と全員が考え込んでいる中、ガラガラと窓が開き、ニヤついた表情の女性が外から病室に上がり込んだ。
「私が助けてやろう!」
「あ、神さまじゃねェか。チッス」
「相変わらず挨拶が軽いなイルメール」
「アンタも神さまって自己紹介してる割に良く遊びに来るよねー」
「リンナさん、一応私は遊びに来てるわけじゃないんですよ……まぁ楽しんではいますけど」
菊谷ヤエ(B)だ。彼女は手に小さなペナントを持ってパタパタと振るい、クアンタたちは彼女へ視線をやる。
「神さまが、イルメールを助けると言うのか? 何を企んでいる?」
「酷いなクアンタ。私も神さまの端くれ、人間を愛し人間を救う事が使命であり」
「以前『イチイチ人間を救ってやるかよ』みたいな事を言って煙草の煙をシドニア兄さまに吹きかけてなかったかしら」
「アルハットの素早いツッコみ、お姉さんじゃなきゃ聞き逃しちゃうね」
「ヤエさんって歳幾つなのぉ?」
「んー……四百歳は超えてるか……?」
「お姉さんじゃなくてババァじゃん」
「リンナさん、私も一応女だから傷つくんですよ!?」
「それで、何を企んでいるんだ?」
この女が何も企んでいない筈がないと決めつけ、問うたクアンタの言葉に、ヤエもそこはそうだろうと納得しているのか「まぁ疑う気持ちも分かる」と頷く。
「だが私もイルメールにこのまま死なれるとそれなりに困るんだ。現状、クアンタを除くと対災いという点で見て一番の戦力は、イルメールとサーニスだからな。……まぁ、そんな私の予測を通り越して、暗鬼を殺したのがシドニアだったのは驚きだが」
先日、五災刃の一刃である暗鬼の討伐を果たしたのは、実の母を目の前で殺され、失意と復讐に心を燃やしたシドニアだった。
その結果として彼は治療を受けねばならぬ身体になっているが、しかし五災刃に対してリンナの刀が有効であるとする、しっかりとしたデータが得られた事も間違いなく、現状で最たる貢献者と言っても良いかもしれない。
「ではどのようにイルメールを助けると?」
「正確に言うと助ける方法を教えてやる。実際に行動するのはお前達だ」
「……それも結局は、神さまが手を出しちゃいけないからって事?」
カルファスが少し声のトーンを落としつつ尋ねると、彼女もその声に含まれた意図を感じるように頷き、ボックスから煙草を出し、咥えた。
「ああ。方法を示すのは特に問題はないが、手を出す事は禁じられているからな。だから――」
ヤエはパチリと指を鳴らす。青白い光が彼女の手を包み、一瞬だけ皆の視界にヤエの手が映らなくなる。
青白い光が収まり、皆の視界が正常に戻った時には、彼女の手に横断幕のような布が持たれており、その端をクアンタに持たせると身体を動かして広げ、書かれた文面を皆に見せびらかす。
「『菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)』の開催だーッ!!」
随分とハイテンションで「いえーいっ」と声をあげるヤエだったが、しかしそれを聞いた面々の反応はそれぞれ異なった。
「ポ、ポロリ!? か、神さま、ポ、ポロリがあるの!?」
「あります」
「だ、誰がポロリ!? ポロリ、ダレッ!?」
「フフフ、それは秘密です。ただ一つ言うとしたら、私とリンナさんではない事だけは確かです」
「……そっかぁ。神さまポロリしないのかぁ。ちょっと期待したんだけど……」
「その代わり他の面々がポロリする可能性は十分にあると思ってください」
「いやっほぉおっ!!」
エヘ、エヘヘと顔を赤くして悦ぶリンナにクアンタが少しだけ背筋に悪寒を感じつつも、首を傾げる。
「神さま、ポロリとは何だ?」
「何でもないぞポロリ・クアンタ」
「私はポロリなどという名前ではないが」
ポロリという明らかに本題では無い部分に引っかかりつつ、自分にない知識を知ろうとするクアンタを、リンナとヤエが『まぁまぁ』と宥める。
「良く分かんねェケドさ、そのツアーに行けば、オレは助かるってコトか?」
「助かる可能性を高める事が出来る。そこから助ける事が出来るかどうかは、カルファスとアルハットにかかっているぞ」
「なるほどねェ。んじゃ、そこは問題なさそうだな!」
妹たちの事を信じる姉・イルメールが、自分が助かる事に対して疑う事も無く頷き、期待してるぜと妹二人に言う為、視線と手を向けるが。
――カルファスとアルハットは、口をアングリと開けて、驚愕と言わんばかりに言葉を無くしていた。
「……おーい、カルファス、アルハット、大丈夫かぁ?」
そうして声をかけても二者の口は閉じず、むしろブルブルと震えているので、ヤエが横断幕をクアンタとリンナに預けたまま、彼女達二人の肩を揺らす。
「落ち着け。……まぁ、お前たちの動揺も分かるが」
「こ……な……っ、こん、な……落ち着けるワケないじゃんッ!!」
顔を真っ赤にして、声を荒げさせたのはカルファスだ。
彼女はヤエの両肩を掴み、グワングワンと揺らすようにして、畳み掛けるように問いかける。
「源の泉って【源】から噴き出す力の泉って事!? そんな、神さまとかはそういう証明まで既に出来てるって事!? どこ、どこにあるの!? それって人の身で入り込んじゃって大丈夫なの!? そんな泉の場所に人の身で入ったらマナの瘴気に当てられて狂っちゃうんじゃないの――!?」
「揺らすな揺らすな」
元気になったカルファスに揺らされながら、ヤエはアルハットに視線をやる。
彼女も意識を戻しつつ、しかし冷静になれないと言わんばかりにヤエへ近付き、カルファスからヤエを奪うと同様に両肩を掴み、グワングワンと揺らす。
「源の泉は本当にあるというの!? 魔術師が数百年近く求め続けて証明できていない場所が!? というより、それは本当に【源】なの!? 私は錬金術師だから、しっかりと証明できていないのならそれを簡単には信じないわよ!?」
「お前ら姉妹は揺らし方までそっくりだなぁ」
まぁ落ち着け、とカルファス・アルハット両名の手から離れ、揺らされ続けた事により乱れた衣服と髪の毛を整えつつ、ゴホンとわざとらしく咳き込んだ。
「まず、答えなきゃならん質問だけ答えてやろうか。
問いの通り、この【源の泉】とはお前ら魔術師が、数百年の年月を積み重ねて尚、証明を果たしていない、マナを放出する【源】より溢れ出た【泉】だ」
そもそも魔術師が使役する魔術とは、マナというエネルギーが必要だ。
マナは星の中心にあるとされている【源】から放たれる余波であり、人間や魔導機が受信し、マナ貯蔵庫に蓄え、体内に有した魔術回路を巡って、魔術となる。
【源の泉】というのは、星の中心にある源より力が溢れ出た泉であるのだろう。
――つまり、カルファスも含め、全ての魔術師が【到達するべき頂】として定めている、力の溢れ出る泉。
――その場所に魔術師が達すれば、永久に溢れ出る高純度のマナを用いて、どんな偉業とて果たす事が出来る。
「ああ」
「例えばイルメール姉さまも、紛いなりにも父のヴィンセントが持っていた魔術回路がある。研鑽は積んでいないから回路自体は縮小傾向にあるだろうけれど、マナ貯蔵庫に問題は無いし、回路自体も大魔術の使役さえしなければ焼き切れることは無い筈」
「でさぁ、そのエクステンデッド・ブーストってデバイスの機能をもし再現する事が出来れば――イル姉さまの体内にある虚力機能を増幅させて、免疫力と細胞活性を高める事が出来るんじゃないかなぁ、なんて事を考えたんだけど」
イルメールは恐らく、自身の持つ虚力が体内で働き、精神的な高揚をもたらす事により体細胞を活性化させ、愚母の固有能力によっての浸蝕を防いでいると仮説が立てられる。
そしてこの仮説が正しい場合、イルメールの虚力量を増やすのではなく、今の彼女が持つ虚力の機能を増幅させる、エクステンデッド・ブーストの機能をイルメールに付与出来れば解決する糸口が掴めるかもしれない、というのが二人の出した解決方法である。
クアンタも思考を回すように顎へ手をやり、数秒黙るが、そこで僅かに目線を下ろす。懸案事項があるという事だろう。
「一理あるが、やはり二つの問題があるな」
「一つは、そもそもイルメール姉さまのポジティブさが精神高揚と細胞活性をさせているか否か、仮説が正しいかどうかが分からない点ね」
「ああ。そもそも愚母の固有能力に関しても、その進行が遅い事に関しても、あくまで仮説を積み重ねただけに過ぎない。故にこの仮説が誤りである事も考えておかなければならない」
本来仮説の積み重ねによる行動は避ける事が重要だが、一応人命が関わる事態であるので仮説しか建てられない状況でも行動はせざるを得ない。
それに加え、紛いなりにもイルメールは皇族だ。もし彼女が死んでしまえば、それだけで民衆に与える影響は大きく、また皇族の死を説明する責任も発生してしまい、災いの事を公表する必要も出てくる可能性も否定できない。対処は早い方が好ましい。
「もう一つは、エクステンデッド・ブーストの機能を再現する事が出来るかどうか、だ」
「私たちがマジカリング・デバイスの機能を再現しようとして、クアンタちゃんが一度大変な事になってるしね」
そう、(正確に言えば異なるらしいが)菊谷ヤエが開発したマジカリング・デバイスの再現をしようとして、アルハットとカルファスが製造した4.5世代型デバイス――リンナのマジカリング・デバイスには重大な欠陥があった。
ヤエの渡してきた技術を基に製作したデバイスに重大な欠陥があったのだから、そうした資料も無く実物しかない状態で、しかもまだ解析を済ます事が出来ていない虚力の機能を拡張するデバイスを開発できるかと言われれば、カルファスとアルハットからしても『否』であろう。
「確かにイル姉さまが死んでも困るケドさぁ、イル姉さまに手間暇かける時間も勿体ないし、早いとこ解決して、次の懸案事項移りたいんだよねぇ」
「同感だ」
「なァリンナ、オレが死ぬかもしれねェってのにも関わらずコイツ等面倒くさがってねェか?」
「さっきからそれなりにツッコんでんだけどさ……」
だがカルファスの発言自体に誤りはない。
そもそも、リンナとシドニアの母であるルワンと、彼女と以前共に戦っていたというマリルリンデから得られた情報が大きい。
イルメールが死ぬか死なないかという問題さえなければ、早々にそちらの問題に着手して事態の進展を図りたいのだろう。
うーん、と全員が考え込んでいる中、ガラガラと窓が開き、ニヤついた表情の女性が外から病室に上がり込んだ。
「私が助けてやろう!」
「あ、神さまじゃねェか。チッス」
「相変わらず挨拶が軽いなイルメール」
「アンタも神さまって自己紹介してる割に良く遊びに来るよねー」
「リンナさん、一応私は遊びに来てるわけじゃないんですよ……まぁ楽しんではいますけど」
菊谷ヤエ(B)だ。彼女は手に小さなペナントを持ってパタパタと振るい、クアンタたちは彼女へ視線をやる。
「神さまが、イルメールを助けると言うのか? 何を企んでいる?」
「酷いなクアンタ。私も神さまの端くれ、人間を愛し人間を救う事が使命であり」
「以前『イチイチ人間を救ってやるかよ』みたいな事を言って煙草の煙をシドニア兄さまに吹きかけてなかったかしら」
「アルハットの素早いツッコみ、お姉さんじゃなきゃ聞き逃しちゃうね」
「ヤエさんって歳幾つなのぉ?」
「んー……四百歳は超えてるか……?」
「お姉さんじゃなくてババァじゃん」
「リンナさん、私も一応女だから傷つくんですよ!?」
「それで、何を企んでいるんだ?」
この女が何も企んでいない筈がないと決めつけ、問うたクアンタの言葉に、ヤエもそこはそうだろうと納得しているのか「まぁ疑う気持ちも分かる」と頷く。
「だが私もイルメールにこのまま死なれるとそれなりに困るんだ。現状、クアンタを除くと対災いという点で見て一番の戦力は、イルメールとサーニスだからな。……まぁ、そんな私の予測を通り越して、暗鬼を殺したのがシドニアだったのは驚きだが」
先日、五災刃の一刃である暗鬼の討伐を果たしたのは、実の母を目の前で殺され、失意と復讐に心を燃やしたシドニアだった。
その結果として彼は治療を受けねばならぬ身体になっているが、しかし五災刃に対してリンナの刀が有効であるとする、しっかりとしたデータが得られた事も間違いなく、現状で最たる貢献者と言っても良いかもしれない。
「ではどのようにイルメールを助けると?」
「正確に言うと助ける方法を教えてやる。実際に行動するのはお前達だ」
「……それも結局は、神さまが手を出しちゃいけないからって事?」
カルファスが少し声のトーンを落としつつ尋ねると、彼女もその声に含まれた意図を感じるように頷き、ボックスから煙草を出し、咥えた。
「ああ。方法を示すのは特に問題はないが、手を出す事は禁じられているからな。だから――」
ヤエはパチリと指を鳴らす。青白い光が彼女の手を包み、一瞬だけ皆の視界にヤエの手が映らなくなる。
青白い光が収まり、皆の視界が正常に戻った時には、彼女の手に横断幕のような布が持たれており、その端をクアンタに持たせると身体を動かして広げ、書かれた文面を皆に見せびらかす。
「『菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)』の開催だーッ!!」
随分とハイテンションで「いえーいっ」と声をあげるヤエだったが、しかしそれを聞いた面々の反応はそれぞれ異なった。
「ポ、ポロリ!? か、神さま、ポ、ポロリがあるの!?」
「あります」
「だ、誰がポロリ!? ポロリ、ダレッ!?」
「フフフ、それは秘密です。ただ一つ言うとしたら、私とリンナさんではない事だけは確かです」
「……そっかぁ。神さまポロリしないのかぁ。ちょっと期待したんだけど……」
「その代わり他の面々がポロリする可能性は十分にあると思ってください」
「いやっほぉおっ!!」
エヘ、エヘヘと顔を赤くして悦ぶリンナにクアンタが少しだけ背筋に悪寒を感じつつも、首を傾げる。
「神さま、ポロリとは何だ?」
「何でもないぞポロリ・クアンタ」
「私はポロリなどという名前ではないが」
ポロリという明らかに本題では無い部分に引っかかりつつ、自分にない知識を知ろうとするクアンタを、リンナとヤエが『まぁまぁ』と宥める。
「良く分かんねェケドさ、そのツアーに行けば、オレは助かるってコトか?」
「助かる可能性を高める事が出来る。そこから助ける事が出来るかどうかは、カルファスとアルハットにかかっているぞ」
「なるほどねェ。んじゃ、そこは問題なさそうだな!」
妹たちの事を信じる姉・イルメールが、自分が助かる事に対して疑う事も無く頷き、期待してるぜと妹二人に言う為、視線と手を向けるが。
――カルファスとアルハットは、口をアングリと開けて、驚愕と言わんばかりに言葉を無くしていた。
「……おーい、カルファス、アルハット、大丈夫かぁ?」
そうして声をかけても二者の口は閉じず、むしろブルブルと震えているので、ヤエが横断幕をクアンタとリンナに預けたまま、彼女達二人の肩を揺らす。
「落ち着け。……まぁ、お前たちの動揺も分かるが」
「こ……な……っ、こん、な……落ち着けるワケないじゃんッ!!」
顔を真っ赤にして、声を荒げさせたのはカルファスだ。
彼女はヤエの両肩を掴み、グワングワンと揺らすようにして、畳み掛けるように問いかける。
「源の泉って【源】から噴き出す力の泉って事!? そんな、神さまとかはそういう証明まで既に出来てるって事!? どこ、どこにあるの!? それって人の身で入り込んじゃって大丈夫なの!? そんな泉の場所に人の身で入ったらマナの瘴気に当てられて狂っちゃうんじゃないの――!?」
「揺らすな揺らすな」
元気になったカルファスに揺らされながら、ヤエはアルハットに視線をやる。
彼女も意識を戻しつつ、しかし冷静になれないと言わんばかりにヤエへ近付き、カルファスからヤエを奪うと同様に両肩を掴み、グワングワンと揺らす。
「源の泉は本当にあるというの!? 魔術師が数百年近く求め続けて証明できていない場所が!? というより、それは本当に【源】なの!? 私は錬金術師だから、しっかりと証明できていないのならそれを簡単には信じないわよ!?」
「お前ら姉妹は揺らし方までそっくりだなぁ」
まぁ落ち着け、とカルファス・アルハット両名の手から離れ、揺らされ続けた事により乱れた衣服と髪の毛を整えつつ、ゴホンとわざとらしく咳き込んだ。
「まず、答えなきゃならん質問だけ答えてやろうか。
問いの通り、この【源の泉】とはお前ら魔術師が、数百年の年月を積み重ねて尚、証明を果たしていない、マナを放出する【源】より溢れ出た【泉】だ」
そもそも魔術師が使役する魔術とは、マナというエネルギーが必要だ。
マナは星の中心にあるとされている【源】から放たれる余波であり、人間や魔導機が受信し、マナ貯蔵庫に蓄え、体内に有した魔術回路を巡って、魔術となる。
【源の泉】というのは、星の中心にある源より力が溢れ出た泉であるのだろう。
――つまり、カルファスも含め、全ての魔術師が【到達するべき頂】として定めている、力の溢れ出る泉。
――その場所に魔術師が達すれば、永久に溢れ出る高純度のマナを用いて、どんな偉業とて果たす事が出来る。
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