魔法少女の異世界刀匠生活

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第十六章

菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)-04

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「ただ一つ言っておくぞ。お前らが考えているような、源の証明なんぞは出来んからな」


 そう言ったヤエの言葉に、カルファスもアルハットも「そうだろう」と頷き、しかしイルメールとリンナ、クアンタの三人が首を傾げる。


「今まさにこの場で、神さまが『源の泉だ』だと断言したと記憶しているが」

「おお、言ったぞ。だが私はそれが『そうである』と知識として知っているだけで、それを学術的に証明したワケじゃない」


 事実関係を明確にする為、必要なものは「証明」である――そうヤエは口にした。


「例えばクアンタ、私やここにいる全員は、お前が【フォーリナー】という外宇宙生命体だと知識として知ってはいるが、それを学術的に証明したかと言えば、それは否だろう?」

「肯定だ。私が流体金属生命体だと証明は出来ているとして、それをこの星に住まう人類が私の事を『外宇宙に存在する生命体だ』と証明するには、まず外宇宙に存在するフォーリナーの存在を確認し、同種であるかどうかを検証しなければならない」

「それと一緒だ。お前が自己紹介で『私はフォーリナーっていう外宇宙生命体デース!』と証言した所で、それが事実であるかを証明する手立てがないのと同じで、私が『ここが源の泉だよ!』って場所を紹介した所で、それが本当に源から溢れ出た力の泉だと証明した事にはならん」


 結局な所、ヤエが連れて行くのは「ヤエ本人は源の泉と知っている」場所だが、そこが「本当に源の泉である」と証明する事はヤエにも不可能なのだと言う。


「だが、今回必要なのはそんな『学術的に証明のされた研究済みの場所』ではなく『まだこの星では未発見の未知なる場所にある力の泉』だ。その後どうするかは、カルファスとアルハットの二者が政治的な事も含めて決めればいいさ」


 必要なのはあくまで「力の泉があり、その力を利用できる」という事実だけであり、その先にある学術的な意味合い等は、それこそこの星の知識人が決めれば良いとするヤエの意見には、確かに一理あるとクアンタも納得した。(なおリンナとイルメールは顔を合わせて「????」と目を点にしていたが、気にしない事にした)


「源の泉はイルメール領海岸線から百十二米寸離れたラルタ海域にある、自然の海中トンネルを通らないといけない。お前らの技術ではその場所を見つけ出すのに残り十数年は必要だったろうがな」

「ラルタ海かぁ……確かにあの辺は隣国のラドンナ王国があるけど、百十二米寸ならウチの領海内だし、大丈夫だね」

「しかし面倒ですね……海中トンネルを通る必要がある場所となると、座標などが分かっても霊子移動での転移が出来ません」


 霊子移動は人体や物質を霊子レベルにまで分解して当該座標へ送信し、送信先で再構成する事で成す移動手段であるが、霊子は海水等を通過する事が出来ない。故に海中を通る必要がある場合は、霊子移動は出来ないという事である。


「また海中トンネルを抜けた後は、開けた鍾乳洞のような場所になっているが、空気が薄く呼吸はし辛い。クアンタは呼吸が必要ではないが、他の面々は酸素ボンベなどの用意があった方がいい」

「じゃあ私とクアンタちゃんの二人で行った方が良いかなぁ。しかも源の泉が近くにあるって事なら、多分その鍾乳洞、泉から放たれてるマナの瘴気がヤバイ事になってると思うし……」


 危険性を鑑みて、クアンタとの二人で行動する事を提案するカルファスだったが、しかしヤエは首を横に振った。


「いや、可能な限りのフルメンバーで、フル武装した状態で向かえ。クアンタもリンナさんも突入したら変身しろ。クアンタはエクステンデッド・ブーストの使用も許可する」

「? なんで?」

「行けば分かる」


 珍しく真剣な表情で準備を怠るなと警告するヤエの言葉がどこか引っかかるようだったが、アルハットとカルファスは頷き、まずは準備を整える。


「じゃあアルちゃんは人数分、酸素ボンベの用意をお願い」

「クアンタとリンナが現地でヘンシンをするのなら、二人はマナの瘴気にあてられる心配はしなくて良さそうですが、私とイルメール姉さまが問題ですね」

「イル姉さまには窮屈だろうけど、第四世代型ゴルタナ使ってもらおうかな。アレならマナの瘴気にあてられるのは防げるでしょ。アルちゃんには別の兵装用意しておくから、私と一緒にそれを着よう」

「分かりました、そちらの準備をお願いします」


 アルハットが霊子移動でどこかへ消えていく姿を見届けた後、カルファスがイルメールへと声をかける。


「イル姉さま、クアンタちゃんとリンナちゃんの二人をイルメール領に移すんだけど、その怪我を部下の人とかに見られても大丈夫?」

「問題ねェだろ。オレの部下共は心配なんざしねェよ。むしろ『うおーイルメール様メッチャ怪我してるカッケーッ』ってなるぜ」

「イルメールって人望あるのかないのかわかんないなぁ……」

「まぁイル姉さまの場合は怪我してる方がらしいしねぇ。ある意味人望はあるよ」


 本来であればリンナとクアンタをイルメール領に来訪させる場合、来賓として馬車に乗せて向かい、民衆に知らせる形が好ましいが、今回は緊急事態故に霊子移動で直接イルメール領に飛び、単なる客人として扱った方が好ましいという判断だ。


「イルメール領、か。何だかんだで行ったことは無いが、話を聞く所によるとアメリア領の管理下にある場所、という事だが」

「そうだね。ほとんどの情勢はアメリア領と変わらないよ。ただ、アメリア領と違うのは圧倒的な軍事力と、その立地から発達した海運業や漁業だね」


 準備する物のリストアップでもしているのか、霊子端末に触れながらも霊子移動をする事無くクアンタの言葉に反応をしたカルファス。

 時間がかかると言う事なのだろうと、クアンタはリンナを椅子に腰かけさせ、イルメールもベッドに尻を乗せた。


「イルメール領は海と隣接しているのか?」

「うん。他の領土が陸繋ぎなのと打って変わって、イルメール領は海と隣接してる。だから他国間貿易や海運業はイルメール領が一手に握ってる」

「そう言えばシドニア領は他の領土に囲まれている立地だが、アルハット領やカルファス領、アメリア領はそれぞれ、別の国との国境があるな」

「レアルタ皇国の属領になるバルドーとの国境があるよ。バルドーは属領国と言っても貿易位でしか繋がりないけどさ」

「という事は、他国からの侵略などの心配はほとんどないという事か?」

「在るとすれば、それこそ海からの侵略だね。だからイルメール領には皇国軍指令本部が存在するの」


 レアルタ皇国は国土としてはそれほど大きな国ではない。だが経済的にも技術的にも他国より優位に立ち、更には積極的自衛権の行使によって防衛力の高さもチラつかせる事によって、国同士の戦争を避けている。


「【五災刃】も、多分だけどそうした国際的にも影響力のある、しかも姫巫女の一族を管理してたっていう聖堂教会のないレアルタ皇国だからこそ狙うんだろうね。

 もしレアルタ皇国が災いによって瓦解する事があれば、絶対に他国が大きく動いて混乱するだろうし、他国が持ってるレアルタ皇国の国債が紙切れになっちゃえば経済的にも大打撃になる」

「そうなれば、本来なら他国が混乱している間に暗鬼が大きく動き、順調に滅ぼしていけた、というわけか」

「うん――暗鬼ちゃんは、正直他の面々よりどう対処していいか分からなかったから、シドちゃんはホントにお手柄だよ。レアルタ皇国的にも、この星に住まう人類的にも」


 マリルリンデが考えている人類滅亡という目標に関しては、五災刃の力を用いる事が出来るのならば、そう骨董無形の話ではない。

  名有りの災いが持つ圧倒的な戦闘能力、名無しの災いが持つ軍勢故の兵力、さらには女性から虚力を得られれば食事や排泄なども必要がない人類を超えた異形生命体は、そもそもレアルタ皇国でさえヤエという情報提供者がいなければ早々に滅ぼされていた可能性だって捨てきれない。


  ――暗鬼一人によって、多くの国が滅ぼされていたかも分からぬ程、暗鬼の能力というのは、国や組織をかき乱す事に関してだけ言えば特化していたと言えよう。


「その災いは、今何をしているのだろうな」

「暗鬼ちゃんが死んだ事で、何か変わってればいいんだけどね。……マリルリンデの立ち位置、とか」


 先日の収容施設で起こった事件で、五災刃の一刃である愚母や暗鬼、そして豪鬼の言葉からして、マリルリンデという五災刃を率いるべき者が独自に行動し、また彼が五災刃をあくまで『人類滅亡』という目標に至る為に利用している事が分かった。

  さらにはマリルリンデがルワンを味方に引き入れようとし、その際に目標を『人類滅亡』から『人類選別』にしようとした事も合わせて考えると、彼の野望はあくまで『人類に対する復讐』なのだろう。


  そうした彼の動きを知り、利用されている五災刃が、彼をどう扱うのか。


  それは、カルファスやクアンタには分からぬ事であるし――その動向を知っているであろうヤエへ視線をやっても目を瞑って知らんぷりをする。

  今はイルメールの事に集中しなければならぬとして、それ以上思考を回す事はしなかった。

  
  **
  
  
  リュート山脈の奥地、五災刃の面々が巣として用いている地下施設の長机に、マリルリンデが椅子の肘起きに腕を置きながら、彼へ殺意ある目線を送る四人の面々へ笑いかける。


「ズイブン、ボスに対して殺気溢れてンじャねェか。アァン?」

「ボス、アンタは、暗鬼を殺そうとした……そうだな?」


 中でも、一番殺気を放っているのは豪鬼である。

  普段の面倒臭がりな彼とは打って変わって、何時でもマリルリンデへと襲い掛かる事が出来ると言わんばかりに立ち、口元をヒクヒクと震わせている。


  ――豪鬼はこの中で、最も人間らしい感情のある災いと言っても良い。それだけ、身内である暗鬼が死んだ事に対し、悲しみも怒りもあるのだろう。
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