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第十六章
菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)-05
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「アァ。アイツは、オレの旧友でもあり、人類にその刃を向けても許されるルワンのヤツを殺ッたからナ」
「しかし、まりるりんで殿。その『るわん』という人物は姫巫女の一人であり、かつては我らが同胞を滅ぼしたという人物であったのだろう。
更にしどにあ殿やりんな殿の母君であり、最終的に我らではなく、彼らの味方をすると決めたのであれば、それを殺した暗鬼殿を罰そうとする理由等ないのでは?」
「気にくわなかッた。後々アイツを殺すッてンなら別に構やしねェが、あの時あの場所で、オレの目の前で殺されちャ、オレも平静じャいられねェッてモンだ」
のらりくらり、と言わんばかりに適当な事を返し、その場をやり過ごそうとしているように見えるマリルリンデに、斬鬼も豪鬼も僅かに額の皺を寄せたが、そこで唯一、マリルリンデと同じく腰かけながら、餓鬼が軽口を叩く。
「アタシ、別に暗鬼が死んだ事はどうでもいいケドさぁ……そうやって自分の子分を簡単に切り捨てるようなヤツを、ボスとして信用しろ、なんつーのは自分勝手なんじゃん?」
「オィオィ、餓鬼はアホちゃんかなぁ? そもそもオレと五災刃は協力関係でしかねェだろォが。オレは人類の滅ぼし方をオメェ等に指示して愚母から虚力を報酬として貰い受けてるだけで、オメェ等と一蓮托生になったつもりはねェぜ?」
むしろ、とマリルリンデが溢しつつ、対面の席でマリルリンデを睨む愚母に、指を突き付けた。
「愚母、オメェどうしてあの時、巣から出てきやがッた。オメェは母体として巣を守る義務があンだろうが」
「姫巫女という我らが仇敵を味方に引き入れようとする貴方様を殺したいと考えてしまった……それでは説明不足かしら?」
「オレの分離体まで喰いやがッて。オカゲでオレァ戦力半減したままだゼ?」
「何時でもわたくし達で殺せるように、ですわ」
平静を保っているが、マリルリンデは現在、味方である筈の五災刃に追い詰められていると言っても過言ではない。
暗鬼を殺そうとした事、更にはルワンという姫巫女を仲間に迎え入れようとしていた事、それだけでも五災刃に狙われる理由としては十分であるのにも関わらず、マリルリンデの力を半分に分けた分離体は愚母によって喰われ、抵抗する力という力も大きくない。
「オレを殺す、か。マ、悪くねェ手かもしれねェナ。オレが人類を滅ぼしたら、オメェ等の虚力補給路が一切無くなるしヨ」
「そもそもわたくし達災いは、そうして人類を滅ぼす事こそが役割であり、使命であり、生きる理由ですわ。ですが協力者として機能しないのであれば、貴方様をボスとして崇め、我が子の栄養となる虚力を分け与える理由もありませんわね」
「役割、使命、理由……ねェ。ナァ愚母、オメェが自我を芽生えさせて何年になる?」
「百と幾十かと記憶しておりますが」
「アルハットはオメェ等……五災刃について、疑問に思ッてたみてェだゼ? オメェ等はそもそも虚力を補給できなきャ生存の果たせない種だッてのに、どうして人類滅亡を果たそうとしてる、オレなんざに付くのかッてナ」
その問いは、アルハットだけではない、リンナも似た事を問うた。
リンナは今は亡き暗鬼に「どうして虚力を狙うのか、人類に牙を剥くのか」と問い。
アルハットはマリルリンデに「何故人類滅亡をしようとする貴方に、五災刃が付き従うのか」と問うた。
その二問に答えるとすれば「それが災いとしての存在意義だから」としか答えようがないが――しかし、それは可笑しな事だと、マリルリンデは嘲笑う。
「オメェ等災いは、例えば愚母みてェに自我が芽生えてから百年以上の年月を経て尚も、進化や進歩の道を歩まなかッた。
その間に、人類はどれだけ進化した? ……マァ、対災いッて点だけで言えば退化したがヨォ、それ以外の技術は圧倒的な進化と進歩を遂げてるゼ?
――人間よりも優れた存在でいるつもりか? ハ、オレからすりャお前らなンざ、人類にすら劣る下等生物だヨ」
「人類ですらない存在が、何を偉そうに」
「オレやクアンタは、オメェ等が辿った進化の過程を、もう何千年と前に辿ッたフォーリナーだからナァ。意見する権利はあるだろォよ」
「さっきから聞いてりゃぁ、偉そうにしてるよね、ボスってば」
腰かけていた椅子から立ち上がり、マリルリンデの頬を撫でるように触れた餓鬼が、短く「消されたい?」と問いかける。
「オメェの炎に置換する能力は、オレとクアンタにャ効かねェゼ?」
「……へぇ。あのクアンタって女にも効かないんだ。そりャ良い事聞いたわ。でも、それって試してみないと分かんなくない?」
「やれるモンならやッてみろよ。だがオメェがやろうとした瞬間、ここにいる全員はオレの敵になるゼ」
実際、餓鬼の置換能力は流体金属生命体であるフォーリナーには適用されない。アルハットの水銀と同じく流体である事が幸いし、扱いとしては物質ではなく液体の扱いになる事が原因である。
しかし問題は餓鬼の置換能力ではなく、四体の名有り――それも愚母の巣である現在地で、マリルリンデが抵抗しても尚、逃げおおせる事が出来るかどうか分からぬ点であり、正直に言うならば、非常に分が悪い。
だからこそ、マリルリンデは不利を悟られてはならない。
――不利を悟られる事は、彼の利用価値を地に落とす事と同義であり、それ即ち死である。
「餓鬼」
「……わぁったよ。ゴメンね愚母ママ」
愚母に名を呼ばれた事で、それが静止の言葉である事を受け取った餓鬼がフンと鼻を鳴らしながら下がり、椅子に腰かけ直す。
マリルリンデは餓鬼と同じく鼻を鳴らすフリをして内心ホッと息をつきながら「ンで」と話を逸らした。
「愚母、オメェがイルメールに仕掛けた能力は順調なのか?」
「いいえ全く……普通なら既に死んでいてもおかしくないというのに、彼女の虚力が無駄に細胞活性を起こして、細胞壊死の進行が遅々としておりますわ」
「アイツ、ホントに昔っから鬼メンタルだよなァ。虚力量自体は多くねェのに、精神高揚効果が他の人間と段違い過ぎンだヨ」
「……愚母の能力を受けて未だに正気を保ててるのか? アイツ、ホントに規格外だな……」
豪鬼が自分の重力操作を『普段より体が重ぇならその重たい分だけ早く動けばいいだけ』等と言った暴論で対処したイルメールを思い出すように呟き、マリルリンデも頷く。
「マァ、規格外なのは間違いねェな。……なんたッてアイツは【神さま】のご加護をその身に享けてる……らしいからナァ」
茶化すような言葉で、しかし真面目な表情を浮かべてそういったマリルリンデが席を立つ。
「何処へ行かれるのです?」
「ちョッくら散歩だヨ。……オレのコトを気にくわねェ奴がいるなら、暗殺にャ絶好の機会だゼ?」
暗殺という言葉は暗鬼がいない事に対する当てつけか、それとも本心か……それは分からないが、地下から出ていくマリルリンデの事を見届けた面々の中で、愚母が一人ため息をついて頭を抱える。
「あの時、クアンタちゃんに随分と状況をかき乱されてしまいましたわね」
「虚力、奪われてたもんね愚母ママ。大丈夫?」
「奪われた総量だけで言えば大した事無いですわ。名無しの我が子を一体生み出せるかどうか、程度ですもの」
その量は、普段マリルリンデへ分け与える虚力と同量であり、愚母の全体的な量から計算すれば百分の一以下でしかない。
だが問題は盗られた虚力ではなく、フォーリナーという外宇宙生命体が持つポテンシャルに合わせ、纏う外装の能力やリンナの打つ刀などの、愚母の虚力量をアドバンテージとして活かす事が難しいイレギュラーさにある。
「わたくし達やマリルリンデ様は、思い違いをしていたのかもしれないわ」
「思い違いとは何かな、愚母殿」
「今までは、人類社会に与える影響を加味して、皇族五人の殺害を何より優先としていたわ。それはレアルタ皇国が瓦解する事によって、それ以外の国が大きく混乱する事を想定したからこそなのだけれど……暗鬼が言っていたように、皇族やその周りには、イレギュラーが二人います」
「……カルファスと、クアンタ」
カルファス・ヴ・リ・レアルタの脅威は、目の前でその異常さを見ていた豪鬼にとっては説明されるまでもない。
【根源化の紛い物】という偉業を果たし、彼女という存在が在るだけで如何な有利な状況をひっくり返されかねないという状況は、様々な能力を持ち得、人間を超える力を持ち得る災い達にとっても脅威である。
唯一、カルファスという存在に隙があるとすれば、彼女は生まれて間もないころから魔術に傾倒していた為、刀を扱う腕としては三流であるという事だ。特注の刀をリンナから与えられていたとしても、その刃によって斬られるという事は考えずとも良い。
「だからカルファスちゃんは、その難敵と言ってもいい豪鬼が相手取る事で、前回は対処した形ですわね」
「……重力操作は間接的に、魔術や錬金術の使役に影響を与えるからな」
魔術の基本は「強化」「変化」「操作」の三つであり、これらの応用を繰り返す事によって色とりどりの魔術を使役出来る。
時にその三つをどう組み合わせるか、組み合わせた後にどう作用させるか、それらを計算して行わなければならない魔術の使役は、非常に高い集中力と計算力を要求される。
戦闘に長けた魔術師は詠唱による術式の発動を出来る限り避け、即座に魔術を使役できる短縮使役を用いるが、それでも戦闘中に気を紛らわせられる事態……つまり接近する事なく付与できる豪鬼の重力操作が発生すれば、魔術使役はそれだけで難しくなってしまう。
一流を通り越し、既に神術の域に達しているカルファスであっても例外ではなく、事実前回は、規格外のカルファスと対等に渡り合う所まで至れた。
そして――状況によってはカルファスを打倒し得る事も可能であると、豪鬼は考えている。
「だが、問題はクアンタの方だ。……愚母の話を聞くところによると、クアンタの新形態はリンナと同じく、オレ等の固有能力を打ち消す、虚力放出を実現してる、とか……?」
「ええ。リンナちゃんはまだ戦闘能力が未熟だからこそ、暗鬼も彼女という存在を脅威に感じていなかったし……事実、先日は餓鬼との戦いで、餓鬼の【業火置換】が意味をなさない状況ですら、餓鬼に圧倒されていた」
「愚母ママ、それはアタシが強いからだよ!」
「ふふ、そうね。そうだったわ――何にせよ、どの程度かをあの戦いで見抜く事は出来なかったけれど、そのリンナちゃんが持つ虚力放出の性能を、戦闘にも長けたクアンタちゃんが有してしまった。カルファスちゃんを除いて一番厄介な事に変わりない、という事ですわね」
厄介ね、と言葉にする愚母が、やはり僅かに豪鬼と斬鬼へと視線をやる。
――豪鬼と暗鬼の二人は、クアンタやリンナの虚力放出による影響を受け辛いと知っているからこそ、彼らを活用すべきだと考えている事は間違いないだろう。
「……オレも、散歩行ってくる」
「付き合おう、豪鬼殿」
「マリルリンデ様を殺すか否か、それは貴方達二人に任せますわ」
席を立ち、地下から出ていこうとする豪鬼と、彼に付き合い散歩に行こうとする斬鬼の二人へ、すれ違いざまにそう声をかける愚母の言葉。
豪鬼も斬鬼も足を止め、その真意を問うように、首を傾げる。
「しかし、まりるりんで殿。その『るわん』という人物は姫巫女の一人であり、かつては我らが同胞を滅ぼしたという人物であったのだろう。
更にしどにあ殿やりんな殿の母君であり、最終的に我らではなく、彼らの味方をすると決めたのであれば、それを殺した暗鬼殿を罰そうとする理由等ないのでは?」
「気にくわなかッた。後々アイツを殺すッてンなら別に構やしねェが、あの時あの場所で、オレの目の前で殺されちャ、オレも平静じャいられねェッてモンだ」
のらりくらり、と言わんばかりに適当な事を返し、その場をやり過ごそうとしているように見えるマリルリンデに、斬鬼も豪鬼も僅かに額の皺を寄せたが、そこで唯一、マリルリンデと同じく腰かけながら、餓鬼が軽口を叩く。
「アタシ、別に暗鬼が死んだ事はどうでもいいケドさぁ……そうやって自分の子分を簡単に切り捨てるようなヤツを、ボスとして信用しろ、なんつーのは自分勝手なんじゃん?」
「オィオィ、餓鬼はアホちゃんかなぁ? そもそもオレと五災刃は協力関係でしかねェだろォが。オレは人類の滅ぼし方をオメェ等に指示して愚母から虚力を報酬として貰い受けてるだけで、オメェ等と一蓮托生になったつもりはねェぜ?」
むしろ、とマリルリンデが溢しつつ、対面の席でマリルリンデを睨む愚母に、指を突き付けた。
「愚母、オメェどうしてあの時、巣から出てきやがッた。オメェは母体として巣を守る義務があンだろうが」
「姫巫女という我らが仇敵を味方に引き入れようとする貴方様を殺したいと考えてしまった……それでは説明不足かしら?」
「オレの分離体まで喰いやがッて。オカゲでオレァ戦力半減したままだゼ?」
「何時でもわたくし達で殺せるように、ですわ」
平静を保っているが、マリルリンデは現在、味方である筈の五災刃に追い詰められていると言っても過言ではない。
暗鬼を殺そうとした事、更にはルワンという姫巫女を仲間に迎え入れようとしていた事、それだけでも五災刃に狙われる理由としては十分であるのにも関わらず、マリルリンデの力を半分に分けた分離体は愚母によって喰われ、抵抗する力という力も大きくない。
「オレを殺す、か。マ、悪くねェ手かもしれねェナ。オレが人類を滅ぼしたら、オメェ等の虚力補給路が一切無くなるしヨ」
「そもそもわたくし達災いは、そうして人類を滅ぼす事こそが役割であり、使命であり、生きる理由ですわ。ですが協力者として機能しないのであれば、貴方様をボスとして崇め、我が子の栄養となる虚力を分け与える理由もありませんわね」
「役割、使命、理由……ねェ。ナァ愚母、オメェが自我を芽生えさせて何年になる?」
「百と幾十かと記憶しておりますが」
「アルハットはオメェ等……五災刃について、疑問に思ッてたみてェだゼ? オメェ等はそもそも虚力を補給できなきャ生存の果たせない種だッてのに、どうして人類滅亡を果たそうとしてる、オレなんざに付くのかッてナ」
その問いは、アルハットだけではない、リンナも似た事を問うた。
リンナは今は亡き暗鬼に「どうして虚力を狙うのか、人類に牙を剥くのか」と問い。
アルハットはマリルリンデに「何故人類滅亡をしようとする貴方に、五災刃が付き従うのか」と問うた。
その二問に答えるとすれば「それが災いとしての存在意義だから」としか答えようがないが――しかし、それは可笑しな事だと、マリルリンデは嘲笑う。
「オメェ等災いは、例えば愚母みてェに自我が芽生えてから百年以上の年月を経て尚も、進化や進歩の道を歩まなかッた。
その間に、人類はどれだけ進化した? ……マァ、対災いッて点だけで言えば退化したがヨォ、それ以外の技術は圧倒的な進化と進歩を遂げてるゼ?
――人間よりも優れた存在でいるつもりか? ハ、オレからすりャお前らなンざ、人類にすら劣る下等生物だヨ」
「人類ですらない存在が、何を偉そうに」
「オレやクアンタは、オメェ等が辿った進化の過程を、もう何千年と前に辿ッたフォーリナーだからナァ。意見する権利はあるだろォよ」
「さっきから聞いてりゃぁ、偉そうにしてるよね、ボスってば」
腰かけていた椅子から立ち上がり、マリルリンデの頬を撫でるように触れた餓鬼が、短く「消されたい?」と問いかける。
「オメェの炎に置換する能力は、オレとクアンタにャ効かねェゼ?」
「……へぇ。あのクアンタって女にも効かないんだ。そりャ良い事聞いたわ。でも、それって試してみないと分かんなくない?」
「やれるモンならやッてみろよ。だがオメェがやろうとした瞬間、ここにいる全員はオレの敵になるゼ」
実際、餓鬼の置換能力は流体金属生命体であるフォーリナーには適用されない。アルハットの水銀と同じく流体である事が幸いし、扱いとしては物質ではなく液体の扱いになる事が原因である。
しかし問題は餓鬼の置換能力ではなく、四体の名有り――それも愚母の巣である現在地で、マリルリンデが抵抗しても尚、逃げおおせる事が出来るかどうか分からぬ点であり、正直に言うならば、非常に分が悪い。
だからこそ、マリルリンデは不利を悟られてはならない。
――不利を悟られる事は、彼の利用価値を地に落とす事と同義であり、それ即ち死である。
「餓鬼」
「……わぁったよ。ゴメンね愚母ママ」
愚母に名を呼ばれた事で、それが静止の言葉である事を受け取った餓鬼がフンと鼻を鳴らしながら下がり、椅子に腰かけ直す。
マリルリンデは餓鬼と同じく鼻を鳴らすフリをして内心ホッと息をつきながら「ンで」と話を逸らした。
「愚母、オメェがイルメールに仕掛けた能力は順調なのか?」
「いいえ全く……普通なら既に死んでいてもおかしくないというのに、彼女の虚力が無駄に細胞活性を起こして、細胞壊死の進行が遅々としておりますわ」
「アイツ、ホントに昔っから鬼メンタルだよなァ。虚力量自体は多くねェのに、精神高揚効果が他の人間と段違い過ぎンだヨ」
「……愚母の能力を受けて未だに正気を保ててるのか? アイツ、ホントに規格外だな……」
豪鬼が自分の重力操作を『普段より体が重ぇならその重たい分だけ早く動けばいいだけ』等と言った暴論で対処したイルメールを思い出すように呟き、マリルリンデも頷く。
「マァ、規格外なのは間違いねェな。……なんたッてアイツは【神さま】のご加護をその身に享けてる……らしいからナァ」
茶化すような言葉で、しかし真面目な表情を浮かべてそういったマリルリンデが席を立つ。
「何処へ行かれるのです?」
「ちョッくら散歩だヨ。……オレのコトを気にくわねェ奴がいるなら、暗殺にャ絶好の機会だゼ?」
暗殺という言葉は暗鬼がいない事に対する当てつけか、それとも本心か……それは分からないが、地下から出ていくマリルリンデの事を見届けた面々の中で、愚母が一人ため息をついて頭を抱える。
「あの時、クアンタちゃんに随分と状況をかき乱されてしまいましたわね」
「虚力、奪われてたもんね愚母ママ。大丈夫?」
「奪われた総量だけで言えば大した事無いですわ。名無しの我が子を一体生み出せるかどうか、程度ですもの」
その量は、普段マリルリンデへ分け与える虚力と同量であり、愚母の全体的な量から計算すれば百分の一以下でしかない。
だが問題は盗られた虚力ではなく、フォーリナーという外宇宙生命体が持つポテンシャルに合わせ、纏う外装の能力やリンナの打つ刀などの、愚母の虚力量をアドバンテージとして活かす事が難しいイレギュラーさにある。
「わたくし達やマリルリンデ様は、思い違いをしていたのかもしれないわ」
「思い違いとは何かな、愚母殿」
「今までは、人類社会に与える影響を加味して、皇族五人の殺害を何より優先としていたわ。それはレアルタ皇国が瓦解する事によって、それ以外の国が大きく混乱する事を想定したからこそなのだけれど……暗鬼が言っていたように、皇族やその周りには、イレギュラーが二人います」
「……カルファスと、クアンタ」
カルファス・ヴ・リ・レアルタの脅威は、目の前でその異常さを見ていた豪鬼にとっては説明されるまでもない。
【根源化の紛い物】という偉業を果たし、彼女という存在が在るだけで如何な有利な状況をひっくり返されかねないという状況は、様々な能力を持ち得、人間を超える力を持ち得る災い達にとっても脅威である。
唯一、カルファスという存在に隙があるとすれば、彼女は生まれて間もないころから魔術に傾倒していた為、刀を扱う腕としては三流であるという事だ。特注の刀をリンナから与えられていたとしても、その刃によって斬られるという事は考えずとも良い。
「だからカルファスちゃんは、その難敵と言ってもいい豪鬼が相手取る事で、前回は対処した形ですわね」
「……重力操作は間接的に、魔術や錬金術の使役に影響を与えるからな」
魔術の基本は「強化」「変化」「操作」の三つであり、これらの応用を繰り返す事によって色とりどりの魔術を使役出来る。
時にその三つをどう組み合わせるか、組み合わせた後にどう作用させるか、それらを計算して行わなければならない魔術の使役は、非常に高い集中力と計算力を要求される。
戦闘に長けた魔術師は詠唱による術式の発動を出来る限り避け、即座に魔術を使役できる短縮使役を用いるが、それでも戦闘中に気を紛らわせられる事態……つまり接近する事なく付与できる豪鬼の重力操作が発生すれば、魔術使役はそれだけで難しくなってしまう。
一流を通り越し、既に神術の域に達しているカルファスであっても例外ではなく、事実前回は、規格外のカルファスと対等に渡り合う所まで至れた。
そして――状況によってはカルファスを打倒し得る事も可能であると、豪鬼は考えている。
「だが、問題はクアンタの方だ。……愚母の話を聞くところによると、クアンタの新形態はリンナと同じく、オレ等の固有能力を打ち消す、虚力放出を実現してる、とか……?」
「ええ。リンナちゃんはまだ戦闘能力が未熟だからこそ、暗鬼も彼女という存在を脅威に感じていなかったし……事実、先日は餓鬼との戦いで、餓鬼の【業火置換】が意味をなさない状況ですら、餓鬼に圧倒されていた」
「愚母ママ、それはアタシが強いからだよ!」
「ふふ、そうね。そうだったわ――何にせよ、どの程度かをあの戦いで見抜く事は出来なかったけれど、そのリンナちゃんが持つ虚力放出の性能を、戦闘にも長けたクアンタちゃんが有してしまった。カルファスちゃんを除いて一番厄介な事に変わりない、という事ですわね」
厄介ね、と言葉にする愚母が、やはり僅かに豪鬼と斬鬼へと視線をやる。
――豪鬼と暗鬼の二人は、クアンタやリンナの虚力放出による影響を受け辛いと知っているからこそ、彼らを活用すべきだと考えている事は間違いないだろう。
「……オレも、散歩行ってくる」
「付き合おう、豪鬼殿」
「マリルリンデ様を殺すか否か、それは貴方達二人に任せますわ」
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