魔法少女の異世界刀匠生活

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第十六章

菊谷ヤエのドキドキ! 源の泉・探検ツアー(ポロリもあるよ)-06

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「確かに、皇族の内側や人間の心理を理解しているマリルリンデ様という存在は、二十年もの年月を待ち続けたわたくし達にとって、必要であった事は否定しません。

 ですが、今やマリルリンデ様を陣営に残す理由は薄く、また彼もわたくし達を利用しているだけに過ぎないわ。

  ――わたくしは彼を殺す事に一票ですが、貴方達二人が殺すか否かを見定め、隙があればそれを成しなさい」

「……ま、考えておく」

「同感だ。闇討ちは己の信条に反するでな。……まぁしかし、まりるりんで殿との戦いは心滾るでな、考えはする」

「もう……貴方達二人は、本当に身勝手な子」


 扱いにくい、と言いたげな口調で、愚母が放った言葉を聞き届けた二者が、地下を出て、地下の階段を隠す廃墟から退室すると、一本の刃を振るうマリルリンデが出迎えた。


「ヨォ、豪鬼に斬鬼。……オメェ等が、オレを殺しに来たッてカンジか?」

「……どうするかな。斬鬼は、アンタと殺り合いたがってるけど?」

「カカ。その波紋美しき刃と果たし合えるというのなら、心躍らねばそれは嘘というものであろうよ」


 互いに、距離は開ける。

  その距離は両者が全力で踏み込めばコンマ秒で詰める事が出来る、か細い距離ではあるが――しかし、そうして距離を開ける事で、それだけ心も開いた会話ができるというもの。


「豪鬼、オメェに一つ、言ッとかニャならねェ事がある」

「……なんだ、ボス」

「暗鬼については、スマなかッた。実際に殺ッたのはシドニアだが、それでもナ……頭に血が昇ッた……ッてヤツだ」


 素直に謝罪をされると思っていなかった豪鬼は、思わず呆然として、言葉を放つ事が出来なかった。

  代わりに斬鬼が「何故謝る」と言葉を発した事で、マリルリンデの視線もそちらに。


「貴殿は、るわん殿を殺す必要がないと考えていたが、事実として彼女を殺した暗鬼殿を許せなかったのでは?」

「アァ、そうだ。オレと、シドニアはな。ケド、オメェらにとッちャ姫巫女の生き残りで、二十年前の戦いで勝利を果たした先鋭だ。殺せる機会を見失わなかッた暗鬼は、マァ災いとしちャ、立派だッたンだろォよ」


 その暗鬼が、狂った自我に呑まれていた事を、マリルリンデは言わない。

  それは、豪鬼や斬鬼の中にある暗鬼のイメージを壊す事に繋がる。


  ――既に消滅してしまった暗鬼という存在を、それ以上辱める事を避けたのだ。


「……ボス。オレは、アンタを許せない……でも、アンタが根っからの悪人には……見えない」

「オイオイ、寝ぼけんなよ豪鬼。オレァ、オメェ等も人間も、利用できるなら利用するダケで」

「オレは、愚母や暗鬼と違って……人間を滅ぼす意味が……分からない」


 マリルリンデの言葉を遮って、豪鬼が自分の言葉を発する。


「気が重い……ってのもそう、だけどさ……なんで、滅ぼさなきゃなんないのかな、とか……そうした先に、何があんのかな……とか、そういうの考えたら……気がノらないんだ」


 勿論、豪鬼とて災いとしての本能があり、その身に人間を滅ぼし得るだけの虚力が溜まった時、それを放出して死に、この世に災厄をまき散らすという役割がある。

  否、それよりももっと前に災厄をまき散らして、少なくとも人間を殺していく事も出来る。

  だが――豪鬼はそれを、したいと思えない。


「オレだって、死にたくないよ。だから、皇族とか、皇国軍人とか、姫巫女とか……オレ等の事を知ってて、滅ぼそうとする奴らを、殺すのは自衛だと思うけどさ……それ以上って、ホントに必要かな……?」

「斬鬼、オメェはどう思ッてる?」


 マリルリンデは、豪鬼の言葉に答えなかったが、しかしそれは解答の拒否ではない。

  斬鬼に問いかけ、彼は神妙な顔つきで髭を撫でつつ、しかし口は軽く開かれる。


「必要も何も、我々災いは元より、自由気ままに人間を襲い、虚力を喰らい、満足した後に災厄をまき散らすだけの存在であろう。

 それが五災刃だのと、愚母殿やまりるりんで殿に集められ、組織として機能させられておるだけの事。己にはむしろ、そうして人間を全て滅ぼそうと躍起になる事の方が分からんよ」

「つまり?」

「豪鬼殿に一票、という訳であるな。何故、滅びが必要なのか分からん」


 バシ、と斬鬼に背中を叩かれた事で「いてっ」と声を漏らした豪鬼は、しかし僅かながらに苦笑を浮かべつつ、マリルリンデへ向き合う。


「――オメェ等は、しっかりと考えてンだな」


 そう呟いたマリルリンデの声も、表情も……優しげだった。


「豪鬼、どうしてオメェ等名有りは、感情や思考があるンだと思う?」

「? それは、虚力を多く持ってるから、その相乗効果で……」

「チゲェよ、そォいう理屈じャねェ。……その先にある意味だ」


 豪鬼にとって、マリルリンデの言葉が何を言っているのか、何を言いたいのかが、理解できない。

  本来ならばそれを、聞く理由もないのであろうが、しかしそれを、知りたいと思った。


「人間も災いもフォーリナーも、この宇宙に存在するありとあらゆる、思考や感情を持ち得る存在ッつーのは、どォいう形であれ、進化や退化をするモンだ。

 オメェ等の感情も、思考も、名前も、そうして進化して得たモンだ。……いや、もしかしたら退化なのかもしれねェが、オレにはそれが進化に見える」


 思考が伴えば、進化というのは簡単である。

  進化というものは、どんな些細な事でも成し得る事だ。技術もそうだし、精神的な向上も進化であるし、災いのように本来持ち得る筈がない感情や思考を得る事が、進化で無くて何だと言うのだろう。


「だが、どンな存在にだッてヨォ、一定の進化を果たしたら、その先にあるモンを見たくねェッて怖がり、目を閉じ、耳を塞ぎ、うずくまッて、死んでいくヤツが現れる。今、この星にいる人間の、八割はソレだ」


 この星の人間は、進化し過ぎた。そして次世代の進化に行きつく為、必要な人的・物的資源も、少ないのではなく、得ようとしない。

  進化を果たそうとすれば――それは、争いも必要になるやもしれないと、恐れ、足を止める。

  恐れるのは良い、だがだからと言って、歩みを止める事は、進化を止める事と同義である。


「ケドな、残り二割は違うンだ。

 カルファスもアルハットも、進化の先を願ってる。

 シドニアは停滞してたが、ルワンの死を経て成長を果たした。

 アメリアは進化を目指す前に、人間を律する事を望ンでるがヨォ、それだッて必要な工程だ。

  イルメールなンざ筋肉だけ言えば一秒経ッたら三歩先を行ッてやがる。アリャ進化の権化だよ」


 先達の皇族と異なり、現在の皇族はなかなかに強者揃いだと、マリルリンデは溢す。


  ――その瞳は、本当に人類の滅亡を望んでいるのか、疑いたくなる程に、光り輝いている。


「愚母はある意味、進化を果たそうとしてる。ケド、それは災いの先を求めたモンじゃなく、人間を滅ぼしたいと願うからこそだ。マ、そこはオレ好みだ。

 暗鬼は、災いの進化を否定し、停滞した。災いの使命や役割なんて言葉を真に受けて、留まッた。だからルワンの死を経て成長したシドニアに殺られたんだ。

 餓鬼は、どうだかな。思考が名前通りガキのまま成長しちまッたから、アリャしョうがねェ一面もあるだろォヨ。ただ、強さとか、愚母に認められてェッて考えはあるンだろ。そこは、オレも好きな部分だ」


 ただ五災刃を利用しているだけだと言っていた割に、マリルリンデは良く、彼らの事を観察しているように言葉を連ねていく。

  豪鬼も、斬鬼も、ただそうしたマリルリンデの言葉を、聞き続ける。


「豪鬼、オメェはその『何で』を大切にしろ。

  斬鬼、オメェは豪鬼と一緒に、その『答え』を探せ。

 答えを見つければ良し、見つかんなくッたッて構わねェさ。ただ、進化を果たしたいと願う事が、行動する事が大切なンだ。


  ――オレは、進化を果たそうと足掻く奴が、大好きなンだよ」


  普段、マリルリンデの笑みというのは、誰もが疑う狂気に充ちている。

  だが、リンナと話す時や、ガルラの事を語る時、そして進化を願う今の笑顔は、輝いている。

  その笑顔を見て、二者はただ、困惑するしかない。


(……ボスは、何を考えている……?)


 豪鬼はただ、考える。

  それはマリルリンデの言葉を――しっかりとその心に、刻み込んでいるからであると、彼自身が気付いていなかった。
  
  
  **
  
  
  カルファス領首都・ラルタに面している、イルメール領海岸線は海運業や漁業用港から少し離れた場所に、海水浴用の開けた砂浜があり、クアンタたちは全員がそこに降り立っていた。

  そこは一面に広がる青の世界だった。

  ザァ、と奏でられる海の音がクアンタの聴覚を刺激し、鼻腔からは潮の香りが残り、網膜には輝きが焼き付き、全てが脳を刺激する。

  それは、リンナの刀を初めて見た時と同じ、心に訴えかける何かがあった。


「凄い……」

「クアンタちゃんは、海見るの初めて?」

「知識としては知り得ているし、地球へ来訪する際、大気圏を超えた時には秋音市に隣接する冬海市の海を見たが、これほどまでに輝いてはいなかった」

「まぁ地球の海は濁ってるからな。石油資源等に頼らずマナを主な動力源として発達したレアルタ皇国近海だからこそ、この輝きが放てるという訳だ」


 ヤエの語る地球の海とゴルサの海の違いを聞き流したクアンタは、身体の底から湧き出る感情を抑える事が出来なかった。

  今すぐ海へと飛び込み、その波を直に感じたいと考えたが、しかしそれは軽率だろうと、身体を僅かに動かし、その波打ち際に腰を落とし、手で海に触れた。


「……気持ちいい」

「虚力が増えたおかげで五感からの感情起伏もしっかりとしているな。私としても嬉しいよ、クアンタ」


 ホレ、とヤエがクアンタに手渡したのは、黒のビキニ水着である。

  以前アメリア領で着せられたモノと同様のものかと考えたが、こちらは撥水性が高い物に見え、クアンタは首を傾げる。


「水着だ。コレを着けた状態なら海に入って良し」

「……本当か?」

「ああ。船の用意も必要だから、あと一時間くらいは自由にして良いらしい」

「お師匠やイルメール、アルハットとカルファスの護衛が……」

「船の用意はここで待って、後で漁港に向かう。だから全員ここで自由時間だ」

「つまり」

「リンナさんもイルメールもカルファスもアルハットも、全員ここにいるから気にしなくて良しって意味だよ」


 クアンタはヤエの言葉と水着を受け取って、その場で着込んでいたジャージを脱ぎ始めようとする。


「ちょちょちょ、クアンタここでは脱いじゃダメっ! ポロリする時は水着の時にじゃないとシチュエーション不足っ!!」


 リンナが(意味の分からない事を言いながら)静止し、クアンタは「何故だ海はそこだ」と矢継ぎ早に砂浜で脱いではならぬ理由を求めたが、そんなクアンタの身体をカルファスが押す。


「はーいっ。あっちに脱衣所あるからねー、クアンタちゃん」

「海に入るの待ちきれなくてその場で脱ぎ始めるッて、ガキじゃねェかクアンタ」

「早く入りたい」
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