魔法少女の異世界刀匠生活

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第十八章

刀匠-04

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 クアンタとアルハットが椅子に腰かけ、何も口にしないまま数分の時間が経過した。

  机にうつ伏した菊谷ヤエ(A)が、口を閉じなかったからである。


『ねぇねぇ伊吹ー、どこから話す~? ていうかこーいう小難しー話だったらBの方がやっぱ良かったんじゃな――ッてBのヤツ! また煙草吸いやがった!アタシ煙草ダメなのにペッペッペッ!!』


 ヤエ(B)が口に咥えていた煙草と一緒に唾液を花畑に吐き出し、恨みの籠った足蹴で踏んでいく。

  踏みつける度、今クアンタたちがいる世界ごと、大きく揺れ動くかのような衝撃が走り、伊吹は苦笑しながら紅茶のカップを置いて『その辺にしないとこの世界も壊されてしまうから止めてくれ』と静止を促し、ヤエ(A)も不完全燃焼と言いたげな表情ではあるが、椅子に腰かけ直す。


『話が遅くなり、すまないね。何分俺達は、普段人間とのやり取りが少ないから、情報交換の方法を忘れていると言っても良い。……あぁ、だがクアンタはフォーリナーだったな』

『フォーリナーについて、理解をしているという事で構わないのか』


 クアンタがそう問うと、ヤエが『あったり前じゃん』と返しつつ、クアンタの胸に人差し指を押し付けた。


『アタシが何の為にマジカリング・デバイスを作ろうと思ったって、最終的にはアンタらフォーリナーに対抗する力を、人間に与える為なんだからね~?』

『何ですって……!?』


 アルハットがヤエの言葉に反応し、しかし彼女はそれ以上、自分では上手く説明が出来ないと考えたのか、クアンタに触れていた指を、伊吹へと向ける。


『クアンタちゃんのおっぱい、めっちゃ柔らかいよぉ。伊吹も触る?』

『やめておこう。男性が女性に触れるのは最低限にするべきと、俺も理解はしているからね』

『早く、説明してくれないかしら。正直どこから、何を聴けばいいのかは、良く理解できていないのだけれど』

『その前に一口、どうだい? 極上の茶葉だ』


 伊吹はアルハットとクアンタの前に差し出したカップを手で示すが、二者は決して手を、口を付けない。

  目の前にいる存在が信用できるかどうかも判断できていないのに、その人物が出す茶など飲めるはずもない。


『……結構。それだけ慎重ならば、俺の出す情報も多角的に思考してくれるはずだ。アルハット・ヴ・ロ・レアルタ、だったね。名前は覚えておこう』


 伊吹の目が、僅かに据わる。前を向いてクアンタとアルハットへ向き直り、右手を広げると、その広げられた手に映るホログラム。

  ホログラムに映された光景は、天の川銀河を中心とした宇宙であり――アルハットはホログラムに触れようとしつつも、しかし触れる事の出来ないそれに驚嘆する。


『これは……』

『地球や、地球を中心とした太陽系の惑星群――そのモデリングと言っていいかな』


 そして、と視線を僅かに左方へ向けると、今度は左手を広げた。そちらにもホログラムで形作られた宇宙のモデリングが浮かび上がり、その中央に位置する一つの星へと拡大した。


『これが塩基系第二惑星ゴルサ……いや、正確に言うと【元・ゴルサ】というべきかな?』


 ゴルサという星はホログラムで見る限り、薄い緑色を基本とした水に包まれた星であった。地球で言う海の代わりに、星の中央から溢れ出る様に吹きあがる水しぶき、そして視認できる程の輝きを見据え、アルハットとクアンタは驚嘆する。


『コレは、本当にゴルサなのか?』


 地球とは似ても似つかない星の姿。

  それがゴルサだと言われても、宇宙空間からの観測が出来ていない状態では調べようがない。故に信じる事も本来は出来る筈だが、しかし二者は疑う。


『嘘。これは私たちのいた星じゃない』

『なぜ、そう断言できる?』

『だって――この星から溢れ出る輝きの水は、間違いなく源より溢れ出た、力の泉と同様のモノよ。こんなものが、海の代わりに吹き出ている筈がない』


 そう、薄緑に輝きを放つ水は、海ではなく、マナを放出する源の泉と同質のモノに他ならない。

  もしクアンタとアルハットに、源の泉に関する知識がない状態で見せられた場合、それをゴルサだと認識出来た可能性はあるものの、しかし今の二者は、源の泉についてを知っている。


『宜しい。そこまで分かっているなら話が早い』


 握りこぶしを作る様に、締められる伊吹の両手。その動きに合わせて、ホログラムは拡散し、消えていく。


『だが今見せたホログラム映像は、二百三十年ほど前に俺と、菊谷ヤエ(B)が実際に観測した時の視覚映像だ。……証明する手は無い。けれどまずは話を聞いて貰おうじゃないか』


 カップに口を付け、香りと味を楽しみ、再び彼が口を開くまでの間、ヤエ(A)は常にニコニコと笑いながら、アルハットとクアンタの事を見定める様に見ていた。

 だがそんな彼女を気にする事が出来ない程、今の二人は伊吹が小出しに与えてくる情報に、感情を揺さぶられている。


『整理をしながら話をしよう。――クアンタ、君は塩基系第二惑星ゴルサについて、何か知識を有しているかな?』

『知識、とは言ってもフォーリナーの大本が観測した以上の情報は知り得ていない。マリルリンデと情報共有を行ってもいない』

『構わないよ、話してごらん?』

『二百二十年前、我々フォーリナーは有機生命体の活発な進化が行われていた、塩基系第二惑星の存在を確認。直ちに先遣隊を送り出したが、惑星系全土に発生したビックバンを観測、後に塩基系宇宙自体の消滅を確認している。先遣隊も同様に消滅している……筈だ』

『だが実際にはゴルサという星は残っていた筈、マリルリンデというフォーリナーが生き残っている事がその証明である……と?』


 クアンタの思考を先読みするかのように、言葉を挟んだ伊吹。クアンタも特に彼が言った言葉に不満は無く、小さく頷くと、彼も『その通りだとも』と認めた。


『塩基系第二惑星ゴルサには、地球人類と似通った生命種が存在していた。だが決定的に地球人類と異なる所は、間違いなく「源の泉との共存を果たしており、魔術という観点だけで言えば当時の地球を遥か超える程の技術を有していた」事だ』

『源の泉との……共存……!?』

『ああ、そうだ。つまりゴルサに住まう生命は星全土を覆う程に溢れかえった源の泉が放つ、マナの瘴気に耐えうる生命体だけが残り、進化して、その泉が放つ力を活用、生活様相を変化させ、そして更なる進化を果たそうとしていたんだよ』


 そんな事実は存在しない、と。否定する事は簡単である。

  だが、どこかおかしい。彼の言っている事が、進化の過程を語る口が、嘘を言っているように思えなかった。


『君達の言いたい事は分かる。俺の言葉の意味を理解できていない。だが、すぐに分かるさ』

『伊吹ぃ、アンタって説明をボカして相手を惑わすの楽しんでるよねぇ』

『ふふ、そんな事は無いよ。人間やフォーリナーも、結局は理解不能な情報を咀嚼した時に同じような反応をせざるを得ないのだと、笑ってなどいない』


 バカにしているのか、とアルハットが僅かに額に皺を寄せる。だがクアンタがアルハットの手を引いて、まだ話を聞くべきだと促すと、伊吹も僅かに緩んでいた頬の筋肉を引き締める。


『済まない、続けよう』

『ああ。最終的に理解が出来ればそれでいい』

『お詫びに手っ取り早く話を進めよう。――そんな、技術が優れ過ぎてしまった、星の生命エネルギーとも言うべき源の泉が放つ瘴気に耐えうる有機生命体を、フォーリナーが観測してしまえば、どうなると思う?』


 想像には難くない。

  そもそもクアンタは源の泉や、魔術という存在に関する知識を、これまで接触してきた有機生命体の情報からも得てはいなかった。

  近しい生命体はあったかもしれないが、そもそもが地球人類がゴルサ人類のように発達を果たした有機生命体自体が、数としては多くない。

  自然と、進化している存在を発見した時の反応は二分化される。


『関心と、恐怖ね』


 クアンタの代わりに、アルハットが返答をすると、伊吹も頷いた。


『正確に言えばフォーリナー自体に感情は無いから、【恐怖】というよりは【脅威性の認識】、という言葉が近いかな?』

『フォーリナーはそうした星の力……源の泉と共存を果たすまでに発達をした魔術の力を取り込みたいと考える筈。でも、それと同時に自分たちフォーリナーを迎撃し得る力を有している事と同義ね』

『そうだ、だが結末としては変わらない。最終的にはフォーリナーがゴルサという星の技術も含め、全てを取り込んで【根源化】を果たす』

『何故そう言い切れるの? それだけ魔術が発達した星であれば、フォーリナーを迎撃する手段も』

『ないよ。――ゴルサという星は、源の泉が放つ瘴気に耐えうる生命体のみが生き残るという進化を選んだ結果、フォーリナーを倒す事の出来る力、虚力を用いた戦闘技術を全て失っていたからね』


 規模があまりに違うが、と前置きしつつ、伊吹はそうしたフォーリナーの侵攻を『外来種の侵略と一緒だ』と断言した。


『結局はその場所で生きる為の進化を果たした種が、より繁殖力や侵攻力の優れた外来種によって進化の意味を果たせぬまま淘汰され、絶滅するという事は珍しい話じゃない。ゴルサはそうした運命を辿る筈だったんだ』

『筈、とは何だ』


 そこでクアンタが、ようやく言葉を挟めた。


『お前の説明は、どうにも理解が出来ない。整理しながら話すと言いつつ逸れてばかりだ。これでは理解しようにも理解できる筈も無い。意味が分からない』

『なるほど。君は……そしてマリルリンデは確かに、フォーリナーから独立し、個々で思考を巡らせて【個】としての感情を得ているわけか。(B)の言う通りだ』

『質問に答え――』


 はぐらかされていると考えたからこそ、クアンタは腰を上げて立ち上がり、椅子を花畑に転がらせた。

  だが伊吹がパチンと指を鳴らすと、クアンタの膝が九十度曲がり、いつの間にか立ち上がっていた椅子に尻を乗せ、座り込んだ。


『今、何をした』

『なに、ちょっと俺の力を使っただけだよ。大した事じゃない』


 だがいい加減、話の腰を折ったり、逸れたりするのも面倒だと。

  伊吹は今一度、先ほどゴルサだと言った星のホログラムを表示する。


『源の泉と共存を果たしたゴルサという星の存在に気付いたフォーリナーが、その技術を、泉のエネルギーを取り込んでしまえば、銀河の一つや二つ……否、宇宙そのものの存在を統一し、根源化を果たす事が出来てしまう』

『でもそれは、アタシら神さまからしてもイヤなんだよねぇー。だーかーらっ』


 これまで、ずっと口を閉じていたヤエ(A)が、口を開きつつ、両手を勢いよく合わせ、音を鳴らした。

 瞬間、表示していたゴルサのホログラムが――星の中心から瓦解するかのように崩壊を始めたばかりか、そのエネルギーが相転移を引き起こすかのように、力を圧縮し、破裂した。

  惑星系そのものを全て、消滅させる程の威力を以て。


『アタシが、フォーリナーに渡さないよーに、あのゴルサって星をブッ壊しちゃったの』
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