魔法少女の異世界刀匠生活

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第十八章

刀匠-05

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 平然と、笑顔で、嬉しそうに、菊谷ヤエ(A)は言い切った。

  ゴルサという星を破壊したと。

  生命体が生きる、命に富んだ星の一つを。


『彼女……菊谷ヤエ(A)と同化した神霊【カオス】の力は、文字通り【混沌】だ。彼女が思い浮かべた事柄を全て、宇宙の法則を無視して実現できる力で、この力を用いればゴルサという星を――否、星が存在した惑星系全てを無に帰する事など、容易い事だ』

『たださぁ~、あんまそーいう法則を無視し過ぎると宇宙の法則が乱れるー、とか何とかで、勝手に使うとBに怒られちゃうの!』


 メンドーなんだよなぁ、と溢すAの言葉は、未だにクアンタも、アルハットも信じる事が出来ていない。

  これまで出会ってきたヤエ(B)、ガルラという存在は、確かに強大な力や能力はあるものの、強さとしては人類よりも優れている、程度のモノにしか見えなかった。

  彼女達が本気かどうかはさておき、それでも強大な力に思えたにも関わらず――ヤエ(A)は、そうした存在達を遥かに超えた、圧倒的な暴力を持ち得るというのだ。


『彼女の能力は破壊だけに特化したモノではない。君の持つマジカリング・デバイスを生み出したように、創造にも役立てる事が出来る。――が、そうした活用方法もまた、宇宙の細やかな法則を乱しかねない』

『宇宙の法則を乱すとは、一体何なの……?』

『例えばAがマジカリング・デバイスという存在を初めて創造したのは、地球での暦で、西暦二千十年。この年以降、マジカリング・デバイスや近しい戦闘用デバイスを用いなければ、打倒し得ない存在……異端と呼ばれる存在が爆発的に増えてしまった』


 全宇宙、この世界そのものには均衡という言葉がある。均衡というものは全てにおいて、保たれる事が優先される。

  つまりヤエ(A)が物理法則を捻じ曲げて生み出した存在には、それに対となる存在や法則を世界が新たに生み出し、均衡を図るのだ。

  そして、この世界に住まう生命体は、そうした新たに生み出された存在や、宇宙の法則を、元々存在したかのように受け取り、自然な事だと受け流す。


『もしかしたら君達が当たり前だと思っているものも、宇宙の法則が捻じ曲がった末に生まれ出たものかもしれないね。例えば魔術とか、錬金術とか。そもそもフォーリナーなんて存在も、本来存在しなかったのにも関わらず、Aが宇宙の法則を捻じ曲げたが故に、生み出された存在なのかもしれない』

『……怖い事を言う』

『事実だからね。そして俺達、神霊にも、彼女が使った力によって変化した世界を、完全に把握する事は出来ない』


 故にヤエ(A)――否、彼女と同化した神霊【カオス】は、全神霊の中で最も危険視されているのだという。


『話を戻そう。そもそもゴルサ……否、塩基系惑星全土を破壊したと、Aは言ったね? だがその星で生活を営んでいる筈の君達や、破壊されたゴルサに向かっていたフォーリナー……先遣隊の一であるマリルリンデが、何故生存をしているかが、君達には重要だ』


 そうだ。あまりに菊谷ヤエ(A)についての説明が突飛なもの過ぎて、本来の話題を忘れかけていた。クアンタとアルハットは落ち着けぬ心を整えつつ、続きの話を待つ。


『菊谷ヤエ(B)は、菊谷ヤエ(A)とは対となる存在だ。彼女は全宇宙の秩序を守る為に活動をしなければならない。つまり、彼女はゴルサという星にフォーリナーが侵攻し、全宇宙の危機が訪れると分かっていても尚、Aによるゴルサ破壊を渋った』


 秩序を司る神霊としての役割を、ヤエ(B)は果たす為に奮闘している。故に知的生命体が進化を果たし、次なる種へと更なる進化を託すと言う、文明・秩序ある生活を果たしていたゴルサを(A)が破壊する事に反対だったのだ。


『だがフォーリナーが、源の泉を活用する術を知り過ぎているゴルサを取り込んでしまえば、全宇宙そのものを根源化させてしまう』


 それでは秩序の安定、世界の均衡どころの話ではない。

  宇宙に有機生命体自体の存在が無くなる所か、未だに広がり続ける宇宙そのものが、フォーリナーによって滅ぼされる。


  そう、完全なる無となる。


  フォーリナーは確かに完全なる進化を果たす。だが、その進化の果てには、何もなくなる。


『そこでBは、折衷案を俺とAに提示した。それが「俺の能力で、異なる断層世界に偽りのゴルサを生み出す」……という計画だ』


 伊吹は右手に地球のホログラムを映し出すと、一度左手でその地球を覆うように塞ぎ、しかし掴むように左腕を、上げた。

  すると、ホログラムの地球が両手に持たれ、クアンタとアルハットはただ、伊吹の持つ地球に注目する。


『俺と同化した神霊【シン】の能力は【破壊と再生】だ。この言葉を聞いただけではAと同じ能力に思えるかもしれないが、彼女ほど単純でも無ければ、彼女ほど骨董無形な物でもない――いや、骨董無形ではあるな』


 自傷するように苦笑を浮かべた伊吹に、クアンタとアルハットは言葉を放つ事も、ユーモラスだと受け流す事も出来ていない。

  緊張というより、怒涛の事柄があまりに伝えられ過ぎて、アルハットは思わず飲まないと決めていた紅茶に、口を付ける。


『……貴方、成瀬伊吹と言ったわね』

『ああ』

『この場所は、別の次元に作り出した世界だ、と……貴方は言ったわね』

『その通りだ』

『……もしかして、貴方の能力は……「異なる次元に新たな世界を生み出す」という力……?』

『よく思考を辿り着かせた。完璧だ』


 二つに増やした地球のホログラムを潰すように、両手をパンと合わせて叩いた伊吹。

  しかし彼がその両手を広げると――地球が存在する宇宙モデルの上方・下方に、異なる宇宙モデルが生み出された。


『正確に言えば「異なる次元に世界を生み出し、その世界では俺の思い通りに世界を創造・操作・破壊できる力」――と考えればいい』


 伊吹は地球が存在する本来あるべき宇宙や世界とは異なる異世界を作り出し、その異世界ではあらゆる自分の願望を叶える事が出来ると言う。

 先ほど伊吹へ怒りながらクアンタが立ち上がった瞬間、彼女が意図していないにも関わらず膝を折り、椅子へ腰かけたように――彼は自分の作り上げた世界では無敵なのだと言い切った。


『デメリットは地球や、地球の存在する世界では、そう大した力が発揮できないという事位か。罪を司る神霊の力が、何故そうした力になったのかは俺にも分からない。――まぁ、有機生命の罪を体現する能力、という意味ではコレが正しいのかもしれないが』

『有機生命の……罪……?』


 クアンタが長く発していなかった言葉を発すると、伊吹は『気にしなくてもいいのだがね』と言いつつ、自論を語る。


  ――破壊は罪である。万物全ては本来あるべき形を保つべきであるから。

  ――しかし再生も罪である。万物全てのかたちは朽ちるべくして生まれづるものであるから。


  小説の一文を朗読するかのように語る彼の声に、どこかクアンタも、アルハットも、聞き入っていた。


『生物はそもそも、生きているだけで罪なんだ。万物は生まれを祝福されるべきだが、生きる為には何かを壊さなければならない。木々を伐採し山の形を変え、都市や街を作るように、人や生物の営みは、破壊と再生という罪に充ち、成り立っている』

『では、有機生命は……存在する価値がないと?』

『いいや。……俺はそうした罪も含めて、有機生命体という存在の不出来を、全てを愛している。だから、フォーリナーの目指す根源化等という考え方には反対でね』


 だからこそ、全宇宙がフォーリナーによって根源化を果たされてしまうのは伊吹にとっても都合が良くない。

  故に彼は、ヤエ(B)の用意した折衷案に同意し、彼女が望む世界を作り出した。


 ――当時、千七百八十年代の地球や、天の川銀河の容をコピーした異世界を。


『クアンタ、君達がいた偽りのゴルサには、地球と類似した部分が多く存在すると思わなかったか?』

『……考えていた。ゴルサの文化・文明・言語・技術と、地球の文化・文明・技術を貼り合わせたような……そう、まるでチグハグだった』

『そうだろう。何せ次元の異なる世界へコピーアンドペーストして生み出した地球に、ゴルサで発達していた文化・文明を適当に当てはめて生み出した、即席の星だったからね。技術や文化・文明がチグハグになりつつも、同じような星となるのも無理はないさ』


 正直細やかな所はどう設定したかも全く覚えていない、と伊吹は笑った。


『ならば……ならば、私がいた星は……ゴルサという世界は、もう一つの地球……という事なのか?』

『ああ。信じがたいならば、君達がいたゴルサの世界地図を見るといい。まぁ、国やその境はゴルサにあった物をある程度当てはめているがね。特に面白いのはリュナスだよ。特有の料理や利権大国としての在り様は、国の位置とも一致する』

 
 何時の間にか、伊吹の手に持たれていた物は、丸められた一枚の大きな紙。それが世界地図だと分かるには、そう時間は必要じゃない。

 広げられたゴルサの世界地図、本来球体である星を無理やり平面に直した世界地図は――クアンタが知る、地球の世界地図と、ほとんど一致している。

 レアルタ皇国がある場所は――地球地理の国で言えば、スペインに該当する。

 先日美しい海だと認識した姿は、アルボラン海。レアルタ皇国の国境を出れば、ジブラルタル海峡も近しい。

 余談だが、これまで何度かアメリアやリンナ、カルファスがリュナスという国を話題に上げていたが、リュナスの位置する国は、間違いなく中華人民共和国だった。


『……菊谷ヤエ(B)としては、そんないい加減な世界をゴルサとするだけで良かったの……?』


 アルハットがAへ向けて尋ねるが、しかし彼女は『知らないよぉ』と端的に返事をした。


『そもそもアイツは、人類とか生命体とか、そういうのに興味があるわけじゃなくて、そうして文明や秩序のある世界が「同じ数あるか」だけを気にしてンの。言っちゃえば数の問題だよねぇ~』

『Bとしては、ゴルサという星の文化・文明と全く同じで無くとも、星の名を受け継いだ、同じ数以上の生命体が文明を築き、秩序を保てているだけで十分だったんだよ』

『まぁ、それもこれも全部――フォーリナーなんて存在が、宇宙の神様気取りで根源化を無理矢理推し進めちゃうから、起こった悲劇だよねェ~っ』
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