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第十八章
刀匠-06
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キャハハ、と笑いながら、Aがクアンタの肩を突き飛ばすように、押した。
クアンタは押されただけで、背中から倒れて、ハッ、ハッ、と呼吸を意識する。
そうしなければ、精神がどうにかなってしまいそうだった。
クアンタは元々フォーリナーという【全】から分離した【一】でしかなかった。
だが偽りのゴルサへとヤエに飛ばされ、フォーリナーとの通信が断絶されてしまうと、彼女はフォーリナーとしての【一】ではなく、クアンタという【個】の自我を有するようになった。
ゴルサという星の文明や文化、そしてリンナという人物に触れて、その星に間違いなく愛着を抱く様になっていたと、彼女自身も感じている。
――だが愛着を抱いた世界は、この者達によって作られたモノだったのだ。
別に本来は、それがどうというわけではない。
偽りのゴルサは、異なる断層世界に存在する別の地球をゴルサと名付けただけで、その世界で生きる人物や世界は本物であるし、そこまでショックを受ける事でも無いと、頭では理解している。
理解はしているが――しかし本来のゴルサで生きていた生命たちが惑星系ごと消滅させられてしまった事は恐らく事実であるだろうし、その要因は間違いなくフォーリナーにあった。
偽りのゴルサ等という、チグハグな世界を生み出す事になった要因も、間違いなくフォーリナーにあったのだ。
――有機生命体が自分たちの存在を、人生を、慈しみながらも一瞬一瞬、懸命に生きているとも知らずに、ただ根源化を果たした先にこそ生命体の進化があると驕ったが故に、起こった悲劇。
クアンタは初めて――流体金属生命体【フォーリナー】である自分自身が、恐ろしいと感じてしまった。
『……大丈夫よ、クアンタ。落ち着いて』
倒れるクアンタの身体へと近づき、細くも温かな体で抱き寄せる、アルハット。
彼女はクアンタの頭を優しく撫で、微笑みをクアンタへと向ける。
アルハットの体温と、頭を撫でる細くて小さい指や手の温もりが、少しだけだが、クアンタの心を落ち着かせるようだった。
――しかし反面アルハットは、決意を込める様な視線をヤエ(A)と伊吹へと向け、毅然とした態度で、問い続ける。
『偽りのゴルサは二百二十年前に作られた……それ以前の記録や歴史はどう説明するの?』
『ゴルサで起こっていた記録や歴史を地球地理に当てはめて、生を営む人間にそうと認識させただけだよ。世界五分前仮説という哲学実験のようだがね』
世界五分前仮説とは、世界が五分前に作られたという仮説を確実に否定する事が出来ないと言う懐疑主義的な思考実験だが、今回はまさしく「二百二十年以上の歴史があるゴルサの記録や歴史は、神によって与えられた偽物の歴史や記録なのだ」という事だ。
『じゃあ、偽りのゴルサで生きる人間の意識や役割は』
『それも、地球暦で千七百八十年代の地球人をベースに、俺が新しく生み出した人類を適当に配置しただけだ。ただどういう役職だとか国だとか、そういうのは元々のゴルサから流入したよ』
『ならこの星にある源の泉は?』
『アレは地球にある泉と同一のものだ。だから神霊【パワー】が地球の泉と同様に管理をしなければならなくなった』
『災いや、姫巫女という存在は?』
『あの辺は多分、地球の災いやプリステスと呼ばれる存在の歴史と、元々ゴルサに存在していた災いや姫巫女の存在とが混ぜ合わさったんじゃないかな? 詳しくは覚えていない』
これ以上、伊吹に細かく聞いた所で、どうせ「覚えていない」と言われるだけだと、アルハットはクアンタの身体を立ち上がらせ、椅子を正し、彼女を座らせる。
『……なら、貴方達は、ヤエさんは、クアンタに……そしてリンナに、何をやらせる気なの?』
そう、そもそもが「偽りのゴルサ」という話に主題が行ってしまったが、本来この場所に来たのは「ヤエがクアンタを偽りのゴルサへと異世界転移させた理由」だ。
それを最後に、ここを後にしようと考えるアルハットの瞳を見て、伊吹は微笑んだ。
『何で笑うの?』
『いや。君は情報の濁流に呑まれそうになりながらも、何とか流木にしがみ付いてるようなものなのに、何故それでもクアンタを気遣い、自分自身もそこまで気丈に振舞えるのか、とね』
『――私はただ、自分に出来る事をするだけよ』
クアンタが事実を受け止めて冷静でいられないのならば、クアンタの代わりに事実をしっかりと把握し、情報を活かすべきだ。
それに、彼女はレアルタ皇国皇族の代表として、シドニアやアメリア、イルメールに背中を押されてこの場所に訪れたのだから、情報に呑まれるのではなく受け止め、その上で皆に話すべきか、話さないべきかをしっかりと定めなければならない。
――かつてはそうした、自分の役割を果たす事も忘れて塞ぎ込み、リンナに怒鳴られた事もあった。
――けれど、あの時の自分とは違う自分になれたのだから、それを成さねば、と。
それが、今の彼女に与えられた、皇族としての役割である。
『……イイネ。アタシ、アンタみたいな女の子、スキだよ』
そうしたアルハットの事を気に入ったように、ヤエ(A)が目を輝かせて、机に身を乗り出してはしゃぐ。
何故気に入られたのかを自覚できないアルハットは僅かに首を傾げたが、そこでAが、伊吹に代わって答えた。
『まずさぁ、さっきの話で言うと、マリルリンデって奴は、元々のゴルサをアタシが破壊した時点で死んでないとおかしくね?』
あ、とアルハットはそこで「どうしてその考えに至らなかったのだ」と恥ずかしんだが、しかし得られた情報量があまりに多すぎて、思考が回らなくとも仕方が無い。
『で。フォーリナーはスッゲー離れた外宇宙から兵を色ーんな宇宙や星に出兵して、根源化を果たし、技術を盗んでんのよ』
『ええ、そういう話らしいわね』
『んでんで、そのフォーリナーが侵略していく生命体の中には、もしかしたら伊吹の作った断層の異なる世界を行き来できる技術を持ってる生命体がいる……か~もしれない』
否、伊吹という存在がこの世に存在しているという事は、類似技術はどこかの宇宙にあると考えるべきだと、アルハットは思考。
例えばヤエ(B)という神の観測能力から逃れる事も出来た、カルファスの有する固定空間のように、異なる次元に世界を生み出してそこで活動し、自分たちの存在する世界に影響を与えないようにするというのは、神でなくとも均衡を図ると言う意味では最適である。
そうした技術をどこからかフォーリナーが確保する可能性は十二分に存在するのだ。
『偽りのゴルサは、地球を基にしてる。つまり偽りのゴルサが侵略されちゃうと、そこから地球の事を見つけ出して、地球へ侵略を行おうとしちゃうかもしれない』
それだけではない。元々地球をベースにした地理、地球にある陸地を、ゴルサに存在した国の名前などをあてがっただけと仮定した場合、地球の基本的なモデルデータがフォーリナーに渡ってしまう。
という事は、地球侵略においては、侵略する側であるフォーリナーが絶対的な優位に立ってしまう、という事だ。
『もしかして、マリルリンデは』
『そう。本来マリルリンデはゴルサの破壊と一緒に死んでなきゃいけなかったけど、Bが偽りのゴルサに送り込んだの。独立した【個】となる事で感情を学び世界に愛着が湧けば、偽りのゴルサをフォーリナーから守るカウンターになるってね!』
だがマリルリンデは偽りのゴルサと言う星に愛着が湧くどころか、今や災いを率い、偽りのゴルサで生きる人類の絶滅を目的に行動してしまっている。
これではカウンターとしての役割どころではなく、ゴルサという星に住まう生命の危機ですらある。
『だから、地球へ訪れたクアンタを排除すると共に、彼女をマリルリンデと変わる新たなカウンターにする事を、ヤエさんは企んだ……?』
『そゆコト~!』
『じゃあリンナは? ヤエさんはどうしてリンナを守ろうとするの?』
『クアンタちゃんだけじゃ防衛力としては弱いから、どういう形であれ姫巫女の一族には生き残っててほしいんだよ。フォーリナーに対抗するには、虚力を用いた戦闘技術が必要で、偽りのゴルサには姫巫女の一族位しか、虚力を使った戦闘技術は残って無いからねぇ』
そして、偽りのゴルサにフォーリナーが侵略を行うとしても、それは遠い未来の話。
ヤエ(B)がクアンタにマジカリング・デバイスを――虚力放出ができるようになるエクステンデッド・ブーストを与えたのは、それが理由だったと言う。
エクステンデッド・ブーストは、いざフォーリナーによる侵攻が行われて初めて与える筈であったのだとも、Aは語る。
『ま、もしフォーリナーが偽りのゴルサに辿り着くとしても、多分時間は百年単位でかかる。んで、数百年もあればアタシの作ったマジカリング・デバイスをコピーできる技術も生み出せるようになるっしょ。そうすりゃフォーリナー対策は万全! ――なのにさぁ、今の技術であんなパチモンをカルファスちゃんと作ってくれちゃって、このこの』
グリグリ、とアルハットの頭を拳でねじるAに、若干痛みを感じつつ、恐らくリンナに渡したマジカリング・デバイスについてを言っているのだと察して『ごめんなさい……』とだけ謝っておく。
『……ね? 正直、対災いとか対マリルリンデとかには関係なかったっしょ? ただアンタら、偽りのゴルサに住まう人間や、クアンタちゃんを動揺させるだけだから、Bも黙ってたんだよ~?』
『でも……知っておかなければならない事ではあったわ』
もしも遠い未来の話であったとしても――本来あるべきとは異なる、偽りの星であったとしても、アルハットが住まう星である事に変わりはない。
遠い未来にも、フォーリナーという侵略生命体に、侵されてなるものかと。
アルハットは真っすぐ、前を見据える。
『ありがとう、情報はありがたく頂戴するわ』
『クアンタは随分とショックを受けているがね』
『彼女は強いもの。……それに、喝を入れてくれる人たちが、沢山いるから、大丈夫』
クアンタの手を引き、立ち上がる。
これ以上この場で得る情報は無い筈だとしたアルハットに、立ち上がった伊吹とヤエ(A)は手を振る。
『アルハット・ヴ・ロ・レアルタ。君はカルファスというお姉さんよりも人間味のある女性だよ』
『……カルファス姉さまは、正直人間のカテゴリに入れるべきじゃないような……』
『コイツなりの褒め言葉だよ。素直に受け取りなって、アルハットちゃん』
『ああ。――俺は君達の作る、偽りのゴルサという星の物語を、楽しく拝見させて貰うとするよ』
パチン、と。
伊吹が指を鳴らした時から、クアンタとアルハットの身体が段々と光に包まれ、消えていく。
全身が包まれた時――クアンタとアルハットは、意識を自分の肉体へと、戻したのである。
**
クアンタが目覚める、少しだけ前。
シドニア領首都・ミルガスへと辿り着いたリンナ、シドニア、ワネットの面々は、リンナ刀工鍛冶場へと向かう為の一本道を馬車で走っていた。
だが、どうにも警備が薄い……というより、見当たらない。
「――ワネット、確認するが」
「ええ。この一本道及び周辺森林には、皇国軍人による警戒態勢を張らせていた筈です」
人がいた形跡……足跡はそこら中に存在するからこそ、警備指示の不備というわけではないだろう。
「……リンナ、一応自衛の準備を整えておけ」
馬車の中でシドニアの言葉を受けたリンナが僅かに身体を強張らせたが――しかしそこで、聞き覚えのある音を、リンナの耳が捉えた。
「火所の稼働音と……金槌で打つ音が、聞こえる」
クアンタは押されただけで、背中から倒れて、ハッ、ハッ、と呼吸を意識する。
そうしなければ、精神がどうにかなってしまいそうだった。
クアンタは元々フォーリナーという【全】から分離した【一】でしかなかった。
だが偽りのゴルサへとヤエに飛ばされ、フォーリナーとの通信が断絶されてしまうと、彼女はフォーリナーとしての【一】ではなく、クアンタという【個】の自我を有するようになった。
ゴルサという星の文明や文化、そしてリンナという人物に触れて、その星に間違いなく愛着を抱く様になっていたと、彼女自身も感じている。
――だが愛着を抱いた世界は、この者達によって作られたモノだったのだ。
別に本来は、それがどうというわけではない。
偽りのゴルサは、異なる断層世界に存在する別の地球をゴルサと名付けただけで、その世界で生きる人物や世界は本物であるし、そこまでショックを受ける事でも無いと、頭では理解している。
理解はしているが――しかし本来のゴルサで生きていた生命たちが惑星系ごと消滅させられてしまった事は恐らく事実であるだろうし、その要因は間違いなくフォーリナーにあった。
偽りのゴルサ等という、チグハグな世界を生み出す事になった要因も、間違いなくフォーリナーにあったのだ。
――有機生命体が自分たちの存在を、人生を、慈しみながらも一瞬一瞬、懸命に生きているとも知らずに、ただ根源化を果たした先にこそ生命体の進化があると驕ったが故に、起こった悲劇。
クアンタは初めて――流体金属生命体【フォーリナー】である自分自身が、恐ろしいと感じてしまった。
『……大丈夫よ、クアンタ。落ち着いて』
倒れるクアンタの身体へと近づき、細くも温かな体で抱き寄せる、アルハット。
彼女はクアンタの頭を優しく撫で、微笑みをクアンタへと向ける。
アルハットの体温と、頭を撫でる細くて小さい指や手の温もりが、少しだけだが、クアンタの心を落ち着かせるようだった。
――しかし反面アルハットは、決意を込める様な視線をヤエ(A)と伊吹へと向け、毅然とした態度で、問い続ける。
『偽りのゴルサは二百二十年前に作られた……それ以前の記録や歴史はどう説明するの?』
『ゴルサで起こっていた記録や歴史を地球地理に当てはめて、生を営む人間にそうと認識させただけだよ。世界五分前仮説という哲学実験のようだがね』
世界五分前仮説とは、世界が五分前に作られたという仮説を確実に否定する事が出来ないと言う懐疑主義的な思考実験だが、今回はまさしく「二百二十年以上の歴史があるゴルサの記録や歴史は、神によって与えられた偽物の歴史や記録なのだ」という事だ。
『じゃあ、偽りのゴルサで生きる人間の意識や役割は』
『それも、地球暦で千七百八十年代の地球人をベースに、俺が新しく生み出した人類を適当に配置しただけだ。ただどういう役職だとか国だとか、そういうのは元々のゴルサから流入したよ』
『ならこの星にある源の泉は?』
『アレは地球にある泉と同一のものだ。だから神霊【パワー】が地球の泉と同様に管理をしなければならなくなった』
『災いや、姫巫女という存在は?』
『あの辺は多分、地球の災いやプリステスと呼ばれる存在の歴史と、元々ゴルサに存在していた災いや姫巫女の存在とが混ぜ合わさったんじゃないかな? 詳しくは覚えていない』
これ以上、伊吹に細かく聞いた所で、どうせ「覚えていない」と言われるだけだと、アルハットはクアンタの身体を立ち上がらせ、椅子を正し、彼女を座らせる。
『……なら、貴方達は、ヤエさんは、クアンタに……そしてリンナに、何をやらせる気なの?』
そう、そもそもが「偽りのゴルサ」という話に主題が行ってしまったが、本来この場所に来たのは「ヤエがクアンタを偽りのゴルサへと異世界転移させた理由」だ。
それを最後に、ここを後にしようと考えるアルハットの瞳を見て、伊吹は微笑んだ。
『何で笑うの?』
『いや。君は情報の濁流に呑まれそうになりながらも、何とか流木にしがみ付いてるようなものなのに、何故それでもクアンタを気遣い、自分自身もそこまで気丈に振舞えるのか、とね』
『――私はただ、自分に出来る事をするだけよ』
クアンタが事実を受け止めて冷静でいられないのならば、クアンタの代わりに事実をしっかりと把握し、情報を活かすべきだ。
それに、彼女はレアルタ皇国皇族の代表として、シドニアやアメリア、イルメールに背中を押されてこの場所に訪れたのだから、情報に呑まれるのではなく受け止め、その上で皆に話すべきか、話さないべきかをしっかりと定めなければならない。
――かつてはそうした、自分の役割を果たす事も忘れて塞ぎ込み、リンナに怒鳴られた事もあった。
――けれど、あの時の自分とは違う自分になれたのだから、それを成さねば、と。
それが、今の彼女に与えられた、皇族としての役割である。
『……イイネ。アタシ、アンタみたいな女の子、スキだよ』
そうしたアルハットの事を気に入ったように、ヤエ(A)が目を輝かせて、机に身を乗り出してはしゃぐ。
何故気に入られたのかを自覚できないアルハットは僅かに首を傾げたが、そこでAが、伊吹に代わって答えた。
『まずさぁ、さっきの話で言うと、マリルリンデって奴は、元々のゴルサをアタシが破壊した時点で死んでないとおかしくね?』
あ、とアルハットはそこで「どうしてその考えに至らなかったのだ」と恥ずかしんだが、しかし得られた情報量があまりに多すぎて、思考が回らなくとも仕方が無い。
『で。フォーリナーはスッゲー離れた外宇宙から兵を色ーんな宇宙や星に出兵して、根源化を果たし、技術を盗んでんのよ』
『ええ、そういう話らしいわね』
『んでんで、そのフォーリナーが侵略していく生命体の中には、もしかしたら伊吹の作った断層の異なる世界を行き来できる技術を持ってる生命体がいる……か~もしれない』
否、伊吹という存在がこの世に存在しているという事は、類似技術はどこかの宇宙にあると考えるべきだと、アルハットは思考。
例えばヤエ(B)という神の観測能力から逃れる事も出来た、カルファスの有する固定空間のように、異なる次元に世界を生み出してそこで活動し、自分たちの存在する世界に影響を与えないようにするというのは、神でなくとも均衡を図ると言う意味では最適である。
そうした技術をどこからかフォーリナーが確保する可能性は十二分に存在するのだ。
『偽りのゴルサは、地球を基にしてる。つまり偽りのゴルサが侵略されちゃうと、そこから地球の事を見つけ出して、地球へ侵略を行おうとしちゃうかもしれない』
それだけではない。元々地球をベースにした地理、地球にある陸地を、ゴルサに存在した国の名前などをあてがっただけと仮定した場合、地球の基本的なモデルデータがフォーリナーに渡ってしまう。
という事は、地球侵略においては、侵略する側であるフォーリナーが絶対的な優位に立ってしまう、という事だ。
『もしかして、マリルリンデは』
『そう。本来マリルリンデはゴルサの破壊と一緒に死んでなきゃいけなかったけど、Bが偽りのゴルサに送り込んだの。独立した【個】となる事で感情を学び世界に愛着が湧けば、偽りのゴルサをフォーリナーから守るカウンターになるってね!』
だがマリルリンデは偽りのゴルサと言う星に愛着が湧くどころか、今や災いを率い、偽りのゴルサで生きる人類の絶滅を目的に行動してしまっている。
これではカウンターとしての役割どころではなく、ゴルサという星に住まう生命の危機ですらある。
『だから、地球へ訪れたクアンタを排除すると共に、彼女をマリルリンデと変わる新たなカウンターにする事を、ヤエさんは企んだ……?』
『そゆコト~!』
『じゃあリンナは? ヤエさんはどうしてリンナを守ろうとするの?』
『クアンタちゃんだけじゃ防衛力としては弱いから、どういう形であれ姫巫女の一族には生き残っててほしいんだよ。フォーリナーに対抗するには、虚力を用いた戦闘技術が必要で、偽りのゴルサには姫巫女の一族位しか、虚力を使った戦闘技術は残って無いからねぇ』
そして、偽りのゴルサにフォーリナーが侵略を行うとしても、それは遠い未来の話。
ヤエ(B)がクアンタにマジカリング・デバイスを――虚力放出ができるようになるエクステンデッド・ブーストを与えたのは、それが理由だったと言う。
エクステンデッド・ブーストは、いざフォーリナーによる侵攻が行われて初めて与える筈であったのだとも、Aは語る。
『ま、もしフォーリナーが偽りのゴルサに辿り着くとしても、多分時間は百年単位でかかる。んで、数百年もあればアタシの作ったマジカリング・デバイスをコピーできる技術も生み出せるようになるっしょ。そうすりゃフォーリナー対策は万全! ――なのにさぁ、今の技術であんなパチモンをカルファスちゃんと作ってくれちゃって、このこの』
グリグリ、とアルハットの頭を拳でねじるAに、若干痛みを感じつつ、恐らくリンナに渡したマジカリング・デバイスについてを言っているのだと察して『ごめんなさい……』とだけ謝っておく。
『……ね? 正直、対災いとか対マリルリンデとかには関係なかったっしょ? ただアンタら、偽りのゴルサに住まう人間や、クアンタちゃんを動揺させるだけだから、Bも黙ってたんだよ~?』
『でも……知っておかなければならない事ではあったわ』
もしも遠い未来の話であったとしても――本来あるべきとは異なる、偽りの星であったとしても、アルハットが住まう星である事に変わりはない。
遠い未来にも、フォーリナーという侵略生命体に、侵されてなるものかと。
アルハットは真っすぐ、前を見据える。
『ありがとう、情報はありがたく頂戴するわ』
『クアンタは随分とショックを受けているがね』
『彼女は強いもの。……それに、喝を入れてくれる人たちが、沢山いるから、大丈夫』
クアンタの手を引き、立ち上がる。
これ以上この場で得る情報は無い筈だとしたアルハットに、立ち上がった伊吹とヤエ(A)は手を振る。
『アルハット・ヴ・ロ・レアルタ。君はカルファスというお姉さんよりも人間味のある女性だよ』
『……カルファス姉さまは、正直人間のカテゴリに入れるべきじゃないような……』
『コイツなりの褒め言葉だよ。素直に受け取りなって、アルハットちゃん』
『ああ。――俺は君達の作る、偽りのゴルサという星の物語を、楽しく拝見させて貰うとするよ』
パチン、と。
伊吹が指を鳴らした時から、クアンタとアルハットの身体が段々と光に包まれ、消えていく。
全身が包まれた時――クアンタとアルハットは、意識を自分の肉体へと、戻したのである。
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クアンタが目覚める、少しだけ前。
シドニア領首都・ミルガスへと辿り着いたリンナ、シドニア、ワネットの面々は、リンナ刀工鍛冶場へと向かう為の一本道を馬車で走っていた。
だが、どうにも警備が薄い……というより、見当たらない。
「――ワネット、確認するが」
「ええ。この一本道及び周辺森林には、皇国軍人による警戒態勢を張らせていた筈です」
人がいた形跡……足跡はそこら中に存在するからこそ、警備指示の不備というわけではないだろう。
「……リンナ、一応自衛の準備を整えておけ」
馬車の中でシドニアの言葉を受けたリンナが僅かに身体を強張らせたが――しかしそこで、聞き覚えのある音を、リンナの耳が捉えた。
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