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第十八章
刀匠-08
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「ルワンやガルラの功績を無に帰した以前までの皇族、今の優秀な皇族達にただついていき、甘い蜜を吸えるダケで満足してるバカみてェな民草……全部下らねェよ。フォーリナーに食わす価値もねェ」
吐き捨てるように言い切ったマリルリンデの言葉に、それまで黙っていたリンナが、口を開く。
「アンタがしたいのは……」
「アァ。端的に言ッちまえば、愚かな人間の淘汰だヨ」
「復讐じゃ無いの……? アンタは、母ちゃんみたいな、姫巫女達が受けた皇族の所業を許せないって、奮い立ってんじゃないの……!?」
「そう、復讐でもあるゼ。やっぱオメェはそうやって他人に共感する力がある。その辺はルワンと、育て親のガルラ譲りだな。実父のミクニとは大違いだ」
ケケケ、と笑いながら胡坐をかいていた足を叩いたマリルリンデが、ひとしきり笑い終えた後、表情を引き締めて「どォよ」と問う。
「オレも最初は、全人類を滅ぼす気でいた。だから五災刃ッつー奴らと手を組ンで、リンナの虚力も喰う気満々だッた」
だがルワンの望みや、ガルラとの再会を経て、マリルリンデは「全てではなく一部の進化に値する人間だけを残す」という道に選び直したのだ。
「シドニアにャ二度目だが、オメェはどう思う? オレらと一緒に来る気はねェか?」
リンナが呆然としている為か、マリルリンデがシドニアへと視線をやり、訪ねると、彼は数秒程目を閉じた後、首を横に振った。
「確かに、貴様の言う事は、正しいと私も感じていた事だ。人間はそのほとんどが愚かで、稚拙で、生きる価値が無い者が多すぎる、とな」
かつては【弱き者が許される世界】を作ろうと考えていたシドニアは、長い時間を愚かしい民衆の統治に使っていた事で、段々とその思想を捻じ曲げていったことは間違いない。
「だが、私は……いや。僕は、それでも理想を追い求めたいと、今は思う」
あらゆる感情や状況に押しつぶされて歪んでしまった彼の願いは、ルワンという母という存在によって思い出され、彼女はそうした息子の想いを受けて、戦友であるマリルリンデを拒絶して、受け入れてくれた。
そしてアメリア達姉妹が、弟であるシドニアへ親愛の情を抱いてくれていると知り、シドニアは彼女達と共に理想を追い求めたいと願えたのだ。
「僕は、そうした愚かしい人々さえも、何時か進化を果たせると信じている。そうした進化が果たせるその時まで、愚かという【弱さ】を抱える者達を、強き者として守り、是正していきたい。……母さんは、そうした願いを抱いた子供の事を、想ってくれたんだ。その気持ちを、裏切る事など許されない……!」
皇族であるシドニア・ヴ・レ・レアルタとしてではなく、ルワンの子であるシドニアとして、まっすぐにガルラとマリルリンデを見据えて放つ言葉。
二者は、決してその言葉を疑う事も、訝しむ事も無く、ただ頷いた。
「成長なされましたな、シドニア様は」
「アァ。百点満点の答えだ。ルワンの死を、正しく受け止めてンだな、シドニア」
そして、シドニアの言葉を受け止めた二者の視線が、再びリンナへと向けられる。
「リンナ、オメェはどうなんだ?」
「アタシは……アタシは……」
チラリと、視線が僅かに布団へ横にされたクアンタへ向けた後、眠っている彼女を起こす事が出来ないと知っているからこそ、シドニアやワネットへと向けた。
だが、リンナの眼前を一本の刃が通り抜ける。ガルラが一瞬の内に投げ放った、彼の刀である。
「オメェの気持ちを他者に委ねんじゃねェ。オメェの言葉で言うんだよ」
リンナはこれまで、自分の気持ちを正直に伝えて来た。
だが、それでもやはり、彼女には大きな決断を下す事など、出来なかった。
それを定める為の知識が無いからだ。
父が正しいのか、マリルリンデが正しいのか、はたまた話していないがルワンが正しいのか、今のシドニアが言った事が正しいのか。
それを自分で理解し、口にする事が、出来ない。
だから、ただ押し黙るしか、出来なかった。
するとガルラは深くため息をついて、家宅の柱に刺さった、先ほど投げた刀を回収して、再び座布団に腰を落とす。
「……親父、アンタは、それで良いの……? 人類を滅ぼすって……淘汰するって……アタシには、それが正しいかどうかなんて、分かんないんだよ……漠然と、ただそんな事しちゃ、ダメだって位しか……」
「オメェは昔からそうだ。正直者だ、アッサリしてる、って言えば聞こえはいいが、テメェの頭で考える事を、その為に知識を集める事が出来てねェ。それを浅はかだっつってんだ」
リンナを鼻で笑ったガルラに、彼女は顔を赤くしながら、目元を僅かに潤わせた。
しかし、首を横に振りながら、せめて何か言い返さないと気が済まないとでも言わんばかりに、叫ぶ。
「じゃあ親父は、そんな事が正しいと思うワケ!?」
「思ってると、何度も言わすな。……それに、この決断はオメェの為でもある」
「……アタシの?」
ガルラがどういった意図で、人類の粛清・淘汰を「お前の為」と言っているかも分からず、リンナは興奮と困惑で荒げる息を整えながら、問う。
「人間は愚かモンだ。オメェが姫巫女としての力を持つ事に、災いという脅威に対抗できる力を持つ事に、恐怖する連中が何時か、ゼッテェに現れる。オメェが皇族様方と深い繋がりがありゃ、なおさらな」
「そんな……人間は、そんなバカばっかじゃ……っ!」
「オメェのご同類は、人間がバカばっかだったから、オメェの母ちゃんであるルワン以外、滅んじまったンだぞ? オレとマリルリンデは、そうした人間の悪性をこの目で見続け、それと戦ってきたんだ」
かつて皇族の雇った対魔師から逃げる姫巫女達をマリルリンデとガルラが守っていた事を、リンナ達はヤエから聴いている。
それが事実かどうかは分からなかったが――しかし、今のガルラが言った事からして、真実であるのだろう事は想像できる。
「オメェはさっき、オレに『人間が好きじゃなかったのか』と聞いたな? ――アァ、好きさ。だがな、愚かな人間含めて全員が好きだなんて口が裂けても言えねェよ。その愚かな人間たちの悪性を目が腐るほど見続けてりゃあな!」
尊敬していた、信じていた父の姿が、リンナの心の中で残り続けていた父のイメージが、音を立てて崩れるようだった。
争いを嫌いながらも、人を斬る事に特化している筈の刀に精魂を込めて作り上げ、美しい刀が出来ると口角を上げて喜び、リンナに振らせてくれた、幼き日に見続けた、父のイメージが。
「だからオレは、友であるマリルリンデと共に世界を作り替える。正しき世界を、より良い世界をと求め、しかし善性を以て人が人に優しく出来る……そんな当たり前が出来る人間のみが生を許される世界を」
動揺のあまり膝を畳に付け、ぺたりとへたり込んだリンナに、しかしガルラは視線を向けはしない。
「違う……違うッ! アンタは……親父は……父ちゃんは……ッ!! そんな……そんな人じゃ……アタシが、アタシが目指した父ちゃんは……ッ!!」
自分の理想としたガルラの姿を想いながら、リンナは嘆きを放つ。だが、その想いは上手く言語化出来ず、苛立ちと共に怒りが強く湧き出てしまい、リンナは足を動かして、マリルリンデが着る貫頭衣の胸倉を掴んだ。
「お前がッ!! お前が父ちゃんを誑かしてンだろッ!? お前がッ!!」
叫び散らされ、唾を顔にかけられながらも、マリルリンデは表情を変えはしない。
ガルラは駄々っ子のように喚くリンナの襟を無理矢理掴み、布団に横たわらされているクアンタの元まで投げ飛ばした。
リンナは荒れる息を整える余裕すら無いと言わんばかりに、マジカリング・デバイスを取り出す。
「ぶっ殺す……ッ!! オメェはぜってェ……ッ!!」
今、マジカリング・デバイスの電源を入れて変身をしようとするリンナが、体外に排出する虚力量は、あまりにも膨大な量。
マリルリンデが口元に垂れて来た汗を舌で拭う程の高純度な虚力を間近で受けながら、しかしガルラは、そんなリンナの姿を嫌悪の表情で見据える。
「……結局、気にくわねェ相手を力で捻じ伏せるのか?」
「、っ」
「確かにマリルリンデが善だとは口が裂けても言えねェ。だが今のオメェは、善でも悪でも無けりャ、シドニア様の言ってた弱者強者でもありゃしねェ。……ただの、バカだ」
先ほどリンナへと向けて投げた刀に左手で触れながら、リンナの変身を待つと言わんばかりに戦闘態勢を整えるガルラ。
そんな彼の姿を見て、涙目にも、恐怖にも、混乱にも思える複雑な表情を浮かべたリンナが、デバイスの電源を入れる為、腕を上げる。
――しかし、そんな彼女の手を掴んで止め、立ち上がるのはクアンタだった。
青白い表情でリンナの手を掴み、荒れた息を整えるクアンタ。
彼女の様子がどこかおかしいと気付いたリンナは、そこで気持ちを少しずつ落ち着かせ、マジカリング・デバイスを持つ手を、下ろした。
「クアンタ……?」
マリルリンデへと視線を向けるクアンタ。隣に座るガルラにも気付き、彼女は首を横に振った。
「話は、聴覚機能から全て聞こえていた。……私たちが、争う必要なんてない」
「クアンタ、どうしたの……?」
「マリルリンデ。私やお前がこの世界で戦う理由なんてない。この世界を、これ以上引っ掻き回す理由なんか無いんだ……ッ!」
クアンタが何を言っているのか分からなかったマリルリンデが首を傾げると、ガルラが「そうか」と頷く。
「おっぱいさん。オメェ、クアンタっつったな」
「刀匠・ガルラ。私は、この世界についてを知った……貴方も、知っているんだろう? このゴルサという星が……偽りのものであると……っ」
「アァ、知ってる。だが、マリルリンデもバカ娘も、シドニア様もメイドさんも、それについては知らねェだろうし……知った所でどうなる?」
「マリルリンデ、聞け。……聞いてくれ」
深く、マリルリンデに対して頭を下げながら、クアンタが矢継ぎ早に語っていく。
成瀬伊吹という神の力を持つ男が、断層の異なる異世界に作り上げたコピーされた太陽系と地球……そのコピーされた地球に元々存在したゴルサの文化・文明・言語等を合わせて、チグハグな形で生み出された世界が、今マリルリンデとクアンタがいる世界なのだと。
そして、元々存在したゴルサという星は、クアンタやマリルリンデというフォーリナーの存在が在ったから、滅びなければならなかった事を。
吐き捨てるように言い切ったマリルリンデの言葉に、それまで黙っていたリンナが、口を開く。
「アンタがしたいのは……」
「アァ。端的に言ッちまえば、愚かな人間の淘汰だヨ」
「復讐じゃ無いの……? アンタは、母ちゃんみたいな、姫巫女達が受けた皇族の所業を許せないって、奮い立ってんじゃないの……!?」
「そう、復讐でもあるゼ。やっぱオメェはそうやって他人に共感する力がある。その辺はルワンと、育て親のガルラ譲りだな。実父のミクニとは大違いだ」
ケケケ、と笑いながら胡坐をかいていた足を叩いたマリルリンデが、ひとしきり笑い終えた後、表情を引き締めて「どォよ」と問う。
「オレも最初は、全人類を滅ぼす気でいた。だから五災刃ッつー奴らと手を組ンで、リンナの虚力も喰う気満々だッた」
だがルワンの望みや、ガルラとの再会を経て、マリルリンデは「全てではなく一部の進化に値する人間だけを残す」という道に選び直したのだ。
「シドニアにャ二度目だが、オメェはどう思う? オレらと一緒に来る気はねェか?」
リンナが呆然としている為か、マリルリンデがシドニアへと視線をやり、訪ねると、彼は数秒程目を閉じた後、首を横に振った。
「確かに、貴様の言う事は、正しいと私も感じていた事だ。人間はそのほとんどが愚かで、稚拙で、生きる価値が無い者が多すぎる、とな」
かつては【弱き者が許される世界】を作ろうと考えていたシドニアは、長い時間を愚かしい民衆の統治に使っていた事で、段々とその思想を捻じ曲げていったことは間違いない。
「だが、私は……いや。僕は、それでも理想を追い求めたいと、今は思う」
あらゆる感情や状況に押しつぶされて歪んでしまった彼の願いは、ルワンという母という存在によって思い出され、彼女はそうした息子の想いを受けて、戦友であるマリルリンデを拒絶して、受け入れてくれた。
そしてアメリア達姉妹が、弟であるシドニアへ親愛の情を抱いてくれていると知り、シドニアは彼女達と共に理想を追い求めたいと願えたのだ。
「僕は、そうした愚かしい人々さえも、何時か進化を果たせると信じている。そうした進化が果たせるその時まで、愚かという【弱さ】を抱える者達を、強き者として守り、是正していきたい。……母さんは、そうした願いを抱いた子供の事を、想ってくれたんだ。その気持ちを、裏切る事など許されない……!」
皇族であるシドニア・ヴ・レ・レアルタとしてではなく、ルワンの子であるシドニアとして、まっすぐにガルラとマリルリンデを見据えて放つ言葉。
二者は、決してその言葉を疑う事も、訝しむ事も無く、ただ頷いた。
「成長なされましたな、シドニア様は」
「アァ。百点満点の答えだ。ルワンの死を、正しく受け止めてンだな、シドニア」
そして、シドニアの言葉を受け止めた二者の視線が、再びリンナへと向けられる。
「リンナ、オメェはどうなんだ?」
「アタシは……アタシは……」
チラリと、視線が僅かに布団へ横にされたクアンタへ向けた後、眠っている彼女を起こす事が出来ないと知っているからこそ、シドニアやワネットへと向けた。
だが、リンナの眼前を一本の刃が通り抜ける。ガルラが一瞬の内に投げ放った、彼の刀である。
「オメェの気持ちを他者に委ねんじゃねェ。オメェの言葉で言うんだよ」
リンナはこれまで、自分の気持ちを正直に伝えて来た。
だが、それでもやはり、彼女には大きな決断を下す事など、出来なかった。
それを定める為の知識が無いからだ。
父が正しいのか、マリルリンデが正しいのか、はたまた話していないがルワンが正しいのか、今のシドニアが言った事が正しいのか。
それを自分で理解し、口にする事が、出来ない。
だから、ただ押し黙るしか、出来なかった。
するとガルラは深くため息をついて、家宅の柱に刺さった、先ほど投げた刀を回収して、再び座布団に腰を落とす。
「……親父、アンタは、それで良いの……? 人類を滅ぼすって……淘汰するって……アタシには、それが正しいかどうかなんて、分かんないんだよ……漠然と、ただそんな事しちゃ、ダメだって位しか……」
「オメェは昔からそうだ。正直者だ、アッサリしてる、って言えば聞こえはいいが、テメェの頭で考える事を、その為に知識を集める事が出来てねェ。それを浅はかだっつってんだ」
リンナを鼻で笑ったガルラに、彼女は顔を赤くしながら、目元を僅かに潤わせた。
しかし、首を横に振りながら、せめて何か言い返さないと気が済まないとでも言わんばかりに、叫ぶ。
「じゃあ親父は、そんな事が正しいと思うワケ!?」
「思ってると、何度も言わすな。……それに、この決断はオメェの為でもある」
「……アタシの?」
ガルラがどういった意図で、人類の粛清・淘汰を「お前の為」と言っているかも分からず、リンナは興奮と困惑で荒げる息を整えながら、問う。
「人間は愚かモンだ。オメェが姫巫女としての力を持つ事に、災いという脅威に対抗できる力を持つ事に、恐怖する連中が何時か、ゼッテェに現れる。オメェが皇族様方と深い繋がりがありゃ、なおさらな」
「そんな……人間は、そんなバカばっかじゃ……っ!」
「オメェのご同類は、人間がバカばっかだったから、オメェの母ちゃんであるルワン以外、滅んじまったンだぞ? オレとマリルリンデは、そうした人間の悪性をこの目で見続け、それと戦ってきたんだ」
かつて皇族の雇った対魔師から逃げる姫巫女達をマリルリンデとガルラが守っていた事を、リンナ達はヤエから聴いている。
それが事実かどうかは分からなかったが――しかし、今のガルラが言った事からして、真実であるのだろう事は想像できる。
「オメェはさっき、オレに『人間が好きじゃなかったのか』と聞いたな? ――アァ、好きさ。だがな、愚かな人間含めて全員が好きだなんて口が裂けても言えねェよ。その愚かな人間たちの悪性を目が腐るほど見続けてりゃあな!」
尊敬していた、信じていた父の姿が、リンナの心の中で残り続けていた父のイメージが、音を立てて崩れるようだった。
争いを嫌いながらも、人を斬る事に特化している筈の刀に精魂を込めて作り上げ、美しい刀が出来ると口角を上げて喜び、リンナに振らせてくれた、幼き日に見続けた、父のイメージが。
「だからオレは、友であるマリルリンデと共に世界を作り替える。正しき世界を、より良い世界をと求め、しかし善性を以て人が人に優しく出来る……そんな当たり前が出来る人間のみが生を許される世界を」
動揺のあまり膝を畳に付け、ぺたりとへたり込んだリンナに、しかしガルラは視線を向けはしない。
「違う……違うッ! アンタは……親父は……父ちゃんは……ッ!! そんな……そんな人じゃ……アタシが、アタシが目指した父ちゃんは……ッ!!」
自分の理想としたガルラの姿を想いながら、リンナは嘆きを放つ。だが、その想いは上手く言語化出来ず、苛立ちと共に怒りが強く湧き出てしまい、リンナは足を動かして、マリルリンデが着る貫頭衣の胸倉を掴んだ。
「お前がッ!! お前が父ちゃんを誑かしてンだろッ!? お前がッ!!」
叫び散らされ、唾を顔にかけられながらも、マリルリンデは表情を変えはしない。
ガルラは駄々っ子のように喚くリンナの襟を無理矢理掴み、布団に横たわらされているクアンタの元まで投げ飛ばした。
リンナは荒れる息を整える余裕すら無いと言わんばかりに、マジカリング・デバイスを取り出す。
「ぶっ殺す……ッ!! オメェはぜってェ……ッ!!」
今、マジカリング・デバイスの電源を入れて変身をしようとするリンナが、体外に排出する虚力量は、あまりにも膨大な量。
マリルリンデが口元に垂れて来た汗を舌で拭う程の高純度な虚力を間近で受けながら、しかしガルラは、そんなリンナの姿を嫌悪の表情で見据える。
「……結局、気にくわねェ相手を力で捻じ伏せるのか?」
「、っ」
「確かにマリルリンデが善だとは口が裂けても言えねェ。だが今のオメェは、善でも悪でも無けりャ、シドニア様の言ってた弱者強者でもありゃしねェ。……ただの、バカだ」
先ほどリンナへと向けて投げた刀に左手で触れながら、リンナの変身を待つと言わんばかりに戦闘態勢を整えるガルラ。
そんな彼の姿を見て、涙目にも、恐怖にも、混乱にも思える複雑な表情を浮かべたリンナが、デバイスの電源を入れる為、腕を上げる。
――しかし、そんな彼女の手を掴んで止め、立ち上がるのはクアンタだった。
青白い表情でリンナの手を掴み、荒れた息を整えるクアンタ。
彼女の様子がどこかおかしいと気付いたリンナは、そこで気持ちを少しずつ落ち着かせ、マジカリング・デバイスを持つ手を、下ろした。
「クアンタ……?」
マリルリンデへと視線を向けるクアンタ。隣に座るガルラにも気付き、彼女は首を横に振った。
「話は、聴覚機能から全て聞こえていた。……私たちが、争う必要なんてない」
「クアンタ、どうしたの……?」
「マリルリンデ。私やお前がこの世界で戦う理由なんてない。この世界を、これ以上引っ掻き回す理由なんか無いんだ……ッ!」
クアンタが何を言っているのか分からなかったマリルリンデが首を傾げると、ガルラが「そうか」と頷く。
「おっぱいさん。オメェ、クアンタっつったな」
「刀匠・ガルラ。私は、この世界についてを知った……貴方も、知っているんだろう? このゴルサという星が……偽りのものであると……っ」
「アァ、知ってる。だが、マリルリンデもバカ娘も、シドニア様もメイドさんも、それについては知らねェだろうし……知った所でどうなる?」
「マリルリンデ、聞け。……聞いてくれ」
深く、マリルリンデに対して頭を下げながら、クアンタが矢継ぎ早に語っていく。
成瀬伊吹という神の力を持つ男が、断層の異なる異世界に作り上げたコピーされた太陽系と地球……そのコピーされた地球に元々存在したゴルサの文化・文明・言語等を合わせて、チグハグな形で生み出された世界が、今マリルリンデとクアンタがいる世界なのだと。
そして、元々存在したゴルサという星は、クアンタやマリルリンデというフォーリナーの存在が在ったから、滅びなければならなかった事を。
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