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第二十一章
生きる意味-09
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思わず口を開いたまま、絶句してしまった。
彼が何を言っているのか、質問の意味も意図も理解する事が出来ず、呆然とする他なかったのだ。
もしや聞き間違いかな、と考えて、問い直す事とした。
「……なんて?」
「理解できなかったかな? 君にとって、妹は可愛い存在かどうかを問うたんだよ」
聞き間違いでは無かった。
伊吹はクスクスと笑いはするが、先ほどまでの含みがある笑みではなく、単純にそうした話をするのが好きと言わんばかりに、今ティーカップへ口を付けた。
「いや、俺にも妹がいてね。五年近く会っていないんだが、可愛い子なんだよ」
「えっと……貴方の妹さんって、なに?」
「血は繋がっていないよ。俺達、神霊と同化した元・人間……パラケルススと呼ばれる存在は、不老不死の力を有してしまってるからこそ、人間社会で怪しまれずに生きる為、五十年周期で顔と苗字、そして住む家庭を変えているんだよ」
俺とヤエは五百年近く苗字を変えていないけれど、と笑った伊吹が、ポケットから何かを取り出した。カルファスはクアンタのマジカリング・デバイスにも見えたが、実際にはただのスマートフォンで、彼はメモリに残されていた妹の画像を表示した。
「ホラこの子だ。可愛いだろう?」
栗色の癖が少しある髪の毛、整った顔立ちと少しだけ臆病そうな子は、カメラを恥ずかしそうに見据えながら、小さくピースをしてはにかんでいる。
そうした小さな少女を見ていると――どこか、アルハット、当時のミサを見ているように感じて、カルファスも思わず笑みが零れてしまう。
「歩という子でね。今は順当に育っていれば十四才位か。また会いたいが、それは決して許されない」
「何で許されないの? 可愛い子よ、この子。きっと美人さんになるわ。大きくなるまで、お兄さんである貴方が見守ってあげないと」
「ふふ、君は妹の事になると、人が変わるようだね」
茶化すように言われた言葉。しかし伊吹はティーカップに口付けると、しばしの沈黙を経て、答えを捻り出す。
「……俺はね、死にたいんだよ」
「死にたい……?」
「ああ。元々人間だった存在が、神と同化すると言うのも難儀でね。俺の場合は、人の罪を全て消し去る事が出来るんじゃないかと思って、罪を司る神霊【シン】と同化したんだ。……そんな事、出来る筈もないのにな」
長編小説【罪と罰】を机に置いた伊吹が「アルハットとクアンタには語ったがね」と前置きながら、自論を口にする。
「生命はそもそも、生きているだけで罪なんだ。生命は生きる為に破壊という罪を為す。しかし破壊なくして新たな命の生誕はあり得ない。そして新たな命は、やがて新たな破壊を生み出す……生命は、そうした【破壊と再生】という罪を繰り返す事で、成り立っている――こうした罪の形を、俺が神となる事で取り払えると思っていた」
「けれど、現実は違った……当たり前よ。だって、生きる為に必要なルーチンから破壊と再生を無くしたら、それは生命たり得ない」
「ああ、俺は甘かったよ。もし俺の言う生命の【罪】を全て祓い、贖罪する事が出来るとしたら、それは全生命の淘汰か、進化の辿り着いた先――【根源化】の果てにしかあり得ない」
君のようにね、と。
カルファスへ指を向けた伊吹に、カルファスはため息をつきながら、頷く。
「本当に愚かね、成瀬伊吹。……人類は、そうした破壊と再生の上に成り立つから、美しいんじゃない」
「そうさ。そもそも俺は、そうした罪を含めて、有機生命体という存在の不出来を愛している。愛してはいたが――やはり、少しでも俺に、生命へ出来る事があるのなら、それを成したいと考えてしまったんだよ」
結局、伊吹は自分に有機生命体の持つ【破壊と再生】という罪を祓う事も、贖罪する術も無かった。
否、正確にはあったが――それは伊吹の求める答えでは無かったのだ。
彼はそうして、神霊と同化した意味を……つまり、永劫の時を生きる意味を、失ってしまった。
「生きる意味を失っても、それでも生きる事を強いられる。それがどれだけの苦痛か、分かるかい?」
「貴方には、そうして生き続けた先に、愛おしい妹さんとの出会いがあったのでしょう? それを生きる理由とするべきなのよ」
「妹――歩も、何時かは死ぬ。そして俺は、愛おしい妹の傍にずっとい続けた先にある彼女の死別を、乗り越える事など出来ないのだろう。きっと俺自身が破壊という罪そのものとなり、世界の全てを破壊する」
だからこそ伊吹は、死に方を求めているのだと言う。
神霊と同化した人間が死ぬ方法は、現状二つ。
神霊同士による戦いによって殺されるか、司る概念の消滅のどちらかだ。
しかし、神霊同士による戦いは、互いに防衛本能が強く働いてしまい、わざと殺される事も許されない。そして真剣な争いとなってしまえば、伊吹と対等に渡り合える相手は神霊【カオス】と同化を果たした最強の女・ヤエ(A)位しかいない。
そしてヤエ(A)は少なくとも、そう言われて相手を素直に殺すような事はしない。
彼女は人が死にたがっていれば全身全霊を以て生かし、人が生きたがっていれば殺すような、天邪鬼だ。(率先して意味も無く人を殺すような事はしないが)
加えてもし本当に争う事になればなったで、全世界・全宇宙へ与える影響も大きくなる。彼女へと頼む利点は、現状では少なすぎる。
「二つ目の、罪という概念そのものが無くなる事は、生命が生命たり得ている間は永遠にないだろう。故に、俺は死ぬ方法を現状持ち得ていない、という事さ」
少し、話が逸れているような気がしたけれど、カルファスは伊吹の言葉を聞き続けていた。
この男はどうしてこんな話を、それも妹の話題という部分から入ったのであろうかと、そう考えると、一つ考えが思い浮かんだ。
「……もしかして貴方は、私に『貴方を殺す方法を探せ』と言っているの?」
「人聞き悪い。もし君が、妹の事を愛おしいと思っているのなら、妹を持つ者同士、協力し合おうと言っているだけさ。君がどれだけ優秀で面白い存在かは、これまでで理解できた。後は君次第、というわけさ」
カルファスの望みは「伊吹がアメリアの救出を手伝う」事。
伊吹の望みは「カルファスが伊吹の永遠なる命を終わらせる方法を探す」事。
だが――それは、果たしてどれだけの時間を費やせば、叶うのだろうか。
果たしてその願いは――叶える事の出来る願いなのだろうか?
「……どの位で死にたいとか、そういう願望はあるの?」
「いいや。歩の死を目の当たりにしたくないから、あの子の所から離れたんだ。だから、時間は幾らでもある」
「じゃあ、もし私が、貴方の願いを叶える事が出来ずに死んでしまえば、どうなるの?」
「さぁね。未来の事なんか、俺にも分からないよ――でも、協力を約束したのなら、それは必ず果たして貰おうじゃないか。
――君は、妹の命を助ける為に、これから永遠の如く生命を続けさせていくしかない。
その覚悟を、俺の為に使うつもりが、本当にあるかい?」
伊吹は、そうカルファスへ笑いかけたが――その眼は決して、笑って等いない。
カルファスは、根源化の紛い物という、不老と言っても良い技術を手にしている。
しかしその命は、伊吹とは違い、何時でも自分の手で終わらせることが出来る。
彼女は決して、不死ではない。擬似的な不死は再現したが、しかし命の取捨選択は自分の手にあるのだ。
すなわち、自分なりに生きる理由を無くした時、彼女は何時でも自分の命を終わらせる事が出来るのだ。
だが、もし伊吹とそうした約束を交わしたら。
彼女は伊吹の願いを叶えるまでは、自分の意志で死ぬ事は許されなくなる。
――カルファスの生きる理由はこれから、伊吹という男によって定められる事となるのだ。
「コレは、実に難しい問題だろう。よく考えるといい」
「なんで考えなきゃいけないの?」
「……なんで、とは?」
「考える必要なんかないでしょ」
「何を言って」
「一刻も早く可愛い妹を救う手段が欲しいのに、それをためらう理由なんかないでしょ、っつってんのよ! 同じ妹を持つ身なら分かるでしょうが――ッ!!」
目の前の机を、思い切って叩いてしまった為か、机はバキバキと音を奏でて砕けていく。
しかし伊吹は、そうした机の事など気にする事無く――カルファスの瞳を見据えている。
「この世に、大好きな家族を守れる事以上の幸せなんかない。どれだけでも貴方に付き合ってあげるわ。貴方の持つ永遠の命を、私の持つ技術、私の持つ知恵――命から何でも使って、殺してあげる」
「……たった一人の妹を救う為に、永遠に近い時間を、俺などという男に使う事となっても、君は後悔をしないと?」
「絶対にしない。むしろ、アメちゃんを救う事が出来るのにそれをしないなんて、それこそ私は一生後悔する」
それに、と。カルファスは自分の胸元に手を置きながら、ふんぞり返って、高らかに叫ぶ。
「私は最優の魔術師・カルファスよ? 貴方を貴方の許可有りで頭の天辺からつま先まで解剖も解析もできる。なんて事かしら。貴方の提案は私にとって最も多くのハッピーが詰まってるっ!!」
ふん、と鼻を鳴らしながら、カルファスは得意げに笑った。
――彼女は、伊吹が提案した、普通の人間にとっての【最悪】を、自分なりの【最高】に挿げ替えたのだ。
「……く、ははは、ははっ。そうだ、そうだった! 君はカルファス・ヴ・リ・レアルタ。素知らぬ顔で狂気を纏い、狂気を道理に変え、道理を狂気で塗りたくる……悪魔の女だ」
「ええ、そうよ。だから早く、その私にとってメリットしかない契約を結びましょう? ――成瀬伊吹」
最高だ、と。
伊吹はニヤリと笑みを浮かべた後に、高らかに手を掲げ、その指を――鳴らす。
「君達姉妹は、本当に面白い。個々がそれぞれ掲げる野望も、夢も、違う方向を向いていると言うのに――その信念の容だけは、同じ方向を向いている」
伊吹の背後、その空間が捻じれる様に、歪んだ。
ジジジジ、と音を鳴らしながら歪んだ空間は、やがて画素数の低い画像を拡大表示するかのようなドットを形成し始めて――次第に画素数調整が成されていき、彼女の姿をしっかりと映し出す。
「安心するといい。――既に、アメリア・ヴ・ル・レアルタは、救出済みだ」
巨大なベッドに横たわりながら、静かな寝息を立てる――アメリア・ヴ・ル・レアルタの姿を。
彼が何を言っているのか、質問の意味も意図も理解する事が出来ず、呆然とする他なかったのだ。
もしや聞き間違いかな、と考えて、問い直す事とした。
「……なんて?」
「理解できなかったかな? 君にとって、妹は可愛い存在かどうかを問うたんだよ」
聞き間違いでは無かった。
伊吹はクスクスと笑いはするが、先ほどまでの含みがある笑みではなく、単純にそうした話をするのが好きと言わんばかりに、今ティーカップへ口を付けた。
「いや、俺にも妹がいてね。五年近く会っていないんだが、可愛い子なんだよ」
「えっと……貴方の妹さんって、なに?」
「血は繋がっていないよ。俺達、神霊と同化した元・人間……パラケルススと呼ばれる存在は、不老不死の力を有してしまってるからこそ、人間社会で怪しまれずに生きる為、五十年周期で顔と苗字、そして住む家庭を変えているんだよ」
俺とヤエは五百年近く苗字を変えていないけれど、と笑った伊吹が、ポケットから何かを取り出した。カルファスはクアンタのマジカリング・デバイスにも見えたが、実際にはただのスマートフォンで、彼はメモリに残されていた妹の画像を表示した。
「ホラこの子だ。可愛いだろう?」
栗色の癖が少しある髪の毛、整った顔立ちと少しだけ臆病そうな子は、カメラを恥ずかしそうに見据えながら、小さくピースをしてはにかんでいる。
そうした小さな少女を見ていると――どこか、アルハット、当時のミサを見ているように感じて、カルファスも思わず笑みが零れてしまう。
「歩という子でね。今は順当に育っていれば十四才位か。また会いたいが、それは決して許されない」
「何で許されないの? 可愛い子よ、この子。きっと美人さんになるわ。大きくなるまで、お兄さんである貴方が見守ってあげないと」
「ふふ、君は妹の事になると、人が変わるようだね」
茶化すように言われた言葉。しかし伊吹はティーカップに口付けると、しばしの沈黙を経て、答えを捻り出す。
「……俺はね、死にたいんだよ」
「死にたい……?」
「ああ。元々人間だった存在が、神と同化すると言うのも難儀でね。俺の場合は、人の罪を全て消し去る事が出来るんじゃないかと思って、罪を司る神霊【シン】と同化したんだ。……そんな事、出来る筈もないのにな」
長編小説【罪と罰】を机に置いた伊吹が「アルハットとクアンタには語ったがね」と前置きながら、自論を口にする。
「生命はそもそも、生きているだけで罪なんだ。生命は生きる為に破壊という罪を為す。しかし破壊なくして新たな命の生誕はあり得ない。そして新たな命は、やがて新たな破壊を生み出す……生命は、そうした【破壊と再生】という罪を繰り返す事で、成り立っている――こうした罪の形を、俺が神となる事で取り払えると思っていた」
「けれど、現実は違った……当たり前よ。だって、生きる為に必要なルーチンから破壊と再生を無くしたら、それは生命たり得ない」
「ああ、俺は甘かったよ。もし俺の言う生命の【罪】を全て祓い、贖罪する事が出来るとしたら、それは全生命の淘汰か、進化の辿り着いた先――【根源化】の果てにしかあり得ない」
君のようにね、と。
カルファスへ指を向けた伊吹に、カルファスはため息をつきながら、頷く。
「本当に愚かね、成瀬伊吹。……人類は、そうした破壊と再生の上に成り立つから、美しいんじゃない」
「そうさ。そもそも俺は、そうした罪を含めて、有機生命体という存在の不出来を愛している。愛してはいたが――やはり、少しでも俺に、生命へ出来る事があるのなら、それを成したいと考えてしまったんだよ」
結局、伊吹は自分に有機生命体の持つ【破壊と再生】という罪を祓う事も、贖罪する術も無かった。
否、正確にはあったが――それは伊吹の求める答えでは無かったのだ。
彼はそうして、神霊と同化した意味を……つまり、永劫の時を生きる意味を、失ってしまった。
「生きる意味を失っても、それでも生きる事を強いられる。それがどれだけの苦痛か、分かるかい?」
「貴方には、そうして生き続けた先に、愛おしい妹さんとの出会いがあったのでしょう? それを生きる理由とするべきなのよ」
「妹――歩も、何時かは死ぬ。そして俺は、愛おしい妹の傍にずっとい続けた先にある彼女の死別を、乗り越える事など出来ないのだろう。きっと俺自身が破壊という罪そのものとなり、世界の全てを破壊する」
だからこそ伊吹は、死に方を求めているのだと言う。
神霊と同化した人間が死ぬ方法は、現状二つ。
神霊同士による戦いによって殺されるか、司る概念の消滅のどちらかだ。
しかし、神霊同士による戦いは、互いに防衛本能が強く働いてしまい、わざと殺される事も許されない。そして真剣な争いとなってしまえば、伊吹と対等に渡り合える相手は神霊【カオス】と同化を果たした最強の女・ヤエ(A)位しかいない。
そしてヤエ(A)は少なくとも、そう言われて相手を素直に殺すような事はしない。
彼女は人が死にたがっていれば全身全霊を以て生かし、人が生きたがっていれば殺すような、天邪鬼だ。(率先して意味も無く人を殺すような事はしないが)
加えてもし本当に争う事になればなったで、全世界・全宇宙へ与える影響も大きくなる。彼女へと頼む利点は、現状では少なすぎる。
「二つ目の、罪という概念そのものが無くなる事は、生命が生命たり得ている間は永遠にないだろう。故に、俺は死ぬ方法を現状持ち得ていない、という事さ」
少し、話が逸れているような気がしたけれど、カルファスは伊吹の言葉を聞き続けていた。
この男はどうしてこんな話を、それも妹の話題という部分から入ったのであろうかと、そう考えると、一つ考えが思い浮かんだ。
「……もしかして貴方は、私に『貴方を殺す方法を探せ』と言っているの?」
「人聞き悪い。もし君が、妹の事を愛おしいと思っているのなら、妹を持つ者同士、協力し合おうと言っているだけさ。君がどれだけ優秀で面白い存在かは、これまでで理解できた。後は君次第、というわけさ」
カルファスの望みは「伊吹がアメリアの救出を手伝う」事。
伊吹の望みは「カルファスが伊吹の永遠なる命を終わらせる方法を探す」事。
だが――それは、果たしてどれだけの時間を費やせば、叶うのだろうか。
果たしてその願いは――叶える事の出来る願いなのだろうか?
「……どの位で死にたいとか、そういう願望はあるの?」
「いいや。歩の死を目の当たりにしたくないから、あの子の所から離れたんだ。だから、時間は幾らでもある」
「じゃあ、もし私が、貴方の願いを叶える事が出来ずに死んでしまえば、どうなるの?」
「さぁね。未来の事なんか、俺にも分からないよ――でも、協力を約束したのなら、それは必ず果たして貰おうじゃないか。
――君は、妹の命を助ける為に、これから永遠の如く生命を続けさせていくしかない。
その覚悟を、俺の為に使うつもりが、本当にあるかい?」
伊吹は、そうカルファスへ笑いかけたが――その眼は決して、笑って等いない。
カルファスは、根源化の紛い物という、不老と言っても良い技術を手にしている。
しかしその命は、伊吹とは違い、何時でも自分の手で終わらせることが出来る。
彼女は決して、不死ではない。擬似的な不死は再現したが、しかし命の取捨選択は自分の手にあるのだ。
すなわち、自分なりに生きる理由を無くした時、彼女は何時でも自分の命を終わらせる事が出来るのだ。
だが、もし伊吹とそうした約束を交わしたら。
彼女は伊吹の願いを叶えるまでは、自分の意志で死ぬ事は許されなくなる。
――カルファスの生きる理由はこれから、伊吹という男によって定められる事となるのだ。
「コレは、実に難しい問題だろう。よく考えるといい」
「なんで考えなきゃいけないの?」
「……なんで、とは?」
「考える必要なんかないでしょ」
「何を言って」
「一刻も早く可愛い妹を救う手段が欲しいのに、それをためらう理由なんかないでしょ、っつってんのよ! 同じ妹を持つ身なら分かるでしょうが――ッ!!」
目の前の机を、思い切って叩いてしまった為か、机はバキバキと音を奏でて砕けていく。
しかし伊吹は、そうした机の事など気にする事無く――カルファスの瞳を見据えている。
「この世に、大好きな家族を守れる事以上の幸せなんかない。どれだけでも貴方に付き合ってあげるわ。貴方の持つ永遠の命を、私の持つ技術、私の持つ知恵――命から何でも使って、殺してあげる」
「……たった一人の妹を救う為に、永遠に近い時間を、俺などという男に使う事となっても、君は後悔をしないと?」
「絶対にしない。むしろ、アメちゃんを救う事が出来るのにそれをしないなんて、それこそ私は一生後悔する」
それに、と。カルファスは自分の胸元に手を置きながら、ふんぞり返って、高らかに叫ぶ。
「私は最優の魔術師・カルファスよ? 貴方を貴方の許可有りで頭の天辺からつま先まで解剖も解析もできる。なんて事かしら。貴方の提案は私にとって最も多くのハッピーが詰まってるっ!!」
ふん、と鼻を鳴らしながら、カルファスは得意げに笑った。
――彼女は、伊吹が提案した、普通の人間にとっての【最悪】を、自分なりの【最高】に挿げ替えたのだ。
「……く、ははは、ははっ。そうだ、そうだった! 君はカルファス・ヴ・リ・レアルタ。素知らぬ顔で狂気を纏い、狂気を道理に変え、道理を狂気で塗りたくる……悪魔の女だ」
「ええ、そうよ。だから早く、その私にとってメリットしかない契約を結びましょう? ――成瀬伊吹」
最高だ、と。
伊吹はニヤリと笑みを浮かべた後に、高らかに手を掲げ、その指を――鳴らす。
「君達姉妹は、本当に面白い。個々がそれぞれ掲げる野望も、夢も、違う方向を向いていると言うのに――その信念の容だけは、同じ方向を向いている」
伊吹の背後、その空間が捻じれる様に、歪んだ。
ジジジジ、と音を鳴らしながら歪んだ空間は、やがて画素数の低い画像を拡大表示するかのようなドットを形成し始めて――次第に画素数調整が成されていき、彼女の姿をしっかりと映し出す。
「安心するといい。――既に、アメリア・ヴ・ル・レアルタは、救出済みだ」
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