魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十三章

命の限り-07

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 強い縦揺れが、サーニスとワネットの身体を襲った。

  それは互いに斬鬼との斬り合いを行っている最中であった。

  遠くで、何かが――豪鬼が飛んでいると認識はしていた。

  しかし豪鬼と戦っているのはイルメールである筈だと、であれば心配する事も野暮であると考えていた次の瞬間に、揺れは二者へ襲い掛かったのである。

 サーニスは思わず前のめりに身体を揺らし。

  ワネットは衝撃によって地面へと、身体を倒してしまう。


「隙在り――ッ!」

「姉さんッ!」


 前のめりに倒れたワネットの背中目掛け、ワネットと相対していた斬鬼が斬馬刀が上段から振り下ろした。

  本来であれば、それを避ける手段などない。

  しかし――斬鬼には、魔術師との交戦経験が、ほぼと言ってよい程に無かった。

  斬馬刀が振り下ろされるよりも前に、ワネットは両掌で地面を強く叩いた。

  それによって、バシンと奏でられた音は反響し――その場にいるサーニス、斬鬼二名の脳を、強く揺さぶった。


「ぐ、ね、姉さ……っ」

「う、ぬぅう、ッ」

「ふ、不快……ッ」


  ガクン、と全身を揺らす三者。

  ワネットは身体を転がしながら、途中で振り下ろされるスピードが遅くなった斬馬刀の刃から逃れると、その刃を蹴りつける。

  ワネットが行った魔術は【不快音波】と呼ばれる魔術で、何かを強く殴打した際に発生する音波を【強化】魔術によって増幅させた後、モノや人に音波が当たる事で周囲に反響させる【操作】魔術を組み合わせた応用魔術。

  これにより強烈な不快感を脳へと与える超音波を周囲に放出、脳を揺さぶるという原理である。

  普段ならば、この魔術は役に立たない。通常は害虫駆除などに用いる魔術で、ワネットも今この時、初めて戦闘で【不快音波】を用いた。

  地面を叩いただけで発生する音等、如何に魔術で強化しようとも大した不快感を与える音波にしようがない。

 だが、強い縦揺れ地震による木々のざわめき、鳥の羽ばたく音、加えて周囲に点在する木片が揺れる音――これに加えて魔術行使のトリガーとなる地面を叩く音が加わり、幾重にも重なり反響すれば、人の脳を揺さぶるほどの不快感ある超音波を生み出せる、というわけだ。

  強い不快感を覚えた三者が耳を押さえて膝をつく中、ワネットは一人立ち上がり、ゴルタナの展開を解除した。


「ゴルタナ、便利ですが追加武装が取り出せないのは痛いですわね」


 ゴルタナの展開が解除された事で、普段の給仕服へと姿を戻した彼女は、乱雑にスカートを破り捨て、太ももに巻き付けられたベルトから計六本の神殺短剣を取り出し、地面を蹴って斬鬼を中心とした半径五メートルの円を作る様に、投げた。


「ご――ッ」


 それは、作り上げた円の中を拘束する仕組みの簡易結界。

  普段の斬鬼を相手取る際には投げた神殺短剣が弾き飛ばされてしまうだろうが――今の斬鬼はまともに動ける状況ではない。

  結果として不快音波による約十秒の鎮静に合わせ、身体の動きを止める簡易結界による拘束が約五秒ほど、作り出せた。

  その五秒の間に、ワネットは脇差【エンビ】を持ち直し、強く握り締めた状態で、上段からその刃を振り下ろす。

  拘束されていた斬鬼の一体に向けて振り下ろされた刃だったが――しかしワネットは感覚で認識した。


「っ、浅いっ!」


 寸での所で、僅かに身体を後ろへと引いていた斬鬼。結果として完全に斬鬼を殺しきる事が出来ず、斬鬼は苦し気な表情を浮かべながらも、握っていた斬馬刀を横薙ぎに振るい、ワネットの身体を殴り飛ばす。


「きゃ――っ」


 武器を取り出す為にゴルタナを展開を解除していた事が痛手であった。生身の肉体で人間よりも遥かに身体機能が高い災いの振るう斬馬刀の薙ぎ払いを身体に受けたワネットは強く地面を滑るように転がり、全身を木々の欠片が切り裂いていく。


「姉、さん……ッ!」


 ゴルタナは人間の五感を強化する側面も持つ。故にワネットが苦肉の策として発動させた不快音波の影響を一番受けていたサーニスは、未だにまともな思考回路を取り戻せず、身体を強張らせていた。

  全身に受けた切り傷から血を流すワネットの姿を見据えながら、しかし立ち上がれぬ己の未熟さを呪い、サーニスと相対していた方の斬鬼が振るった斬馬刀の刃を、身体に受ける。


「が、っ!」


 結果としてサーニスも、受けた衝撃によってゴルタナの展開が強制的に解除され、生身を晒してしまう。


「面白い手ではあったが……それによって、さぁにす殿の動きが鈍るとは」

「一手どころか二手三手、足りなかったようであるな……っ」


 まだ余力を残す斬鬼が一体、浅くではあるが刀で斬られた事により苦痛に耐える斬鬼が一体。

  だが、ワネットは出血と外傷の影響か、上手く立ち上がる事が出来ず、サーニスは未だ、不快音波による影響で頭をハッキリとさせていない。


「ご……ごめん、なさい……サーニス……やった事……裏目に」

「っ……問題、ない」


 脳を揺さぶられる感覚を無理矢理振り払うように、右足を殴りながら立ち上がるサーニス。

  しかし頭が割れる様に痛みを走らせている中で、自分一人がどれだけ動けるか分からない。


「死を……覚悟しなければ、ならんな」

「そも、さぁにす殿は己との戦いで、死を覚悟成されていなかったとな?」

「……今、話しかけるな……返す、言葉が思いつかん……」

「カカ、これは失敬」


 ワネットにより負傷したもう一体の斬鬼が今、消滅した。恐らく彼が模倣された個体で、虚力の流れを断ち切られた事により、即死こそ免れたが、しかし形を保つことが難しくなったのだろう。

  しかし、現状ワネットが戦闘に参加する事は難しい。そして今のサーニスは、戦闘における判断能力が損なわれている状況だ。

  試しに――と、斬鬼が斬馬刀の刃を思い切り突き出し、サーニスの腹を突き刺そうとする。

  しかし、サーニスは朧げな視界でも、彼のそうした気配を感じ取ったのか、寸での所で回避したばかりか、斬鬼の喉元に疾く、レイピアを突き出した。


「……舐め、るなよ……これでも、元殺し屋だ……っ」

「結構である! では存分に果たし合おう――ッ」


 サーニスは判断能力自体は損なわれていたが、しかし反射的行動によって斬鬼の動きについていく事が出来る。

 だが相手が素人ならばともかく、数多の戦闘に参加してきた斬鬼を、反射的行動だけで対処する事は難しい。

  斬馬刀を振るう斬鬼の一撃一撃を、全て躱すサーニス。だが彼が突き出すレイピアの切先もリュウオウによる斬撃も、彼による思考が伴うものでない限り、斬鬼も躱す事は容易く、また現在の彼はゴルタナを展開していない。

  ゴルタナ展開時の動きに慣れていた斬鬼にとって――今の彼は遅い。


「【ごるたな】とは実に、厄介な兵装であったという事であるな」


 斬馬刀を放棄し、その手に打刀【キソ】を顕現させる。

  斬馬刀と比べて圧倒的に短いリーチ。しかし故に連撃に特化した刀を振るい、サーニスの振るったレイピアを受け流しつつ、リュウオウを握る手を柄で殴りつけ、サーニスの脇腹を斬る。


「ぐ――ゥッ!」


 噴き出す血、しかしサーニスは負けじとレイピアの切先を振り抜いて、斬鬼の顔面を殴打する。

  僅かによろめいた彼に合わせ、サーニスも僅かに頭を揺らしたが、出血によってか僅かに朧気だった意識が戻り、息を深く吐いた。


「……感謝する、斬鬼。少し、頭がすっきりした」

「だが、その出血ではいずれ死ぬであろうな」


 腹を深く切り付けられた事による多量出血。時間が経てばこの出血による意識朦朧、さらには出血過多によるショック死もあり得るだろう。


「……ク、くく」


 しかしその事実を認識しているのか、出血により狂ったのか、サーニスは普段浮かべぬ笑みを浮かべて、レイピアを放棄した。


「さぁにす殿?」

「人を、心配する余裕が、あるとはな……斬鬼」


 一瞬、彼は目をつむって息を吐いた後――ギロリと斬鬼を睨んだ。

  斬鬼の背後へ通り過ぎる、何か恐ろしいまでの殺気に、彼は動くタイミングを見計らう事が出来なかった。

  地面へ落ちていたリュウオウを掴んだサーニスが、姿を消したように見えた。

  しかし周りはワネットの銃撃によって既に更地となっている。隠れる場所などどこにも――と辺りを見渡そうとした。


「後ろだ」

「な――ッ」


 声がかからなければ死んでいただろう。

  いつの間にかサーニスは斬鬼の背後でリュウオウを一度鞘へ納めると、抜き、放ち、斬るまでの動作を一瞬で済ましていたのだ。

  反射的に地面を蹴った事で背中を僅かに斬られただけで済んだ斬鬼。しかしサーニスはそこで止まらない。

 前方に向けて倒れ込もうとする斬鬼の背中、その斬り付けた背中へ追撃の回し蹴りを叩き込む事で、彼に呻き声しか上げられぬようにした。


「安心しろ斬鬼! 一人では死なん、お前が死んだ後に自分が後を追うだけだ! 地獄で会おう、強敵……っ」


 彼が動けば動く程、出血はより酷くなる。

  だが出血が多くなればなるほど、彼は笑みを強くする。

  斬鬼も同様だ。

  彼が疾く動けば動く程、彼は高揚を隠し切れない。


「しかし、さぁにす殿、先を行くのは貴殿の方ぞ! 己が貴殿の後を追う……!」

「やってみろ、それが果たせると言うのなら証明しろ! 自分たちに多く言葉などいらんだろうがッ!」


 地面を蹴るサーニスの姿がまた、見えなくなった。

  しかし斬鬼は振り返りながら、キソの刃を大きく振り切る。

  刃は空を斬ると思われたが、しかし刃は合わさり、サーニスのリュウオウが、キソの刃を受け、弾き、今幾度も弾き合う音が周囲に響く。


「……サー、ニス」


 サーニスの姉、ワネットが今、落としかけていた意識を取り戻しながら、自身に治癒魔術を展開。

  傷口がすぐに埋まる事は無いが、しかし自然治癒能力が底上げされる為、動く事はすぐに出来るようになるだろうとしたワネットは――弟の姿を見て、彼がどれだけ成長し、どれだけ戦いに適した者となってしまったかを認識する。


「サーニス……ッ」


 だがこのままでは、サーニスが死ぬ。

 出血多量による死、もしくは出血多量による意識朦朧によって隙を作り、斬鬼に殺される。

 それだけは――それだけは、避けねばならないと。

  そう考えた瞬間。


「、サーニス!」


 ワネットは、自分の手に一つのデバイスが握られている事を理解し、それをサーニスに向けて、投げた。

 投げられたモノに気付くサーニス。

  受け取り、今振り込まれた斬鬼のキソを、ワネットより投げ渡されたモノで受け止めながら――サーニスは笑いかける。


「……残念だ斬鬼。自分はどうやら、お前と一緒には死ねないらしい」

「なに」

「ゴルタナ、起動……ッ!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――

※申し訳ありません……二日前更新の「命の限り-04」にて、本来入れる筈の文章が入ってなかったので改訂しております……シドニアがボッコボコにされるシーン追加してます……
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