魔法少女の異世界刀匠生活

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第二十五章

侵略-06

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 ――答え。

 イルメールの放った言葉の意味が、上手く理解できなくて、クアンタは彼女の目を見て、首を傾げる。

 だがイルメールもイルメールで、感覚をそのまま答えただけであり、苦笑と共に頭をかく。


「やっぱダメだわ。オレ、学がねェからさ、こういう時、何て言ってやればいいのか、わかンねェンだわ」

 神霊【パワー】と同化する事により、彼女の持つ知識や権能を有する事になったイルメール。しかし、知識があるだけ。

  元の彼女から、何が変わったと言うわけではない。

  勿論、知識量が増えた事により語彙は増したのかもしれない。

  それでも、今までそうした語らいから最も遠く離れた生き方を自分に課してきた彼女にとって、言葉の交流とは難しいものだ。


「ケド、これだけは言える。愛は理屈じゃねェ、言葉で表す事の出来ねェ、複雑な感情だ。だからオレにもよく分かンねェよ」

『……そんな、訳の分からない感情に……人類は、何故行動を委ねる事が出来る……?』

「よく分かんねェからこそ抱いちまうモンで――これが案外、悪くねェンだよ」


 一歩、前に足を出すイルメールの圧力に、クアンタは思わず、体を後退らせてしまう。


「オレはな、この国を、オレの民を、オレの家族を愛してる」


 愛と聞く度に、口にする度に動きを止めるクアンタは、イルメールの言葉に思わず、顔を伏せる。


「皆それぞれ、一人ひとり違う。だからこそ、人ッてのは面白いし、違う奴らを愛する事が出来る」


 痛む頭を抑えるように、身を強張らせるクアンタに、しかしイルメールは言葉を止める事は無い。


「思い出せ、クアンタ――オメェはどうして、この世界で生きたいと願えた?」

『私は、私は――』


 何か、叫ぼうとするクアンタだったが――しかし、彼女の意思を拒むように、彼女は一瞬だけ身体を震わせた後、すぐに口を結んだ。

  眼からは生気も失われ、その眼光はイルメールを睨むだけ。

  再びフォーリナーに囚われた、という事に他ならない。


「おい、フォーリナー。邪魔すンじゃねェぞ。……オメェ等に愛を叩き込むにャ、クアンタがゼッテェに必要なんだ」


 イルメールの言葉を受け、クアンタはその場から飛び退いて、どこかへと消えて行ってしまう。

  恐らく、これ以上人間からの言葉を聞かせ続けると、クアンタという個がまた出現してしまう事に対する危惧なのだろうが――イルメールは、そこでニヤリと笑った。


 それはまるで……分の悪い賭けへ挑んだにも拘わらず、上手く行ったことによる安堵ともとれる表情だったが。

  その笑顔は、誰も見ていなかった。

    
  **
  
  
 リンナとアルハットの両名が、固定空間からアメリア皇居へと霊子転移を行ったのは、約一時間後の事ではあったが、固定空間内での時間経過は、約一時間で一分程度の時間経過しか経っていない為、他の面々が動き出してから実質的な時間の差異はほとんど無いと言っても良い。


(カルファス姉さまは上空でフォーリナーへの迎撃を行っている)


 固定空間から出て、アルハットが行った事は何よりも状況整理である。源の泉が現在世界中で起こっている事象を全てアルハットの管理するクラウドドライブへ更新し続ける為、こうした情報整理は常に最新情報へのアップデートが好ましい。


(イルメール姉さまも動き始めている。クアンタは任せておけって言ってたけれど……正直、あの人の思考回路は今の私でも読めないから、あてにし過ぎると困る事になるかもしれないわね)


 リンナの手を引きながら、彼女は皇居の庭へと出て、彼女へと言葉をかける。


〔リンナ、作戦は理解したかしら〕

「……うん。でも、これって本当に、上手く行くのかな……?」

〔上手くいかせるのよ。……大丈夫、どこかでトラブルがあったとしても、私とヤエさんで、何とかするわ〕


 既に固定空間にて、今回の事態を収束させるための作戦をリンナは聞かされている。

  ヤエの立てた作戦は、言ってしまえば単純な作戦で、クアンタの救出が可能かという点においては、一番成功率が高いと思われる。


  ――しかし、クアンタの救出は元々分の悪い賭けで、この作戦は高く見積もっても二十パーセント程度の成功率しかない。あくまでクアンタの救出が可能な作戦の中では高成功率というだけだ。


  もしクアンタを救出せず、ただ人類だけが救われる手段を選ぶという事なら、少なくとも倍の四十パーセントは成功確率が高い方法を取る事も可能だし――リンナには言っていないが、もし今回の作戦が失敗すれば、アルハットとヤエはクアンタを見捨てて、フォーリナーの殲滅を行う予定である。


(……大丈夫、きっと上手くいく。もし、上手くいかなくても……私が、どんな事をしてでも、何を犠牲にしてでも……この子だけは、守らなきゃ)


 あえてリンナへと伝える為、声に出すのではなく、心の中で唱えたのは、アルハットにも不安があるからだろう。

  彼女は神の如き力を手に入れたが、しかしそれで彼女の内面全てが変わったわけではない。

  勿論、泉の知識を兼ね備える事によって、知識に裏打ちされた理論は信じる事が出来るけれど、今回のように自分の知識や実力があっても対処が難しいような案件では、元々自分に自信がない彼女は大きく不安に揺れ動かされてしまう。


「……ふふ」


 しかし、そんなアルハットの事を見据えて、リンナが僅かに声を漏らす。彼女はアルハットを笑ったのだ。


〔な、何か可笑しかった? もしかして、私……変な顔してたり、とか〕

「あ、ううん。違うの。……上手く、言えないんだけど、アルハットってメチャクチャ強くなったっていう割には、前とあんまり変わらないなァ、って」


 言い当てられてしまう。しかし、それは当然の事なのだ。

  リンナは元々、他人の変化に――否、他人の感情がどう動いているかに敏感な少女だ。

  アルハットが神如き力を手にしたと聞いても、リンナにとってアルハットという少女は、内向的な彼女のままなのだ。


「……アタシは、アルハットが変わってなくて、嬉しい」


 ギュッ……と、リンナがアルハットの手を握り締めて、そう小さく呟く。


「これまでで……アタシも含めて皆、強くなったり、変わっちゃったり……ホントに数えきれない位、色んな事があって、実際にアルハットも、普通の人間って言えなくなっちゃったかもしれない」

〔……ええ〕


 リンナの細く、綺麗な指に握られて、アルハットは力加減に悩みつつも、少しだけ力を込める。

  そうすると、リンナはアルハットが力を入れた分、握り返してきてくれて――そうしているだけで、リンナの温かな手が、アルハットの心中に巣くう恐怖を、打ち消してくれるようだった。


「でも、アルハットの中身は……アタシと友達になってくれた時から、ずっと変わってない。優しくて、ちょっとした事で悩んで、それでも自分に出来る事を精いっぱいにやろうとする……そう、とっても可愛い女の子」

〔……リンナ、貴女より私の方が、五歳も上なのよ?〕

「たった五歳じゃん。それともアタシってシドニアさんの妹なんだったら、アルハットの事をお姉ちゃんって呼んだ方がいいのかな?」


 試しに「アルハットお姉ちゃん」と呼ぶリンナの、恥ずかしがるような笑顔が、とても眩しくて……とても可愛くて。


  アルハットも笑みを浮かべて、彼女の身体をギュッと抱きしめる。


「アタシさ、アルハットがどんだけ強くなったか、知らないし、分かんない。別に分かんなくても良いかなー、って思ってる」

〔ええ〕

「だってアルハットは別に、全然変わってなんか無いんだ。強くなっただけ、その存在の在り方が皇族から泉を守る人に変わっただけで、心の在り方が全然変わってないなら、アルハットのままだ」

〔そう。……私は、アルハットのまま〕

「これから先、泉でしかお話が出来ないなら、アタシは何度も何度も、泉へ会いに行く。来んなって言われたって、絶対に会いに行く」

〔嬉しい。……ええ、とっても……とっても嬉しいわ〕

「大好きな友達で、大好きなお姉ちゃん。……男であろうとしたアタシが、女として接する事が楽しいと思えた、大好きな人だよ」

〔……ええ、ええ……っ! 私も、貴女の事が、大好きよ。大切な友達で、大切な女の子。誰よりも可愛くて、誰よりも守りたい……それが私にとってのリンナなの〕


 リンナと友達になった時から、彼女はアルハットの事を、皇族では無くて、大切な人として見てくれていた。

  今も強大な力がアルハットにあると知りながらも、内面が変わってない事に、喜んでくれているリンナ。

  そんな彼女の笑顔を……アルハットは守り続けたいと願った。



  ――そう、それは、間違いなく『愛』と呼んでも良いのだろう。



〔ありがとう、リンナ〕

「アタシ、お礼を言われるような事、何にもしてないよ?」

〔いいえ、してくれているわ。いっぱい……それを、ちゃんと言葉にしないと……ね?〕


 決意を胸に、アルハットはリンナと身体を離し、表情を引き締めた。


〔じゃあ――行くわよ、リンナ!〕


 リンナの幸せは、リンナの笑顔は、クアンタとあり続ける事で、叶う事が出来る。

  ならば、その笑顔を守る為に――アルハットはどんな困難でも打ち砕く為に、決意を叫ぶ。


「うん。アルハット、一緒に行こう――クアンタを、助けに!」


 互いに空を見上げた後に、今一度隣り合う顔を見つめ、笑い合う。

  二人の頬には涙は流れない。

  それで良い。流す必要などない。二人は、互いの気持ちを、想いを、愛を、語り合っただけ。

  永遠に別れるわけでも、二人がこれから変わるわけでも無い。


  ――これからどれだけでも、それぞれがそのままで会えるのであれば、涙は必要ではないのだ。


 リンナはポケットに備えていたマジカリング・デバイスを手に取り、強く前面へと突き出したデバイスにある電源ボタンを押し込み、起動を行う。

  アルハットは、天高く手を掲げ、放たれる錬成反応の後、手に握られたマジカリング・デバイスを持ち、腕を眼前へ下ろしながら、電源ボタンを押し込んだ。


〈Devicer・ON〉

〈Devicer・ON〉


 流れる機械音声と共に。

  リンナは左手をグッと握り、脇を強く締めて。

  アルハットは右手で掴むマジカリング・デバイスへ左手を添え、前面へと突き出した。


「変……身ッ!!」

〔――変身〕


 音声コマンドを入力、続いてどちらも画面をタップする事で放たれる光に身を包みながら、変身を開始する。


  ――災滅の魔法少女・リンナへの変身。

  ――錬成の魔法少女・アルハットへの変身。


  どちらも変身を果たした後、その地を強く蹴りつけた。

  アルハットは背中から、太陽光に反射する透明な翼を作り出し、高高度への飛行を行い。

  リンナは両足に虚力を放出し、力の足場を作り出して、空を駆けるように走り出す。

  
  そこで二者は離れてしまうけれど。

  それでも二人には、笑顔があって――涙はない。
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