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最終章
クアンタとリンナ-03
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「だが、それが今日じゃなかったのなら、私たちは戦うしかない」
クアンタは決意を固めるように、左手を大きく広げた後、グッと力を込めて、握る。
瞬間、展開されていた刃が一斉に空戦・地上戦フォーリナーを襲い始め、その流体金属を切り裂き始めていく。
「フォーリナーには対話の方法が無い。私がそうだったように、感情を、愛を理解しようにも理解できないのならば――ただ無為に、この星の人々を殺させるわけにはいかない!」
地上で暴れまわるリンナに集中していた地上戦フォーリナー達だったが、しかしクアンタが空中から操る錬成刃によって多くの個体が破壊された。
結果として、地上にいたフォーリナー達は一斉に地面を蹴りつけて上空へ飛び上がり――今、無数のフォーリナー達が空へ浮かんで、一斉にクアンタへと襲い掛かる。
その数――おおよそ五百体前後。
「マズいな」
伊吹がそう言葉を残して、地上へと降りていく光景が端目に見えた。
それはそうだろう。クアンタを中心として円を形成した五百体前後のフォーリナーが一斉に襲い掛かってくれば、最悪巻き込まれる可能性も考えられる。
ヤエ(A)も僅かに「あー、こりゃアタシも撤退かなぁ」等と言っているし、アルハットも額に汗を浮かばせている。
「アルハット、お前は先に離脱しろ」
「で、でも」
「大丈夫だ――私はもう、フォーリナーに取り込まれる事など無い」
そう言って微笑みを浮かべるクアンタの言葉に――アルハットは僅かに頬を赤めた後、背部の羽を羽ばたかせながら、フォーリナー達の隙間を縫うように、その場を駆け抜ける。
「一瞬だけ動き、抑えるね。聴覚機能切った方がいいよ」
ヤエ(A)は、左掌を広げて、その面にデコピンを打ち込んだ。
瞬間、強い衝撃波が左掌を中心に放出されて、クアンタの身体も一瞬だけたじろいでしまったが、しかしヤエ(A)の言葉通り聴覚機能を切っていた事もあり、衝撃波と共に放たれる超音波は聞こえなかった。
衝撃波と超音波により、一瞬だけ動きを止めるフォーリナー達。
ヤエはその隙間を縫うようにいなくなり、フォーリナーに囲まれるのはクアンタ一人だけ。
「じゃ、あとはお願い――クアンタちゃん。リンナちゃん」
言われるまでもないと言わんばかりに。
クアンタは全身を覆い包むほどの錬成反応を発生させる。
虚力総量としては多くなったクアンタだが、しかし自身の身体にある質量は変わっていない。
加えてそれまで使用してきた質量分も含めると、これ以上クアンタの身体を構成する流体金属を消耗する事は強い負担となり得る。
だが、クアンタはそれを顧みず、身体の三割を錬成に回し、小さな刃を八十本錬成。
エクステンデッド・ブーストが行う並列処理だけでは事足りぬ状況だが、そこはクアンタの思考回路を加えて、錬成された刃を稼働させる。
「は――アァアアアアッ!!」
僅かに、クアンタの頬にヒビのような亀裂が走った。
しかしクアンタは、思考を働かせ、八十本の刃に加え、これまで操作を行っていた刃を操り、今クアンタを破壊しようとする数多のフォーリナーの迎撃にあたらせる。
「グ――グゥ、ォオオッ!!」
思考回路のある脳の部分が過剰稼働を起こして僅かに熱を放つ。処理をより高速かつ鋭敏にさせる為に、虚力消費が多くなる。
すると、頬のヒビはさらにクアンタの身を裂き始めた。
「私は、生きるんだ……ッ」
幾多のフォーリナーが、クアンタの操る刃によって切り裂かれていく中、彼女が言葉を放つ度に内より溢れ出る虚力が、接近するフォーリナーを弾き飛ばしていく。
「生きて……お師匠と、共に歩む……ッ!」
放出した虚力をリュウセイにまとわせ、強く振るう。
振るうと同時に放たれた虚力が衝撃の斬撃となり、十幾つのフォーリナーを破壊していくと――見えた先に、一人の少女が右手で長太刀・滅鬼を構えながら、クアンタへと左手を伸ばす。
「その為にはこの星を、世界を……お前たちの自由に、させない……ッ!」
伸ばされた少女の手と、クアンタの手が重なると、クアンタは手を引きながら、身体を回転させる。
少女の右手に握られた滅鬼の刃が、回転する身体に合わせて振るわれた。
滅鬼から溢れ出る虚力が半数以上のフォーリナーを破壊していくと――クアンタは少女、リンナの身体を抱き寄せた。
「クアンタ、大丈夫!?」
「大丈夫だ、お師匠……奴らとの決着は、私が、付けなければならない」
亀裂の入る頬を心配するように声を放つリンナに、笑顔で返事をするクアンタ。
クアンタの笑顔を見て頷いたリンナは、二人の上空へと集結する、フォーリナーの姿を見据えた。
残り二百幾つとなった、分裂した個体。
だが、クアンタとリンナ、そしてアルハットという三人がいる限り、分離した個体では倒しきる事が出来ないと判断したのか――それは、一つにまとまろうと、その身体同士を繋げあった。
「が、合体?」
「いや……むしろ【一】への回帰だ」
このままではリンナとクアンタを倒しきる事が出来ぬと判断し、そのどちらにも倒される事の無いように身を強固へする為、一へと回帰する。
それは確かに合理的な手段ではあるが、しかし第二十三中隊にとっても、捨て身の方法である。
既にクアンタの分離によって虚力の結合が困難となったが故に分離して個々に行動せざるを得なかったのに、再び結合を果たすという事は、二十三中隊が消滅を果たしても、クアンタたちを排除する事に専念した、という事。
確かに、集合した形態では、如何にリンナの打った刃でも倒し切る事は出来ない。表面を傷つける事は可能だが、しかし内面にまで虚力が届かないのだ。
如何にリンナの持つ膨大な虚力であったとしても、その全てを消滅させる事は不可能だろう。
だが――クアンタには、その形態を倒す方法は思いついている。
「お師匠、一つお願いがある」
「何、クアンタ」
「私がフォーリナー内部へ侵入し、中から奴らを破壊する。お師匠には外部から牽制をして欲しい」
「そ、それって危険じゃないの? 大丈夫なのクアンタ?」
「大丈夫だ。……弟子を信じろ、お師匠」
強く、リンナの手を握るクアンタの力に、少しだけ痛いと感じながら、しかしリンナはその手から伝わる虚力を感じる。
――お師匠を、この世界を救いたい。
そう願う彼女は、今リンナと同等程度の虚力を内部から発露させている。
それだけ膨大な虚力が有れば、彼女が死んでしまう事も無いだろう。
そう信じ、リンナもコクンと頷いた。
「分かった。クアンタを信じる」
「ならば、外はお師匠に任せる。――活路を開いてくれ」
「了解――ッ!」
クアンタと手を離し、右手に掴む滅鬼の刃を大きく振り上げたリンナ。
虚力を注ぎ込み、刃にまとわれる膨大な虚力が、勢いよく振り下ろされると共に放出される。
集結し、結束していたフォーリナーの外壁に虚力が叩きつけられると、すぐにその傷口を埋めるように再生を施されていく。
リンナの虚力によって傷つけられた表面は、質量こそ減るが、虚力が残っている状態故に、大きなダメージにはならない。
だが――その傷口を再生している間は、同種のクアンタならば侵入が可能だ。
空を蹴るように駆けたクアンタが、リンナの与えたフォーリナーの傷へと突撃していく。
ただの人であれば取り込まれてしまうだけだが、クアンタは元々フォーリナーだ。故に他の個体同士が集結したように、彼女も内部へ侵入する事が出来る。
そしてクアンタが突入し、その内部から破壊するまでの間――リンナへと攻撃は集中する。
大本から伸びる、流体金属を槍状に形成した攻撃がリンナを襲うが、しかしリンナは冷静にその攻撃を滅鬼で切り裂きながら、幾度も流体金属の表面を切り裂いていく。
「アタシの弟子が頑張ってるんだ――お師匠のアタシが頑張らないで、誰が頑張るっていうのさ!」
クアンタが内部から破壊しやすいように、少しでも虚力を消費させようとする考えからであり、実際にその考えは正しい。
第二十三中隊の大本へと侵入したクアンタ。
通常であれば、既に敵と判断せざるを得ないクアンタが侵入した場合、第二十三中隊はクアンタの排出、または全力を以て取り込む事を考えるだろう。
しかし外でリンナが流体金属の塊に対し、暴力的なまでの虚力で攻撃を加えている。故に、フォーリナーは再生と防衛・攻撃に全力を費やさねばならず、侵入したクアンタを気にする余裕などない、という状況だ。
流体金属の中で個を有したまま、クアンタは更に自分の身体を構成する流体金属を流用し、刃を形成する。
より深く、大きく顔に、身体にヒビが入る。
既に彼女に肉体は二つに分裂していてもおかしくない程に裂け目が入り、気を抜いていると壊れてしまいそうになる。
――それでもクアンタには、やるべきことがある。
リュウセイの刃を抜き放ち、右足を軸に身体を回転させながら、周りを切り裂く。
内部を切り裂かれ、僅かに空間が出来上がったクアンタは、そのまま錬成した刃十二本を一本の刃であるかのように束ね、その刃を左手で持った。
「第二十三中隊。お前たちに罪はない。……私たちフォーリナーは、確かにこうした生態として進化してしまった存在だ。その在り方を、否定する事は出来ない」
他の文化を持つ有機生命を、虚力を取り込まなければ死するだけの生命体。
それ以上の進化を望めなかった命。
故に虚力を、次なる進化の為に感情を求める――その在り方は、否定できない。
「だが、人々はお前たちと同じ存在になる事を、根源化を果たす事に、まだ拒絶的だ。私は、人間たちのそうした選択を、尊重したい。……愛故に」
右手に掴むリュウセイの刃と、左手に掴む錬成した十二の刃を、重ねるように両手で握り締め、上段で構える。
「きっとまた何時か、お前たちはこの星に現れるだろう。それが何年後か、何十年後か、何百年後かは、分からない。――でも、その度に私が、お前たちを止める」
刃に浸透される、クアンタの虚力。
膨大な虚力を放出する事で、クアンタの身体を構成する流体金属が次第に結晶化していくが――しかし彼女は、笑みを絶やさない。
「私は、この星で人間になりたいと願った存在ではあるけれど――お前たちの同胞でもある。だから、お前たちの間違いは、その都度止めてやる」
――その先に、お前たちが本当の進化に至る日を待っている。
そうクアンタが唱えながら……刃を、強く振り下ろす。
内部から、クアンタが振るった刃の一撃。
外部から、クアンタが操作した錬成刃により切り刻まれた幾多もの攻撃。
外部からリンナが振り込んだ、大量の虚力が含まれた一閃による攻撃。
その全てを受けた事により――第二十三中隊を構成する虚力はその七割を失って。
今、僅かに数体の分離体を放出した後に、内部から瓦解し、今全てが結晶となって、地に落ちる。
結論だけを言えば、第二十三中隊は壊滅した。
クアンタは決意を固めるように、左手を大きく広げた後、グッと力を込めて、握る。
瞬間、展開されていた刃が一斉に空戦・地上戦フォーリナーを襲い始め、その流体金属を切り裂き始めていく。
「フォーリナーには対話の方法が無い。私がそうだったように、感情を、愛を理解しようにも理解できないのならば――ただ無為に、この星の人々を殺させるわけにはいかない!」
地上で暴れまわるリンナに集中していた地上戦フォーリナー達だったが、しかしクアンタが空中から操る錬成刃によって多くの個体が破壊された。
結果として、地上にいたフォーリナー達は一斉に地面を蹴りつけて上空へ飛び上がり――今、無数のフォーリナー達が空へ浮かんで、一斉にクアンタへと襲い掛かる。
その数――おおよそ五百体前後。
「マズいな」
伊吹がそう言葉を残して、地上へと降りていく光景が端目に見えた。
それはそうだろう。クアンタを中心として円を形成した五百体前後のフォーリナーが一斉に襲い掛かってくれば、最悪巻き込まれる可能性も考えられる。
ヤエ(A)も僅かに「あー、こりゃアタシも撤退かなぁ」等と言っているし、アルハットも額に汗を浮かばせている。
「アルハット、お前は先に離脱しろ」
「で、でも」
「大丈夫だ――私はもう、フォーリナーに取り込まれる事など無い」
そう言って微笑みを浮かべるクアンタの言葉に――アルハットは僅かに頬を赤めた後、背部の羽を羽ばたかせながら、フォーリナー達の隙間を縫うように、その場を駆け抜ける。
「一瞬だけ動き、抑えるね。聴覚機能切った方がいいよ」
ヤエ(A)は、左掌を広げて、その面にデコピンを打ち込んだ。
瞬間、強い衝撃波が左掌を中心に放出されて、クアンタの身体も一瞬だけたじろいでしまったが、しかしヤエ(A)の言葉通り聴覚機能を切っていた事もあり、衝撃波と共に放たれる超音波は聞こえなかった。
衝撃波と超音波により、一瞬だけ動きを止めるフォーリナー達。
ヤエはその隙間を縫うようにいなくなり、フォーリナーに囲まれるのはクアンタ一人だけ。
「じゃ、あとはお願い――クアンタちゃん。リンナちゃん」
言われるまでもないと言わんばかりに。
クアンタは全身を覆い包むほどの錬成反応を発生させる。
虚力総量としては多くなったクアンタだが、しかし自身の身体にある質量は変わっていない。
加えてそれまで使用してきた質量分も含めると、これ以上クアンタの身体を構成する流体金属を消耗する事は強い負担となり得る。
だが、クアンタはそれを顧みず、身体の三割を錬成に回し、小さな刃を八十本錬成。
エクステンデッド・ブーストが行う並列処理だけでは事足りぬ状況だが、そこはクアンタの思考回路を加えて、錬成された刃を稼働させる。
「は――アァアアアアッ!!」
僅かに、クアンタの頬にヒビのような亀裂が走った。
しかしクアンタは、思考を働かせ、八十本の刃に加え、これまで操作を行っていた刃を操り、今クアンタを破壊しようとする数多のフォーリナーの迎撃にあたらせる。
「グ――グゥ、ォオオッ!!」
思考回路のある脳の部分が過剰稼働を起こして僅かに熱を放つ。処理をより高速かつ鋭敏にさせる為に、虚力消費が多くなる。
すると、頬のヒビはさらにクアンタの身を裂き始めた。
「私は、生きるんだ……ッ」
幾多のフォーリナーが、クアンタの操る刃によって切り裂かれていく中、彼女が言葉を放つ度に内より溢れ出る虚力が、接近するフォーリナーを弾き飛ばしていく。
「生きて……お師匠と、共に歩む……ッ!」
放出した虚力をリュウセイにまとわせ、強く振るう。
振るうと同時に放たれた虚力が衝撃の斬撃となり、十幾つのフォーリナーを破壊していくと――見えた先に、一人の少女が右手で長太刀・滅鬼を構えながら、クアンタへと左手を伸ばす。
「その為にはこの星を、世界を……お前たちの自由に、させない……ッ!」
伸ばされた少女の手と、クアンタの手が重なると、クアンタは手を引きながら、身体を回転させる。
少女の右手に握られた滅鬼の刃が、回転する身体に合わせて振るわれた。
滅鬼から溢れ出る虚力が半数以上のフォーリナーを破壊していくと――クアンタは少女、リンナの身体を抱き寄せた。
「クアンタ、大丈夫!?」
「大丈夫だ、お師匠……奴らとの決着は、私が、付けなければならない」
亀裂の入る頬を心配するように声を放つリンナに、笑顔で返事をするクアンタ。
クアンタの笑顔を見て頷いたリンナは、二人の上空へと集結する、フォーリナーの姿を見据えた。
残り二百幾つとなった、分裂した個体。
だが、クアンタとリンナ、そしてアルハットという三人がいる限り、分離した個体では倒しきる事が出来ないと判断したのか――それは、一つにまとまろうと、その身体同士を繋げあった。
「が、合体?」
「いや……むしろ【一】への回帰だ」
このままではリンナとクアンタを倒しきる事が出来ぬと判断し、そのどちらにも倒される事の無いように身を強固へする為、一へと回帰する。
それは確かに合理的な手段ではあるが、しかし第二十三中隊にとっても、捨て身の方法である。
既にクアンタの分離によって虚力の結合が困難となったが故に分離して個々に行動せざるを得なかったのに、再び結合を果たすという事は、二十三中隊が消滅を果たしても、クアンタたちを排除する事に専念した、という事。
確かに、集合した形態では、如何にリンナの打った刃でも倒し切る事は出来ない。表面を傷つける事は可能だが、しかし内面にまで虚力が届かないのだ。
如何にリンナの持つ膨大な虚力であったとしても、その全てを消滅させる事は不可能だろう。
だが――クアンタには、その形態を倒す方法は思いついている。
「お師匠、一つお願いがある」
「何、クアンタ」
「私がフォーリナー内部へ侵入し、中から奴らを破壊する。お師匠には外部から牽制をして欲しい」
「そ、それって危険じゃないの? 大丈夫なのクアンタ?」
「大丈夫だ。……弟子を信じろ、お師匠」
強く、リンナの手を握るクアンタの力に、少しだけ痛いと感じながら、しかしリンナはその手から伝わる虚力を感じる。
――お師匠を、この世界を救いたい。
そう願う彼女は、今リンナと同等程度の虚力を内部から発露させている。
それだけ膨大な虚力が有れば、彼女が死んでしまう事も無いだろう。
そう信じ、リンナもコクンと頷いた。
「分かった。クアンタを信じる」
「ならば、外はお師匠に任せる。――活路を開いてくれ」
「了解――ッ!」
クアンタと手を離し、右手に掴む滅鬼の刃を大きく振り上げたリンナ。
虚力を注ぎ込み、刃にまとわれる膨大な虚力が、勢いよく振り下ろされると共に放出される。
集結し、結束していたフォーリナーの外壁に虚力が叩きつけられると、すぐにその傷口を埋めるように再生を施されていく。
リンナの虚力によって傷つけられた表面は、質量こそ減るが、虚力が残っている状態故に、大きなダメージにはならない。
だが――その傷口を再生している間は、同種のクアンタならば侵入が可能だ。
空を蹴るように駆けたクアンタが、リンナの与えたフォーリナーの傷へと突撃していく。
ただの人であれば取り込まれてしまうだけだが、クアンタは元々フォーリナーだ。故に他の個体同士が集結したように、彼女も内部へ侵入する事が出来る。
そしてクアンタが突入し、その内部から破壊するまでの間――リンナへと攻撃は集中する。
大本から伸びる、流体金属を槍状に形成した攻撃がリンナを襲うが、しかしリンナは冷静にその攻撃を滅鬼で切り裂きながら、幾度も流体金属の表面を切り裂いていく。
「アタシの弟子が頑張ってるんだ――お師匠のアタシが頑張らないで、誰が頑張るっていうのさ!」
クアンタが内部から破壊しやすいように、少しでも虚力を消費させようとする考えからであり、実際にその考えは正しい。
第二十三中隊の大本へと侵入したクアンタ。
通常であれば、既に敵と判断せざるを得ないクアンタが侵入した場合、第二十三中隊はクアンタの排出、または全力を以て取り込む事を考えるだろう。
しかし外でリンナが流体金属の塊に対し、暴力的なまでの虚力で攻撃を加えている。故に、フォーリナーは再生と防衛・攻撃に全力を費やさねばならず、侵入したクアンタを気にする余裕などない、という状況だ。
流体金属の中で個を有したまま、クアンタは更に自分の身体を構成する流体金属を流用し、刃を形成する。
より深く、大きく顔に、身体にヒビが入る。
既に彼女に肉体は二つに分裂していてもおかしくない程に裂け目が入り、気を抜いていると壊れてしまいそうになる。
――それでもクアンタには、やるべきことがある。
リュウセイの刃を抜き放ち、右足を軸に身体を回転させながら、周りを切り裂く。
内部を切り裂かれ、僅かに空間が出来上がったクアンタは、そのまま錬成した刃十二本を一本の刃であるかのように束ね、その刃を左手で持った。
「第二十三中隊。お前たちに罪はない。……私たちフォーリナーは、確かにこうした生態として進化してしまった存在だ。その在り方を、否定する事は出来ない」
他の文化を持つ有機生命を、虚力を取り込まなければ死するだけの生命体。
それ以上の進化を望めなかった命。
故に虚力を、次なる進化の為に感情を求める――その在り方は、否定できない。
「だが、人々はお前たちと同じ存在になる事を、根源化を果たす事に、まだ拒絶的だ。私は、人間たちのそうした選択を、尊重したい。……愛故に」
右手に掴むリュウセイの刃と、左手に掴む錬成した十二の刃を、重ねるように両手で握り締め、上段で構える。
「きっとまた何時か、お前たちはこの星に現れるだろう。それが何年後か、何十年後か、何百年後かは、分からない。――でも、その度に私が、お前たちを止める」
刃に浸透される、クアンタの虚力。
膨大な虚力を放出する事で、クアンタの身体を構成する流体金属が次第に結晶化していくが――しかし彼女は、笑みを絶やさない。
「私は、この星で人間になりたいと願った存在ではあるけれど――お前たちの同胞でもある。だから、お前たちの間違いは、その都度止めてやる」
――その先に、お前たちが本当の進化に至る日を待っている。
そうクアンタが唱えながら……刃を、強く振り下ろす。
内部から、クアンタが振るった刃の一撃。
外部から、クアンタが操作した錬成刃により切り刻まれた幾多もの攻撃。
外部からリンナが振り込んだ、大量の虚力が含まれた一閃による攻撃。
その全てを受けた事により――第二十三中隊を構成する虚力はその七割を失って。
今、僅かに数体の分離体を放出した後に、内部から瓦解し、今全てが結晶となって、地に落ちる。
結論だけを言えば、第二十三中隊は壊滅した。
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