魔法少女の異世界刀匠生活

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最終章

クアンタとリンナ-04

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 崩壊し始めていく、第二十三中隊の中から、クアンタの姿を見つけたリンナは、彼女の身体を抱き留めた。

  ゆっくりと降下し始めて、既に金属が結晶化したリュート山脈に着地した。


「クアンタ、クアンタッ」


 声を上げる。既に目に見える部分は全てヒビ割れているクアンタの身体に衝撃を与えてはならぬだろうと判断したリンナが声をかけ続けると、クアンタは重たいまぶたを開け、リンナへ微笑んで見せた。


「良かった……良かったよクアンタ……っ」


 クアンタが生きていた。その膨大な虚力があれば死ぬ事は無いと感じていながらも、しかしそのボロボロな体を見ていると、本当に死んでしまうのではないかという疑念は払いきれなかったのだ。

  ギュッと彼女を抱きしめたリンナと、笑みを浮かべるクアンタ。

  二人の傍に舞い落ちていく、フォーリナーの残骸。

  しかしゆっくりと落ちていくその様は、雪のように神秘的で、美しく思えた。


「終わったんだね、全部」

『ああ……終わったんだ、お師匠』


 ゆっくりと立ち上がったクアンタは、リンナと向き合った後、そのマジカリング・デバイスが挿入されているエクステンデッド・ブーストに手を付けて――しかし、デバイスは抜かない。


『……お師匠、お願いがある』

「? どうしたの、クアンタ」

『キスを、してみたい。……この体で最後の』

「え」


 言葉の意味を問う前に、クアンタはリンナの顎を人差し指で持ち上げ、その既に硬化している硬い唇と、リンナの柔らかな唇を重ね合わせた。

  そうして、唇同士が触れた瞬間――リンナは、クアンタの中に残る虚力が、残りそう多くはない事を察してしまう。

 だから、リンナは彼女の身体を強く抱きしめ、唇同士を通じて、クアンタに自分が与えられるだけの虚力を送り込もうとするが――


『無駄だ。……この体の崩壊は、虚力の量が要因じゃない』

「何で……? なんで、クアンタ……っ」

『愚母との戦い、第二十三中隊との結合、無理な分離……そして錬成刃の形成……虚力は多く手にしても、その虚力で身体を形作る為に必要な、流体金属の質量もなければ……今持っている質量も、消耗して、使い物に、ならない……』


 抱きしめるクアンタの身体は、本当に彼女なのかと疑いたくなる程に、細い。

  豊満だった乳房も、臀部も、元より少なかった贅肉もほとんど無く、身長もリンナと、そう変わらぬ程に小柄であった。


『でも、大丈夫だ。私はこの中にある……そう遠くない、いつの日か……また会える』


 マジカリング・デバイスを撫でるように触れたクアンタと、その言葉を理解できず、首を振る事しか出来ないリンナは、対照的だ。


「意味……意味わかんないよ、クアンタ……っ!」

『もう、時間が無いから……手短に言おう』


 マジカリング・デバイスを、エクステンデッド・ブーストから引き抜こうとするクアンタ。

  しかし、今のクアンタが持つ虚力は、マジカリング・デバイスとエクステンデッド・ブーストによって虚力が増幅されているが故に形を保てている。

  その彼女が変身を解除する事は、自殺行為に等しいだろう。

  だから、リンナはクアンタの手を強く握り、デバイスを引き抜こうとする動きを止めるのだ。


「ダメだよクアンタ、それを抜いたら……それを抜いたら、クアンタ、死んじゃうんでしょ……っ!?」

『……ああ、この身体は砕ける。それは、人間でいう所の、死だろうな』

「だったらずっと、そのままでいればいいじゃん……っ! アタシ、クアンタの魔法少女、可愛くて好きだよ……!? そのまま、ずっとアタシの傍に……っ」

『変身を解除しなくても、五分という時間を延命できるかどうか程度しか変わらない。……だから最後に、お話をしよう』


 ボロボロと溢れ出る涙を止める事が出来ないリンナと、彼女の溢れる涙を一筋ずつ、そっと撫でるように拭うクアンタ。

  二人が抱きあいながら――最後に語らう。


『流体金属の崩壊は、止められない。この身体は朽ちる。これは、変えられようのない事実だ』

「どうにも、出来ないの……!? クアンタを助ける方法は、本当に何もないの……!?」

『無いんだ。……どれだけ思考を回しても、情報を巡っても、それは見つけられなかった。でも、例え私が朽ちるとしても、第二十三中隊とは、私の手で決着を付けたかったから、そうした。それだけだ』

「イヤだよ……アタシ、ようやくクアンタに、自分の気持ちを伝えて、クアンタと両想いになれたんだよ……!? なのに……なのにそのクアンタがいなくなるなんて……イヤだよ……っ」

『心配するな、お師匠。すぐにまた会える。……だからお師匠に、このマジカリング・デバイスを、預かっていて欲しいんだ』


 クアンタの手にあり、リンナにも温もりが伝わる、クアンタのマジカリング・デバイス。

  そのデバイスをリンナに預かって欲しいと言うクアンタの言葉に――リンナは、嘘を感じなかった。


「……ホントに、すぐ会えるの……?」

『本当だ』

「嘘じゃない……? ホントにホント……?」

『ああ、本当だ。……もしかしたら、ちょっと風変わりな会い方になるかもしれないけれど』


 エクステンデッド・ブーストから、クアンタがマジカリング・デバイスを引き抜き、変身を解いて――その無機質な機械を、リンナの手に収めた。


『私は、何時だってここにいる』

「……クアンタが、ここに……?」

『ああ……そのデバイスを、お師匠が私の事を想って持ち続けてくれれば、いつの日か会える』

「……嘘じゃないんだよね……?」

『本当だと言っているだろう? それとも――指切りをしようか?』


 朽ちかけている右手の小指を、クアンタがリンナへと差し出した。

  その指は、少しでも触れたら崩れてしまいそうで――でもリンナは、そうした約束が欲しかった。

  だから、恐る恐る自分の右手の小指を立てて、近付け――今、その小指が触れようとした瞬間。


  クアンタの小指が、ボロリと崩れるように、落ちた。


『……指切りも、駄目か』

「……でも、すぐに会えるんだよね……?」

『ああ』


 ピシピシと音を立て、朽ちる寸前の身体。既に口も開ける事が難しいクアンタは――それでも最後に、言葉を遺す。


『お師匠、私は……刀匠になりたい』

「……うん」

『お師匠と、想いを伝え合えた……なら、次に生きてしたい事は……刀匠になる事だ』

「うん……うん……っ」

『私が生まれ変われたら、今度こそ刀工技術を伝授してくれ。……弟子からの、お願いだ』


 笑みを浮かべながら放った、その言葉を最後に――リンナの目の前にあった筈のクアンタは、ガラガラと音を立てて崩れ、銀色の結晶となり、地へ落ちた。


  クアンタだった結晶を拾い集めるようにするリンナの涙を、拭う者はもういない。


「……クアンタ……っ」


 名を呟く。


「クアンタ……クアンタぁ……っ」


 名を嘆く。


「すぐっていつよ……何時なのよ……っ」


 想いを嘆くけれど――答える者は、誰もいない。

  
  リンナの眼前にあるものは、意思も何も感じない、ただの金属でしかないのだから。
  
  
  **
  
  
  災いとの戦い、それに連なる形で引き起こされたフォーリナー襲来から、三か月の月日が流れていた。

  外宇宙からの侵略生命体が襲来するというビッグニュースは世界中へ瞬く間に伝播したが、しかしその襲来による被害は一部皇国軍人や警兵隊、数人の一般市民が取り込まれ、現場で処理された程度に留まっており、レアルタ皇国を除く国際社会がレアルタ皇国の対応を非難しようとしても、あまりに突拍子もない事件故に判断が出来ず、フォーリナーの襲来はあくまで災害の一種として片づけられた。

  
  だが、国内情勢はそうもいかない。

  外宇宙生命体による侵略を受け、民家も皇居も大量に立て壊される事となってしまう。

 加えて開発が進んでいなかったとはいえリュート山脈は同化を終えていた流体金属の銀色に包まれていて、今も人の立ち入りを許可されていない状況だ。

  建設事業社は儲かるが、それ以外の事業成績が軒並み下落を強いられる現状に、レアルタ皇国も国債の追加発行、ほぼ全事業社に対して多額の給付金納付という財政難に陥らざるを得なかった。

 株価も下落。一時は国家の存続すら危ぶまれる状況であったが――国内情勢を更に悪化させた要因は、皇族にあった。

  
  まず、レアルタ皇国元皇帝・ヴィンセント・ヴ・レアルタの長女であり、第一皇女であるイルメール・ヴ・ラ・レアルタの訃報だ。
  
  イルメールの死は、まず真っ先に領民へと広報事業を通じて報じられた。

  イルメールは確かに軍拡化を進めていた強行的な皇族ではあったが、しかし領民からの信用は厚く、彼女の死は多くの涙を誘い、悲しみがレアルタ皇国中を包んだと言っても良い。


「オレァ、民に涙を流されるような事、何もしてねェンだがな」


 死した筈の彼女は、その屈強な肉体も精神も、この世から消え去っていない。

  神霊【パワー】と同化する事で、死する事の出来ない存在となってしまったイルメールは、アルハットのいる源の泉へと訪れ、彼女の前でそう遺したのである。


「ただ、悲しんでくれる奴がいるっつーのは、悪くねェ。……ホントは死んだまま、そうして涙流される方が、よっぽどいいって思っちまうがな」

〔イルメール姉さまは、パワーさんのやった事を?〕

「認めてねェよ。……認められるか。アイツはオレの敗北も、豪鬼がオレを破って果たした勝利も否定したンだ。それを、納得なんか出来るワケねェだろ」

〔でも彼女は、イルメール姉さまに生きていて欲しかった。……だから、イルメール姉さまには、これからも皇族として〕

「ムリだっての。……不老不死の奴が皇族なんぞに収まってたら、ホントにこの国は終わっちまうぞ?」


 イルメールの言葉を聞きながら、無言で豪剣の製作を進めるアルハット。

  やがて一本の、巨大な豪剣が作り上げられると、イルメールはそれを背負い、泉から出ていこうとする。


〔これから、どこへ行かれるんです?〕

「どォすっかね。……まぁ、まずはここ以外の泉を守る役割、果たすとすっか」


 偽りのゴルサには、レアルタ皇国以外にも三つ、源の泉が存在する。

  そのいずれもまだ人類が未開の地に存在しているが、しかしそう遠くない未来に、人が辿り着くであろうと予想出来る。


  そして、アルハットは知っている。


  地球の泉は、既に四つとも人間によって管理されており、だからこそパワーはゴルサの泉を管理する為、この世界にいたのだと。


〔……シドニア兄さまに、お別れは?〕

「してねェし、するつもりもねェ」

〔それは、何故です?〕

「アイツはもう、立派な皇族で、次期皇帝だ。アイツにオレが教える事もねェし……ま、時々会える程度の関係が、オレ等にとっては丁度いいだろ」


 アルハットが守る泉から姿を消そうとするイルメールは、最後にこう言葉を残して、消えていく。


「じゃあな、アルハット。……クアンタによろしく頼むぜ」


 最後の言葉は、そんな言葉だったけれど――それで良い。

  アルハットも、イルメールも、永遠に近い命を手にしている。

 それに二人は、どちらも源の泉を守護する者同士である。


  故に、彼女達は何時でも、また会える。
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