魔法少女の異世界刀匠生活

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最終章

クアンタとリンナ-06

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レアルタ皇国中がフォーリナーによる被害で混乱に陥っている中、アメリア・ヴ・ル・レアルタが公表した事実がもう一つ存在する。

  それは太古より存在する災厄を振り撒く存在【災い】による侵略が行われている事に加え――かつて災いと戦っていた【姫巫女】と呼ばれる存在達が、先代以前の皇族達によって虐殺されていたのだと言う事実についてである。

  何故アメリアからの公表だったのか――それは二十年前に起こった謎の風土病に加えて今回の災い騒動においても災いによって感情を失った人間が、アメリア領に多くいたからに他ならない。


「災いという存在は、皇国民が対処出来る存在ではない故、当初は公表せん予定じゃった。我々皇族をはじめ、各領政府及び、対処出来得る皇国軍や警兵隊の人間のみが処理を行えばいいと考えておった、という事じゃ」


 フォーリナーの襲撃によって半壊したアメリア皇居へと集められた広報事業社の人間達を前に、アメリアが口にした言葉は、決して為政者が口にするべき言葉では無い。

  全皇国民へと伝播する広報内容に、非公表予定の内容を暴露する事もそうであるが、何よりもそうした事実を隠蔽しようとしていた事を知られてしまう事が何よりも不利益である筈なのに、アメリアは躊躇う事無くそう口にしたのだ。


「勿論、災いとの戦い全てを語れる訳ではない。しかし、吾輩ら皇族の血塗られた歴史は、決して闇に葬ってはならぬ。……これは戒めであると共に、今後への宣誓でもあるのでな」


 百年以上前、姫巫女の政治的権能を恐れた皇族達による姫巫女達の虐殺。

  八十年前、アメリアの祖父が行った姫巫女の管理組織である聖堂教会の解体。

  そして二十年前に起こった謎の風土病が災いによる被害であり、その鎮静化を行ったのは、かつて生き残りの姫巫女であり、シドニア・ヴ・レ・レアルタの母、ルワン・トレーシーと、彼女と共に戦ったマリルリンデという男、刀匠・リンナの父である刀匠・ガルラであった事。

  二十年前の皇族は、そうした事実を隠蔽し、結果としてアメリア領は被害を多く被り、技術実験保護地域という負の代償を背負う事になった事。


 ――そして今回【五災刃】と呼ばれる災いの集団によって、人類は滅亡の危機に晒された事に合わせ、その解決に一役買った存在が、刀匠・リンナと、その弟子のクアンタという少女であった事。


 それら全てを公表したアメリアは、記者たちを前に、涙ながらに訴えた。


「――既に時遅く、多くの姫巫女は歴史の闇に葬られ、もう戻らぬ事は分かっておる。そして、本来称えるべきじゃった英雄たちも、もうこの世におらん」


 そして何よりも問題なのは、こうして公表している内容を裏付ける、証拠や証人が一切ない事である。

  先代以前の皇族が犯した罪を告発するにも関わらず、その全ては人伝に伝えられた内容か、もしくは状況証拠にのみ頼らざるを得ない。

  本来はこのような状況で真実を白日の下に晒す等と口が裂けても言いたくはないが――しかしアメリアは、それを罪と断定した。


「じゃからこそ、吾輩ら皇族は、その罪と向き合い、その罪に対して贖罪し続けながらも、今生きる民をより良い生活へ導けるように、努力し続けていこうと、ここで誓いたい」


 難しい事であるとは分かっている。

  多くの隠し事、嘘で塗れて来た皇族の者であるアメリアに、そうした言葉の説得力があるとも思えない。

  しかし――それでも、彼女は誓わなければならない。


「吾輩、アメリア・ヴ・ル・レアルタは、弟であるシドニア・ヴ・レ・レアルタと共に、これからも皇国に生きる民達と共に、歩んでいきたい。その気持ちに、嘘偽りがないという事だけは、信じて欲しい」


 贖罪の内容と誓いは、全文欠ける事無く紙面で報じられた。

  既にフォーリナーによる被害で混乱していたレアルタ皇国中に更なる混乱が巻き起こった事は間違いないが、しかしだからこそ、アメリアは皇族としての責務を果たす為に、レアルタ皇国中を渡り歩き、時には国外にも足を延ばした。

  
  彼女がまず着手したのは、フォーリナーによる被害総数を正確に把握した上での保障。更には国外へレアルタ皇国への支援要請。

  必要最低限の生活保障、その為に必要な財政の確保、各国からの支援受け入れ体制の強化等々、アメリア領だけでなくイルメール領の実質統治を行い、一時はシドニア領の統治も代理で引き受けていた彼女でなければ出来ぬ事が多く存在した。

  更に今後、レアルタ皇国以外にも災いやフォーリナーの襲来が無いとは限らない。各国への注意喚起と共に、その際は可能な限りの協力を約束すると共に、各国における対策協議などを円滑に行う為に必要な国際連合同盟の提案にも動き始めている。


「日本へ行けて良かったわ。……ゴルサと同じく色々問題もある世界じゃったが、しかし向こうも向こうで、可能な限り世界を良くしようと動いている者が、いないわけでは無かったでのぉ」


 アメリアは地球に滞在している間、欠かす事なく地球国家間における同盟や条約、日本における法整備や福利厚生等を学び、その良い所をレアルタ皇国にも取り入れる方法が無いかを吟味していた。

  勿論全てを学べたわけでも、全ての良い所を取り入れる事が出来るわけではないが、しかし得るものが多かったことも事実だ。


「チキュウという星を随分とお楽しみ頂いていたわけですね、アメリア様は」


 楽しそうに地球の事を語るアメリアの話し相手になるのは、新たにアメリアの従者となったワネット・ブリティッシュである。

  元々シドニアの従者である彼女だったが、今後国内情勢の悪化による暗殺などの危険性を鑑み、シドニアが配置した形だ。

  当初は以前護衛を務めていたサーニスをそのまま続投させる案もあったが「男はイヤじゃ男はイヤじゃ」と駄々をこねたアメリアに根負けし、シドニアがワネットを手放した形だ。


「そうじゃのぉ、色々と楽しかったわ。カルファスと共に秋音市を練り歩くだけでもだいぶ色んな事態に巻き込まれたのでぉ。マジであそこ、魔の巣窟じゃぞ? 災いにも襲われかかったわ」

「所で、わたくしにお土産という事で渡された衣服を着てみたのですが……その、給仕服にしては随分と、スカート丈が短いような……?」


 ワネットへ渡した土産は、日本のアニメ文化におけるメイド服で、本来の給仕用着衣とは異なり可愛らしさを優先した、やけにスカート丈が短いものとなっている。

  彼女としても短いスカート丈は戦闘時に役立つとは思いつつも、しかしスカートの中にある下着が見えやすいのは淑女としてどうなのか、と疑念が湧き出てしまう。


「うむ! 日本におけるメイド服じゃ! 素晴らしいぞ日本のサブカルチャー! どうやら吾輩のように女子を好む者を【百合】とか言うらしいぞ! ホレ、百合物同人誌もいっぱい買うてきたっ!」


 どうやら日本における文献のようだが、やけに薄い本を渡されたワネットは、試しに数ページめくってみる。

  人物画や風景画等々、様々な要素が取り入れられた絵に文章を組み合わせる事で成り立たせる絵巻のようだ。

  ワネットは日本語で書かれた文字こそ読めなかったが、しかしその耽美なイラストを見ているだけで気恥ずかしくなり、頬が僅かに高揚する。


「こ、こんな淫靡なものを見ちゃいけませんアメリア様っ!」

「吾輩これよりもっと凄い事いっぱいしておるし問題無しじゃ!」

「ま、まさかこの衣装も、その……さ、【さぶかるちゃー】とやらなのですか……!?」

「可愛い女子が着るには丁度いいじゃろ!? じゃろ!? んー、リンナにも着てもらいたいーっ! なにか難癖付けてまた給仕として働いて貰う事も検討しなければならんかのぉ……?」


 ブツブツと呟き、自分の世界に入っていこうとするアメリアだったが、ワネットとしてもそのままではまずい。まだアメリアの仕事はたくさん残っている。


「あの、アメリア様。少し仕事の話に戻ってもよろしいでしょうか?」

「ん、ああ。済まなんだワネットよ。続けるがよい」


 だがそうして暴走しているアメリアも、仕事となるとスイッチを切り替えるがごとく、すぐに真剣な表情となる。


「ではまず、本日の予定は全て終了しておりますが、国内フォーリナー法及び災害対策法における草案が上がっておりますので、全てご確認をお願いいたします」

「ほい」

「続けてフォーリナーの浸食を受けていたリュート山脈についてですが、カルファス様が調査した結果『あくまで表面の金属化が行われただけに留まっており、人体には無害である事を確認した』との事です。人の立ち入りを一部緩和しても問題が無いとの報告も受けております」

「リュート山脈には現在、餓鬼と豪鬼へ調査任務を与えていると聞いておるが?」

「ええ、二者は災いとして経過観察を行わなければならない立場ですから、カルファス様監視の下、従事しております」

「……そうか。良い事じゃ」


  伝えるべき案件を一つずつ伝えていき――最後に、懸案事項へ移った。


「最近、皇国政府の承認を受けていない宗教団体の設立が多く確認されております」

「……あまり好ましくはないが、しかしこうした情勢じゃからこそ、宗教という麻薬に陥りやすい民が多くなることも事実じゃ」


 アメリアは元々宗教と言う存在を好かない。だがフォーリナー案件があってから各種信仰の自由を法的に認める法案の可決もあり、これまでレアルタ皇国内では息を潜めていた宗教団体が多く現れている。


「問題なのは――この【銀の根源主】と呼ばれるカルト宗教団体です」


 ワネットがアメリアへ手渡した、一枚の書類に記された【銀の根源主】というカルト宗教についての概要を読み進めていく中で――アメリアは額に汗を滲ませていく。


「どこまで愚かな者達よ……と言いたいのは山々じゃが、今の情勢ではそう強く否定できん事が腹立たしい」

「どう対処致しましょう?」

「この案件は吾輩だけでは対処出来ん――シドニアと、リンナの協力が必要じゃ」


 本日他の報告は、とワネットに聞くと、彼女は笑顔で首を横に振ったので「よろしい」と口にしながら、アメリアは立ち上がる。


「シドニア領へ霊子転移開始じゃ。ワネット、準備せい」

「かしこまりました」


 二者が必要な資料を用意しつつ、本日の職務が終了した事を伝える伝言札を構えた事により、ワネットは取り出した霊子端末を用いて、アメリアと霊子転移を開始した。

  転移先は、シドニア領皇居――現レアルタ皇帝、シドニア・ヴ・レアルタのもとへである。
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