私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
7 / 191
第一章

城坂織姫-05

しおりを挟む
「前が見えねぇ……」


 オレに顔面をぶん殴られて、その面に赤い痕を残す村上の隣を歩きながら、オレは高等部の校舎廊下を歩いている。

 ちなみに前が見えねぇと言ったのは村上であるが、しっかりと目は見開いている。見えている筈だ。


  本来今は一時限目の授業ではあるものの、このままではADの実技授業を受ける事が出来ないと言われてしまったのだ。その理由説明と現状改善を行う為、クラス委員である村上がオレに色々教えてくれる、と言う事らしい。


「えーっと、何で姫が授業受けれねぇのか説明すると……姫のADを整備するパートナーがいないからだな」


 もう姫や姫ちゃんと呼ばれても無視する事にする。もうクラスだけでも総計五十カウント位呼ばれているので、その分だけ殴っていたらクラスメイト全員を撲殺してしまう。


「パートナー?」

「そ。国際免許持ってんなら分かると思うけど、ADは軍用兵器で、精密機器をその装甲内に多数施されてるお高い物なんだ。それらをキチンと整備出来る整備士とパートナー契約を結ばないと、授業を受ける事ができないんだよ」

「技師を買うのか?」

「つっても、そいつも学園生徒だけどな。姫はAD学園に、何の学科があるか知ってるか?」


 それ位は知っている。

 まずはオレが所属する事になったパイロット科。その名の通り、ADを操縦するパイロットとしての技術を学ぶ為の学科。

  二つ目は整備科。ADを整備する為の資格及び技術を身に着ける為の学科。

  三つはOMS科。OMSとは、ADの操縦システム【オペレーティング・マニピュレート・システム】と呼ばれるシステムプログラムの略称で、OMS科はそれの勉強をする科である。


「パイロット科の生徒は、整備科の生徒とパートナー契約を結んで、整備科の生徒に授業用ADを整備させる。で、整備科の生徒はパートナー契約を結んだパイロットの機体を整備する事によって、技師としての技術を学ぶ――ってカリキュラムが、ウチの学校じゃ採用されてんだ」

「つまり、パートナーとなる整備科の人間を、これから探しに行くと言う事だな」

「そーいう事。で、今手空きになってる整備科生徒の所に連れてこうって思ってんだけど……まぁ九割九分九厘拒否されるかねぇ」

「なんで」

「気難しい奴でなぁ。技能は高いんだけど、誰とも契約を結ぼうとしないんだよ。なまじ技能も高いし、学園在学中に取るべき資格も全部取得済みだし、学園としても何も言えねぇのよ」


 高等部の校舎を抜けて、格納庫区画へと向かう村上に付いていく。そこから見えるグラウンドでは、多くのADが立ち並んでいるが――全て同じ機体だった。


「GIX-P4【秋風】か」

「だな。もう日本にゃ、あの機体しかねぇよ」


 日本防衛省の制式採用AD兵器・GIX-P4【秋風】は、八頭身のスラリと細く長い四肢を持つ、全世界で一番注目されている汎用量産型ADである。

 米軍で制式採用されているFH-26の開発後、日本企業である高田重工が独自に開発を行い、製造された純国産AD兵器だ。汎用性が高すぎると言っても過言では無い、世界中の現行機では最も高性能な機体だ。日本でしか採用されていない機体なので、オレも搭乗した事は無い。


「少し楽しみだ」

「そうかい――っとと、姫。あぶねぇぞ」

「え」


 村上に肩を掴まれて、足を止めたオレの眼前に。
 先ほど紹介した秋風の脚部が、着地した。


  一瞬の沈黙。その後に流れる冷や汗が、とてつもなく不愉快だった。着地の衝撃によってオレの身体も村上の身体もグラグラと揺れるし、着地の風圧はオレの髪の毛をふわりと揺らした。


『あ、ごめーん』

「ごめんじゃないだろォ!?」


 外部スピーカーから流れる女子の音声に、思わず叫び返してしまう。

  秋風の――否、ADの基本的な重量は約二十数トンに及ぶ。そんなものに踏みつぶされでもしたら、血まみれどころか肉片をまき散らして死ぬに決まってる。実際、AD兵器が着地する事を想定していないコンクリートで整備された地面はひび割れ、内面を露出させていた。


「いやぁ、間に合ってよかったなー」


 アハハー、と笑いながら再び歩き出した村上の後ろを、震える足で何とかついていくと。


「姫、危ない」

「は」

「車突っ込んでくる」

「うわぁっ!」

「姫、危ない」

「今度は何だ!?」

「標識落ちてくる」

「死ぬって!」

「姫、危ない」

「もうヤだ! 何なのさ!」

「相撲部の女子が突っ込んでくる」

「ひゃあああっ!?」


 高スピードを出しながら暴走するエレキカーが通り過ぎ、道路標識が落ちてきて、そして相撲部に所属しているのであろう大柄な女子が全速力で走りながら、オレの眼前を通り過ぎた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「いやー。ここまで死にそうな目にあっても生きてるなんて、姫も幸運だなぁ」

「も、帰る……オレ、アメリカ、帰る……っ」


 日本、こんなに怖い所、オレ、知らない……っ!


「安心しろ生きてるって。大丈夫大丈夫」

「ていうか何でお前そんなに冷静なんだよ! 少なくともお前も巻き込まれそうになってんだぞ!?」

「毎日こんだけ死にそうな場面に遭遇しても死なないって事は、オレも相当幸運だからな!」

「……もしかして、これお前の日常茶飯事なのか?」

「そうだぞ? オレは物凄い幸運なんだぜ!」


 逆。物凄く悪運が強くて、コイツいつか死ぬんじゃないか?

 そう思いつつも、グッと親指を立てて、アッハッハーと笑う村上に、オレはどこか関心していた。


「お前が、少し羨ましい」

「そう言う姫こそ、焦ってる姿は可愛かったぞ?」

「……村上。歯、食いしばれ」

「え」


 俺は、本日二度目となる全力の一振りを、村上の顔面へ叩き込んだ。

  もう分かっただろう。オレは、可愛いと言われる事が、何より嫌いなのだ。

  
  **

  
  それからは、そほど不運に見舞われる事も無く(五、六回死にかけたけど)、格納庫区画へと辿り付いた俺と村上が向かった先は、整備科生徒用の格納庫である。

  普段は誰も使用していない格納庫なのか、乱雑にADの部品が点在し、埃も凄い事になっている。口元を抑えながら村上に付いていくと、彼が大きな声で、人の名を呼んだ。


「おーいっ、明宮!」


 名を呼ばれた人物が、格納庫の奥から姿を現した。今まで機材の影に隠れていたものだから見えなかった。


「……なぁんだ、村上君か。どしたの?」


 首を傾げ、溜息をつきながら訪ねてくる人物は、女性だった。茶髪の短髪を全て逆立て、額にはタオルを巻いている。一瞬男子に見えたのだが、整った顔立ちと小さな体が、彼女を女性であると訴えていた。

  整備科用の制服を身にまとい、手に持ったタブレットをスリープモードにした後、彼女は歩をこちらへと向けた。


「コイツ、転入生の城坂織姫くん」

「あー、よろしく。ボク、明宮 哨(みはり)」

「よろしく。えっと、女の子、でいいんだよな」

「どーせ女の子っぽくないよーだ」


 顔立ちこそ女性とは思いつつも『ボク』という一人称や起伏の乏しい体つきを見て訊ねてしまったオレの言葉に、フンッと鼻を鳴らして顔を逸らした明宮は「で?」と要件を訊ねてくる。


「転入生くんとパートナー契約結べ、って所?」

「ああ、お願いしたい」

「ヤーダよ」


 オレが頼むと、断りの言葉だけを述べて、再び元居た場所へと戻っていってしまう。オレはそんな彼女の手を掴んで、引き留めた。


「なんで嫌なんだよ」

「ボク、秋風ちゃんいじりだけやっていたいんだ。君が使うADの相手なんかしてらんない」


 オレが掴んだ手を強引に離し、タブレットの電源を再び入れた明宮はタブレットと、おそらく整備途中なのであろうADとを、有線で繋いだ。


「これ――」

「秋風だよ。見て分かるでしょ?」


 色んな機材に埋もれていて見えなかった全貌を、今見ることが出来た。

  尻を床に預けてはいるが、しっかりと四肢が取り付けられ、そして綺麗に整備されたGIX-P4【秋風】が、有線で繋げられているタブレットから、内部システムを弄られている。

  調整を行う指のスピードは――今までに見た事が無い程、素早い。迷いも不安も無いと言わんばかりの速度である。


「見せてくれ」

「あっ、ちょっと!」


 彼女が持っているタブレットを貸して貰い(奪ったと言ってもいい)、データを参照する。

 OMSの設定、反映度や反応度の設定も、しっかりと理に適った設定が成されているし、有線接続によって機体の整備状況も万全である事が、普段現場に出ていて整備を行わないオレにもよく分かった。


「今すぐにでも動かせるし汎用性もある素晴らしい整備状態だな」


 軽く興奮しながらまくし立てていると、明宮は頬をポリポリかきながら少しだけ顔を赤らめた。


「あー、ありがと。でもおだてても無駄だよ。ボクは君の技師にはなんないから」

「なんでさ。お前程の技師なら、誰かの整備をしなきゃ、技術力が勿体ないだろ」

「しっつこいなぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

処理中です...