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第一章

城坂織姫-10

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  背部スラスターを急激に稼働させて、紗彩子機へ右脚部を強く突き付けながら、襲いかかってくる織姫機。その軌跡を見つめていた紗彩子は、胸の奥から湧き出る【恐怖】を感じ取った。


「きゃ、――っ!!」


 嬌声を上げそうになる自身の口を固く閉じつつ、顎を引いて、目を伏せた。

 自身へと襲い掛かるであろう、織姫機が放つキックの威力を覚悟したのだ。


  ――だが、機体は静かに揺れるのみだった。


  紗彩子はおそるおそる目を開けて、現状を確認。

  織姫機は既に着地している。突き付けられた脚部は――紗彩子機の腹部スレスレに預けられていて、グラウンドの土を舞い上がらせている。それにより、そこへ蹴りを叩き込んだ事がよく分かった。

 脚部関節から成される排熱。舞い上がる水蒸気を見据えながら、紗彩子はいつの間にか瞳に溜めていた恐怖の涙を流し――織姫へと問いかけた。


「な……なぜ、外したんですか……?」


 蹴り付ける地点を間違えた、という事はあるまい。あれ程正確で、しなやかな操縦を行う者が、そんな簡単な着地点の計算を、誤る筈はないのだ。


『これは、戦争じゃない。相手を殺す必要も無ければ、傷付ける必要も無い』


 織姫は――彼はそう言葉を口にしつつ、秋風の右手を紗彩子機へと差し出した。


『オレの勝ちだ。神崎』


 力強く放たれた、勝利宣言。紗彩子は、言葉を認識しつつ――織姫の声に、男性の包容力に似た温かさがある事に気が付いた。


「ほ、本当に……男性、なのですか……?」

『何度も言ってんだろうが』


 放たれる溜息。紗彩子の耳に届く彼の声が――何だかとても、心地よく聞こえる。

  織姫機の手を取り、立ち上がる紗彩子機。接触により、コックピット内部カメラ同士がリンクを開始。互いの表情を、メインモニタの端に映した。

  笑みを浮かべる織姫の表情。それはどう見ても女子のそれにしか見えなかったが――


「……城坂、織姫」

『何だよ』

「何でも、ありません……私の、負けです」


 紗彩子はこの時。

  城坂織姫に、心の全てを奪われていた。


 **


 城坂織姫が勝った。

  武装を装備する事も無く、ただ格闘戦闘のみを行い、一度も被弾することなく、武兵隊隊長である、神崎紗彩子を圧倒した光景を見据えつつ、明宮哨は彼の操縦に視線を、そして心を奪われていた。


  初めて、他人が駆る機体に惹きつけられた。

  初めて、他人の操縦を、格好いいと思えた。


  例え彼が、生意気で、可愛げの無い男の子であったとしても――その存在に、彼女は今、恋をした。


  秋風のコックピットから身体を出した織姫は、グラウンドの隅で試合観戦を行っていた哨の元へと駆けつけて、表情を明るく見せつけた。


「どうだ明宮。勝ってやったぞ」


 胸を張りながら偉ぶった彼。そんな彼に向けて、哨は小さく溜息をつく。


「……でも、腕部と脚部にあれだけの負担かけちゃって。これから織姫くんの整備する技師は、凄い大変だと思うよ。きっと関節部とか、模擬戦の度にボロボロになるもん」

「あー、それは、その」


 哨の言葉を受けて、しどろもどろと言った様子の織姫。そんな彼の様子を見て、哨はフフッと微笑んだ。


「仕方ないなぁ。そんなパイロットがいつも操縦してたんじゃ、秋風ちゃんが可哀想だし」

「え」

「ボクが、君のパートナーになったげる。君の機体を、君が操縦するに値する、完璧な機体に、いつもしといてあげる」

「いい、のか? 本当に」

「その代わり!」


 織姫の眼前へと、自身の指を突きつけた哨は。


「――ボクがパートナーになるんだから、半端なパイロットじゃ許さないよ。姫ちゃん!」


 ニッコリと笑いながら、彼の【あだ名】を口にした。


 **

  
「神崎ちゃん負けちゃったー。あの子に勝つなんて、姫ちゃんって子、凄いねっ!」

 頭頂部で小さな二つ結びを見せる可愛らしい女の子・島根のどか。――生徒会会計。


「……だが、あまりに無茶苦茶な操縦だ。機体に対して遠慮も何も無い」

 銀色の乱雑に切られた短髪と、眠たげな表情を有し、モニターに映る秋風を凝視する少年・清水康彦。――生徒会書記。


「それを良しとする整備があるからでしょう。実力と、それを引き出す機体があるからこその芸当です」

 腰まで伸びる黒のロングヘアを下す、整った顔立ちが印象強い女性・明宮 梢(こずえ)――生徒会副会長。


「それで……生徒会長。彼の処遇は、いかがいたしましょうか?」

 首元まで伸ばされた蒼髪を携え、フッと笑みを浮かべながら、目元に備えた眼鏡の位置を整える美少年・久瀬良司――生徒会会長補佐。


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 身長はそほど低くはないが、男性には及ばぬ女性としての標準身長。引き締まった身体付きが、男性を魅了して止まない。


  彼女は冷たく、刃物のような視線を用いて、生徒会の面々を一瞥する。


  誰もがプロフェッショナルで、誰もが自身へ付いてくる人材である。その者達へと向けて、彼女は言い放った。


「生徒会に招き入れます。――彼は、我々に必要な人材です」


  彼女は、秋沢楠。


  一年Aクラスに所属する女性であり、AD総合学園高等部が誇る最強の生徒会を統べる――生徒会長である。
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