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第三章

雷神プロジェクト-04

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 ガン、と。机を強く殴りつけて、オレは怒りと共に、彼女へ罵声を浴びせる。


「バカかアンタは。たった一人の妹? たった一人の姉? その絆で結ばれていれば、いずれは気付いてくれる? そんなわけねぇんだよ、現実を見ろっ!


 ――アイツはその、たった一人しかいない母親に夢を拒絶されて!

 たった一人しかいない姉に自分の言葉すら聞いてもらえない事に!

 たった一人しかいない哨自身が、誰より傷付いている、たった一人の女の子なんだって、何で気が付かないんだよっ!」


 オレの叫び散らした言葉に、梢先輩は、唖然と言う表現が相応しい表情で、ただオレの言葉を聞くだけだった。


「家族って言葉を、何でもしていい、傷付けてもいいって、免罪符にすんな。

 気持ちは言わなきゃ伝わんねぇよ。願っても、祈っても。

  オレはずっと、家族と向き合う時間すらなかった。でも今、ようやくそんな時間が与えられた。――だから分かる」


  家族だって、人間なんだ。向き合って、話し合って、そこでぶつかりあって……ようやく気持ちが通じ合うんだ。


「家族だったら尚更、自分の本心を哨に言えよ。哨の本心をちゃんと聞けよ。

 それが出来なきゃ、アンタと哨は家族でもなんでもねぇ。


 ただ血が繋がってるだけの、他人でしかねぇんだよ……っ!」


  ――そこまで言って。オレは自分の頭を抑えて、そこで自分自身が言った言葉を、思い返していた。


『本心を聞けよ』と言う言葉。その言葉は――オレに直接、跳ね返ってくる言葉でしか無かった。


「……オレ、もう帰るよ。戸締り、よろしく」

「あ……あの」

「何だよ。オレは今イラついてるんだ。これ以上、余計な事言うなよ」

「その……ありがとう、ございました」


 最後に、彼女はそう言いながら、オレに向けて深く深く、頭を下げた。


「……哨は、アンタの言葉を、待ってるはずだよ」


 そう言うだけして、オレはカバンを掴んだ後、教室のドアを開け放ち、ある場所に向かう。


 辿り付いた場所は、AD学園高等部校舎に併設された教員棟の一階奥にある部屋――理事長室である。

 深呼吸をした後、オレは恐る恐る、ドアをノックした。


『どうぞ』


 姉ちゃんの声。オレは返事を返すことなくドアを開け放ち、扉一枚隔てた先に居た、姉の姿を見た。

 彼女は、持っていたペンの手を止めて、ニッコリと微笑んでくれた。


「姫ちゃん、どうしたの? 生徒会はもう終わった?」

「姉ちゃん。聞きたい事があるんだ」

「何かしら。生徒会の業務の事? それとも楠ちゃんと喧嘩でもした? あ、お姉ちゃんのスリーサイズは国家機密だから答えられないけれど」

「オレを、生徒会に無理矢理入れた、その理由を、知りたい」


 ハッキリ、聞き間違えが起きぬ様にゆっくりとした発言で自分の意思を伝える。

  姉ちゃんは一瞬で表情を引き締め、持っていたペンをペン立てに置いた上で、深く椅子に腰かけた。


「……今更ね。もう姫ちゃんが生徒会に入って、何日も経過している。どうして今になって聞きに来たのかしら」

「家族だと、思ったからだ」

「……家族」


 そこで、姉ちゃんは少しだけ、表情を緩めた。

「家族だったら、何時かはちゃんと話してくれるだろう。家族だったら、何時かは気持ちが通じ合うだろう、分かり合えるだろうって、そう思ってたんだろうな、オレ」

「……じゃあ、今は家族と、思ってくれてないって事?」

「違う。――家族だからこそ、ちゃんと聞かなきゃ、話さなきゃ、何も伝わらないって、分かったんだ」


 哨と梢さんに、感謝をしなければならない。

  梢さんの話を聞かなければ、オレはずっと真意を聞けずに、ただ姉ちゃんから遠ざかるだけだったかもしれない。

  それは、家族でも何でもなく、血の繋がった、ただの他人でしか無い。

  だからオレは、姉ちゃんの意図を聞く事にした。


  ――オレは姉ちゃんと、本当の家族になりたいと思ったから。


「……どうやってはぐらかそうかと思ったけど、そんな事を言われたら、答えないわけにいかないじゃない」


 姉ちゃんは、深く溜息をついた後、立ち上がってオレの手を取り「ついてきなさい」と指示をした。

  手を繋がれたまま、連れていかれる場所。そこは格納庫区画にある、一番古く錆びれた、なぜ取り壊しになっていないのかと疑問を浮かべる事しか出来ない格納庫である。


  姉ちゃんは扉を開け放ち、その中へと入っていく。

 意外と言うか、中はきちんと整理されており、幾つか機材が点在している他は埃も無く散らかっても居ない。むしろ哨と初めて出会った格納庫の方が散らかっていたし、外観は大事じゃないのかもしれない。


  ――と、そんな事は関係ない。


  姉ちゃんは、格納庫の中にあった、静脈認証キィに手を当てた後、幾つかのパスコードを入力。


「W-392、城坂聖奈。声紋認証開始」


 声紋認証へ言葉を投げた瞬間、強い揺れと共に、格納庫の地面が、段々と開いていく。

  ゴゴゴ、と音を奏でながら開かれた地面の奥には、AD三機分程度の幅を有する穴。地中深くまで続く穴に……オレは見覚えがあった。


「UIG――!?」


 アンダーインダストリグラウンド。地底産業都市。各国・各企業が有する、地底に作る事を許された極秘の工業区画。

 日本には二つUIGが存在すると聞いた事がある。横須賀基地にあるとされるJAPAN・UIGと、高田重工が日本のどこかに建設したとされるTAKADA・UIGの二つだ。しかし、AD学園島にUIGが建設されているなど、聞いた事が無い。


「行くわよ」

「待ってくれよ! なんでここにUIGが――まさか、ここがTAKADA・UIG!?」

「違うわ。TAKADA・UIGは愛知県にあるし、もうあっちは【ミィリス】によって襲撃された後」


 ――ミィリス!?


  久しぶりに、その名を聞いた。ロシア政府がバックについていると名高い、ロシア系テロ組織【ミィリス】は、オレが所属していた【アーミー隊】でも何度か戦った事があるし――あの【リントヴルム】が所属する、厄介なテロ組織でもある。


「ミィリスが、TAKADA・UIGを襲撃したって、ホントなのか!?」

「本当よ。――入りなさい」


 姉ちゃんがさっさと歩き出したので、背中を急いで追いかける。螺旋階段に足を乗せ、数段降り終えると、門は次第に閉じられていく。しばらく階段を下っているとエレベーターが存在し、そこから最下層まで下っていく。

  その間、会話は無い。姉ちゃんは何時のも笑みを浮かべず、ただ前を見るだけで、オレはそんな姉ちゃんの姿に圧されて、何もいう事が出来なかった。
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