私たちの試作機は最弱です

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最後の想い-01

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 城坂修一は、倒れていた身体を起き上がらせる。

  しかし既に脚部は破損して動かないものだから、腕を無理矢理動かして上半身だけを持ち上げ、そのまま尻を付いて――少しだけ離れた、AD総合学園高等部のグラウンドにて行われる闘争を、見届ける。

  雷神が、その覚束ない足取りで踏み込んだ拳を、風神へと放つ。

  顔面で受け、それでも倒れてたまるものかと踏ん張り、殴り返す風神。

  ゴウン、ゴウン、ゴウン――と。

  T・チタニウム装甲に拳を叩きつける二機の殴り合いは、稚拙な争いだ。


  城坂修一の願った最弱の試作機と相反する、レビル・ガントレットの願った最強の試作機が繰り出す戦いは、まるでケンカの仕方も知らず、ただ相手を殴ろうとする子供の争いのよう。


  ――それでも修一は、その二機の姿を、見届けたかった。


「城坂、修一」


 腹部に刺さった機体の破片を抜く事なく、今修一の娘――城坂楠が、彼に近づき、膝を着いた。


「ねぇ、あれを止めさせて。もう、戦いは終わったんだよ」

「それは出来ない。しちゃいけない」


 彼女の言葉に、修一は首を振り、しかし視線は二機の殴り合いを捉えて決して離さない。


「どうして。あんなの、もう戦争でもなんでもない。ただ、殴り合っているだけなんて、おかしい」

「おかしくなんかない。AD兵器はそういうものだったんだと、前にも言っただろう」


 AD兵器――アーマード・ユニット兵器は、約十メートル台の人型機動兵器であり、城坂修一が開発した兵器だ。

  当初は宇宙空間で活動する事を目的とした二メートル台のパワードスーツ案を軍事転用する為の開発計画だったが、開発途中よりサイズ等の仕様変更を繰り返し、最終的にはロボット兵器として生まれ変わった。

  そしてその兵器は、人型であるが故に人類が心の底に飼う闘争本能を呼び覚ました。

  今まさに行われる――城坂織姫とリントヴルム・セルゲイビッチ・リナーシタの二者による殴り合いも、その闘争本能に魅入られた者達による果し合い。

  互いが死ぬまで、機体が動かなくなるまで、敵を殴り続ける。


「撮り続けろよ、マスメディア」

「分かってる。――この映像は、オレの記者生命を懸けてでも、世界へ発信し続けてやる」


 ビデオカメラを片手に、修一と楠の背後から戦場カメラマンである藤堂敦が、グッと顎を引きながら、二機による殴り合いを映し続ける。

  涙を流し、鼻を鳴らし、下唇を噛んで血を垂らしながら、それでも真っすぐ、レンズを通して自分の目でも、見続ける。


「どうして――どうしてなの!? 意味ないよ、こんな殴り合い!

 守るモノなんてなくて、叶えたい願いなんか無くて、理想も! 思想も無い! ただケモノ同士の殴り合いに、意味なんか無いっ!」

「その意味の無い戦いを続ける者がいる。

 理想も、思想も無い、ただケモノ同士の争いにしか、自分の命を賭せない者もいる。

 ――僕の作りあげたADという兵器は、そういう者の闘争本能を掻き立てるに相応しい兵器だった。

  けどね楠、あの二人は、ただそれだけの為に戦うんじゃない」


  押し黙る楠。

  彼女とて、分かっている。

  城坂織姫という愛おしい兄が、男が、この戦いで果たしたい想い。

  リントヴルム・セルゲイビッチ・リナーシタという獣が、男が、この戦いで果たしたい願い。


「二人は――互いに互いの理解者なんだ。


 織姫はリントヴルムの、偏屈とした愛情表現を知っている。


  リントヴルムは織姫の、純粋無垢で何も知らない心を知っている。


  戦場で出会い、戦場で殺し合い――そうしている内に、二人は互いの事を、ADと言う兵器越しに知り得、互いの持つ魅力に惹かれ合った」

「こんな形じゃなくていいじゃない……っ!

 殺し合わなくったって、ただ目の前で愛情を叫ぶ事だって立派な愛情表現じゃない! 何でそれが出来ないのよ……っ!」

「出来ないさ……あの二人の出会いがもし戦場じゃなければ、そういう道もあっただろうけれど……

 戦場で出会って、戦場で殺し合った事で芽生えた、互いへの愛情を深めたのだから……

 その愛情を満たすなんて、戦場という場所に立つ事でしか、出来ないんだよ」


 ただ殴り合うだけの光景を――その場にいる誰もが、見ている。


  城坂修一も。

  城坂楠も。

  藤堂敦も。

  神崎紗彩子も。

  明宮哨も。

  明宮梢も。

  ズーウェイも。

  エミリー・ハモンドも。

  島根のどかも。

  天城幸恵も。

  坂本千鶴も。

  城坂聖奈も。

  久世良司も。

  村上明久も。

  清水康彦も。

  AD総合学園を守る為に戦った生徒達も。

  生徒達を守る為に立ち上がった教師達も。

  
  ――ただ、その戦いを、見届けている。
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