世界が終わるその時に

沖方敬太郎

文字の大きさ
4 / 5

Pattern4.円谷マドカ──悪役は存在を証明する──

しおりを挟む
 彼はシンプルに戦闘が好きだった。戦闘狂だった。

 彼はヒーローアズマの師匠だった。だから、ヒーローアズマの強さを誰よりも理解していた。

 彼はクズだった。誰よりも、クズで、でも、イケメンだった。

 彼はそんなヴィランだった。



 彼は、そんなヴィランで、



『つぶら、俺があんたを止めてやるよ』

『へぇ、じゃあ、止めてみろよ、ヒーローさんアズマ

 ヒーローが教え子であっても、手加減はしない。アズマも俺には手加減はしない。

 何故ってそれは、俺は戦闘が好きだから。アズマはそれを知っているから。



『リュー、災難だったなぁ』

『その災難を作ったのはあんただろ、つぶら』

『はっ、そうだったな』

『……アズマを倒しやがって』

『はっ、お前が早く倒さないのが悪いんだろーが!』

 味方でさえ、揶揄うクズ。

 分かっていた。知っていた。

 一人のヴィランには一人のヒーロー。それが暗黙の了解だった。

 でも、いや、だから、リューの手でヒーローを倒させたくなかった。だって、それはリューにとって一生の傷になるって分かっていたから。



『あいつは強かったよ、アクセ。お前より、断然な』

 誰よりも、誰よりも、アズマのことを知っていた。彼の強さを知っていた。

『お前と違ってあいつはヴィランに捕まらなかったんだから』

 なぜなら、俺はアズマの師匠であって、ヒーローとしてのアズマと戦ったことがあるから。そして、アズマの強さをよく聞いていたから。

 ──アズマのであり、ヴィランのアクセから。



『やっぱり、顔良いなあんた……。クソじゃん』

『唐突な暴言。え、何? 真神、何かあったわけ?』

『特には。ただ、顔良いのにクズだなぁって』

『ストレートな暴言。マジで何かあった?』

『……ちょっと好きだった人思い出した』

『はぁ! 元リア充はいいっすねぇ!』

『つぶらさんも大概、ストレートな暴言じゃん』

 イケメンなのにクズ。そうヴィラン仲間からも言われた。勿論、敵であるヒーロー達からもそう言われていた。

 顔が良い自覚はあった。クズな自覚もあった。だって、意識してクズにしているのだから。



 完全悪のヴィラン。教え子すら見捨てるヴィラン。

 戦闘狂で、クズな、最低のヴィラン。




 それがだった。









 戦闘が好きだなんて。

「アズマ、俺が止まらなくなったらお前が俺のことを止めてくれ」

 戦闘狂だなんて。

「「俺を止められるのはお前だけだから。なんたってお前は俺の教え子だから」だろ、先生」

 ……俺は戦うことしか知らなかった。だから、だから、戦ってきただけだったのに。

「おー、よく分かってんじゃん」

 誰も、俺に戦うななんて、言ってくれなかったくせに。

「何度言われてきたと思ってんだよ」

 「あんたを止めてやる」って言ってくれたのだって一人アズマだけだった。

「220回?」

 だから。

「5万7843回ですぅ!!」

 だから、俺は俺を止める役目をアズマ「あんたを止めてやる」って言ってくれた奴に頼むしかなかった。

 ──――結局、そのアズマだって俺を止められなかったが。



「ねぇ、円谷つぶらや、アズマのこと頼むね」

 自分の目で成長を全て見ていた。

「はあ……。は? は?!?! は?!?!」

 それは偶然だった。

「オレ様、んや、僕さ、アズマのこと殺したくてたまらなくなっちゃうんだよ~。多分、デッドラインで殺しちゃう。アズマのせいでって。お兄ちゃんなのに」

 幼少期からの泥棒仲間で、ヴィラン仲間のアクセ。アホでバカで煩くて、害悪なヴィラン。そうアクセは呼ばれていた。でも、俺の前ではそんな一面は出なかった。

「それは、」

 断れるはずがなかった。育て方なんて分からなかったけど、やるしかなかった。デッドラインなんて、即死を与える超能力だったし。

「でも、円谷はアズマのこと意味なく殺さないでしょ? 僕のことも、殺すことになっても意味なく殺さないでしょ?」

 自分の手で二人を殺そうと思っていたことを後悔していないかと言えば、それは嘘になる。二人に生きていてほしいと思ったこともあったから。

 

「…………全部分かって言ってるのか、それ」

 だって、俺の全てを知っていたのは二人だけだったから。

「うん。だから、お願いしてるんだよ。君なら、僕達の死を意味あるものにしてくれるはずだから」

 兄とは親友で、弟とは師弟関係で。

「…………アズマも死ぬ前提なんだな、アクセ」

 俺の人生のなかで唯一幸せだった時間。

「そうだよ。だって、アズマは絶対ヴィランじゃなくて、ヒーロー向きだし、君、自分を止めるように成長したアズマに言うつもりでしょ」

 お前がヴィランを裏切らなければ、なんて。が光を見せなければ、なんて。

「ノーコメントで」

「君は僕達兄弟について一番知ってるもんね!」

「ノーコメントで!!」

 結局、アクセはヒーローを守って捕まった。でも、それより先にアズマはヒーローとして、俺に殺された。


 ──――二人を俺が殺したかったなんて、声になんて出せなかった。



 全てがのためだった。全て自分のため。全て、全て、全て。





 俺は知っている全てをお前らヴィランに注ぎ込んできた。


 俺は全力でお前らヒーローの前に立ってきた。


 ヒーローからも、ヴィランからも、世間から嫌われても、俺はお前らヒーローとヴィランの前に立つ。




 ──それが俺の、クズの、だから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...