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第四章
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リディアが王都に着いて三日後、一足はやい誕生日パーティーが催された。
(私が十八になるのは三週間も後なのに)
この異例の祝賀会に困惑しているのはリディアだけではない。壇上に立つ王族を見上げている客の全てが、曖昧で訝しげな笑みを浮かべていた。
それもそのはず、今回のことはカリム国王の独断専行なのだ。
どんな目的のためにこうしたのか見当もつかず、訝りながら祝いの言葉を投げてくる貴族達に会釈を返していると、一人の男が恭しい態度でリディアの足元に跪いた。
「お久しぶりでございます、殿下」
ギュンター卿だ。彼は初めて会った時から変わらない、人の良い笑顔を浮かべている。
「ああ、久しぶり……」
貰った指輪を壊してしまったことを思い出し、リディアは少し心苦しくなった。それを知ってか知らずか、ギュンターはにこやかな表情を崩さない。
「殿下、あの指輪はお気に召しましたか? 今は身に着けられていないご様子ですが……」
「あ……ああ。その、部屋に置いてあるぞ!」
真実を言うに言えず、リディアは咄嗟に嘘をついた。すると二人の会話を聞いていた周りの貴族達が動揺も露わに、我も我もと自らの装飾品を差し出してきた。
「殿下! 私の指輪もどうか殿下の手に!」
「我輩は指輪ではなくブローチですが、しかしルビーで薔薇の花弁を模したこの……」
「殿下の指に相応しいのはその髪の色と同じ、神秘の黒真珠の……」
「そんなもの、この指輪に比べたら!」
「そんなものだと? 青二才がっ!」
「そなた、私を愚弄するかっ?」
決闘もかくやという空気が漂い始めたのに気付きながら、渦中のリディアはこの場を収めるうまい方法を思いつけなかった。ただ周りで吼える男達をおろおろと見ることしか出来ない。
すると横から仲裁が入った。
「みなさま、高貴な方の御前であることをお忘れですか? 王が見ておられますよ」
ルークだ。
その言葉に我に返ったのか、口さがなく罵り合っていた貴族達は途端に黙り込んだ。そしてルークの顔を見、渋々といった様子で頭を下げる。
人質と言えどルークは王子。
貴族達が足を踏み入れることの出来ない、王族の壇上に悠然と立っているのがその証だ。それをカリム王が聴している場で、許されている人間に礼を欠いた態度を注意されたのだから、謝るのは当たり前なのだ。
面白くない表情を隠していない所からすると、彼等は大分ルークに反感を持ったようだったが……。
助かった、と安堵しながら貴族達の輪から離れ、リディアは傍らのルークを見上げた。
呆れたような灰色の瞳はもう凍りついていなくて、リディアは安堵して唇を綻ばせた。
「……貴方は馬鹿ですか? ここに居る人間の殆どは貴方の伴侶となることを夢見ているのですよ? そんな人間達の前で誰かから贈り物を貰った等と言えば、ああなるのは目に見えていたじゃないですか」
馬鹿呼ばわりされたが、ルークに怒る前に全身の血の気が引いた。
(そうだった! ギュンターは私の結婚相手候補だった)
すっかり忘れ果てていたが、虚飾城で眺めた肖像画の中にもあった気がする。
先日も接見の間で肖像画を見たばかりだ。
(ん、待てよ? ならばあの時貰った指輪は婚約指輪にあたるのか? 壊してしまったが……怒られるかな? いや! まだ正式に決まった訳ではないから、あれはただの贈り物になるだろう! 無くなってしまったけど)
シャンパンを片手にアタフタしているリディアに、ルークが冷たい口調で訊いた。
「それで、指輪とは一体何のことですか? 私は聞いていませんが?」
「……」
一切の音が消えたように思えた。
嫌な汗が全身から吹き出す。どう言ったら良いものかと頭を巡らせている間にも、ルークの表情はどんどん冷たくなっていく。
「ええと、その、ギュンターに虚飾城でお別れを言った時、貰ったんだ」
「何故それを今まで言わなかったのです?」
「私だってルークに言おうとしたさ! でも馬車の中であんな……気まずくなって……そんな話をする時間は無かったろう?」
「城を出てから今日まで時間が無かったと貴方は言うのですか? 散々私に退屈だ暇だと宣ったその口で?」
「だから、その……」
言い訳のネタが無くなり進退窮まった時、低い声がホール全体に響き渡った。
「皆のもの、よくぞ集まった」
カリム王だ。
しかしその姿はホールに居る人間からは見えない。玉座を覆うように白い薄布の衝立が人々の視線を遮っているのだ。
病床に伏してから、カリム王が人の目に映ることを極端に嫌うようになったためだ。
「ここに居るリディアが私の後を継いでこの国の女王となる。そのリディアの成人を祝いに皆が集まったことを嬉しく思う。トルトファリアは今までと変わらず、いや今以上に繁栄するだろう。こんなに喜ばしいことはない」
王の声は大きいとはいえないのに、下座に立って上段を見上げていた貴族達を沈黙させ、その場に跪かせる力を持っていた。だが何度も声が掠れたのをみると、国王の病状が芳しくないのは確かなようだった。
(そうか。父上はご自分の体を思って王位を譲ることを考えられたのか。私は馬鹿だ。何もかも早急すぎると思っていた。急かされたのには理由があったというのに!)
リディアが自己嫌悪に陥って項垂れていると、国王が朗々と乾杯の音頭を取った。
「純然たるトルトファリアに。未来を担うリディアに、乾杯!」
我に返り、リディアは手にしていたシャンパンのグラスを掲げ、大慌てで言った。
「乾杯!」
ホールに居た全ての人間がそれに答え、グラスを掲げる。
そして唱和した。
「乾杯!」
(いけない。のっけから躓くところだった)
冷や汗を感じながらグラスに口を付けようとした次の瞬間、ルークが貴族達の視界を遮るように自分の前に体を移したのに気が付き、それを呷るのを止めた。不思議に思って首を傾げているうちに、ルークは手早く自分のグラスとリディアのグラスを交換し、何事も無かったように元の位置に戻った。
(何だ? 何がしたかったんだ?)
誰かに尋ねてみたかったが、貴族達はルークの行動に気が付かなかったのか、手中のグラスを飲み干すのに夢中だ。
乾杯の音頭で掲げたグラスは空にするのが礼儀なのだ。一人、二人とシャンパンを飲み干した貴族の姿を認め、リディアも慌ててグラスに口を付けた。そうして飲み干してから、やっとルークの意図したことに気付いた。
弾かれたように隣を振り返るリディアの視線を受け、ルークが苦笑する。
「大丈夫ですよ。少なくとも即効性の毒は入っていなかったようです」
「お前! 毒見を?」
「貴方があまりにも無用心なので、見ていられませんでした。ここは毒蛇の棲家だと思いなさい。そして貴方は単身、裸で毒蛇の群の中に飛び込んだようなもの。もっと自分の身の回りに警戒することです」
小さな声でそう囁いたルークは、やがて口元の笑みを消して部屋の隅に移動してしまった。
(そう言えばいつの間にか普通に話している。ルークが先に折れてくれたのか。うやむや気味で気持ち悪いが……そうだ! ちゃんと私から謝ろう! これからもずっと友人でいてくれるようにお願いするんだ!)
ルークの背中を追いかけようとした時、再びカリム王が口を開いた。
「時にルーク王子。長い間リディアの学友として我が国に滞在してもらったこと、この場を借りて礼を言う。リディアも十八となり、もう立派に大人と言える。女王としての特別な勉強もしなければならなくなるし、そなたが望むのならば帰国を許そうと思うが?」
有り体に言えば、もう用が無くなったから帰れ、ということだった。
ホールで耳を傾けていた貴族達は何だそんなことか、と緊張気味に見上げていた壇上から視線を外した。何しろバーディスル王国は王国となって三十年にも満たない小国。人質が居ようが居まいが、トルトファリアの立場はなんら変わることが無い。
彼等はルークに対して、気に掛ける価値も見いだせなかった。
しかしリディアは違った。
(そんな……ルークが帰ってしまうなんて! これから仲直りしようと思ったのに……まだ傍に居て欲しいのに!)
リディアの思いとは裏腹に、周りの人間達は誰一人として王の言葉に異を唱えない。
(嫌だ! ルークと別れるなんて嫌だ!)
リディアは必死の思いで叫んだ。
「そんなの駄目だ!」
ざわついていたホールが一瞬にして静まり返った。
驚きに目を丸くしている貴族達が見守る中、最上段から面白がるような声がリディアに放たれる。
「何故? お前はもう寂しさを紛らわせる学友を私に強請る時期を過ぎただろう? 隣国の王子はもう必要無い」
まるで物に対しての言いように、ルークは眉をひそめた。しかしそんなことにはリディアの焦燥感を癒す力はない。
(学友としてルークを傍に置けないなら……どうする? 私は何を言えばいい?)
考え込むリディアを追い詰めるのを楽しむように、笑いを漏らしながら王は言う。
「まさか伴侶にと言う訳ではあるまいな? 次期女王となるお前に相応しいとは言えぬ。大国を背負って立つ人間が、小国の王子と婚姻を結ぶなど、王族としての道義を放棄するも同じ。許されないことだ」
(結婚も駄目……それならば。それならば?)
「どうしたリディア? 学友でなく伴侶でなく、それ以外の理由で王子を留めようとする理由とはなんだ?」
焦りのあまり、半ば混乱したままリディアは答えた。
「人質としてだ!」
口に出した途端に後悔したが、ホールに居た全員は感心したような溜め息を吐いた。
「なるほど。小国といっても我が国の同盟国ではない。正しい選択かもしれぬ」
「リディア殿下は最も国の安泰を考えておられるようだ」
「次期女王陛下がこのように有能なのだ。我等の未来も先行きが良いというもの!」
自分を褒め称える声がホールに満ちる中、くつくつと王が笑うのをリディアは聞いた。
「人質が必要と判断したか。そうか……良い。お前の言う通りにしよう。王子にはこのままトルトファリアに留まっていただく」
敬愛する父に誉められたのに、リディアは笑むことすら出来ずに俯いた。
おそらくは冷たい光を湛えて自分を見ているはずの、幼馴染みの目を見るのが恐かった。
(私が十八になるのは三週間も後なのに)
この異例の祝賀会に困惑しているのはリディアだけではない。壇上に立つ王族を見上げている客の全てが、曖昧で訝しげな笑みを浮かべていた。
それもそのはず、今回のことはカリム国王の独断専行なのだ。
どんな目的のためにこうしたのか見当もつかず、訝りながら祝いの言葉を投げてくる貴族達に会釈を返していると、一人の男が恭しい態度でリディアの足元に跪いた。
「お久しぶりでございます、殿下」
ギュンター卿だ。彼は初めて会った時から変わらない、人の良い笑顔を浮かべている。
「ああ、久しぶり……」
貰った指輪を壊してしまったことを思い出し、リディアは少し心苦しくなった。それを知ってか知らずか、ギュンターはにこやかな表情を崩さない。
「殿下、あの指輪はお気に召しましたか? 今は身に着けられていないご様子ですが……」
「あ……ああ。その、部屋に置いてあるぞ!」
真実を言うに言えず、リディアは咄嗟に嘘をついた。すると二人の会話を聞いていた周りの貴族達が動揺も露わに、我も我もと自らの装飾品を差し出してきた。
「殿下! 私の指輪もどうか殿下の手に!」
「我輩は指輪ではなくブローチですが、しかしルビーで薔薇の花弁を模したこの……」
「殿下の指に相応しいのはその髪の色と同じ、神秘の黒真珠の……」
「そんなもの、この指輪に比べたら!」
「そんなものだと? 青二才がっ!」
「そなた、私を愚弄するかっ?」
決闘もかくやという空気が漂い始めたのに気付きながら、渦中のリディアはこの場を収めるうまい方法を思いつけなかった。ただ周りで吼える男達をおろおろと見ることしか出来ない。
すると横から仲裁が入った。
「みなさま、高貴な方の御前であることをお忘れですか? 王が見ておられますよ」
ルークだ。
その言葉に我に返ったのか、口さがなく罵り合っていた貴族達は途端に黙り込んだ。そしてルークの顔を見、渋々といった様子で頭を下げる。
人質と言えどルークは王子。
貴族達が足を踏み入れることの出来ない、王族の壇上に悠然と立っているのがその証だ。それをカリム王が聴している場で、許されている人間に礼を欠いた態度を注意されたのだから、謝るのは当たり前なのだ。
面白くない表情を隠していない所からすると、彼等は大分ルークに反感を持ったようだったが……。
助かった、と安堵しながら貴族達の輪から離れ、リディアは傍らのルークを見上げた。
呆れたような灰色の瞳はもう凍りついていなくて、リディアは安堵して唇を綻ばせた。
「……貴方は馬鹿ですか? ここに居る人間の殆どは貴方の伴侶となることを夢見ているのですよ? そんな人間達の前で誰かから贈り物を貰った等と言えば、ああなるのは目に見えていたじゃないですか」
馬鹿呼ばわりされたが、ルークに怒る前に全身の血の気が引いた。
(そうだった! ギュンターは私の結婚相手候補だった)
すっかり忘れ果てていたが、虚飾城で眺めた肖像画の中にもあった気がする。
先日も接見の間で肖像画を見たばかりだ。
(ん、待てよ? ならばあの時貰った指輪は婚約指輪にあたるのか? 壊してしまったが……怒られるかな? いや! まだ正式に決まった訳ではないから、あれはただの贈り物になるだろう! 無くなってしまったけど)
シャンパンを片手にアタフタしているリディアに、ルークが冷たい口調で訊いた。
「それで、指輪とは一体何のことですか? 私は聞いていませんが?」
「……」
一切の音が消えたように思えた。
嫌な汗が全身から吹き出す。どう言ったら良いものかと頭を巡らせている間にも、ルークの表情はどんどん冷たくなっていく。
「ええと、その、ギュンターに虚飾城でお別れを言った時、貰ったんだ」
「何故それを今まで言わなかったのです?」
「私だってルークに言おうとしたさ! でも馬車の中であんな……気まずくなって……そんな話をする時間は無かったろう?」
「城を出てから今日まで時間が無かったと貴方は言うのですか? 散々私に退屈だ暇だと宣ったその口で?」
「だから、その……」
言い訳のネタが無くなり進退窮まった時、低い声がホール全体に響き渡った。
「皆のもの、よくぞ集まった」
カリム王だ。
しかしその姿はホールに居る人間からは見えない。玉座を覆うように白い薄布の衝立が人々の視線を遮っているのだ。
病床に伏してから、カリム王が人の目に映ることを極端に嫌うようになったためだ。
「ここに居るリディアが私の後を継いでこの国の女王となる。そのリディアの成人を祝いに皆が集まったことを嬉しく思う。トルトファリアは今までと変わらず、いや今以上に繁栄するだろう。こんなに喜ばしいことはない」
王の声は大きいとはいえないのに、下座に立って上段を見上げていた貴族達を沈黙させ、その場に跪かせる力を持っていた。だが何度も声が掠れたのをみると、国王の病状が芳しくないのは確かなようだった。
(そうか。父上はご自分の体を思って王位を譲ることを考えられたのか。私は馬鹿だ。何もかも早急すぎると思っていた。急かされたのには理由があったというのに!)
リディアが自己嫌悪に陥って項垂れていると、国王が朗々と乾杯の音頭を取った。
「純然たるトルトファリアに。未来を担うリディアに、乾杯!」
我に返り、リディアは手にしていたシャンパンのグラスを掲げ、大慌てで言った。
「乾杯!」
ホールに居た全ての人間がそれに答え、グラスを掲げる。
そして唱和した。
「乾杯!」
(いけない。のっけから躓くところだった)
冷や汗を感じながらグラスに口を付けようとした次の瞬間、ルークが貴族達の視界を遮るように自分の前に体を移したのに気が付き、それを呷るのを止めた。不思議に思って首を傾げているうちに、ルークは手早く自分のグラスとリディアのグラスを交換し、何事も無かったように元の位置に戻った。
(何だ? 何がしたかったんだ?)
誰かに尋ねてみたかったが、貴族達はルークの行動に気が付かなかったのか、手中のグラスを飲み干すのに夢中だ。
乾杯の音頭で掲げたグラスは空にするのが礼儀なのだ。一人、二人とシャンパンを飲み干した貴族の姿を認め、リディアも慌ててグラスに口を付けた。そうして飲み干してから、やっとルークの意図したことに気付いた。
弾かれたように隣を振り返るリディアの視線を受け、ルークが苦笑する。
「大丈夫ですよ。少なくとも即効性の毒は入っていなかったようです」
「お前! 毒見を?」
「貴方があまりにも無用心なので、見ていられませんでした。ここは毒蛇の棲家だと思いなさい。そして貴方は単身、裸で毒蛇の群の中に飛び込んだようなもの。もっと自分の身の回りに警戒することです」
小さな声でそう囁いたルークは、やがて口元の笑みを消して部屋の隅に移動してしまった。
(そう言えばいつの間にか普通に話している。ルークが先に折れてくれたのか。うやむや気味で気持ち悪いが……そうだ! ちゃんと私から謝ろう! これからもずっと友人でいてくれるようにお願いするんだ!)
ルークの背中を追いかけようとした時、再びカリム王が口を開いた。
「時にルーク王子。長い間リディアの学友として我が国に滞在してもらったこと、この場を借りて礼を言う。リディアも十八となり、もう立派に大人と言える。女王としての特別な勉強もしなければならなくなるし、そなたが望むのならば帰国を許そうと思うが?」
有り体に言えば、もう用が無くなったから帰れ、ということだった。
ホールで耳を傾けていた貴族達は何だそんなことか、と緊張気味に見上げていた壇上から視線を外した。何しろバーディスル王国は王国となって三十年にも満たない小国。人質が居ようが居まいが、トルトファリアの立場はなんら変わることが無い。
彼等はルークに対して、気に掛ける価値も見いだせなかった。
しかしリディアは違った。
(そんな……ルークが帰ってしまうなんて! これから仲直りしようと思ったのに……まだ傍に居て欲しいのに!)
リディアの思いとは裏腹に、周りの人間達は誰一人として王の言葉に異を唱えない。
(嫌だ! ルークと別れるなんて嫌だ!)
リディアは必死の思いで叫んだ。
「そんなの駄目だ!」
ざわついていたホールが一瞬にして静まり返った。
驚きに目を丸くしている貴族達が見守る中、最上段から面白がるような声がリディアに放たれる。
「何故? お前はもう寂しさを紛らわせる学友を私に強請る時期を過ぎただろう? 隣国の王子はもう必要無い」
まるで物に対しての言いように、ルークは眉をひそめた。しかしそんなことにはリディアの焦燥感を癒す力はない。
(学友としてルークを傍に置けないなら……どうする? 私は何を言えばいい?)
考え込むリディアを追い詰めるのを楽しむように、笑いを漏らしながら王は言う。
「まさか伴侶にと言う訳ではあるまいな? 次期女王となるお前に相応しいとは言えぬ。大国を背負って立つ人間が、小国の王子と婚姻を結ぶなど、王族としての道義を放棄するも同じ。許されないことだ」
(結婚も駄目……それならば。それならば?)
「どうしたリディア? 学友でなく伴侶でなく、それ以外の理由で王子を留めようとする理由とはなんだ?」
焦りのあまり、半ば混乱したままリディアは答えた。
「人質としてだ!」
口に出した途端に後悔したが、ホールに居た全員は感心したような溜め息を吐いた。
「なるほど。小国といっても我が国の同盟国ではない。正しい選択かもしれぬ」
「リディア殿下は最も国の安泰を考えておられるようだ」
「次期女王陛下がこのように有能なのだ。我等の未来も先行きが良いというもの!」
自分を褒め称える声がホールに満ちる中、くつくつと王が笑うのをリディアは聞いた。
「人質が必要と判断したか。そうか……良い。お前の言う通りにしよう。王子にはこのままトルトファリアに留まっていただく」
敬愛する父に誉められたのに、リディアは笑むことすら出来ずに俯いた。
おそらくは冷たい光を湛えて自分を見ているはずの、幼馴染みの目を見るのが恐かった。
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