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第五章
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“他者の邪まなる念により害されたる者、その念解くるまで死して尚、安息はない。
滅ぼした者もまた同じ。己が命と引き換えに願いを叶えど煉獄に落つる。
懸命なる者は全て、このようなものに関わってはならない――”
(確か……そんなような内容だった)
リディアは霊廟へと続く月桂樹の並木道を歩きながら、まゆつば物の呪いの本の内容を思い出していた。
(安息はないってことは、幽霊になってしまうって意味だったのだろうか?)
いかがわしい本の朧気な記憶しか手掛かりが無いので、リディアはとりあえず侍女達の噂を確かめてみようと霊廟に向かっていた。
(呪いによって死んだ者も呪った者も安らかに眠ることは出来ないという一文は、呪術を行うことを諌めるたの脅しなだけかもしれないけれど)
確証はない。
ただの当てずっぽうだ。
しかし偶然に過ぎないと笑い飛ばすには、あまりにも気持ちの悪い偶然が重なっている。
彼女は何でも良いから、兄達の連続死は王家の呪いなどではないと言う証拠が欲しかった。何しろ自分の身にも降り掛かってくるかもしれないのだ。心の平穏のためにリディアは確かめたかった。
王宮の敷地内ではあるものの、宮から北に離れるにつれ、人の気配が無くなっていく。
高貴な人々の亡骸に敬意を払っているのか、誰も死体に用など無いということか。見回りの兵士の姿すらない。
リディアにとっては好都合だが、ここまで人気が無いとリディアは少しばかり怖くなってきた。
唐突に道が開け、総御影石造りの霊廟が現れた。
夜の闇にも浮き上がる、ちょっとした屋敷ほどに大きいそれの漆黒の影に、リディアは思わず躊躇した。
霊廟は王家直系の人間の亡骸を安置する場だ。
王の血を持つ人間を地面に埋めたり、焼いて荼毘に付すことを畏れ多いとこの国では考えるため、王族の亡骸は御影石の石棺に納められ、この霊廟に安置されるのだ。
つまり死体が山ほどある場所だ。
(これで噂が本当に噂だったら、私はきっと墓荒らしとして先祖に呪われると思うぞ)
半泣きになりながらも、リディアは覚悟を決めて霊廟の扉を押し開けた。
扉は冷たく重かったが、すんなりと開いた。
中は漆黒を閉じ込めたかのように暗い。暫らく目を閉じてその場に立ち尽くし、瞳が闇に慣れたのを見計らって瞼を開くと、ぼんやりとだが様子が分かるようになっていた。
恐る恐る霊廟に足を踏み入れる。
頻繁に人が出入りする所でも、日当たりの良い場所でもないので、鳥肌が立つほどに空気が冷たい。
闇の中、周りを窺いつつ奥へ進んでいくと、金属製の大きな扉が前を阻んだ。
緊張に息を止めながら扉を押し開くと、明かり取りから差し込む月光の仄かな明かりに満たされた石造りの部屋一杯に、御影石で出来た石棺が並んでいるのが見て取れた。
おそらくは歴代の王がここに眠っているのだろう。端から端までずらりと鎮座ましましている様は、いっそ壮観だ。
(兄上。ご先祖様。こんな状況なのですから、どうか怒らないでくださいね!)
墓を暴く罰当たりな己の行動に怖じ気つつ、リディアは一番上の兄の名が刻まれた棺に手を掛けた。
磨き抜かれた鏡のような光沢を放つそれに驚きながら、蓋をスライドさせる。
密閉された石棺の中で、腐り果てることなくミイラ化した腕が視界に飛び込んできた。
リディアは悲鳴を飲み込み、慌てて蓋を元に戻した。
胸を押さえて蹲ったリディアの心臓が、早鐘のように鳴っている。
(そりゃあ兄上は亡くなられているのだから、こうなっているのは当然なのだけれど……生まれて初めて見たのだもの。びっくりした)
季節外れの肝試しをしている気分になっている自分に気付き、リディアは首を強く振って不謹慎な心を追い払った。
(私は遊びに来た訳ではないのだ! 一番上の兄上のご遺体はあるべき形として当然の姿をしていたようだった。いや、まぁ……少ししか見ていないから、もしかしたら変わっているのかもしれないけれど)
正直、ミイラを眺めるために再び棺を開けるのは嫌だった。
もう自分の部屋に帰りたかった。
しかし確かめるべき棺はまだ二つ残っている。それも年代的には先程より新しい物だ。中身がどうなっているのか考えるだけでも恐ろしい。
しかしリディアは決死の表情で棺に歩み寄った。
(どうか虫とか虫とか気持ち悪いものはいませんように!)
祈りながら彼女は蓋を開けた。
薄ぼんやりとした月光を浴び、闇に浮かび上がるように、それはあった。
「どういう、ことだ?」
震える手を棺の中に差し入れる。
指先が中のものに触れ、リディアは飛び上がった。そのまま転がるようにもう一つの棺に跳び付き、引き剥がす勢いで蓋を開ける。
「これは……一体、何なんだ?」
滅ぼした者もまた同じ。己が命と引き換えに願いを叶えど煉獄に落つる。
懸命なる者は全て、このようなものに関わってはならない――”
(確か……そんなような内容だった)
リディアは霊廟へと続く月桂樹の並木道を歩きながら、まゆつば物の呪いの本の内容を思い出していた。
(安息はないってことは、幽霊になってしまうって意味だったのだろうか?)
いかがわしい本の朧気な記憶しか手掛かりが無いので、リディアはとりあえず侍女達の噂を確かめてみようと霊廟に向かっていた。
(呪いによって死んだ者も呪った者も安らかに眠ることは出来ないという一文は、呪術を行うことを諌めるたの脅しなだけかもしれないけれど)
確証はない。
ただの当てずっぽうだ。
しかし偶然に過ぎないと笑い飛ばすには、あまりにも気持ちの悪い偶然が重なっている。
彼女は何でも良いから、兄達の連続死は王家の呪いなどではないと言う証拠が欲しかった。何しろ自分の身にも降り掛かってくるかもしれないのだ。心の平穏のためにリディアは確かめたかった。
王宮の敷地内ではあるものの、宮から北に離れるにつれ、人の気配が無くなっていく。
高貴な人々の亡骸に敬意を払っているのか、誰も死体に用など無いということか。見回りの兵士の姿すらない。
リディアにとっては好都合だが、ここまで人気が無いとリディアは少しばかり怖くなってきた。
唐突に道が開け、総御影石造りの霊廟が現れた。
夜の闇にも浮き上がる、ちょっとした屋敷ほどに大きいそれの漆黒の影に、リディアは思わず躊躇した。
霊廟は王家直系の人間の亡骸を安置する場だ。
王の血を持つ人間を地面に埋めたり、焼いて荼毘に付すことを畏れ多いとこの国では考えるため、王族の亡骸は御影石の石棺に納められ、この霊廟に安置されるのだ。
つまり死体が山ほどある場所だ。
(これで噂が本当に噂だったら、私はきっと墓荒らしとして先祖に呪われると思うぞ)
半泣きになりながらも、リディアは覚悟を決めて霊廟の扉を押し開けた。
扉は冷たく重かったが、すんなりと開いた。
中は漆黒を閉じ込めたかのように暗い。暫らく目を閉じてその場に立ち尽くし、瞳が闇に慣れたのを見計らって瞼を開くと、ぼんやりとだが様子が分かるようになっていた。
恐る恐る霊廟に足を踏み入れる。
頻繁に人が出入りする所でも、日当たりの良い場所でもないので、鳥肌が立つほどに空気が冷たい。
闇の中、周りを窺いつつ奥へ進んでいくと、金属製の大きな扉が前を阻んだ。
緊張に息を止めながら扉を押し開くと、明かり取りから差し込む月光の仄かな明かりに満たされた石造りの部屋一杯に、御影石で出来た石棺が並んでいるのが見て取れた。
おそらくは歴代の王がここに眠っているのだろう。端から端までずらりと鎮座ましましている様は、いっそ壮観だ。
(兄上。ご先祖様。こんな状況なのですから、どうか怒らないでくださいね!)
墓を暴く罰当たりな己の行動に怖じ気つつ、リディアは一番上の兄の名が刻まれた棺に手を掛けた。
磨き抜かれた鏡のような光沢を放つそれに驚きながら、蓋をスライドさせる。
密閉された石棺の中で、腐り果てることなくミイラ化した腕が視界に飛び込んできた。
リディアは悲鳴を飲み込み、慌てて蓋を元に戻した。
胸を押さえて蹲ったリディアの心臓が、早鐘のように鳴っている。
(そりゃあ兄上は亡くなられているのだから、こうなっているのは当然なのだけれど……生まれて初めて見たのだもの。びっくりした)
季節外れの肝試しをしている気分になっている自分に気付き、リディアは首を強く振って不謹慎な心を追い払った。
(私は遊びに来た訳ではないのだ! 一番上の兄上のご遺体はあるべき形として当然の姿をしていたようだった。いや、まぁ……少ししか見ていないから、もしかしたら変わっているのかもしれないけれど)
正直、ミイラを眺めるために再び棺を開けるのは嫌だった。
もう自分の部屋に帰りたかった。
しかし確かめるべき棺はまだ二つ残っている。それも年代的には先程より新しい物だ。中身がどうなっているのか考えるだけでも恐ろしい。
しかしリディアは決死の表情で棺に歩み寄った。
(どうか虫とか虫とか気持ち悪いものはいませんように!)
祈りながら彼女は蓋を開けた。
薄ぼんやりとした月光を浴び、闇に浮かび上がるように、それはあった。
「どういう、ことだ?」
震える手を棺の中に差し入れる。
指先が中のものに触れ、リディアは飛び上がった。そのまま転がるようにもう一つの棺に跳び付き、引き剥がす勢いで蓋を開ける。
「これは……一体、何なんだ?」
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