22 / 49
第五章
2
しおりを挟む
“他者の邪まなる念により害されたる者、その念解くるまで死して尚、安息はない。
滅ぼした者もまた同じ。己が命と引き換えに願いを叶えど煉獄に落つる。
懸命なる者は全て、このようなものに関わってはならない――”
(確か……そんなような内容だった)
リディアは霊廟へと続く月桂樹の並木道を歩きながら、まゆつば物の呪いの本の内容を思い出していた。
(安息はないってことは、幽霊になってしまうって意味だったのだろうか?)
いかがわしい本の朧気な記憶しか手掛かりが無いので、リディアはとりあえず侍女達の噂を確かめてみようと霊廟に向かっていた。
(呪いによって死んだ者も呪った者も安らかに眠ることは出来ないという一文は、呪術を行うことを諌めるたの脅しなだけかもしれないけれど)
確証はない。
ただの当てずっぽうだ。
しかし偶然に過ぎないと笑い飛ばすには、あまりにも気持ちの悪い偶然が重なっている。
彼女は何でも良いから、兄達の連続死は王家の呪いなどではないと言う証拠が欲しかった。何しろ自分の身にも降り掛かってくるかもしれないのだ。心の平穏のためにリディアは確かめたかった。
王宮の敷地内ではあるものの、宮から北に離れるにつれ、人の気配が無くなっていく。
高貴な人々の亡骸に敬意を払っているのか、誰も死体に用など無いということか。見回りの兵士の姿すらない。
リディアにとっては好都合だが、ここまで人気が無いとリディアは少しばかり怖くなってきた。
唐突に道が開け、総御影石造りの霊廟が現れた。
夜の闇にも浮き上がる、ちょっとした屋敷ほどに大きいそれの漆黒の影に、リディアは思わず躊躇した。
霊廟は王家直系の人間の亡骸を安置する場だ。
王の血を持つ人間を地面に埋めたり、焼いて荼毘に付すことを畏れ多いとこの国では考えるため、王族の亡骸は御影石の石棺に納められ、この霊廟に安置されるのだ。
つまり死体が山ほどある場所だ。
(これで噂が本当に噂だったら、私はきっと墓荒らしとして先祖に呪われると思うぞ)
半泣きになりながらも、リディアは覚悟を決めて霊廟の扉を押し開けた。
扉は冷たく重かったが、すんなりと開いた。
中は漆黒を閉じ込めたかのように暗い。暫らく目を閉じてその場に立ち尽くし、瞳が闇に慣れたのを見計らって瞼を開くと、ぼんやりとだが様子が分かるようになっていた。
恐る恐る霊廟に足を踏み入れる。
頻繁に人が出入りする所でも、日当たりの良い場所でもないので、鳥肌が立つほどに空気が冷たい。
闇の中、周りを窺いつつ奥へ進んでいくと、金属製の大きな扉が前を阻んだ。
緊張に息を止めながら扉を押し開くと、明かり取りから差し込む月光の仄かな明かりに満たされた石造りの部屋一杯に、御影石で出来た石棺が並んでいるのが見て取れた。
おそらくは歴代の王がここに眠っているのだろう。端から端までずらりと鎮座ましましている様は、いっそ壮観だ。
(兄上。ご先祖様。こんな状況なのですから、どうか怒らないでくださいね!)
墓を暴く罰当たりな己の行動に怖じ気つつ、リディアは一番上の兄の名が刻まれた棺に手を掛けた。
磨き抜かれた鏡のような光沢を放つそれに驚きながら、蓋をスライドさせる。
密閉された石棺の中で、腐り果てることなくミイラ化した腕が視界に飛び込んできた。
リディアは悲鳴を飲み込み、慌てて蓋を元に戻した。
胸を押さえて蹲ったリディアの心臓が、早鐘のように鳴っている。
(そりゃあ兄上は亡くなられているのだから、こうなっているのは当然なのだけれど……生まれて初めて見たのだもの。びっくりした)
季節外れの肝試しをしている気分になっている自分に気付き、リディアは首を強く振って不謹慎な心を追い払った。
(私は遊びに来た訳ではないのだ! 一番上の兄上のご遺体はあるべき形として当然の姿をしていたようだった。いや、まぁ……少ししか見ていないから、もしかしたら変わっているのかもしれないけれど)
正直、ミイラを眺めるために再び棺を開けるのは嫌だった。
もう自分の部屋に帰りたかった。
しかし確かめるべき棺はまだ二つ残っている。それも年代的には先程より新しい物だ。中身がどうなっているのか考えるだけでも恐ろしい。
しかしリディアは決死の表情で棺に歩み寄った。
(どうか虫とか虫とか気持ち悪いものはいませんように!)
祈りながら彼女は蓋を開けた。
薄ぼんやりとした月光を浴び、闇に浮かび上がるように、それはあった。
「どういう、ことだ?」
震える手を棺の中に差し入れる。
指先が中のものに触れ、リディアは飛び上がった。そのまま転がるようにもう一つの棺に跳び付き、引き剥がす勢いで蓋を開ける。
「これは……一体、何なんだ?」
滅ぼした者もまた同じ。己が命と引き換えに願いを叶えど煉獄に落つる。
懸命なる者は全て、このようなものに関わってはならない――”
(確か……そんなような内容だった)
リディアは霊廟へと続く月桂樹の並木道を歩きながら、まゆつば物の呪いの本の内容を思い出していた。
(安息はないってことは、幽霊になってしまうって意味だったのだろうか?)
いかがわしい本の朧気な記憶しか手掛かりが無いので、リディアはとりあえず侍女達の噂を確かめてみようと霊廟に向かっていた。
(呪いによって死んだ者も呪った者も安らかに眠ることは出来ないという一文は、呪術を行うことを諌めるたの脅しなだけかもしれないけれど)
確証はない。
ただの当てずっぽうだ。
しかし偶然に過ぎないと笑い飛ばすには、あまりにも気持ちの悪い偶然が重なっている。
彼女は何でも良いから、兄達の連続死は王家の呪いなどではないと言う証拠が欲しかった。何しろ自分の身にも降り掛かってくるかもしれないのだ。心の平穏のためにリディアは確かめたかった。
王宮の敷地内ではあるものの、宮から北に離れるにつれ、人の気配が無くなっていく。
高貴な人々の亡骸に敬意を払っているのか、誰も死体に用など無いということか。見回りの兵士の姿すらない。
リディアにとっては好都合だが、ここまで人気が無いとリディアは少しばかり怖くなってきた。
唐突に道が開け、総御影石造りの霊廟が現れた。
夜の闇にも浮き上がる、ちょっとした屋敷ほどに大きいそれの漆黒の影に、リディアは思わず躊躇した。
霊廟は王家直系の人間の亡骸を安置する場だ。
王の血を持つ人間を地面に埋めたり、焼いて荼毘に付すことを畏れ多いとこの国では考えるため、王族の亡骸は御影石の石棺に納められ、この霊廟に安置されるのだ。
つまり死体が山ほどある場所だ。
(これで噂が本当に噂だったら、私はきっと墓荒らしとして先祖に呪われると思うぞ)
半泣きになりながらも、リディアは覚悟を決めて霊廟の扉を押し開けた。
扉は冷たく重かったが、すんなりと開いた。
中は漆黒を閉じ込めたかのように暗い。暫らく目を閉じてその場に立ち尽くし、瞳が闇に慣れたのを見計らって瞼を開くと、ぼんやりとだが様子が分かるようになっていた。
恐る恐る霊廟に足を踏み入れる。
頻繁に人が出入りする所でも、日当たりの良い場所でもないので、鳥肌が立つほどに空気が冷たい。
闇の中、周りを窺いつつ奥へ進んでいくと、金属製の大きな扉が前を阻んだ。
緊張に息を止めながら扉を押し開くと、明かり取りから差し込む月光の仄かな明かりに満たされた石造りの部屋一杯に、御影石で出来た石棺が並んでいるのが見て取れた。
おそらくは歴代の王がここに眠っているのだろう。端から端までずらりと鎮座ましましている様は、いっそ壮観だ。
(兄上。ご先祖様。こんな状況なのですから、どうか怒らないでくださいね!)
墓を暴く罰当たりな己の行動に怖じ気つつ、リディアは一番上の兄の名が刻まれた棺に手を掛けた。
磨き抜かれた鏡のような光沢を放つそれに驚きながら、蓋をスライドさせる。
密閉された石棺の中で、腐り果てることなくミイラ化した腕が視界に飛び込んできた。
リディアは悲鳴を飲み込み、慌てて蓋を元に戻した。
胸を押さえて蹲ったリディアの心臓が、早鐘のように鳴っている。
(そりゃあ兄上は亡くなられているのだから、こうなっているのは当然なのだけれど……生まれて初めて見たのだもの。びっくりした)
季節外れの肝試しをしている気分になっている自分に気付き、リディアは首を強く振って不謹慎な心を追い払った。
(私は遊びに来た訳ではないのだ! 一番上の兄上のご遺体はあるべき形として当然の姿をしていたようだった。いや、まぁ……少ししか見ていないから、もしかしたら変わっているのかもしれないけれど)
正直、ミイラを眺めるために再び棺を開けるのは嫌だった。
もう自分の部屋に帰りたかった。
しかし確かめるべき棺はまだ二つ残っている。それも年代的には先程より新しい物だ。中身がどうなっているのか考えるだけでも恐ろしい。
しかしリディアは決死の表情で棺に歩み寄った。
(どうか虫とか虫とか気持ち悪いものはいませんように!)
祈りながら彼女は蓋を開けた。
薄ぼんやりとした月光を浴び、闇に浮かび上がるように、それはあった。
「どういう、ことだ?」
震える手を棺の中に差し入れる。
指先が中のものに触れ、リディアは飛び上がった。そのまま転がるようにもう一つの棺に跳び付き、引き剥がす勢いで蓋を開ける。
「これは……一体、何なんだ?」
0
あなたにおすすめの小説
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの
ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる