虚飾城物語

ココナツ信玄

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第八章

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 ルークが帰ってから、その小さな島国は俄かに慌ただしくなった。
 海を隔てた大国が戦を仕掛けに来るという、物騒な風聞に民衆が動揺したためだ。

「王子、偵察の結果、噂は真実のようです」

 王宮の片隅の小部屋で、ルークの前に畏まって佇む男が苦渋に満ちた表情で呟いた。

「そうか……トルトファリアの女王は、心を変えたか」

 苦い表情をルークは浮かべる。

「侵攻は有り得ないとする王子のお考えを覆すのは畏れ多いのですが、大陸の対岸にはもう軍船の姿も見られます。間違いなく我が国を目指しているものと」

 遥か遠い沿岸を見てきたかのように細々と語る男の肌は、ルークのそれのように褐色だった。男もまた魔人族なのだ。いや、この男こそが生粋の魔人族だと言うべきか。
 溜め息と共に項垂れたルークの顔を不揃いの銀の髪が隠した。
 そんな自国の王子の様子に心を痛めたのか、男はおずおずと口を開く。

「王子、どうかご自分を責められませんよう。王子がトルトファリアを出たことは今回の侵攻に関係が無いと思います。有るとあっちが言ってきたとしても、それはただの口実に過ぎません。第一、私達国民は王子が人質になることには反対だった! そうでしょう? 我々は何一つ害を成したことは無いのだから! 遅かれ早かれこうなっていましたよ」

 しかしルークは顔を上げない。
 男は首を傾げて何か思案していたが、再び口を開いた。

「戦がご心配ですか?」

「……」

「大丈夫です。私達がこの国を守ります。この国は……私達の国なのですから」

「お前!」

 弾かれるように顔を上げたルークの目に、男の灰色の瞳が飛び込んで来た。
 ルークと同じ色の肌と瞳。ただ違うのは、その漆黒の髪だけだ。男は微笑む。

「王子、私は我々がこの島にやって来た時の事を今でも覚えています。追われ狩られ、私達一族には母国というものが無かった。けれどもここに住む人間達は私達を受け入れてくれた! 追うでなく狩るでなく、交わることを許してくれた。私達がどんなに嬉しかったかお分かりですか? 孤独と迫害の長命は辛かったけれど、私達一族は遂に母なる国に辿り着くことが出来た! 王子、ご心配なく。私達は決して、この国を誰にも奪わせない」

 ルークより少し年上に見える男の顔が、その見かけとかけ離れて老成したものに変わり、次いで固い決意に彩られた。

「そうだな……私も、私の国を守る。誰にも手出しはさせない!」

 言い放って窓の外を見るルークの瞳は、果ての無い海を思わせるほどに冷たかった。


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